232話 真意
考えてみたらおかしい。
一周目の真央の動きは親父の体をラグーンに親父の体を乗っ取らさせて俺を襲いに来た。
その時の狙いは白愛と考えていたがそれはおかしい。
真央には夜桜、スー、天邪鬼と充分過ぎる戦力がいて悪いが白愛ぐらいならどうにでもなる。
つまり俺を襲った理由は白愛じゃない。
別の何かが……
「そう思った理由は?」
「色々と不自然なんだよ」
二週目で初めて俺と接触。
その時に真央は白愛と親父を拉致した。
そして真央は母さんを殺され親父を恨むのには充分な理由があった。
それなのに殺さなかった。
さらに俺に姫の姿を見せた。
今ならハッキリと分かる。
真央は絶対に二週目の俺に姫を見せるなんてヘマはしねぇ……
だったらあれは故意的に見せたことになる。
「すまない。私は空が過去を周回した時に会った私とはあくまで別人だからその時の考えが分かるわけじゃないんだよ」
「恍けるな」
そして二週目の最後。
白愛を殺して俺にアカシックレコードがうんたらかんたらと嘘の情報を掴ませた。
それから夜桜がルークから奪った能力を使い俺を過去に飛ばした。
真央は何故過去に俺を飛ばした?
そんなことをする理由は?
「お前なら過去の自分を理論的に解説できるだろ。少なくともそのくらいのスペックはあると判断してるぞ」
そして三週目。
夜桜は海を犯そうとして失敗。
それから大規模テロを起こして政府を巻き込んだ全面戦争へと発展した。
もちろん真央の勝利に終わって俺は能力を使ってルークの時間逆行を再現して海と共に過去に飛んだ。
「そう睨むな。私は睨まるのはあまり好きじゃない」
それから四週目。
すなわち今いる世界線。
この世界線で俺と海は親父を保護。
しかし真央は俺に大きく関わってこなかった。
だから先手を打ち海をスパイとして真央の元へ送った。
そこで真央は共有の能力で海の過去を知り同情から俺達に力を貸すようになった。
そしてその世界戦の最後は竹林の右腕を落として魔神の肉を埋め込み魔神化させ、急に出てきた闇桃花を拉致した。
最初の目的である親父に一切の手を出していないのだ。
これはかなり不自然ではないか?
どうして四週目で親父に手を出さなかった?
真央は何が狙いだったんだ?
真央は何をしたかったんだ?
「……全て説明してもらおうか。真央は何をするつもりだったんだ?」
「分かったよ。最初から私の狙いは空。神崎陸じゃなくて神崎空。これでいいかい?」
は?
おい、どういうことだよ!
まったくわけがわからない!
「はっきり言うが空が時間逆行するのも計画の内なんだよ。君の表情から何周目か判断してその上で空の経験値になるように上手く立ち回っていたのさ」
「それじゃあ三週目は……」
「その時は夜桜もセットで時間逆行したことで私が必要以上に情報を得すぎて変な行動をしてしまったと私は考察している」
俺の時間逆行が全て計画の内?
それじゃあ一周目、二週目、三週目の真央は全てこの世界線の真央に全て託して立ち回っていたっていうのかよ!
そんなことが可能なのか?
いや、真央なら出来る……
根拠はないが確信に近い何かはある。
「……親父を殺さなかった理由は?」
「一周目と三週目はちゃんと殺しただろ。二週目は恐らく空に白愛がホムンクルスだということ等を説明するのに最適な人格だから」
「夜桜が海を犯した理由は?」
「……それは完全に夜桜の性欲が暴走したからで私は関係ない。本当に済まなかったと思ってる。ちゃんとこの世界線では私がちゃんと見張ってるし許してはくれないだろうか?」
とりあえず深い理由はないんだな。
だが一番の問題が解決してねぇ。
「どうしてこの世界線で親父を殺さなかった?」
「そうだね……ハッキリと言うなら舞台が整ってなかったからだ。アイツは華恋を殺した。そんな簡単に殺してたまるか。この上ない地獄を見せてから殺すと私は決めている」
「……やっとスッキリした」
そういうことか。
たしかにあの場面で親父は殺せねぇな。
あんな温い殺しは出来ない。
「華恋だけならただ殺すだけでも良かった。だが海が関わってるなら別だ。普通に殺したら海の気持ちはどうなる? あいつだけは簡単に殺すものか。少なくとも海にしたこと以上の事をしてから殺す。そうしないと私は華恋に怒られる。それに私自身がそうしたい」
結局のところ親父は殺すと。
それはそうか……
「ていうか真央」
「なんだい?」
「アペティとかラグーンって……」
「うん。あれは適当な人間捕まえて聖杯で能力与えてスーで洗脳しただけの捨て駒だからもう既に殺処分したよ」
は?
なんて非人道的なことをしてんだよ!
まぁ今に始まったことじゃないから何でもいいが。
「おや、引かないのかい?」
「このくらいする奴だと既に知ってるからな」
「何か悲しいぞ? 私は凄く悲しむぞ?」
だったらするなよ……
ていうか俺の嫁は笑顔で拷問する人物なんだざ?
この程度のサイコ如きで今更……
「ていうか空。俺を何か下半身に正直な奴だと思ってねぇか?」
「実際そうだろ」
俺は夜桜のツッコミに冷たく返す。
だって実際問題手を出してるじゃねぇか。
「いや、あれは海が可愛すぎるのが……」
「夜桜。海に手を出したら一生口聞かないからね」
真央も冷めた目で言葉を放つ。
それから夜桜の顔はどんどん青ざめていった。
「それだけは勘弁してください!」
「当たり前だろ! 私の可愛い娘に嫌がることをしたら怒るに決まってるだろ。それに海は華恋の実の娘だぞ! いくら夜桜と言えど不幸にするのは許さないからね」
「……はい」
夜桜は真央の気迫に押し負ける。
当たり前だ。
まったく、俺達にとって海がどんだけ大切な人だと思ってるんだよ。
たしかに毎日のように喧嘩だってするし馬鹿にだってするし文句だって言い合う。
だけどやっぱり可愛い妹なんだよ。
「夜桜。姫は私に任せろ。ちゃんと殺してやる」
「……信じてるぜ。真央」
「それと姫を殺したらお願いがあるんだ」
「なんだ?」
真央は少し顔を赤らめながら小声でそう言った。
そうだよな。
ぞろぞろやらないと手遅れになるもんな。
「……私と結婚してくれないか?」
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
「実は私、夜桜の事がずっと好きだったんだぞ! あの私を助けてくれた日から!」
「いや、初耳なんですが!」
「当たり前だろ! 夜桜には言ってないんだから!」
真央の寿命は短い。
だから悔いないようにやるなら……
「いやいや、俺のどこに好きになる要素があるんだよ! まだ空を好きって言った方が現実味が……」
「馬鹿。全部に決まってるだろ! それに私は夜桜だから好きになったんだぞ! たしかに空も恋愛的に少し好きだがそれはどこか夜桜に似てるからであって私の一番は夜桜なんだぞ!」
え、俺も少し恋愛的に好きだったのかよ!
ていうか俺には桃花っていう世界で一番可愛い嫁がいるんですが!
「……やっぱりこんなアラサーのおばさんじゃダメかい?」
「やっぱりお前、馬鹿だな」
それに対して夜桜はキスで返した。
人前でイチャつきやがって!
恥を知れ! 恥を!
「な!?」
「俺もお前が好きだよ。真央。お前と旅をしてるうちに俺にはお前のことしか考えられなくなった。正直言うと海を可愛いと思うのも真央と同じ黒髪黒目でお前と血の繋がりもある。海が真央に似てるからなんだぜ?」
大胆な告白だな。
ていうか他の女の名前を出すなんてアウトだろ。
「……本当に君は乙女心の“お”の字も分からないんだな」
「……悪かったな」
それに対して真央は笑顔で応えた。
真央のとびっきりの笑顔。
あんな笑顔は初めて見た。
「夜桜。私は魔王だ」
「知ってる」
「でも魔王である前に私は夜桜の嫁でありたい! 夜桜の嫁として死にたい!」
「そうか」
夜桜は少しだけ悲しそうな顔をした。
それはそうか……
だって目の前で死ぬって言われたら……
分かっていても辛いものがある。
「真央。安心しろ。お前は俺の嫁だ」
「……海に浮気したらタダじゃおかないからな」
「お前こそ空に浮気するなよ?」
それから二人は再びキスをした。
それもかなり長い時間だ。
「もう一度聞くぞ。本当に私みたいな三十路のおばさんでいいんだな?」
「何度も言わせんな。お前だからいいんだよ。誰よりも優しくて常に前を向く。そんなお前だから俺は惚れたんだよ」
「……大好き」
だが真央はそう言いながらも夜桜を遠ざけた。
まだ何かあるのだろうか。
「でもまだ結婚は出来ないな」
「そうだな」
「姫の件を終わらせる。これは一種のケジメだ」
「あぁ」
なんか分かってはいたがもどかしいな。
両想いなのに結婚出来ないなんて……
「……夜桜。子供何人欲しい?」
「俺にはお前さえいれば他には何もいらねぇよ。でも一回抱かせろ。前々から俺はお前をずっと抱きたかった」
「奇遇だね。私もずっと夜桜に抱かれたかった」
あーそういうのはいいです。
いらないです。
「ただ私は君と違って定期的に風俗に通うけじゃかい。まぁ何が言いたいかと言うと初めてだから優しくしてくるとありがたい」
「任せとけ」
はぁ……
もうなんなんだよ……
「それと空」
「なんだ?」
「君と桃花がやってるのはこういうことだから不平を抱くのは間違えだぞ?」
あ……
やべぇ……何も言い返せない……
「空君。私も……」
「悪いが俺が好きなのは桃花であってお前じゃねぇ」
「もう!」
闇桃花が隣で拗ねる。
そういえばこいつここにいたんだな。
まぁ、静かにしてたな。
少しだけ褒めてやろう。
「さてと空。姫のことだけど……」
「悪いが今打てる手はねぇ。ちょっとは様子見するしかないだろ?」
「うん。同じ事を言おうと思ってたことだ」
だったらやることは一つ。
とりあえず人魚族の始祖マリアとの話し合いに備える。
たしかもうあまり時間は無いはずだ。
「……空。魔物のキャラデザ」
「そうだったな」
そんな中でドナが俺の袖を掴む。
そうだったな。
ドナの仕事も手伝わないとな。
「それじゃあ空。用事が出来たらここに来るからそれまでドナの仕事を手伝ってやってくれ」
「任せろ」




