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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
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257話 ガチ勝負

「……おはようございます」


 しかし返事はない。

 桃花はスヤスヤと眠ってるようだ。

 なので私は桃花が起きる前に服を着ておく。

 それからしゃがみ目線を桃花の枕の位置に合わせる。


 桃花の寝顔は可愛らしくて凄く好きだ。

 また耳を澄ませば聞こえる“すぅすぅ”という寝息はいつまでも聞いていたいとすら思えるほどに愛おしい。

 そしてなによりも唇……

 その唇はとっても可愛らしくて……


「……ん」


 私は我慢出来ず顔を近づけてキスしてしまう。

 舌を絡めるような深いものではない。

 軽く唇と唇が触れ合うくらいの優しいキス……


「……海ちゃん」

「あら、起こしてしまいましたか?」

「キスで起こすなんて中々洒落てると思うよ」


 それは悪いことをしてしまった。

 今日はゆっくり寝かしておこうと思ったのだが……


「今日の服どうしようかな?」

「いつも通り黄緑のスカートに白のブラウスでいいんじゃありませんか?」

「海ちゃんがそう言うならそうするー」


 桃花はいつも通りの服を着ていつもの青い星の髪飾りを髪に付けていく。

 この髪飾りは私がバレンタイン祭の時にあげたやつ。

 桃花がこれを付けてない日は見たことが無い。

 こんなにも大切にしてくれてるとはあげた側としても大変嬉しい。


「どうしたの?」

「……言ってくださればまた同じ髪飾り買ってきますよ」

「これでいいよ〜。どんなに汚れても傷付いてもこれは私の宝物だもん」

「そうですか」


 嬉しいんだけど桃花には常に可愛くいてほしい。

 だから変えてほしいという気持ちもある。

 もちろん桃花に似合ってないというわけじゃない。

 ただ戦闘中も付けてるもんだから汚れや傷がかなり多くて……


「ねぇねぇ今日は何をする?」

「そういえばここはテニスコートを借りれるそうですね。折角ですから一戦しませんか?」

「それは私が元テニス部だと知っての挑戦かな? いいね! 受けて立つよ」


 もちろん知ってます。

 全国総ナメで優勝をしたのも知ってます。

 ただそれと同時に桃花が本気でテニスをやったことがないのも私は知ってます。

 部活もどうやってサボるかとかを必死に考えたり練習中は晩御飯が何かしか考えてなかった人間。

 それでも全国優勝なのだから恐らく音速でスマッシュすら打てないレベルの雑魚の集まりであり私でも優勝出来る可能性が高い。

 それなら互角以上の戦いが出来るのではないか?

 まぁ私はテニス自体が初めてだが……

 とにかく打ち返せばいいのでしょう?


「とは言っても海ちゃん相手に勝てる気がしないよ」

「全国優勝者が音を上げるのですか?」

「だってあれレベルくそみたいに低いもん! RPGで例えるならレベルカンストした勇者がスライムと戦ってるようなもの」


 実際それなのだ。

 私達は始祖であり人とは比べ物にならないレベルで身体能力が高い。

 もしもスポーツをしようものならどう足掻いたとしても勝てるわけがないのだ。

 桃花はその身体能力の差に任せて勝ったにすぎない。

 技術は点で無いに等しいのだ。


「おや、私は?」

「海ちゃん普通に身体能力高いじゃん! 少なくとも私と同格じゃん」

「だから勝てないと?」

「勝てるけど五分五分の互角って話だよ! そして私は運が悪いから間違いなく負けるね。この前にゲームで対戦した時だって膝蹴りを肝心な時に外して負けたし!」


 まだあの話ですか……

 たしかにあの局面で膝蹴り当たったら負けてましたよ。

 それは否定のしようがない事実です。

 だからって毎回毎回この話題を出さなくても……

 一体どこまで根に持ってるんですか?


 そんなことを考えてるとコンコンと扉を叩く音がした。

 もうこんな時間か……


「はい」

「失礼します。朝食をお持ちしました」


 ここは高級ホテル。

 料理は部屋まで運んでくれるのだ。

 さて、今日の料理は……


「観光とのことでしたのでこの地、トルコの料理ギョズレメをお持ちしました」

「たしかギョズレメは小麦粉で作った生地をクレープのように薄く伸ばした後にその中にひき肉やジャガイモ。それにホウレン草、玉ねぎ、白チーズ等を入れてサチと呼ばれる鉄板で焼き上げた料理でしたっけ?」

「仰る通りです。随分と博識なのですね。ちなみにあなた達の国である日本で言うならばクレープの一種となるでしょうか?」

「そうね」


 そんな料理ギョズレメ。

 なんだかんだ言って食べるのは初めてだ。

 一体どんな味だろうか。


「それではごゆっくり。また食べ終えたらお皿をお下げしますのでそこのベルを鳴らしてください」


 そうして係員は去っていった。

 しかしかなり気が利くな。

 私達は日本人とは一度も言ってない。

 それなのに日本と見抜いていた。

 恐らく肌の色やロビーでの桃花との会話から見抜いていたのだろう。

 基本的に桃花と話す時は日本語だ。

 そこまで注目して気遣いをした行動をするとは流石高級ホテルと言ったところか。


「とりあえず食べよっか」

「そうですね」


 そういえば今はお兄様がいない!

 最大のライバルであるお兄様がいない!

 それならば……


「……桃花」

「なにかな?」

「あ、あーん……」


 桃花に食べさせてもらえるのではないか?

 いつもその役割はお兄様に取られている。

 だが今はお兄様がいない。

 それはつまり……そういうことだ。


「なんだ食べさせてほしいならそういえばいいのに」


 桃花は私の方にギョズレメを差し出してくる。

 私はそれを前のめりになりながら口に入れた。


 うーん! 美味しい!

 生地がパリパリで凄く癖になりそう!

 しかも生地に油を使ってないから凄く軽い!

 そしてそんな生地にこれでもかと言うくらいに詰まった具材が口の中でハーモニーを奏でる。

 ホクホクしたジャガイモが優しく受け止めたあとに挽肉が旨味をベースとなりチリパウダーがピリッとしたスパイスになり食欲を駆り立てる。

 それから中に入ってるチーズがすごく優しくてチリパウダーの辛味を良い感じに和らげて……


「海ちゃん。美味しい?」

「はい! 凄く美味しいです」

「それじゃあ私も食べよっかな」


 それから少しだけ間が空く。

 桃花は口を大きく開けて時間が停止したかのように固まっている。

 早く食べればいいのに……


「海ちゃん。早く食べさせてよ」

「ええ!?」

「だって私も海ちゃんにあーんしてもらいたいもん」

「もう、仕方ないですねぇ……」


 私はギョズレムを掴み桃花の口に入れる。

 これは手かフォークか悩む料理だ。

 桃花はフォークを使っていたがこれはクレープ料理であるのだ。

 なら手掴みの方が良いのではないか?

 クレープをフォークで刺して食べる馬鹿がどこにいるのだろうか?

 私はそんなことを考えながら桃花の口に入れた。


「うーん。美味しい!」

「ですよね! 凄く美味しいですよね!」

「料理が美味しいのもあるけどやっぱり海ちゃんと一緒に食べてるかな?」

「もう恥ずかしいこと言わないでくださいよ……」


 私達はそんなやり取りをしながら食事を終えた。

 それから外に移動してテニスコートに出る。


「そういえば前にスポーツ大会したのを思い出しますね」

「あったねー。たしか途中で夜桜と白愛さんが乱入したバトミントンのダブルスだよね?」

「そうです!」


 真央の授業で稀にあった体育。

 その時に一度だけ真央が羽目を外してスポーツ大会を開くことになったのだ。

 それけら荒れに荒れてしまいには真央が転移を使って夜桜と白愛を連れてきてお兄様&桃花VS白愛&夜桜という異色のバトミントン対決が……


「しかしあれは悔しかった」

「そういえば負けたんでしたっけ?」

「そうだよ! それもたったの二点差で! あの時に空君が反応してれば絶対に勝てたよ〜」


 本当に懐かしい……

 あの時は本当に楽しかった。

 今思えば授業と言いながら遊んでばかりの気がするがそれが良かった……

 だってとっても楽しかったんですから。


「でも今回は負けないよ?」

「私もです」


 私はラケットを握る。

 ルールは話し合った結果3点マッチでデュースは無しということになっている。


「先手は海ちゃんからどうぞ」

「では、いきます!」


 とりあえず私はサービスを打つ。

 その時にドカンという音がなり桃花の元へテニスボールが飛んでいく。


「……そんなもん?」


 その後にバキュンって音がしてボールが飛んでくる。

 その勢いは弾丸にも等しく目で追うのがやっと……


「……ッ」


 次はズドンという音が鳴った。

 今思えばこれ絶対に普通は鳴る音じゃない。

 テニスで打ち返した時に鳴る効果音じゃない。


「……遅いよ」

「桃花が早すぎるんですよ!」


 バチュン、ドシン、キュヒャン、ニャン。

 そんなわけの分からない音が鳴り響く。

 そんな感じで打ち合いが一時間近く続く。

 そろそろガチでラケットが壊れる……

 早くケリを付けねば……


「……チェックメイトかな」


 ドガガガンという今までで一番激しい音が響いた。

 これはまずい……

 過去最高威力の球だ。

 気を付けねばラケットが粉砕する……


「……セイっ!」


 私は力の限りラケットを振るった。

 空気が切れて斬撃が生まれる。

 その斬撃はネットを縦に切り裂き桃花の方へと飛んでいった……

 しまった! 力加減を間違えた……


「はい。一点」


 桃花はそれを難なくラケットで軌道を逸らして無傷でその場に居座る。

 それからコロンコロンと背後でボールが転がる音がした。

 まさか私は空振りをしていた?

 いや、そんなことが……

 違う。嵌められた……

 桃花は私を嵌めたのだ。


「フェイントだよ。私の能力は音だからちょっと激しい音を出して大きな一撃を使ったと思わせてね?」

「能力使用ですか……」

「禁止はされてないからね」


 いいでしょうそういう事なら私も使いましょう。

 蝶化して最強の一撃で葬りさりましょう。


「こちらからサービスでよろしいですね?」

「どうぞ〜」


 桃花は切れたネットを結びながら返事をする。

 試合はまだまだ続行だ。

 私は桃花がネットを治し立ち位置に着いたのを確認するとボールを真上に投げる。

 ボールはそのまま大気圏ギリギリまでいく。


「それ、ずる……」

「朽ちろ!」


 私は蝶化をして空を舞いそのままラケットで球を撃ち落とす。

 球は隕石のようにコートにまっすぐと……


「くっ……」

「どうですか?」


 桃花は何とか堪えるが力が強すぎたのかドシンと音がして桃花を中心にクレーターが生まれる。

 先程から小さなクレーターは何個も出来ていたがそれとは比較にならないほど大きなクレーターだ。


「……負けた!」


 桃花は打ち返すが球の方向は真上。

 これでは私のコートに入ることはない。


「これで同点ですね」

「そうだね」


 ただ今日はここまでだ。

 少しコートが荒れすぎてもう試合続行は不可。

 それに互いにラケットも……


「続きは明日ね」

「そうですね」


 私達はラケットを投げる。

 すると粉になって消えていった。

 もう耐久値が限界だった。

 特に最後の一撃が決定的過ぎた。


「これなんて言い訳します?」

「宝石握らせれば大丈夫だよ」


 そんな感じで私達はホテル生活を続けた。

 しかしいつまでもこんな事は続けてられない。

 こんな楽しいホテル生活は終わりを告げ遂にアララト山攻略に入ろうとしていた……

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