234話 たった一人
「その根拠は?」
「特にないな」
「なら疑う理由は?」
「無実の証明が出来ぬものは全て疑うが私のモットーということはよく知ってるだろ?」
たしかにマリアはロンドンに攻め込んだ時にその場にいなかった。
完全に白とは証明が出来ない。
だがそれだけで疑うのは……
「それにマリアと私が会うのは二年振りだ。その間に心変わりしてもおかしくはない」
「……たしかにね。少し無理がある気がするけど私が疑われるのは無理ないか。けれど私は白よ。ていうかどうしてそんな発想になったの?」
「なるほど。理解した」
どういうことだ?
何を理解したというのだ?
「それと真央。あなたこそ“脅迫”してスーを脅したりしてるんじゃないかしら? それで私利私欲に……」
「そんなことするわけないだろ! そもそもどうやって脅迫しろって言うのだ!」
「そうね。例えばスーの恋人を人質に取って従わなきゃ殺すとかね」
「あんまりふざけるなよ……」
なんかこの会話は変だ。
どこか違和感を感じる……
ただその違和感がどこから生まれてるか分からない。
「逆ギレ?」
「私はキレてるよ。この上なくキレている。今すぐ帰れ」
「そう。ホントにあなたって酷いわね」
そしてマリアは帰っていった。
俺にはこの展開が全く理解出来なかった。
一体真央は何を考えて……
「余計な時間を取らせたね」
「おい、真央! 煽るだけ煽って何をしたかったんだよ!」
「気にするな。これは私の問題だ」
真央らしくない。
一体どうしたと言うのだ……
あんな一方的に話を遮るなんて真央じゃない。
「空。もしも宝物があるとしたらどこに隠す?」
「おい、真央!」
「私はどこに隠すか聞いている!」
なんだよ……
しかし隠すとしたらか。
そんなのは一つしかない。
「常に手元に置くに決まってるだろ」
それは隠さないだ。
少し論点がズレるが守りたいなら肌身離さず持っているしかないのだ。
結局のところそれが一番安全で……
「空に聞いた私が馬鹿だった」
「おい!」
俺は真央に手を伸ばした。
しかしその手は真央に触れない。
真央が転移を使ってどこかに消えたからだ。
「なんなんだよ! 一体なんなんだよ!」
俺は声を荒あげた。
今の真央はまるで子供だ。
しかし声は反響するだけで返事はない。
そして翌日にはスーと夜桜も消えた。
跡形もなく消えた。
それから真央達が帰ってくることは一週間経っても無かった……
「……空」
「天邪鬼か。なんか真央の意図は掴めたか?」
「そういうのはお主の仕事じゃろ」
あれから一週間、真央の事を考えた。
しかし答えは全く出なかった。
真央の考えが分からない。
彼女の事が理解出来ない。
「……しかし空。よくこなしてるな」
「あぁ。真央から最低限の手解きは受けているからな」
俺は現在、アーサーとソフィアの子守りと授業。
それにドナのダンジョンタワー制作の手伝い。
その他諸々の家事に自分の勉強。
真央がいつ世界調整を始めようと間に合うように準備をしていた。
もちろん一人では限界もあるので闇桃花と白愛に少しだけ手伝ってもらったりしながら……
「いや、そうではなくて自分で考えて動けるのが凄いと単純に妾は思ったのじゃ」
「そのくらい出来ねぇと神崎家は務まらねぇし真央の足でまといになるからな」
「そ、そうか……」
たしかに真央の真意は分からないしこのタイミングでなぜ家出したかも不明だ。
でも一つだけわかってる事がある。
それは絶対に真央は世界調整を諦めないということ。
だから俺はそれに基づいて準備する。
「それと天邪鬼」
「なんじゃ?」
「真央が家出した事は隠し通せ。真央は今まで通りここにいるように振るまえ」
「どうしてじゃ?」
「真央がいないとバレると色々と都合が悪い。それに真央の家出だって考えがあるはずだ。恐らく真央は隠密行動をしようとしてる。だったらその最大限のサポートをするべきだと思うからだ」
真央はそんな身勝手な人物じゃない。
間違いなく考えがあっての行動だ。
ならせめて俺はそれを信じて動かねば……
「天邪鬼」
「なんじゃ」
「さて、世界調整を始めよう。我が魔王様が安心して戻ってこれるようにしっかりと準備しよう」
「了承した。代理魔王様」
代理魔王か。
それも悪くないな。
さてと魔王が不在の間は俺が魔王を演じねばな。
この城を死守せねぇとな。
明日から海ちゃんに目線変更




