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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
25/305

25話 支配

 目を覚ますとソファーの上だった。

 俺は気絶してたらしい。

 

「起きた!」

 

 そんな声が聞こえる。

 しかし今の俺はそれに恐怖しか感じなかった。


「もう空君が倒れたからビックリしちゃったよ」

「……そうか」


 ただただ目の前にいる桃花が怖い。

 今はそれだけしかない。

 でも俺は出来るだけ恐怖を感じてる事は察せられないように振る舞う。


「そういえば空君は夕食まだでしょ?」

「……そう……だな」


 まだ夕食を食べてなかったな。

 でも不思議なことにお腹は空いていない。

 いや、空いてこない。


「だから私が作ったよ!ほら、あーん」

「そういえば雨霧さんはどうした?」


 俺は問いかける。

 もしかした雨霧さんならこの状況を変えてくれるかもしれない。


「お兄ちゃんなら何故か音信不通なの!ほら、冷めちゃうから食べよ?」


 しかしそれは儚い希望で終わった。

 “音信不通”という言葉に桃花がなにかしたんではないかと疑わずにはいられない。

 でも、それを確かめる術は俺にはない。


「ほら、早く」


 そして目の前にはクリームシチューが置かれてる。

 今日の夕食はクリームシチューらしいな。


「はい。あーん」


 そうやって桃花がスプーンを押し付ける。

 しかし今は食べる気がしない。

 特に彼女の作った料理は……


「もう。しょうがいなぁ〜」


 渋っていると桃花はスプーンを俺から離してそのまま自分の口の中に入れた。

 そして口にシチューを含んだ状態で俺に口付けをする。


「な!?」


 桃花は口移しで俺に食べさせたのだ。

 さすがに口移しはかなり嫌悪感が凄いはずだった。

 しかし俺にあまり嫌悪感はなかった。

 何故か桃花なら良いかと思ってしまう。

 桃花は口の中のものをすべて流し終えて口を離す。


「口移しで食べるとすっごく美味しいんだね」

 

 桃花は笑顔でそう言うがよく分からない。

 突然の事に動揺して味なんて感じられなかった。

 そのため答えようがない。


「ほら、もう一口いくよ」


 そしてもう一度口移しをする。

 今度はしっかりと味を感じられた。

 シチューと桃花の甘い唾液が混ざり合い凄く不思議な感じだ。

 当たり前だがお世辞にも美味しいとは言えない。

 そして口移しで食べるのはシチューが無くなるまで続けられた……


「ごちそうさまでした。それにしても口移しで食べちゃうなんてカップルみたいだね」


 そんなカップルがいてたまるかってツッコミたいがもうそんな気力すらない。

 俺の心はもう完全に桃花に折られているのだ。

 今の俺は彼女のペットでしかないのだ。

 桃花は俺の飼い主。

 俺にはそんな絶対的な存在に彼女が感じられた。

 それでも何故かその事実に嫌悪感はない。

 間違いなく俺も狂っている。


「空君はもう私のものだよ。誰にも渡さないんだからね」


 桃花が俺に優しく抱きついてく。

 まるで悪魔に心臓を握られるような感じだ。

 しかしその感覚が何故か心地良い。

 恐怖が一周して好意に変わったのだろうか?

  今の僕には彼女がすごく愛しく感じる。

 もっと煽ってほしい。

 踏んでほしい。

 蔑んでほしい。


「ねぇ空君はどうしたい?」

「俺は……」


 今思った事をそのまま言えば良いだけだ。

 しかし何故か言葉が出ない。

 一体俺は何をしたいんだ?


「やっぱり白愛さんに寄り添えたいの?」


  “白愛”その名前を聞いて今までの記憶が走馬灯のように頭を駆け巡る。

 白愛は何時でも優しく俺のために何かしてくれた。

 勉強に護身術に料理に色々な事を教えてくれた。

 でも、裏を返せばたったそれだけだ。



「言わなくても分かるよ。今の私は空君よりも神様よりも白愛さんよりも空君という存在を理解してるつもりだよ」


 彼女は優しい笑みを浮かべる。

 たった与えてくれるだけの白愛。

 俺の事だけを思ってくれる桃花。

 どちらが良いかなんて考えるまでもない。

 今の俺は彼女のためならどんな手でも使う狼。

 そしてずっと彼女に甘えて楽に過ごしたい。

 彼女の笑みが俺にそう思わせた。

 俺は桃花に魅せられたのだ。


「たしかに白愛さんみたいなスペックは私にはないよ。でも私は白愛さん“なんか”よりよっぽど空君を愛してるよ。この世界で一番愛してるよ。私なら空君の空白をすべて愛で満たせるぐらい愛せるよ」


 桃花は俺を愛してくれる。

 俺だけを見ている。

 そして俺には桃花に寄り添うのに必要なスペックがあると思う。

 白愛の隣に立つにはスペック不足だ。

 でも桃花の隣ならスペック不足ではないだろう。

 そのスペックは白愛からもらったものだがもう俺のものだ。

 もう桃花に身を委ねよう。

 彼女なら白愛以上に俺の事を見てくれる。


「桃花」

「ん?」

「俺が傍にいてもいいか」

「うん! もちろん!」


 それに最初に離れたのは白愛だ。

 たしかに海とのゲームに負けたのは俺だろう。

 しかし、それで行ってしまう白愛も白愛だ。

 白愛は力づくでも俺の元に残れば良かったのだ。

 もしも桃花が同じ状況なら残っていただろう。

 白愛は所詮その程度だったんだ。

 白愛は俺の傍にずっと一緒にいると言ったのに海の元に行った。

 白愛は嘘つきだ。

 でも桃花は違う。

 俺は俺を愛してくれる人の傍にいよう。

 これから俺は桃花のそばにいよう。


「桃花」


 俺は桃花の名前を呼びキスをする。

 生まれて初めてやる俺からのキスだ。

 このキスは先程みたいに甘ったるいチョコレートみたいなかんじはしない。

 レモンみたいに甘酸っぱい味だ。

 そして彼女はそれを笑って喜んでくれた。

 やっぱり俺はこれから桃花のそばにいよう。


 俺はもう桃花の犬だ。

 その日を境に純粋な犬になったのだ。


「空君。私を抱いて」

「あぁ」


 そして俺は桃花に全て捧げた。

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