27話 最強
エニグマ局長。
つまりエニグマで一番偉い人……
どうしてそんな大物ががここに居るのだろう。
俺は思わず身構えてしまう。
「よく勘違いされるから最初に言っておこう」
衝突に彼女は口を開いた。
一体なんなのだろうか?
「僕は男だ」
その一言で唖然とする。
言われてみれば声も女性にしては低いし胸もない。
まさか、男の娘だというのか……
「ここに来たのは君のお父さんが大きく関連しているよ」
ルークさんが来たのは親父が理由か。
親父とエニグマになんの関連があるのだろうか。
もし連行するだけならこんなに偉い人が来なくても良いはずだ。
「陸は元だけどエニグマの局員で僕の友人だったんだ」
初めて聞かされる事実。
そんな事は誰も言っていなかった。
いや、敢えて言わなかっかのか?
「……本当ですか?」
「あぁ」
親父がエニグマの関係者だった。
そして局長すなわちトップの友人か……
「彼の能力はとても重宝したよ。尋問や隠蔽も彼一人で出来るからね」
「そうですか」
たしかに親父の能力は便利だ。
親父一人が触るだけで殆どの事が出来るのだから。
取り調べだって一瞬で終わるし記憶消去は魔法とかの隠蔽にも使える能力だ。
「ルークさんは超能力を持ってたりするんですか?」
「あぁ持ってるよ」
やはり持っているよな…
どんな能力か少しだけ興味がある。
局長になる程の人だ。
きっとかなり凄い能力なのだろう。
「君は僕の能力が気になるかい?」
「はい」
「本来能力を人に言う事はないのだが陸の息子だし特別に教えてあげるよ」
彼は自分の能力について言い始めた。
その能力はただのチートだった。
敢えて喋ったのは実力差をハッキリさせるためだと考えるほどに……
「僕の能力は基本的には制限無しの時間停止。他にもそれを応用して魔力が高い誰か一人を過去に飛ばす事が出来る」
能力は時間停止。
最強能力議論でも名前が挙がる能力の一つ。
それに加え自分以外の誰かを時間逆行という特典まで付いている。
時間関連の事なら大体の事が出来るのだろうか。
未来予知は出来るが情報量で脳が破裂すると考えたら辻褄は合う。
「魔力が高い人。例えば君とかね」
「何が言いたいんですか?」
「察しはついてるんだろう?」
もちろん察しは付いている。
聞いたのは確認だ。
彼は時間を遡り親父を助けろって言いたいのだ。
たしかに親父は助けたい。
でも桃花との今の関係を壊したくはない。
「なんで俺なんですか?」
「過去に飛ばす事が出来るのは魔力が高い人と言ったけどあれはまだ仮定でしかないんだ」
「どういう事ですか?」
「神崎家の血を引いてる人以外では成功した試しがないんだよ」
ヤレヤレと言いたげに彼はそう言った。
それだと時間逆行出来るのは海と俺だけだ。
おそらく俺が断ったら海に頼みにいくのだろう。
なら断る事に大した問題はないな。
海に任せてしまおう。
「あの、そしたらこの時間軸にいる空君はどうなるんですか?」
断ろうとした矢先だった。
黙って聞いていた桃花が突然話に入ってくる。
たしかにこの時間軸の俺はどうなるのだろう?
「それは植物状態になる。僕の時間逆行は過去の空君に今の空君を憑依させるものだと思っていい」
もし、俺が時間逆行をすればこの時間軸の白愛や桃花を悲しませるのか。
それなら答えは考えるまでもないな。
「すみませんがお断りさせていただきます」
「そうか。気が変わったら教えてくれ。これが僕のメアドだ。何時でも気軽にメールをくれていい」
「はい」
思ったよりあっさり引き下がったな。
一応メアドは受け取っておく。
よっぽどの事がない限りメールすることはないとは思うが念の為だ。
こういうコネはあって損はないはずだ。
「僕はそろそろ失礼するよ。君たちはそろそろ学校だろ?」
「はい」
「行ってらっしゃい。それと学校終わった時に陸の身柄の連行も含めて佐倉さんのところに行くから君も来ると良い」
彼はそう言った。
正直その場に俺がいる必要はないはずだ。
一体何をしたいのだろう?
「変なことをしようと思ってるわけじゃない。“超能力”の話を少しだけするだけさ」
彼はそう言い残して去っていった。
超能力は謎が多い。
超能力は神崎家だけだと思ってたがそうではないと言われた。
つまり神崎家は神の血を引いてるから超能力があるわけではないのかもしれない。
では一体どういう理由で超能力は芽生えるのだろうか。
疑問は増えるばかりだ。
恐らくそれらに全て答えてくれるのだろう。
「空君」
「どうした?」
「あんまり難しく考えないようにね」
「……あぁ」
桃花の一言でとりあえず考えるのをやめる。
どうせ学校が終われば答えが分かるんだ。
だったら今は考える必要はない。
「それじゃあ教科書とか取ってくる」
「私はここで待ってるわ」
教科書類を取りそのまま学校に向かう。
俺の家から学校は近いし比較的にすぐに着く。
「桃花。おはよう」
「おはよ〜海ちゃん」
海が桃花に挨拶する。
それに笑顔で返事する桃花。
やはり二人の仲はかなり良いようだな。
「そういえば明後日の結婚式は桃花も来るかしら?」
「うん! 行く!」
無邪気に答える桃花。
そう言えば海と白愛は結婚するんだよな。
少し前までなら阻止しようとか考えたかもしれない。
でも今の俺は桃花の彼氏だ。
それで白愛にまで手を出したらただのクズだろう。
しかし、白愛のウェディング姿を少し見たい気持ちもある。
聞くだけ無料だし聞いておこう。
「そういえば結婚式はどこでやるんだ?」
「近くの教会よ。お兄様も来るかしら?」
「あぁ」
それを察したのか海が俺を誘ってくれる。
海が結婚式に誘ってくれて本当に良かった。
桃花と二人で祝いに行くか。
「私たちもいつかは結婚したいね」
「そうだな」
いつかは桃花と迷わず結婚出来るぐらい好きと言えるになりたい。
強くそう思うようになってきた。
どうしたらそうなれるだろうか?
「そろそろホームルーム始まるから席に着きましょ」
「そうだね」
俺達はそのまま席に着いた。
それにしてもどうしてここまで白愛に冷めてしまったのだろうか。
今は結婚と聞いても前みたいに阻止してやろうって気は起こらずそれどころかめでたいと思う。
俺は自分が思ってる以上冷めやすい人間なのではないだろうか。
桃花もすぐに冷めてしまうのではないか。
いや、桃花ならそんな事をさせてくれないか。
「さて、ホームルームを始めよう」
ホームルームが始まる。
ふと思ったが今の俺の立ち位置はどうなってんだろう?
前に学校に来た時に海が俺に虐待されてると虚言を言った。
しかし周りの反応を見ると思いっきり嫌われてるってわけではないだろうが。
おそらく半信半疑って言ったところか。
「それと詳しい事は言えないが竹林は退学となった」
そういえば桃花のお父さんが警察に突き出すって言ってたな。
クラスが少しだけザワつく。
退学になったのは学校が実績に傷をつけないために佐倉さんに頭を下げて退学させる代わりに警察に突き出すのをやめてもらったってところか。
ウチの学校は私立だしそういう面もあるだろうな。
「それにてホームルームは終了だ」
そう言い残すと先生は教室を後にした。
その時に俺はある言葉を思い出した。
それは“全てを失った人間は何をするか分からない”というものだ。
竹林は全て失ったわけだ。
さて、どう動いてくるか。
少しだけ警戒をしておくか。
「お兄様」
「どうした?」
「桃花さんと付き合ったんですね」
「まぁな」
海がそう言う。
なんとなく察しはついていたのだろう。
今回のは確認ってところか。
「白愛は譲ってくれるんですね」
「そういうことになるな」
空気が重くなる。
桃花はクラスメイトと話している。
昨日休んだから何故休んだのか気になる人が多いのだろう。
俺の場合は話しかける人が少ないのは俺が休む事は珍しくからだ。
そして海も俺の妹ってことでそう思われてるのだろう。
「エニグマの件どうするんですか?」
「まだ決めかねてる」
「そうですか」
とりあえず局長とメアド交換したわけだし今日決める必要性もなくなったわけだ。
「そういえばお兄様はエニグマの局長について知ってるかしら?」
「とりあえず登校中にあってメアドを交換したぐらいだ」
「そう」
何故そんなことを聞くのか。
まぁなんでもいいか。
しかし、海は何を言いたいのだろう?
「彼は私が知る中で三本指に入る強さよ」
「それで?」
「入るつもりならトップがどんな人かくらいは知っておきなさいって話よ」
たしかに理には適っている。
どこの誰かも分からない人物の下に就くのは怖いしな。
「ちなみ他の二人は白愛と夜桜よ。夜桜に限って言えば話を聞いた事しかないけどね」
「なるほど」
今挙げた三人が最強の三本柱と言ったところか。
たしかに納得の布陣だ。
ルークさんは時間停止という正真正銘のチート。
夜桜は略奪で異様なまでの能力数を保持してるだろう。
白愛は人間離れした戦闘能力と言ったところか。
「もしも彼と敵対することになったら諦めなさい。彼からは絶対に逃げられない」
それはそうだろう。
なんていっても能力が時間停止だ。
勝ち目なんてあるはずがない。
「他にエニグマはどんな人がいるんだ?」
「そうね。有名所だとサブリーダーの柊綾人がいるわね」
柊綾人か。
たしか異世界からの帰還者……
一体彼の能力はどんなものだろうか?
おそらく分からないだろうが……
「彼はエニグマのNo.2とも呼ばれてるわ。圧倒的なまでの身体能力や視力に聴力。全てが普通の人の倍あるとまで言われている」
話を聞いた限り能力の底上げだろうか?
それもエニグマに入れば分かるだろう。
「なんの話してんの?」
桃花がクラスメイトと話終えたらしくこっちに入ってくる。
隠す必要もないから言ってもいいだろう。
「エニグマの話だ」
「そっか。エニグマの話はファンタジーみたいな事ばっかで面白いもんね」
「そうだな」
たしかにエニグマの話は面白い。
聞いてて楽しい。
でもエニグマは戦闘能力が求められる。
それは命の危険があるって事だ。
やはりまだ入るかどうかは悩みどころだ。
「ほら、そろそろ授業始まるから戻るわよ」
「は〜い」
そう言って桃花と海が自分の席に戻っていく。
そういえば海はかなり真面目だな。
そして授業が始まった。
授業は何も起こることなく進み次の休み時間。
再びまた授業。
そんな退屈な日常が続いていった……