250話 自害
「恐らくあいつの本体は別の場所にある……」
「そうか!」
あ、そういうタネか!
あれは全て分身。
ちょっと綾人が働けるのが意外です。
「……目が見えねぇから分かった。皮肉にもそれが俺に冷静さを与えた」
「目は自業自得だからママは謝らないだろうし謝罪を求めようものなら次は殺されますよ」
「あの女がおっかねぇのは身を持って知ってるよ。それに俺達人間が関わっていい存在じゃねぇってこともな」
ちょっとは大人になってるじゃねぇですか。
この旅は退屈な時間多かったですから自分を見つめ直す時間が多かったからでしょうか。
「おい、響!」
「なんだ?」
「100%を2秒出せるか?」
「策があるんだな」
そういえば綾人の能力って……
たしかとんでもなかった気が……
「ルプス。怪我してるところ悪いが俺を一ミリのズレもなく響の元に投げろ。あいにく今の俺は目が見えねぇから軌道修正は出来ないもんでね」
「任せろです」
私は綾人をそのまま持ち上げる。
そして響に向かって一直線に投げた。
「100%魔神解放!」
「馬鹿。二倍にするから200%だよ」
綾人の能力は倍化。
質量が存在しないありとあらゆるもの倍にすることが出来るという能力。
忘れがちだがこの上なく強力で……
「吹き飛べーーーーー!」
そして響の力を倍にした。
それにより大きな衝撃波が生まれる。
その衝撃波は街一帯を全て吹き飛ばした。
まぁだが強い力だが私がフェンリルの体の時なら鼻息一つであの程度出せた……
悔しくないもん……
「……やったか?」
「流石に街を一つ吹き飛ばしたんだ。本体諸共終わりさ。この街にいればの話だがな」
恐らく勝負ありだ。
再び飛びかかってくる気配はない。
たしかにすごい衝撃波だった。
だけどママとパパなら簡単に起こせるんですよね。
本当にあの二人が規格外過ぎます……
流石に海お姉ちゃんは無理だと思いますが……
「恐らくアイツの能力は影分身だったのだろうな」
「それじゃあ私に飛んできたナイフは?」
「まぁ恐らく何かの応用なんじゃねぇか」
応用ですか……
一体どんな……
今度暇な時に真央に聞いてみますか。
「いやぁお見事。お見事」
「お前は!」
「はい、マルク・ローズベリーだよ。おじさん怖いから民家に引きこもってたら突然吹き飛ぶからビビっちゃったよ」
この男がこの街に誘導した。
そのせいで私達は……
「それで黒髪の貧乳美少女と桃色髪の巨乳美少女の居場所だって?」
「そうです……」
「うーん。酒場で地下に落ちたのだけはおじさん覚えてるのだがそれ以上は何も覚えてないのよ」
「ふざけるなです!」
私は怒りに任せて胸ぐらを掴む。
お前は絶対なにか知ってるだろ!
「おじさんね。暴力は好きじゃないのよ。もし殴ったら怖くて小便漏らして差恥の余り死んじゃうかもしれないよ?」
「クッ……」
「だから話し合いと駆け引きで決めようぜ。フェンリルさん」
やっぱり私がフェンリルであることは把握済みか。
恐らく海が神崎家、桃花が戦乙女であることを知っての犯行とみて間違いない……
「私に何を求めるです……」
「とりあえず神崎真央についてだな。悪いがお前さんが真央と一緒に動いてたことは裏が取れてる」
「……知らないと言ったら?」
「海と桃花の居場所を伝えねぇだけよ」
この男……
私の嫌いな……
「ルプス。下がってろ」
「おや?」
「ここから先は拙者の領分だ。神獣フェンリルより真央の一番弟子である拙者の方がいいだろ?」
「……一番弟子。あいつに弟子か」
問題はここから……
そういえば響の祖父は名探偵。
情報を引き出すのが得意だったりするのだろうか?
「まず最初に真央の居場所だが鬼ヶ島だ」
「……鬼ヶ島」
「そして鬼ヶ島の地形の情報も少なからずある。あれはちょっと入ったが真央の手が加わって拙者達の知ってる鬼ヶ島じゃねぇな。少なくとも2年前に行った時とは完全に別物だった」
2年前!?
響は2年前に鬼ヶ島に行ったんですか!?
なんで今まで……
「詳しく聞かせろ」
「そうだな……エニグマの人員構成、またその能力者をリストアップした用紙と交換でどうだ?」
「そ、それは……」
「いや、やっぱり神器のピックアップだけでいいわ。エニグマが把握してる神器の位置を全て教えろ。それなら楽だろ?」
私には響が力強く見えた。
たしかに神器の情報は大きい。
ママの能力なら私達の物に出来る……
「分かった……後日……」
「ダメだね。今だね」
「それなら四つだ」
「OK。四つで妥協しよう。だがこちらも鬼ヶ島に関しては四割だな」
四つも!?
神器の情報を四つも引き出したというのか?
「とりあえず鬼ヶ島にはある魔物が放たれてるんだ……その名は……」
「焦らすな」
「それじゃあ神器の情報を一つ吐いてもらおうか。全部話して持ち逃げされたらお笑いだしな」
「一つはウアス。エジプトの砂漠を掘り進めて地下にあるピラミッドの奥部にある杖だ。エニグマから使者を送ってるが攻略は出来てない」
「どうも」
ただ一つ言えるのは誰も真実を知らない。
だって未回収ならある保証はないのだ。
あくまでこれはエニグマの推察の域を出ない。
「鬼ヶ島にいるのは時猫って魔物。それで真央は考える時間を稼いでくる」
「なるほどな」
「また鬼ヶ島にはもう一つ大きな仕組みがあってな」
「聞かせろ」
「神器について二つ言ってからな」
ウアスの情報を得られただけでも大きい。
ぶっちゃけ私は殆ど把握していない。
だって南極に引きこもってたわけだし……
「一つは日本の神崎家にある八尺瓊勾玉。詳しい場所は不明だが真央が手元に置いてるだろうな」
「もう一つは?」
「アダマスの鎌で常にオゾン層を漂流している。これは衛星で写真だけなら確保したから間違いねぇ」
オゾン層か……
また確保が面倒な場所に……
いや、面倒じゃなかったら既にエニグマが回収してるから当たり前といえば当たり前か。
「なるほど。ちなみにこちらの情報は土の中に何かを埋め込んでるらしく真央は鬼ヶ島内で自由自在にホログラムを出すことが出来る」
「それは厄介だな……」
「悪いがこれが全てだ」
「なるほど。なら最後の情報。アララト山にノアの方舟という大きな船がある」
それは知ってます!
私はそう言おうとした。
しかし彼に“知ってる情報を流すなとは言われてない”と軽く流されてしまった……
「さて、次は海と桃花の居場所だな?」
「あぁ……」
「ではこちらはフェンリルの自害を要求しよう」




