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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
269/305

SP #2

「……つまり?」

「だから何度も言わせないでください。転入するにしてもテストを受けて合格点に達してないと本校では受け入れないんです」


 現在四人はスーの転入手続きを行っていた。

 そこで求められたのは学力。

 とりあえず色々と面倒なので私立に来たが問題はまだあるらしい。

 そしてスーの学力では間違いなく受からない。

「どうするのよ?」

「少し私はトイレに行きたいな」


 そんな中で真央が立ち上がった。

 恐らくなんか策があるのだろう。

 華恋はそう信じて真央に全て任せる。


「なんか必要な物あるかしら?」

「そうだね。私は不幸にもここの校内には疎開で凄く方向音痴だ。スーを借りても?」

「なるべく早く戻ってくるならね」

「どうも。それじゃあスーお願いするよ」

「どうして私が……」


 そしてスーと真央が部屋を出た。

 華恋はそれを確認すると再び先生の方を見る。


「では先生。テストは今日で転入は明日からお願いします」

「何を……勉強時間とかいらないというのか!?」

「当然です。ウチの子は優秀ですから。難なら一問でも間違えたら無かったことにしても構いませんよ」


 華恋は煽る。

 それはまるで強者の余裕だ。

 勝ちを確信しているようだった。


「死月君」

「お呼びでしょうか」


 現れたのは眼鏡をかけた若い男。

 彼は死月遊戯。

 日本人の先生で訳あってこの学校に雇われている。

 またこの学校でスペックが一番高い先生とか……


「今から二十分で鬼のような難易度のテストを作りなさい」

「御意」


 その言葉と共にパソコンが開かれる。

 パソコンに目にも止まらない速さで文字がタイピングされていく。


「……事前に学校に忍び込まれてテストを見られてたりしたら溜まったものじゃないからね」

「なるほど。カンニング対策ね」

「そういうところじゃな」

「そして一つ提案があるんだけど良いかしら?」


 先生が無言で頷く。

 華恋はそれを見て提案を始める。

 これはあまりにも愚かで諸刃の剣な提案だった。


「もしもテストで私の娘が一問でも間違えたらこの話はなかったことにしていいわ。でも全て満点で合格した際には入学金ゼロで入らせていただけないかしら?」

「いいだろう! 満点なんか取れるわけがない!」

「そう。決定ね。この学校の校則とか教員についてまとめた紙をくださるかしら?」

「……勝手にしろ」


 華恋はそれに目を通していく。

 ここにスーを入れてもいいか深々と観察。

 否、他にも何かを探すかのような目で……


「華恋。今戻ったよー」

「おかえり。真央、スー」

「ただいま」


 真央が戻りやけにハイテンションで話しかける。

 そして一方のスーは怖いくらいに落ち着いていた。

 恐らくテストで緊張でもしてるのだろうか?


「さて、こちらは何時でもよろしいですが?」

「死月君」

「あと二分と四十三秒お待ちください」


 スーは辺りを観察する。

 まるで何かを探るかのように。


「スー。どうしたの?」

「いや、ここに本の一冊でもあったら読んで待とうと思ったのだが……どうも私好みの本は無さそうだ」

「そう。それと口調気を付けなさい。先生方の前よ」

「そうだった。以後気をつけよう」


 それから二人は待つ。

 テストが完成するのを。


「出来ました」

「保護者方は退室願います」

「分かったわよ……スー頑張ってね」

「任せたまえ」


 そうして部屋にはスーと先生二人だけになった。

 そんな完全アウェーでテストが始まった。


 ◆ ◆


「あ、ありえない! 大学入試レベルだぞ!」

「いいえ、そんなもんじゃありません……一問念の為に世界レベルの学者がギリギリで証明出来るほぼ不可能な問題を入れたのですがそれすらも……」


 先生二人は唖然とする。

 それも無理はないだろう。

 何故ならテストは宣言通り満点。

 それも文句の付けようのないくらい……


「どんなイカサマを……」

「だから言ったでしょ。私の娘は優秀だって」

「……スー・エリザベスの入学を認める」

「どうも。それじゃあお邪魔しました」


 それから四人は出ていく。

 この程度の問題なら余裕だとでも謳うかのように。

 四人は学校から出て街中に行くまで一言も話さない。

 まるで何かを隠してるかのように……


「ふぅー! 疲れたー!」


 街中の喫茶店に入り席に着くと真央が声を上げた。

 まるでなにかのプレッシャーから開放されたかのような声だった。


「スー。真央。お疲れ様」

「まったく……もっと難しい問題は用意出来なかったのか……あんなの小学生レベルだぞ」


 それからスーの顔が溶け真央の顔が出てくる。

 真央の顔も溶けて次はそこからスーが……


「しかしよく思い付くわねぇ。能力を使って入れ替わるなんて。たしかに真央ならあの程度余裕だもんね」

「この程度、造作もない」


 スーは容姿の使徒である。

 そしてそのスーの能力。

 自分他人問わず触れた者の容姿を自由自在に変えるというものだ。

 それにより真央はスーの容姿になりテストを受けた。

 真央という紛うことなき最高レベルの天才。

 人間が考えられる程度の問題で躓くわけがないのだ。


「珈琲二つ。ココア二つお願いします」

「かしこまりました」


 それから華恋が注文していく。

 流石に喫茶店に入ったのだ。

 飲み物の一つでも頼まなきゃ勿体無いというものだ。


「とりあえず入学は無事に出来た。ただこれからもテストで同じくらいの点を取らなきゃダメになるね」

「そんなの手を抜いたの一言で済ませられる。学校側は怪しむことは出来ても証拠を叩きつけられないのが現状だ」

「それもそうか……」


 華恋は考え込む。

 本当にそれでバレないのかと。


「それより華恋」

「何かしら?」

「何が目的なんだ? あの学校に何がある?」

「……あら、真央でも気づかないこともあるのね」

「私は万人の超人や全てを飲み込む魔王ではないんだ。当たり前だろ」


 真央は問いかける。

 華恋の真意に問いかける。

 華恋は一体なんの目的で学校に入ったのか。

 まさかスーを学校に通わせるだけとは真央も考えてはいないだろう。


「内緒って言ったら?」

「仲間同士での隠し事は無しと返すのが定石だろ」

「そうね。でもじゃあ定石を破って内緒で」

「困ったらいつでも言えよ」

「大丈夫。スーが潜入出来た時点で私達の勝ちよ」


 真央がどうだかと言いたげな表情をする。

 現状この中で使えるのは真央だけ。

 それは頭の良さ、転移という能力の有用性。

 その二つから導き出せる答えだ。

 一方スーは始祖と言えど能力は変化のみ。

 夜桜に関しては殺した相手から能力を奪う略奪によりこれから強くなるのは分かるが現状では戦局を変えるような力はない。


「……でもどうしても知りないというのならね」

「知りたいというなら?」

「黒猫の曲芸団について調べなさい」

「なんだそれは?」

「この事件の黒幕よ」

「そもそも私はどんな事件があの学校で起こってるのかすら知らないんだけどな」


 真央はやれやれと言いたげに華恋に向かって言う。

 しかし華恋はそれに何も答えない。

 まるで答える必要が無いかのように。


「神崎家とかエニグマは絡んでないだろうな?」

「それはこれから調べるの」

「……黒猫の曲芸団が神崎家と絡んでるか調べるために来たのか」

「それは内緒よ」


 そんなタイミングで珈琲とココアが二つ運ばれる。

 真央も華恋も同じタイミングで飲み物を飲む。

 違いと言えば入ってるものだろうか。

 真央がココア、華恋が珈琲だ。


「しかし私も学校に行ってみたかったのだが……」

「概要を見る限りめんどくさいだけよ。やめときなさい」

「ちょっと! そのめんどくさないのに私を入れようとしてるわけ!」


 華恋の声を聞いたスーが声を荒あげた。

 華恋はそれを微笑ましそうに見守る。

 まるで自分が関係ないとでも言ってるかのようだ。

 だが実際は殆ど華恋のせいだと言ってもいい。

 華恋が最初にこの作戦を立案、またスーを学校にぶち込んだようなものである。

 間違いなく華恋が関係なくないわけがないのだ。

 しかし、それに関わらず華恋は関係ありませんよという表情で眺め続ける。

 まるでスーが返す言葉がないのを知ってるかのような雰囲気を纏いながら……

 そして現実問題としてスーを返す言葉をもちあわせてはいなかった。


「華恋」

「夜桜。どうしたの?」

「俺はどうしたらいい?」

「そうね。真央とデートでもしてきたら?」


 真央と夜桜のデート。

 その提案は夜桜の恋心を把握して言ったものかそれともただの偶然なのか。

 その真相は闇の中である。

 恐らく華恋は問われても答えないだろう。

 そういう女だ。

 華恋が夜桜の恋心を把握してるのか。

 その真偽は永遠に表に出ることはないだろう。


「デ、デート!?」

「そうよ?」


 夜桜が子供のようなオーバーな反応を見せる。

 そんなのでは好きだと言ってるようなものだ。

 そして不幸なことに真央もこの場にいる。

 真央ほどの洞察力なら間違いなく気付くだろう。

 これは紛れもなく夜桜のミスである。

 華恋がこのミスをすると想定してあの発言をしたのかもしれないがそうだとしても華恋を責めるのはお門違いだろう。


「さて、それじゃあここからは自由行動にしましょ。真央、行くよ」

「あぁ」


 華恋が珈琲を飲み終わり席を立つ。

 それに続き真央も席を立ち華恋へと続く。

 スーと夜桜。

 二人は騒然とポカーンとしてるしかなかった。


 ◆ ◆


「しかし夜桜のやつ。デートくらいで反応が大袈裟過ぎないか?」

「男の子には色々あるのよ」


 真央の質問をはぐらかす華恋。

 そんな二人は喫茶店を後にするなり路地裏に潜り込んでいった。

 真央も一切の動揺を見せない。

 まるで華恋ならこの程度するって分かってたかのようてもあった。


「さてと、ここね」

「あのアメリカで見た木箱の送り先だな」

「そうよ。恐らく私の予想だとこれから旅に役立つ手足が手に入るわね」


 華恋が扉を開けた。

 するとまるで異世界のようなガヤガヤとした空間が広がっていた。

 飲めや食えやの大騒ぎだ。


「お客様。招待状はお持ちで?」

「ないわ」

「それでしたら……」


 そこからの華恋の動きは早かった。

 腰からナイフを出して右の二の腕を切る。

 辺りに鮮血が舞うがそれを気にもとめず背後に蛇のように回り込み首元にナイフを付き当てる。


「全員! 動くな!」


 それから華恋は叫んだ。

 全員がその圧に負けて動きが止まる。

 これが華恋の狙いでもあった。

 勝手に動かれたら面倒極まりない。

 だからこそ動きを止めねばならない。

 そして目の前で二の腕を切ることにより嫌でも周りに状況を分からせた。

 ここにいる一番の権力者は私だと。

 だが世の中そんな上手くいくもんじゃない。


「ひ、ひぇ……」


 一人の女が恐怖の余り走って逃げようとした。

 しかしそれを想定しない華恋ではない。

 だが華恋は口を動かそうとはしなかった。

 彼女が動くと分かっていたから。


 バンッ


 そんな鈍い銃声が辺りに響く。

 銃声のなった方を見るとそこには真央がいた。

 真央の手には銃が握られていた。


「うちのボスが動くなと言っただろ」


 もちろん急所は外している。

 打ったのは太ももだ。

 恐らく命に別状はないだろう。


「……ここが本拠地じゃないよね?」

「……」

「真央。ペンチ」


 華恋の問いかけに黙秘を貫く。

 華恋はそれに痺れを切らして結果を急ぐ。

 真央はすぐさま華恋に言われたものを投げる。


「これで何をするか分かるよね?」

「……屈しません」

「これはダメね」


 華恋はペンチを使うことなく投げ捨てた。

 華恋は間違いなく拷問するつもりだった。

 このペンチを使い爪を剥がす気でいた。

 だが華恋はこの男の表情で察した。

 爪を剥がすくらいでは情報は吐かないと。

 もっとしっかりした拷問をすれば吐くだろうが生憎そんな時間はなかった。

 だからこそ華恋は諦めるという選択肢を選んだ。

 そして華恋が決めた6つのお約束。

 そこに人を殺すなはあっても拷問するなという文面は一切ない。

 つまりここで拷問をしても問題はないのだ。


「華恋、ここは私に任せてくれないか?」

「分かったわ」


 それから真央は一人の男に近づいた。

 男はガタガタと震える。

 真央はそれにニッコリと近づく。

 一歩一歩、歩いてやがて殴ろうと思えば殴れる距離まで接近した。

 それから指を二本立てて男の目に指に突き刺そうと勢いつけて突き出した。


「ひぇ!」


 だが、すんでのところで指は止まる。

 当然ながら男は無傷だ。

 真央は誰かを傷つける気なんてサラサラない。

 ただ取引がしたいだけなのだ。


「隠し事を吐けば200万支払おう」

「……あのカウンターの裏に隠し階段がある!」

「なるほどね」


 真央は満足のいく答えを聞けたのかそれ以上は何も聞かなかった。

 変わりにどこからともなく札束を出して投げる。


「華恋」

「帰りましょ。知りたいことは知れたわ」

「そうだな」


 しかし真央と華恋はせっかく地下室の情報を聞き出したに関わらず突撃することなくその場を後にした。

 なぜ突撃しなかったのか。

 その場にいた誰にも分からなかった。

 だが一つだけ言えること。

 それは華恋や真央が何の作戦もなく見逃すような人物ではないということだ。

 この場にいた人々はその不自然さに怯えることしか出来なかったのである。

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