258話 不穏な空気
「来ましたね」
時は夜である。
黄色く大きな満月が私達を照らしていく。
「行き先はアララト山だな?」
「はい」
今夜の内にアララト山を攻略。
その後に休みなく鬼ヶ島を攻め落とす。
今夜に全て決着をつけるつもりだ。
「しかしアララト山から国境まで距離にして約三十キロ。話を聞いた限りだと半月以上かかってるが何をしてたんだ?」
「イラン側じゃなくてイラク側から入りましたからね」
「それじゃあそのくらいかかるか」
イラン側ならすぐで楽だったが……
距離にして言うなら約二百キロである。
しかも直線距離でそれだ。
実際はそんな真っ直ぐ行けるわけもなく……
まぁそれでも色々とあり時間はかかったが……
「そんじゃいくぞ」
「どのくらいで着きますか?」
「一時間かからねぇと思うぞ」
「そうですか」
それは早い。
本当に車の中で準備を整えねば。
「……桃花」
「うん。海ちゃんとなら絶対にも何が来ても対応出来るよ」
私は桃花の手をぎゅっと握る。
絶対に真央を救う。
そのために頑張ってきた……
「恐らくこの車を降りたら当分の間は休めないだろうな」
「ですね」
ノアの方舟を取ったらすぐに真央の元に行く。
少しでも休もうものなら真央は必ず手を打ってくる。
いくら真央と言えど取った直後に襲いかかるとは考えないはずだ……
「……桃花」
「ルプスがいない現在としては天邪鬼を私達で対応しなければならないんだよね?」
「はい」
「……大好きな空間は成功した。恐らくあれで互角に戦えると思うよ」
あの技を使っても互角。
やはりこの勝負はかなり厳しい。
「白愛さんは海ちゃんの蝶化のバリアを破り手段は持たないけど……」
「あの速さは厄介ですね。もしも桃花と対面したら」
「苦戦はするね。でも今の私なら勝てない相手じゃないよ」
そしてスーに夜桜の攻略。
やる事は山積みである。
「……そして最大の強敵の真央」
「間違いなく最適な作戦で対応されるでしょね」
真央に大好きな空間を見せてみろ?
間違いなく桃花と引き離してくる。
だから天邪鬼以外に使わず常に隠すしかない。
その状態で夜桜、白愛との戦い……
苦戦は必須か。
「夜桜は拙者が抑える」
「響。大丈夫ですか?」
「あぁ……」
不安そうにそう答える。
今はその言葉を信じるしかない。
そうでもしなければならない。
「でも作戦通りには絶対にいかない。真央はこっちの作戦を潰すところから始める」
「ですね……」
「それに忘れてるみたいだけど闇桃花もいる。彼女一人で万を超える戦力を楽々と出して島全域を巻き込む範囲攻撃を可能とする最強の規格外……」
思い出して身震いする。
完全に忘れてた……
あの闇桃花の戦力は異常だ。
特に今回みたいな混戦になると……
タイマン最強は間違いなく天邪鬼だが集団戦最強なら恐らく闇桃花の方である。
「とりあえず天邪鬼は二人で最初に落とすよ」
「そうですね」
「そしたら私が闇桃花と戦うから海ちゃんはそのまま真央の元まで行って」
「やっぱりそれが最善ですね」
それしか方法はないだろう。
正直言って勝てる気がしない。
でもやるしかないのだ。
それしか道は残されてないのだ。
「……ミョルニルもありますからね」
「高威力の一撃だけどそもそも当てるのが困難、外れたら半径5mくらいの雷のサークルで攻撃に雷神を出せるくらいなんだよね」
「ちょっと戦局を変えるまではいきませんか」
「そうだね。正直言っちゃうと決定力に欠ける。あくまでサブウェポンだよ」
本当にどうする……
まぁ戦うしか道はないのだが……
「……なぁ」
「なんですか?」
そんな時に今まで黙ってた綾人が口を開いた。
正直言って彼に構う時間は……
「俺の倍化能力で戦力の底上げが出来ないか? 聞いた話だとペーターの能力がネクロマンス。それなら死体の筋力とかを倍にして動かせばかなりの戦力になるはずだ」
「それだ!」
「それに最悪は俺がお前らの強化をしたら少しはアイツらとも戦いやすくなるんじゃないか?」
まさかここに来て役立つとは思わなかった。
生かしておいて得があったな。
「……少し見直したよ」
桃花が冷たくそう言った。
やはり桃花は今も彼のことを好いてないらしい。
そして彼も同様である。
「……かなり希望が見えてきましたね」
「そうだな」
これなら勝てないことは無い。
しかし綾人の能力が思ってた以上にチートだな。
「ただ倍になるのは五分だ。それを過ぎたら再度触らなければならない」
「……五分でケリをつけるしかありませんね」
「そういうことだ」
そして最後の難関……
いや、それは今は言わないでおこう。
桃花だって分かってるはずだ。
その最後の難関にして強敵。
私のお兄様にして桃花の夫“神崎空”について……
私達は最大の不安要素に触れぬままアララト山に着くことになってしまった。
◆ ◆
「ほら、着いたろ」
「あぁ海様! やっと貴方様のお顔を見れました!」
海達の方を見てる人物が三人いた。
彼等はここで待ち伏せをしていたのだ。
「まったく……あいつも不幸だな」
「あなたがそれを言いますか! 父である貴方様がそれを言いますか!」
「そういえばあいつの父親ってことになってたな」
一人は神崎陸。
空と海の父親にして外道。
そしてもう一人はゴスロリ服に身を包んだ細身で長身の男である。
「しかしなぜ海様は笑ってるでしょう? 彼女には絶望が似合う! 彼女は悲劇こそ似合う! 彼女が幸せなどあってはならないのデェェェスゥゥゥゥ!」
「……オニキス。少しは黙ったらどうだい?」
その名をオニキス。
そして最後にオニキスに注意した男。
それがルーク・ヴァン・タイム。
この場には良くない連中が勢揃いしていたのだ。
「おい、ルーク。あいつはまだか?」
「まだだね」
「そうか」
彼等の目的は何なのか。
それは不明である。
ただ一つ言えるとしたらそれは海達が関係してるということだろう。
「……さてとそろそろ移動するか」
そうして彼等は移動した。
海達にちょっかいを出すために……




