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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
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238話 ペッシェ

「ほら、私って前々から思ってたけどピンク髪って似合うと思うんだよね! それでちょっとこの前にオベイロン王と話したら地毛と同じように染まるカラーリング剤を貰ったからね。しかも髪に一切のダメージ無いから折角なら……」

「ピンクは淫乱。昔からそれがお決まりで……」

「そこ! その件については言及しない」


 しかしピンク髪とか……

 二次元じゃないんだから……

 いや、桃花なら似合いそう。

 ていうか間違いなく似合う。

 ただここは三次元なのが……


「まぁとりあえずピンクは淫乱ですね。俗に言う淫乱ピンクってやつです」

「むぅ〜」


 あ、可愛い。

 この膨らんだ頬をツンツンしたい。

 桃花さん。マジ天使。

 私の嫁にしたいです。


「海ちゃん! そもそも二次元とか言うけど吸血鬼とか魔法とかホムンクルスとか出てる時点でもう大差ないから!」

「あ、たしかに」

「もうこの世界が二次元なんだよ! はい! 解決!」

「かなり強引ですが良しとしましょう」


 しかしこのペースだと出発明日ですね。

 ていうか本来なら四日前には出る予定がこうしてダラダラと引き伸ばされてるんですよ。

 まるで某少年誌の看板漫画みたいに……

 ていうか桃花はお兄様に会いたくないんですか?

 早くお兄様とイチャイチャしたくないんですか?


「海ちゃんってたまに私が読心出来るの忘れるよね?」

「ていうかなんでそもそも出来るんですか……」

「戦い慣れてるからなぁ。読心して敵の次の手を読めないと遅い私は反応出来ないし……」

「なるほど」


 そう言えば真央の元で身体測定をしたな。

 たしか真央が途中で飽きて握力、50m走、ハンドボール投げの三つで終わってしまったが。

 ちなみにその時の記録はルプスは引きこもってゲームしてたから学校休んで測っていない。

 そして響が50m走が4.23秒で私が0.62秒。

 アーサー君が8.64秒のお兄様が0.39秒で桃花は1.01秒だったと記憶している。

 ちなみに真央は7.12秒だったと私は記憶してます。

 まぁ他は握力計は壊れて測定不能でハンドボールは見つからなくて記録不明と散々な結果だったが……

 しかし男女の差は大きいものだ。


「とりあえず私は体の動きは遅いんだよ」

「知ってます」

「ていうかお腹空いたし早く食べよ!」

「だから食堂に向かってるではありませんか」


 私達はそんな会話をしながら螺旋階段を歩く。

 最近は桃花の家と言いドラキュラ王の城と言いデカい家なのが当たり前になったきた。

 逆にある程度の大きさが無いと落ち着かないくらいに……


「海ちゃん。この世界に妥協を絶対にしてはいけないものが三つあるんだよ」

「なんですか?」

「衣食住だよ! 最も自分を引き立てるものを着て、世界一クラスの料理を食べて一番快適な環境で暮らす! それが大切なんだよ!」

「つまり?」

「王様の元で暮らすの最高! イェーイ!」


 それは同意します。

 ドラキュラ王はあれでも王様であり料理、衣服、家もそれなりのもの用意されています。

 まぁ私的には桃花の家の方が日当たり的に好きですけどそれは好みの差でしょう。


「それでさっき言ってたバギーなんだけど良い案ある?」

「冷房と甘いお菓子、それにすわり心地と外の景色が良く見れたら文句はありませんよ」

「外の景色か〜バギーだから屋根を無くして風を肌で感じられる設計にするつもりだったけど……」

「それだと冷房が……」


 うーん。

 たしかに風を肌で感じるのは好きである。

 だが冷房は捨て難い。

 特に長旅になるならば……


「ちょっと魔法技術使ってスイッチ式オンオフ可能にしよっか。イメージとしてはスイッチ押せば膜みたいなバリアが出てね……」

「ほんとに魔法って便利ですね」

「ちょっと魔法を道具への応用は妖精族の専売特許で彼等から学んでる最中だから私も完璧とは言えないけどね」

「それでも十分ですよ」


 まったく……

 少し便利になりすぎだ。

 まぁ便利になって困ることはないから良いが……


「さてと、到着」

「一々口で言わなくて結構ですよ」

「えー! ちょっとした事を言葉にするのも私は大事だと思うんだけど!」


 そうして私達は食堂から料理を取っていく。

 ドラキュラ王の城で料理はお祭り事でもないと二十四時間のビュフェ形式になっているのでそれこそ自分のタイミングで好きなだけ食べれる。


「あ、スクランブルエッグが出てる。少し珍しいね」

「そうですね」


 またここは立地の関係もあり卵料理が少し珍しい。

 吸血鬼は夜しか外を歩けず、卵は外でしか得られない。

 つまり夜のうちにこの山を超えて近くのホテルに泊まる。そしたらホテルで日が落ちるまで待機して日が落ちたら買い物を済まして日が昇る前に帰る。

 たしかそんな感じだったはずだ。

 他にも一部の果実とかもそうしなければ手に入らないようになってる。

 また一人が運べる量にはやはり限度があり……


「まぁ最近は鶏を育てようとしてる物好きな吸血鬼もいるのよ」

「あ、ペッシュさん。おはようございます」

「おはよう。海ちゃん……とは言っても私はもうそろそろ寝ちゃうけどね」


 今は朝。

 吸血鬼は寝る時間である。

 まぁ日光に当たらなければ死ぬことはないので人間で言う夜更かし感覚で少し朝に起きる吸血鬼もいる。

 ただそれだけの事だ。

 なんと言ってもこのドラキュラ王の城では一切の日光が入らないのだから……


「しかしなんでこんな時間に……」

「起こされたのよ。あの鶏っていう鳥如きにね」


 なるほど。

 鶏を育てようとしてる物好きな吸血鬼がいる。

 しかし朝からコケコッコーとうるさいわけか。

 私としてはそもそも気付かなかったが……


「もう睡眠も遮られて最悪!」


 そう言いながらペッシェさんはハムカツサンドを頬張っている。

 今日はそんなメニューも出てるのか。


「今日はミネストローネにハムカツ、それに蝙蝠肉のサラミに……」

「蝙蝠肉でサラミって言えるのです?」

「ん、どういうこと?」

「サラミとはたしかにドライソーセージの一種です。製法も限りなく似てると言ってもいいでしょう。しかしサラミには牛肉や豚肉を使うと考えるとそれはサラミというより別の料理に……」


 あれ、困惑してる。

 そんな難しい話をしてただろうか?


「桃花。どういうこと?」

「うーん。まずお姉ちゃんはドライソーセージって知ってる」

「え、えぇ。そのくらいは」

「それじゃあサラミとドライソーセージの違いは?」

「言われてみれば何かしら……」


 少し説明不足でしたか。

 これは私のミスですね。


「基本的にはないわけだ。また少し脱線するけどドライソーセージと似たようなカルパスとサラミの違いを鶏肉を使う事があるかどうかで判断する風習もある」

「そうなのね」

「だから一般的にサラミと言えば牛肉か豚肉なわけ。それなのに蝙蝠肉のサラミって言葉が出てきたら海ちゃんは少し疑問を覚えたの」

「随分と二人とも博識だこと」


 ちょっとネットサーフィンしてたら横目に入った程度の情報で私はそこまで賢くはありませんよ。

 多分……


「たしかに蝙蝠肉の加工方法はドライソーセージよ。それならサラミって言い方で私は良いと思うけど」

「そうですね」

「まぁ食べれれば名前なんてどうでもいいんだよ!」


 そりゃそうだ。

 たしかに胃に入れば同じ事。

 その意見はごもっともだ。


「さて、話を戻すね。それでメニューはその蝙蝠肉のサラミにスクランブルエッグ。あとどこにでもあるパンに鱈の塩漬け焼き。それとデザートにはさくらんぼが出てた気がするわ」

「あれ、野菜は……」

「ごめんね〜。少し切らしちゃって他の吸血鬼が買いに行ってるところだから我慢してね」

「分かりました」


 いや、むしろ好都合。

 私は野菜より魚や肉派だ。

 どちらかといえば喜ばしい事態である!

 時代の流れは私に来ている!


「海ちゃん。何食べよっか?」

「私はサラミにスクランブルエッグ。それにパンに自前のイチゴジャムを塗ってさくらんぼですかね」

「私も同じのにしよー。イチゴジャム借りてもいい?」

「えぇ。大丈夫ですよ」


 色々なものを端ッから持ってきて助かった。

 少し詰めるのが大変だったが今に来てそれが活きている。

 それに真央からの誕生日プレゼントのバッグ!

 あの物理法則を無視した容量約6000kgのバッグ!

 それにより何も考えずに物を運べる。

 しかも重さも一切感じないないのだからほんとに凄い。

 まさかあんな便利なものをくださるなんて……


「ありがとね」

「気にしないでください」


 私は鼻歌混じりにスクランブルエッグをよそりサラミを皿に盛り付けパンを手に取る。

 私は今回の旅がかなり楽しみである。

 だって大好きな桃花との旅。

 それに環境もかなり良いときた。

 楽しくないわけがない。

 たしかに目的は真央を助けるためにノアの方舟を見つけて戦力を整える。

 そう聞くとシリアル満載の重い旅かもしれない。

 しかし実際は美味しいものを食べて疲れたら寝てアララト山を観光するだけである。

 つまりただの観光旅行だ。


「海ちゃん。旅が楽しみ?」

「どうしてそれを!?」

「顔に出てるよ」

「そうですか……」

「でも旅の途中には陸のホムンクルスとか襲ってきたりと少しは災難があると思うの」


 何をいまさら……

 そんなの会ったら倒せばいい。

 それを容易く行う戦力は整えている。

 桃花にルプス。

 その二人がいるだけで怖いものなんかない。

 だから私は能天気に過ごせるのだ。

 私が心配するのはそれこそ虫刺されくらいだ。


「とは言っても大丈夫そうね。顔にそう書いてあるもん」

「そんなに顔に出てますか?」

「うん! 凄く出てる!」


 えぇ……

 ちょっと直そうかな……

 どうやったら顔に出なくなるんだろ。


「そう言えば桃花」

「なに。お姉ちゃん」


 桃花はペッシェさんのことをお姉ちゃんと呼ぶ。

 一応、父親の方の血の繋がりはあるしどこか思うところがあるのだろう。


「桃花はどんな大人になりたいの?」

「笑える大人かな。ずっと笑って暮らしたいな」

「そっか」

「そういうお姉ちゃんは?」


 どんな大人になりたいか。

 私の試練の内容……

 私が答えを出せないでいる問題。


「私はまだ決まらないかな。ただ一つあるとしたらお父さんの跡を継ぎたいと考えてるの」

「つまりお姉ちゃんは始祖になりたいの?」

「えぇ。そういうことになるわね」


 みんなが決まってる。

 それなのに私は……

 本当にそんなんで……


「始祖になって私は吸血鬼の生活を豊かにしたい。真央の世界調整がどんな形なのか細かくは知らない。でも私は吸血鬼のみんなが笑える世界にしたいの」

「良い願いですね」

「そうかな? ちょっと綺麗事過ぎるかなって自分では思うんだけど……」

「綺麗事良いではありませんか。何がダメだと言うのですか?」

「うん。そうだね……それじゃあそろそろ私は寝るね」


 そう言われた私は“おやすみなさい”と返す。

 しかし朝にその言葉は違和感が凄いな。

 まぁ吸血鬼にとってそれが当たり前だが……


「さて海ちゃん! 私も髪染めるよ」

「本気ですか?」

「もちろん」


 そしてこちらはもう一波乱ありそうだ。

 仕方ないし桃花がどのくらい可愛くなるか見てあげよう。

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