表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
268/305

SP #1

ちょっと真央が魔王になる前の旅の話を見たいというお声を頂きましたので少し短編です。

多分5話くらいで終わります。

「華恋!!」

「何よ?」

「海だぞ! 海!」


 無邪気にはしゃぐ少女。

 年齢的には二十代だが言動はかなり幼さを見せた。

 その名は神崎真央。

 彼女等は現在ハワイへと来ていた。


「えぇ……海だわ。だけど人魚の国で水中に私達はいたのよ?」

「そうだな」

「それなのに今さら大袈裟に反応出来ますか! 出来るわけないでしょ!」


 彼女等はその前に深海にある人魚の国に行っていたのである。つまり嫌という程に海には触れていたのだ。


「……華恋!」

「ちょっと冷たいじゃない! 今は真冬よ!」


 しかし真央は無邪気であった。

 スカートが濡れるのをお構いなく海に足を突っ込み華恋に水をかける。


「はっくしょん!」


 そして華恋は大きなくしゃみをする。

 それから戒めそうに真央の方を見る。


「……絶対……許さない」


 それから華恋も海に足を入れる。

 そのまま真緒の方に近づいていき。

 水をすくい上げ、それをバシャァァァァとかけた。


「……冷たいじゃないか」

「先に水をかけたのはどっちよ!」

「華恋」

「そんなわけないでしょ!」


 そんないつも通りの光景が繰り広げられていた。

 それを軽くポテチを食べながら見るのはマゼンタの髪をした少女である。


「夜桜。本当に二人は仲が良いのね」

「スー。二人が遊んでるうちに宿の確保した方が……」

「そのくらいあんたがしなさいよ! 私は歴史ある人魚族の始祖であり王女様なのよ」


 その少女はスー。

 彼女も中々に不憫なもので王女であることにあぐらをかいて横暴な態度をとっていたら親に国を追い出されたのだ。

 なんでも大人になって帰ってこいとのことである。

 そして彼女は仕方なく真央たちと旅をしていた。


「ていうかあんた真央のこと好きでしょ?」

「……そ、そんなわけあるか!」

「あら〜図星ね。顔にはっきり出てるわよ〜」

「う、うっせぇ! 宿取ってくる!」

「あ、帰りにコーラの一本でもお願いね〜」


 その声が夜桜に聞こえたかどうかは不明。

 ただ一つ言えることはコーラを持ってこなければスーはガチギレするということだろう。


「ていうかスー。あんた学校行きなさいよ」

「は? どうしてこの私が行かなきゃだめなの?」

「頭が足りてないからよ」


 そして華恋が和服の裾を絞りながら海から上がってくる。一方の真央はというと髪と服をびしょびしょに濡らしながらも海に顔を突っ込んでいた。


「はぁぁぁぁ? この私が頭が足りてないわけないでしょ!」

「足りてないのよ。客観的に見ても」

「華恋の姉貴もおかしなことを言いますねぇ。仮に百歩譲って頭が足りてないとしましょう。だとしてもこの私が愚民共と同じ授業を受けるのが正しいと思いますか?」

「正しいと思ってるから行けって言ってるのよ。これでも私はマリアさんからあなたの面倒を見て王族に相応しい人格者にしろって言われてるのよ。つまり教育係でもあるんだからあなたは私の言うことを聞くしか道はないのよ」


 華恋はやれやれという感じを見せながら早口で説明していく。

 そしてスーは必死に頭を回す。

 どうにかして言い逃れられないだろうかと。


「ていうかどうやって学校に入るのよ?」

「それはあそこにハッキングの超天才がいるじゃない。戸籍偽装なんて朝飯前よ。それで転入手続きをして……」

「華恋。呼んだかい?」

「呼んでないわよー」


 実際、真央の能力は高い。

 その気になれば国家機密すら盗めるだろう。

 真央は想像出来ることはインターネット上なら何でもできるような人物であった。


「そうか……」


 それから真央は残念そうに項垂れる。

 恐らく華恋に構ってほしかったのだろう。

 しかし彼女の足元を小魚が泳ぐと目を輝かせて華恋かのことなんか忘れかのように顔を海に入れてはしゃぎ始めた。


「あの濡れた服を一体誰が洗濯すると思ってるのかしら?」

「華恋。私の服もお願いねー」

「スーは自分でやろっか?」


 この四人のメンバーでの旅。

 間違いなく一番負担がかかってるのは華恋だった。

 あまりにもスーと真央が子供過ぎたのだ。


「はぁ……本当に私が死んだらあなた達はどうやって生きてくのよ……」


 華恋は一人ボソッと呟いた。

 それからキョロキョロと見渡す。

 まるであることに気づいたかのように。


「そういえば夜桜は?」

「ホテルの予約取りに行かせたー」

「はぁぁぁぁ? 彼はギャンブル依存症だからお金一銭も持たせてないのよ! お金無しでホテルなんて取れるわけないじゃない!」

「そうなの?」

「そうよ!」


 それから華恋は夜桜を探しに街並みに向かい走っていく。それをのんびりとポカーンと見つめるのは真央とスーであった。


「大変そうだねー」

「……私に言えば転移使ったのに」

「そうじゃん。真央は転移あったじゃん」

「ていうかスー。寒いから毛布くれ」

「そんなものはないです!」

「なるほど、ちょっと華恋を探してくる」


 そして真央は指を鳴らしてどこかに消えた。

 彼女お得意の転移である。

 それからスーは一人でポテチを頬張り続ける。


「あれ? 私取り残されてない?」


 それからスーはハッとする。

 やっと自分が一人残されたことに気づいたようだ。

 スーはそのことに気づくと同時に街へと走り込んだ。

 そうして賑やか四人組は夜の海から消えていった。


 ◆ ◆


「お金ならねぇ」

「ならすみませんが貸せません」

「でも借りてこいって言われたんだ」

「ですからお金が無いお客様には……」


 あるところでそんな会話が繰り広げられる。

 一方は青髪短髪の鋭い目付きをした少年。

 もう一方は気弱そうなホテルマンだ。


「……いたぁぁぁぁぁ!」


 そんな時に黒髪和服姿の女性が息を切らしながらホテルへと突撃してきた。

 それからホテルマンへと近づいていく。


「……な、なんでしょうか」

「とりあえず一番高い部屋を一ヶ月の四人分!」


 そしてどこからともなく札束を出しては置く。

 西園寺華恋はようやく夜桜を見つけたのだ。


「……足りないなら追加で出すわよ?」

「だ、大丈夫です……今、ご案内しますね」


 そうしてホテルマンは手続きを進めていく。

 華恋は流石に走り過ぎて疲れたのか近くにあるソファーに大きく座った。


「なぁあんな金あるなら俺にも……」

「うっさい……あんたアメリカのカジノで20億溶かしたでしょ」

「次は負けない」

「真央が40億稼いだから痛手どころかプラスになったけど下手したら私達破産してたのよ?」

「また盗めばいいじゃねぇか」


 華恋はそれから真剣な眼差しになった。

 まるで子供が悪い事をした時にする親の顔だ。


「六つのお約束忘れたかしら?」

「でもよ……」

「でもじゃない!」


 六つのお約束。それは


 ・物を盗まない

 ・人を殺さない

 ・目の前に困ってる人がいたら助ける

 ・何事も楽しく取り込む

 ・華恋の言うことには文句を言わず従う

 ・以上をそれなりの処置をする


 という少し固いものだ。

 基本的には緩いがこれは旅の絶対条件でもある。


「たしかに最初は所持金ゼロだから仕方なく銀行に忍び込みお金を盗みましたよ。でも元金が出来た以上は盗む必要も無いでしょ?」

「……」

「私達ははっきり言って異常よ。特に真央ね。彼女がいれば世界を手玉に取るのだって容易いわ。だからこそ最低限のルールが必要なわけ」


 華恋の言うことはド正論であった。

 力を持つということはそれなりの責任が生まれる。

 責任無き者へ与えられた力は周りに不幸しか与えないのである。

 それを華恋はハッキリと理解していた。

 だからこそ口を酸っぱくして言うのだ。


「やぁ華恋」

「……真央。街中での能力の行使は面倒事を招くからするなと何度も言ってるよね?」

「いいじゃないか。そのくらい」

「全然良くない! あんたどれだけ自分の存在が異端か理解してるわけ!?」


 とりあえず一つ言えることがある。

 華恋の苦悩はまだまだ続くということだ。

 華恋はこのメンバーで唯一常識がある類の人だ。

 それに対して四人。

 他者がどう思うか気にしない真央。

 傲慢な態度を取り続けるスー。

 ありとあらゆる常識が欠如してる夜桜。

 はっきり言ってかなり酷いものであった。

 華恋はその事実を再度理解するなり真央の方を向き彼女の頬を力強く伸ばした。


「真央!」

「……華恋。頬を引っ張るのやめてくれるかい?」

「うっさい! 言ってわからないなら身体で覚えなさい!」

「痛い……痛いって……」

「まったく」


 そうして頬から指を離す。

 それから手首を縦に振り手を休めていく。

 まるで真央に次はこの程度じゃ済まないからと言いたげな態度を取りながら……


「ていうか何故ハワイに来たんだ?」

「スーに学校に通わせるのと観光、それとアメリカで見たあれ忘れた?」

「たしか地下カジノにあった大きい木箱の事か?」

「そう。その木箱の輸送先はここハワイになってたからそれの調査よ」

「まったく……私達に何の関係が……」

「どうせ暇なんだら良いじゃない」


 華恋にはある一つのスタンスがある。

 それは暇なら動くだ。

 つまり彼女は暇という理由でいらぬ事件に首を突っ込んでしまうのだ。


「とりあえず私はどうすればいい?」

「今夜、私達4人の戸籍偽装で余裕があれば国のサーバーに忍び込み私達の情報を追加してこの国の国民ということにデータ上だけはしておく。またスーの転入手続きをお願いしてもいいかしら?」

「その程度なら朝飯前だ」


 真央はそれから華恋の座ってたソファーに座る。

 それと同時にポケットから小型の電子機器を出して何か作業を始めた。


「何よ……それ……」

「スマートフォンって言う小型パソコンらしい。市販されてるのは少しスペックが劣るので少し改良して私好みに改良した。一応、ボタン一つで核兵器を管理してるパソコンをハッキングして目的の場所に落とすことも出来たりするぞ」

「そう。まぁなんでもいいや」


 そう言いながら真央は手を動かしていく。

 彼女が持ってるこの機械一つで簡単に国が滅ぼせるということを思うとかなり心臓に悪いものだ。

 もしも真央がその気になれば……


「とりあえず戸籍偽装は終わったぞ。あと転入手続きだがそれは実際に書類とか必要らしい」

「身分証の偽装は?」

「少し機材が足りないな。今から私の研究室に帰ってちょっと作ってこよう」


 そう言うと真央は転移を使い消えていった。

 華恋はそれを困ったように見る。


「せめて転移使う時はトイレとか人目に付かないところでやりなさいよ……」


 愚痴りながらも荷物をまとめつつ部屋に移動を始めていく。夜桜もそれに続いていく。

 そんな時だった。

 ドタバタと激しい音がした。


「私を置いてくなんてどういうつもりよ!」


 その音の主はスー。

 スーは息を切らしながらここまで走ってきたのだ。

 しかしよく分かったものだと華恋は関心する。


「あとで向かいに行くつもりだったわ」

「……私を……こんな目に……合わせて」

「部屋番号は318ね。息を整えたら来なさい」


 華恋は冷たく対応してエレベーターに乗る。

 そうしてようやく華恋一人の時間になった。

 華恋はエレベーターから出ると真っ先に部屋に移動して鞄からビールを出す。


「本当にうちのメンバーって賑やかね」


 まるで感慨に浸るかのようにビールを飲む。

 彼女はそんな日常が好きだった。


「まさかこんなことになるなんて人生どうなるか分からないものね」


 華恋の過去は悲惨である。

 拉致られ無理矢理、子供を孕まされて捨てられ……

 そうして真央と出会い……


「真央。こんな平和いつまでも続くかしら?」

「いつまでも続けるさ」


 華恋は振り返ることなく声をかける。

 それに対して返すのは真央。

 真央は身分証の偽装を終え部屋に戻ってきた。

 そしてそれに気づかぬ華恋ではない。


「……少なくとも私は神崎家に戻る気は無い」

「私もよ。ただ神崎家が私達をいつまでも放っておいてくれるとは思えないよ」

「その時は私が守るさ」

「頼りにしてるわよ」


 華恋が少し真央に弱いところを見せる。

 真央もそれを黙って受け入れる。

 夜桜もスーも知らない二人だけの過去。

 二人だけの記憶……


「……真央。あんたもビール飲む?」

「一杯いただこう」


 真央はどこからともなくグラスを出す。

 華恋はその言葉を聞くなりグラスにビールを注いでいく。


「……平和はいつまでも続かない」

「人魚姫マリアの言葉か」

「そう。それが頭から離れないのよ」

「そうか。でも今くらいはゆっくりしてもいいんじゃないか? 張り詰め続けるのも体に毒だ」

「そうね」


 再びビールを飲む。

 その様子を黄色いお月様が照らす。

 まるで絵に書いたような美しいワンショット。


「……真央」

「なんだい?」

「抱いて」

「まったく……私はレズじゃないんだけどな」

「……ケチ」


 華恋は真央に甘える。

 真央にだけ弱さを見せる。

 それは真央を心の底から信用してるから。


「ダメとは言ってないだろ。今夜は相手してあげよう」

「……ありがと」

「気にするな」


 華恋は誰よりも一人が怖い。

 だからこそ真央に甘える。

 真央の存在を身近に感じられるように。


「……私から離れたら承知しないから」

「離れないさ」

「それなら良かったわ」


 華恋が服を脱ぐ。

 綺麗なシミ一つない肌が露わになる。


「あの二人が来る前に済ませましょ?」

「そうだね」


 そうして二人は深い夜を過ごした。

 この二人の空間は如何なるものにも邪魔できない。

 邪魔することが許されないものだった。

 そんな二人の関係。

 これがずっと続きますように。

 華恋と真央は互いにそう神様に祈っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ