235話 取引材料
「……さてとドラキュラ王。交渉を始めましょう」
私の目の前にはドラキュラ王がいる。
あれから何とか私達はドラキュラ王の城まで辿り着いたのだった。
ドラキュラ王の城ではお母様の霊夢を見たり真央がお兄様を連れて来たりルークのホムンクルスが攻め込んできたりと色々と忙しかったが全て一段落でようやく話し合いをする余裕が生まれてきた。
「そなたらが求めるのは戦力。それに対して何を出せる?」
「そうですね……」
問題は難航している。
ドラキュラ王は私達に対価を求めてきた。
そしてその対価を支払えずにいる。
正直に言えばドラキュラ王の助けを無くして真央に勝つのは難しいだろう。
間違いなく強力を得るのは必要だ。
だが方法が無いわけではない。
そしてその方法をしっかりと考えてきた。
「架純さんの身体でどうでしょう?」
私達は現在、桃花のお母様の体を縛りつけていた。
これが私達に残された唯一の道だ。
ドラキュラ王は少なくとも架純さんと交尾をして桃花を作っている。
それなら架純さんの身体にそれなりの魅力を感じているはずである。
これでも捕まえるのには苦労したのだからそうであってほしいものだ。
「……興味……ないな」
一瞬だけ間があった。
間違いなくかなり悩んでいる。
あともう一押しで……
「ていうかちょっと待って! 私の権利は? ねぇ私の意見は尊重されないの!?」
「お母さん。頑張って!」
「桃花! ちょっとそれ私の娘としてどうなの!? ねぇ母親が身体を汚されようとしてるんだよ?」
「私、そろそろ妹が欲しい年頃だったりするんだよね〜」
「あなたには海ちゃんがいるでしょ!」
まったく随分と遠回しに言うものだ。
しかしこれが私に残された取引材料。
他には一切無い。
「まぁ冗談はさておき。架純さん」
「何よ……」
「今の私達にドラキュラ王との交渉材料があなたの身体しかないのは変えようのない事実です。そしてドラキュラ王から助けを得られなければ間違いなく真央の世界調整は止められません」
「それはそうだけど……」
だが無理強いも出来ない。
さて、どうしたものか……
「ていうか架純さん。あなたって前にドラキュラ王と身体を重ねたんですよね。それもかなりノリノリで……」
「昔の話よ。ていうかどこで聞いたのよ」
「ドラキュラ王からです。それと前に一度身体を重ねた関係ならそこまで強い嫌悪感はないんじゃありませんか?」
「それはそうだけど……」
しかし架純さんは不満そうだ。
一体何が……
「たしかにドラキュラ王は渋くてカッコイイし優しいから抱かれてもいいと思うわよ」
「それじゃあ……」
「でも彼って凄い下手なのよ!エッチが下手でもう痛いのよ!」
え、そういう問題……?
ちょっとそれ予想外。
どう返したらいいでしょう……
「そうなの?」
「そうよ! 桃花もやってみるといいわ!」
「私の身体は空君だけのものだからパス」
そりゃそうだ。
私だって和都君以外に抱かれたくはない。
もちろん相手が可愛い女の子なら別だが……
「もう。仕方ない。我慢しますよ」
「そうしてください」
さて、これでドラキュラ王は応じてくれるか。
問題はそこである。
「ドラキュラ王。これで……」
「足りぬな。これだけでは吾輩が動くには足りない」
しかし出せるものはない。
なんか私に出せるものは……
「……海ちゃん。あとは私に任せて」
「桃花?」
それから桃花は動いた。
まるで流星のように素早く動いて飛び回る。
一体何を……
「ドラキュラ王。私は交渉材料にならないかな?」
「な!?」
「私、速さにはちょっと自信があるんだよ」
桃花はナイフをドラキュラ王に突き刺していた。
ナイフは物の見事に刺さっている。
「吸血鬼は再生能力がある。この程度じゃ死なないでしょ?」
「何を……」
「たしかに私は貴方に勝てない。でも一撃を食らわせる事くらいなら容易いんだよ」
そういうことか。
たしかに桃花は交渉材料になる。
なんて凄まじいアピールだろう。
「たった十七年。それしか生きてないのに始祖相手に一撃を喰らわせる。それって将来有望だと思わないかな?」
「なるほどな。だが桃花の口からはっきりと聞きたいものだ」
「大人になったら私が一度だけ吸血鬼に力を貸してあげる。このご時世だし何が起きてもおかしくない。少し待てば自分より強くなると分かってる人物と関係を持てるというのは大きな取引材料になるんじゃないかな?」
「分かった。海達にペーターとペッシュを貸す。それでどうだ?」
ドラキュラ王、本人は動かないか。
無理もない。今はいつあのクソ親父が攻め込んできてもおかしくない状況だ。
「ペーターは【血】の使徒で死体を操る能力。ペッシュは吸血鬼の中でもトップクラスの運動神経で吾輩の後継者候補でもある」
なるほど。
たしかペッシュは桃花の腹違いの姉。
そして前にお兄様に勝っている。
それなりに身体能力はあるのだろう。
「それでいいでしょう」
この二人なら安心出来る。
それに死体を操るという能力は強力だ。
「今のペーターは強いぞ?」
「どう強いのですか?」
「先日のルークのホムンクルスの攻め込み。それにより大量の死体を得ることに成功している。そしてペーターは死体を操る事が出来る。その意味が分かるな?」
「なるほど。彼一人で大規模な軍隊なわけですか」
「そういうことじゃ。それにルークの死体はお主が真央から貰ったバッグにいくらでも入るじゃろ」
はぁ……
あまりふざけるな。
私は少しだけイラッとした。
「これは私の大切な真央から貰ったバッグです。そんな汚い物は入れたくありません」
「そうか?」
「はい。私は真央が大好きです。そんな真央から貰ったバッグですから汚したくはないんですよ」
誰が死体なんて入れるものか。
これは私の宝物だ。
「それは済まなかった……」
「分かればいいんですよ」
真央は今頃どうしてるだろうか?
一人で働きすぎてないだろうか?
悩みを溜め込みすぎてないだろうか?
今は真央が凄く心配だ。
「それじゃあ海ちゃん。明日ここを出よっか?」
「そうですね」
もうここに長居する理由もない。
それに何より早く真央を助けたい。
それなら立ち止まってなんかいられない。
早くノアの方舟を探しに行こう。
「しかしここからは徒歩ですね。しかも一つ国境を超えなければなりません……」
今いるドラキュラ王の城。
場所としてはイラクにある。
そしてノアの方舟があるとされるアララト山は隣国のトルコだ。
幸いにも海は無いので徒歩や車のみで行ける。
「ほんとにジェット機が壊されたのが痛いね」
「あれは仕方ないですよ」
私達はここにジェット機で来た。
しかし途中で天候不良により運悪く不時着。
それによりジェット機は粉砕。
幸いにも私達に怪我は無かったのでそこから徒歩で何とかドラキュラ王の城に着いたわけだ。
「トルコの国境検問所ってどうなってましたっけ?」
「そこまで大した事は無かったと思うよ。私の音の能力で問題なく皆殺しにして入れるはず」
「人殺しはダメです」
「それなら飛び越えていきますか。仮に国境を超えたとしてもどうせ飛んでくるのは弾丸だから避けるのは容易いでしょ?」
「そうですね。ただ私の記憶だとあそこでよく軍事演習が行われていた気がするのですが……」
あそこら辺は治安が悪い。
たしかちらほら紛争も……
「仮に行われたとしても今の私達が戦車の一つや二つに殺されると思う? 悪いけど私はそうは思ってないよ」
「そうですね」
「まぁどうせ来ても玩具みたいな現代兵器が関の山。核とかナパームとか毒ガスとか本当にえげつないの来ない。それに……」
「そうでしたね」
国境越え。
それを上げてるもう一つの要因。
それは政治家の不在だ。
この二週間近くで政治家や大統領の暗殺が何度も行われていて今ではどの国も指示者がいない現状。
もちろんみんな馬鹿ではないし対策はする。
しかし敵は何も無いところから現れ的確に首を切っていく。
他にも勝手に身体が動き自殺した。
国会中に建物事吹き飛ばされて殺された。
そんなニュースをよく聞く。
「……あのニュース。犯人は真央ですよね?」
「そうだと私は思うよ。真央の転移なら暗殺は容易いと思うしそれに何より真央には国のセキュリティを意図も容易く突破して国家機密を得る技術がある」
「国家機密には首相同士の密会とかも含まれますね。真央はそれらを掌握してますからそこに転移して殺していけば……」
「そういうこと。それを対策して能力者のSPとか雇うかもしれないけどその程度なら夜桜で殺せるしね。つまり完全に世界は詰みだよ。もうどうすることも出来ないんだよ」
真央は強すぎた。
そもそもこの世界の戦力なんて夜桜一人で殆どが落とせるだろう。
周りにそれ以上がいて忘れがちだが夜桜に勝てるのは始祖クラスだけでそんなのは十人もいない。
「今の真央を止められるのはもう私達だけなんだよ」
「そうですね」
だがそんなのはどうでもいい。
私は真央を救えればそれでいい。
例え世界が滅びようが構わない。
私の大好きな人達が笑っていられるなら……
「さて、今日は寝ましょう」
「おやすみ。海ちゃん」
「おやすみなさい」
そうして私達は解散した。
明日からが本番だ。
今日は早く寝て体力を整えよう。
私が必ず真央を助けてやる。
そのためならどこまでも手を伸ばしてやる……
ブクマ100٩(>ω<*)و




