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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
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259話 逃げてきた

「つまり帝王学とは上に立つものが必ず身に付けなければならない学問である」

「どうして私がそれを受けるのかしら?」

「アーサーのついでだ。それに覚えておいて損はないぞ」


 俺、神崎空は現在授業を行っていた。

 真央がいないがアーサーとソフィアにはまだまだ勉強してもらわなければならない。

 特にアーサー。

 彼は王になる予定だ。

 ならそれなりの知識は必要になるだろう。


「ちなみにアーサーは王になるのだから絶対必要だ。あとで参考資料を用意しておくからアーサーは全て暗記しソフィアは一通り目を通しておけ」

「は、はい」

「数学、化学、物理、経済、法学の辺りは一通り理解出来てるよな?」

「はい……」


 なら問題はないな。

 ソフィアは若干怪しいが生きていくのにそこまで必要というわけでもない。

 まぁ無理に覚えさせる必要もないだろう。


「アーサー。数学、化学、物理の学ぶ意味を理解してるか?」

「軍事利用の想定してるんですよね? 数学はミサイルを当てるとなると高度な計算、化学は新手の……」

「それは違う。目的は学ぶというより視野を広め、また物事を論理的に考える癖をつけるためだ。王様が感情に左右されるなんてあってはならないからな」

「なるほど……」


 正直こんな大学入試レベル覚えなくてもいいと俺は思うんだけどな……

 それより重視したいのは……


「アーサーは昨日の宿題は終わったか?」

「もちろんです」

「それじゃあ聞くがオーストラリアはどんな産業で発展してきた?」

「基本的には農業や鉱業です。また農業の中では家畜業がメインと……」

「言葉遣いに気をつけろ。この場合は“メイン”というより“盛ん”と言った方が適切だ」

「すみません!」


 王様はちょっとした気の緩みすら許されない。

 それが言葉の一つだったとしてもだ。

 正直俺もどっちでもいいとは思うがその甘さで失敗するというのも笑えねぇ冗談だ。


「そして鉱業では主にどんなものが採掘出来て輸出されている?」

「鉄鉱石です。またそれは最近、世界一位になったこともあります」

「では金についてはどうだ?」

「19世紀末に西オーストラリア州で発見、そして後にゴールドラッシュが起きています。そして現在でも約245トンの生産を誇り世界三位になっています」

「1997年あたりをピークに生産量は年々減少傾向にあるってことを説明し忘れてるが概ねはOKだ」


 少しは産業も覚えてきたようだな。

 まだ荒削りのため少し磨く必要があるけどな。


「……次は地理だ。川の長さ、山の標高などを覚えてもらう。また余裕があったら環境問題だ」

「分かりました」

「それじゃあ今から二時間後にここに来る。あとで白愛が来るから分からないことがあったら白愛に教えてもらえ」

「はい」


 それから俺はソフィアを抱えて移動する。

 彼女には彼女の授業があるからな。

 ソフィアに関しては特に頭が良いわけではないし良くなければならない必要もない。


「今日教えるのはトライフルだ」

「トライフル?」

「トライフルっていうのはイギリスのお菓子でクリームやフルーツ、そしてスポンジ生地を層状に重ねたスイーツで少しオシャレだ」


 だからお菓子作りを教えていた。

 ここはアーサーと違いそこまでスパルタではない。

 何故ならそこまで詰め込む必要もないしな。


「画像を見せなさいよ! 画像を!」

「はいはい」


 ソフィアが駄々をこねる。

 やれやれ……仕方ないな……

 俺はスマホを出して調べてトライフルの画像をソフィアに見せた。


「可愛いーーー!」

「今日はこれを作るぞ」

「楽しみ! 楽しみだわ!」


 そうして俺は手取り足取り教えていく。

 ソフィアはそれを丁寧に受けてくれる。

 これを作り終えたら丁度二時間くらいだろうか。

 そしたらご褒美としてアーサーに差し入れとして持っていくか。

 そんなことを考えてると扉を叩く音がした。

 それと共にダークナイトが入ってくる。


「……空。時間だ」

「分かった。ソフィア。ここからは一人でも平気だよな?」

「任せて!」


 俺はそれに笑みで返す。

 さてといっちょ腕鳴らしをしますか。

 もちろん教えてるだけではない。

 俺も学んでいる。

 主に戦い方について学んでいる。

 弱ければ何も守れねぇから。

 そうして俺達は外に移動した。


「……いくぞ!」

「どうぞ」


 ダークナイトが鮮やかな剣技で俺の首を狙う。

 それに対して俺は氷の剣を作り受け止める。


「ダス・アイス・ピェストリェート」


 細い氷の筒を作り出す。

 いつか使った技。

 もうかなり身になってきた。


「エア・フラ……」

「そう簡単に出来るとは思わない方がいい」


 俺が氷を浮かせようとした時だった。

 それが音もなく崩れ去った。

 ダークナイトの剣が全て切り裂いたのだ。


「えぇ……その通りですね」

「しまった!」

「ショット!」


 だがそれで問題無い。

 砕いたら砕いたでいい。

 その破片を使うだけだ。

 俺は散った破片をそのまま浮かしてダークナイトに突き刺していく。

 その氷は甲冑を貫通してそのまま突き刺さる。


「なかなかやるが致命傷には……」

「ボム!」


 そしてその氷を爆破。

 今の氷は全部が氷で出来た爆弾だ。

 この技を覚えるのは苦労した。

 少しでも炎と氷のコントロールを間違えたら失敗。

 それに何より粉砕しても爆弾の性質を維持させることに一番苦労した。


 ドーーーーン。


 と音が鳴り響く。

 間違いなく直撃だった。

 だがここで様子見はド三流のすること。

 俺はすぐに宙に舞う。


「ダン・アイス・プファール!!」


 大きな氷の杭。

 それで押し潰さんと俺は上から落とす。

 これで勝負あり……


 そう思った矢先だった。

 当たるか否かのギリギリで氷が粉砕した。


「空。やりすぎじゃ」

「……天邪鬼か」

「今回は間違いなく空の勝ちじゃ。回復させてやれ」


 俺は軽く“癒せ”と言う。

 するとダークナイトの傷がみるみる塞がっていた。

 剛田の能力の発した言葉が意味するものを具現化するというやつだ。

 生憎ながら回復手段はこれしかないんでね。

 ただこの回復は凄い。

 どんな傷だろうが癒せの一言で治せるのだから。


「空、私とまたやるかい?」


 俺は無言で氷の刃を作った。

 それをそのまま天邪鬼の首に当てていく。


「いいですよ」

「OKだ!」


 天邪鬼の蹴りが俺の腹に入る。

 そのまま後ろに蹴り飛ばされる。

 俺は飛びながら唱える。


雷装衛星(サンダーサテライト)


 雷の球が四つほど俺の周りを舞う。

 それは天邪鬼に雷の弾丸を飛ばし続ける。

 しかしすべて手で弾かれてしまう。

 だが少なくともこれに気を付けながら戦わなければならなくなった。

 これは大きなアドバンテージだ。


戦闘狂の遊び場バーサーク・フィールド!!」


 やっぱりそう来るか……

 俺の得意な能力は使えなくなったぞ。


「鬼化!」


 なら肉弾戦だ。

 俺は地面に着地する。

 それから天邪鬼が殴りかかってきた。

 それを軽く体を捻り回避。

 迷わず蹴りを腹に叩き込む。

 だが一筋縄ではいかず受け止められる。


「いいねぇ……私のもう一つの能力を使うに値する男になってきたねぇ……」

「そういえば使徒だったな……」

「正解だ。戦闘狂の遊び場バーサーク・フィールドは真央の聖杯で貰った能力に過ぎぬ」


 やはりまだ勝てねぇか。

 さすがは師匠だ。

 言い忘れていたがこの間で俺は天邪鬼に弟子入りをしていた。

 その結果が今の高い戦闘能力である。


「……使わせねぇよ!」

「もう遅いわ! リベンジモード」


 それから赤いオーラを纏った。

 これは肉体強化か?


「私のもう一つの能力はダメージを負えば負うだけ身体能力が上がるというものよ。殴り合いの長期戦をしようものなら不利になるぞ?」

「チートかよ」

「そして鬼化」


 本気かよ……

 ていうか戦闘狂の遊び場バーサーク・フィールドとのシナジーが悪いな。

 能力禁止が辛すぎる。


「こないならこちらからいくぞ」

「……」


 考えろ……考えろ……

 待て、戦闘狂の遊び場バーサーク・フィールドの範囲はどこまでだ?

 もしかして……


「おらっ!」


 天邪鬼の回し蹴りが飛んでくる。

 俺はそれをしゃがんで回避。

 そのまま手で足を弾く。

 それから上に跳躍した。


氷棘の雨(アイスレイン)!」


 やっぱり上なら能力を使える!

 そのまま氷でダメージを与えて……

 いや、違う!


氷の牢獄(アイスプリズン)


 氷の檻を作り天邪鬼を閉じ込める。

 またその氷の檻は俺の足場にもなる。

 そしてこの場所は戦闘狂の遊び場バーサーク・フィールドの範囲外でもある。


「雷雨!」


 俺はそのまま雷の雨を降らせる。

 そうやって範囲外から攻撃を続ける。

 いくら身体能力が上がったと言っても距離さえ保ち続ければ勝ち筋はある……


「距離を取られたらなら詰めればいいのじゃ」

「早っ……」


 拳が腹に練り込む。

 思わず胃の中の物を出しそうになる。

 見事に溝に入った……


「さて踏ん張れよ」


 それから何度か連続的に拳が入る。

 一度隙を見せるとキツくなるって……


「……一度受けたら十回は拳が入ると思え」


 言葉通りに連続的に殴られる。

 それにいつもよりも早い……


「さてと!」


 それから大きな蹴りの一撃が俺の身を蹴り飛ばした。

 そのまた奥の大きな木にぶつかるまで勢いが消えることなく飛んでいった……


「……今日はここまでにするか」

「そうだな」


 これはかなりキツいな……

 まだまだ俺は弱いな。

 もっと強くならねば……

 ん? この音は……


「……おい、天邪鬼」

「なんだ?」

「誰かこの島に来ている。ちょっと様子を見てくる」

「了解した。妾はアーサー達の守りにつこう」


 この音は誰かが飛んでくる音だ。

 まるで蝶が飛んでくるかのような……

 まさか海が攻めに来たというのか?

 恐れていた事態が想定しなかったわけじゃねぇ。

 俺はそのまま海岸沿いに向かい走る。


「……お前、一人か」

「……お……兄様……」


 そして予想通り海岸沿いには海がいた。

 身体にはかなり傷がありボロボロ。

 これは何かあったな……


「桃花が殺されました!」

「……誰にだ?」


 そして何かがキレる音がした。

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