254話 魔神王
「我と契約しろ」
「……魔神王!」
「……この世界を共に破壊しよう」
表れたのは言葉で表せない黒い人型の何か。
それが私に囁きかける。
未来の神が動揺を見せた。
「我が器に相応しき少女よ」
あぁ……なんだろ……満たされていく……
私の欠けた何かが埋まっていく……
「こんな世界壊してしまえ」
そうだ……
こんな世界……
私の愛した人達が死ぬ世界なんて……
この腐った神が支配する世界なんて……
壊れてしまえ!
「……えぇ」
「神崎海! それはやめろ! 人の領域を!」
うるさい。黙れ。
私はもう神崎海ではない。
魔神王と呼べ。
「契約しましょう」
「承知」
私から力が満ち溢れる。
闇のような真っ黒い何かが心を埋めていく。
世界から色が失われていく……
こんな世界……こんな世界……壊してやる。
私が全て破壊してやる。
「あ……あ……ァ……ァ……アハ?」
私の身体が変貌していく。
足の肉が膨張してピンクの生々しい何かに。
腕は黒いカマキリの鎌のような……
腹には大きな穴があいていきそこから蛆虫が湧く。
今の私の全長大人二人分くらいかな。
「アハ、アハ、アハハハハハッ!」
楽しい! 楽しい!
身体から力が満ち溢れてくる!
今なら何でも出来る!
世界は私の思うがままだ!
全てを壊してやる!
「……カワッタ? 壊セル? 壊セナイ? 壊セル!」
「ま、魔神王が肉体を……」
「ラグナロク……ハジメヨ?」
そうだ。ラグナロクだ。
ラグナロクをおこわなければならない。
まずは指先だ。
七つの指先を全て集めねば……
今は世界にある指先は二つか……
まぁそんなのはなんでもいいか?
とりあえずここから出よ?
「キョヘ?」
私は手を振るった。
鎌のような手は空間を切り裂いた。
真っ黒い何も無い空間への裂け目が現れる。
「アハハハハハッ! ハハハハッ!」
しかし私は何も恐れることは無かった。
そのままそこに身を投げ出した。
◆ ◆
「え、海ちゃん?」
なんだこのブサイクは?
誰の許可を得て私の名前を呼ぶ?
私は魔神王“神崎海”だぞ?
人が話しかけていい存在ではない。
「ァ、ァ、ア?」
目障りだ。
いっその事殺してしまおう。
そう思い鎌を振り上げた。
さぁ死に晒せ。
「……ン?」
だが身体が動かない。
まるで本能が拒んでいる。
これは……
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こんなことがあってはならない!
私に拒むものなどあってはならない!
やはりこの世界はおかしい!
ぶち壊さなければ!
「……ア、アハ、アハハハハハハハ、ハハ?」
私は身体を無理矢理動かす。
今度は先程のように固まったりしない。
今度こそ……
そう思った矢先、私の足元に軽い電撃が走った。
あ?
「……キャッハ?」
私は軽く踏み潰す。
ズドンと大きな地響きが鳴り響いた。
これで目障りなものも消えた。
「嘘……あの、ミョルニルを一撃?」
「キャッハハハハハハッ!」
楽しい! 楽しい! 楽しい!
最高に楽しい!
そうだこれだ!
この感覚だ!
これを私を待っていた!
あれ、私は一体何を?
ナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲナニヲ
まぁなんでもいいか?
「キャッハハハハハハッ!」
「……姿からして分かってたけど正常じゃないね」
「セイジョウ?」
「待っててね。絶対に私が助けるから!」
……助けて……私を助けて……
お願い……助けて……
なんだ! なんだ!
これは一体なんなんだ!
おかしい! 私は魔神王!
一体何を助けを求めている!
何に恐れるというのか!
「……モ……モカ……」
「……分かってるよ」
それから人間如きが私に槍を向ける。
この人間が! 調子に乗りおって!
ふざけるな!
「海ちゃんから離れて」
「アハ?」
「これでも私はかなりキレてるんだよ」
「ナニヲ?」
「海ちゃんを返せ!」
カエセ?
私は私でしか……
もう目障りだ……殺して……
え?
おかしい、おかしい。
おかしいぞ。
私はたしかに鎌を落とした。
なのにこの女はどうして無傷なんだ?
「……天翼解放!」
それから女は白い翼を生やし真っ直ぐと私を見つめていた。怒りの炎を目に宿しながら……




