229話 強く強く強く
「遅い! もっと鋭くだ」
俺は現在“鬼化”をして剣を振っている。
相手は黒甲冑の男。
ダークナイトだ。
「腰がガラ空きだ」
「ダン・アイス・シールド!」
氷の盾を腰に作り一撃を防ぐ。
しかし氷は音を立てて破壊される。
俺はその隙を付いて跳躍。
「ダン・アイ……」
「遅い! それに斬撃は飛ぶぞ!」
右肩から血が舞う。
飛ぶ斬撃を完全に忘れてた。
これはこちらも少し本気を出さないとな。
「跳べ!」
手で空中を空手チョップするように振るう。
ダークナイトはその様を見ると後ろに飛んだ。
彼の足元には斬撃の跡がある。
俺も飛ぶ斬撃を使ったからだ。
最近では何とか手刀で斬撃を出せるようになった。
ただ威力は人の首を跳ねるぐらいしかないためかなり物足りないが……
「手刀を使った際は手刀した方の手の防御がガラ空きになるから何度も気を付けろと言ってるはずだ!」
「ちゃんとその問題にする回答も用意しましたよ!」
ダークナイトは俺の右手を切り落とさんとばかりに宙を舞って接近してくる。
あんな重そうな甲冑を着てるのに動きはかなり早く反応するのはかなり苦労する。
「なるほど! まぁ悪くはないな」
俺がダークナイト目掛けて火柱を起こした。
それに対してダークナイトは物理法則を無視して方向転換して回避する。
ただ追撃の方法は既に考えてある。
「ダン・アイス・レイン!!」
細い氷の針。
それらが大量にダークナイトに降り注ぐ。
しかし彼は全て剣で弾いていく。
相変わらずの身体能力の高さ。
だが氷の雨に気を取られて防御が雑になってる。
俺は加速を使い彼の懐にそのまま潜り込んでいく。
「飛べ!」
そして空気に突っ張りをする。
それにより風圧が生まれてダークナイトをふきとばしていく。
そのまま殴るのはたしかに決定打になる。
だが返り討ちを喰らって腕を掴まれたらこの上なく最悪だろう。
だから直接は触れずにいく。
「貫け!」
それから俺の腕と同じくらいある氷柱を作り彼に向かい飛ばしていく。
「勝負ありだ」
しかしダークナイトはそう言った。
この危機的な状況での勝利宣言だ。
それからダークナイトは剣を振った。
彼の剣は豆腐を切るかのように氷柱を真っ二つに切りそのまま斬撃が俺を切り裂いた。
「……参りました」
だが傷口はすぐに塞がる。
鬼化には体の自己治癒力を爆発的に上げるという効果もあるためちょっと切られたくらいでは致命傷にはならない。
しかしそれはダークナイトが手加減したからだ。
本気だったらあれであの世行きだった。
だからこその投了だ。
「随分と強くなったね」
「まだまだです」
俺は未だに闇桃花、夜桜、ダークナイト、天邪鬼さんに勝つ事が一度も出来ていない。
こんなんじゃダメだ。
もっと強く……
「空様。前に比べて随分と強くなりましたね」
そう言えば今の俺は白愛に勝てるのか?
少し前までは容易くあしらわれていた。
しかし今の俺なら……
「たまには手合わせしてみますか?」
「頼む」
「では……遠慮なく!」
その言葉を聞いてすぐに海老反りになる。
白愛が俺の首を掻っ切らんとばかりにナイフを振るってきたからだ。
相変わらず人外レベルで早い。
だが俺の目で追える!
「ダン・アイ……」
「遅いです!」
白愛のナイフが再び飛んでくる。
俺はそれを手刀で受け止める。
最近ではちょっとした刃物じゃ肉体に傷付くことはなくなった。
「今のはキメたと思ったのですが……」
ナイフと手刀が擦れて火花が舞う。
さて、次の手はどうするか……
「だけど少し悠長過ぎますね」
それからナイフはグルリと回転した。
俺の手の皮を薄くスライスするかのように切っていく。
俺は痛みのあまり思わず顔を歪めてしまった。
こういう痛みには慣れてないんだよ……
心の中でグチりながらも後ろに跳躍する。
「少し予想通り過ぎます。もっと工夫が……」
「ケアは出来るから安心しろ」
飛んできた白愛に向かって手刀で飛ぶ斬撃。
白愛はそれをナイフで弾く。
その隙をついて俺は地面に足を付けて体制を整えていく。
思ってた以上に戦えるものだな。
「そろそろ勝負を……」
さてと準備運動は終わりだ。
悪いが俺の勝ちだな。
どうやら俺は既に白愛よりも強いらしい。
「絶加速強化!!」
「な!?」
白愛は今の俺の動きが目で追えなかったらしい。
もちろん俺はその隙を逃すことなく白愛の首を掴みトドメの一手を打ちに行く。
「ショックボルト」
首元から軽度な電気を流し意識を奪う。
白愛から力が抜けて体が落ちる。
間違いなく俺の勝ちだな。
「空。随分と強くなったね。少し前までは白愛に手も足も出なかったのが嘘のようだ」
「たしかに強くなったのは事実だ。でもまだ弱い。それじゃあお前の道を塞ぐ壁を破れねぇ」
もっと力が欲しい。
真央を助ける力が。
何かを奪われないための力が。
まだだ……まだ足りねぇ……
「まったく……空に戦闘は期待してないからそこまで強くならなくて良いというのに」
「そうか」
「それに私はこんな強くなるなんて予想外だよ」
今の俺の強さは間違いなくトップクラスだ。
もう少しで始祖と同クラスになれる……
「さて、空はどう思う?」
「ウルフレアの事か」
「そうさ。私にはどうもあれが本物の獣人族の始祖には思えないんだ。始祖にしてはあまりに弱過ぎた」
たしかに一理あるな。
あれは始祖にしては弱い。
強い部類ではあるのだが始祖、すなわち真央と同格とは少し考えにくい。
「ぶっちゃけ言うとウルフレアは能力さえどうにかしてしまえばダークナイトと夜桜でも勝てる相手だ。少し白愛の手には余る相手ではあるけどね」
だが確認する術もないのも事実だ。
ただあれと同格が他にも数人いる前提で考えないといけないのが少し怖いな。
「だがこちらの戦力が過剰であることに変わりはない。問題無く俺TUEEEEを出来るから安心したまえ」
たしかに戦力はこの上なく整っている。
それこそこの戦力だけど一つの国を落とせるくらいはあるだろう……
「さてと空。トレーニングが終わったなら少し付き合ってほしいのだが……」
そういえば今日は紹介したい人物がいるとか真央が言っていたな。
たしかドワーフの……
「名前はドナ。褐色肌のドワーフ族だ。とは言ってもスーの能力でドワーフにしただけだから元は人間だけどね」
「……ドナちゃんか」
「私もあまり話したことはないんだ。凄い職人気質で基本的には引きこもって何かを作ってばかりいる」
真央もあまり話したことがないだと?
一体どんな人物なのだろうか?
「まぁソフィアとはよく会話してるみたいだが」
「なるほど」
「ちなみにそこに姫もいる」
姫。
フルネームは夜桜姫。
夜桜の妹であり響以上に魔神と結号した少女。
「まだ殺せないのか」
「試してはいるがすぐに再生する。毒に圧力に細胞破壊にレーザー銃に核、それに概念級の魔法。全て無意味だ」
腐っても神ってわけか。
姫を殺すということは神殺しだ。
神を殺せねば姫は助けられない。
「殺せるのは神器だけか。人工的に神器が作れればいいのだがまだ一歩足りない」
俺達のやる事は大きく分けて三つある。
まずは今いる人類をほぼ皆殺しにする世界調整。
クズ親父率いるヘルハウスの撃退。
そして夜桜の妹である姫を魔神から解放する。
「……真央。殺す算段はあるのか?」
「悪いがあったらとっくのとうに殺してる。私が十年をかけても殺せてない時点で察してほしいものだ」
そうだよな……
そんな簡単に……
「だけど前進はしている。響を見ていてわかったのだが魔神の力の出力はある程度コントロール出来る可能性が高いと思われる。それなら一度姫の自我を取り戻させてコントロールさせたら出来るかもしれない」
「その自我を取り戻す方法は……」
「それが今の課題だ。私も考えてはいるのだが八方塞がりすぎる」
この問題ばかりは力でどうにもならない。
だがどうにかせねばならない問題であるのも事実だ。
「ただ殺せる可能性があるとしたら神の領域に足を踏み入れてる桃花かルプス。その二人なら何かしらの方法が取れるはずだ」
「……なら協力を仰げば良いんじゃないか? あの二人ならやってくれるだろ?」
「そうだがルプスと桃花に何をさせればいいのか分からない。何か足掛かりになるんじゃないかってだけで明確な案があるわけじゃないんだ。もっと言うなら明確な案というより白紙だけどね」
結局のところ手詰まりか。
とりあえず様子を見てみるか。
もしかしたら……
「とりあえず移動しよう」
「そうだな」
そうして俺達はドナのところに向かった。
姫の様子を見るために……




