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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
228/305

225話 敗北宣言

「ここに来るとは思ってたよ」


 おかしい?

 どうしてこの場に真央はいない?

 真央達は転移で先に先行していたはずで……


「お捜し物はこれかな?」


 そういうと親父はある物を投げ捨てた。

 それは真央の死体だった。

 ズシリと鈍い音が鳴る。


「……え?」


 嘘だ……

 真央がこんな簡単に死ぬわけがない……


「しかし随分と面白かったよ。一人でここに特攻しては泣きながら逃亡を図って……」


 真央の死体には爪がなかった。

 片目が無かった。

 それに何より骨が変な方向に曲がりまくって……


「だから痛ぶって殺してみた。随分と良い声で鳴くものだと僕は思ったよ」

「貴様ァァァァァァァ!」


 こいつだけは殺してやる。

 俺は感情に任せて親父に飛びかかっていた。

 しかし親父は冷静に回避。

 それから踵落としを俺の脳天に入れる。


「あれから僕も頑張ったよ。色々な動物の遺伝子を体に入れて改造したのさ。それに僕は腐っても人間の始祖だ。かなり強いよ?」


 よくも真央を!

 真央をあんな目に!

 絶対にこいつだけは……


「まさかあの奇形児があそこまで愛されるとはね。僕の息子が随分と害されたものだ」


 親父の手が俺に迫ってきた。

 まずい!

 あの手に触れたら俺の記憶が……

 親父の能力は記憶の消去。

 真央との記憶を忘れたくない!

 真央達と過ごした楽しかった記憶を……


「すまない。空は私の可愛い弟子でもあるんだ。簡単には殺させないよ」

「……天邪鬼」


 しかしすぐに天邪鬼さんが駆け付けてくれた。

 親父の手を握り、俺に触れられないようにする。


「少し下がっておれ。妾はこいつを殺すと何年も前から決めておる」


 彼女は俺を蹴り飛ばし親父から離した。

 出来ればもっと優しくしてほしいものだがそんな贅沢は言ってられないな。


「しかしお主に名前を呼ばれるのはこの上なく不快じゃ」

「流鏑馬天邪鬼……」

「名前を呼ぶなと!」


 天邪鬼さんが顔面を殴ろうと拳を突き出した。

 しかしすんでのところで止まる。

 親父の手が彼女のパンチを受け止めようと目の前に開いていたから……


「悪いな」

「くっ……」


 親父の能力は手の平で触れた相手の記憶消去。

 もしも触れてしまったら最後だ。

 天邪鬼さんもそれを理解している。

 だからこそ彼女は背後に飛び距離を置いた。


「……吾輩もいるのを忘れるなよ?」


 それから天邪鬼の前に氷の壁が出来た。

 間違いなくドラキュラ王の仕業か。

 しかしなぜそんなことを?


「赤の弾丸を見切るとは流石始祖だ」


 それから親父を俺は見た。

 親父の手には銃が握られていた。

 そういうことか……

 天邪鬼さんは後ろに飛び一瞬だけ無防備になった。

 もちろん親父はその隙を見逃さない。

 銃を天邪鬼さんに向かって撃った。

 これは驚くほど速い。

 俺の目でも追えないくらい速い。

 間違いなく普通の銃じゃねぇな。


「ドラキュラ王。すまない」

「気にするな。しかし彼奴は中々に強者であるな」


 だが弱点が無いわけじゃない。

 親父はたしかに強い。

 しかし攻撃範囲は狭い。

 銃を撃つか触れるかの二通りだ。

 つまり……


「悪いね」


 オベイロン王はそう言うと弦を弾いた。

 彼の神器フェイルノート。

 不可視必中の矢。

 親父はそれに対応する手段は……


「ウルフレア」

「あいよ」


 しかし俺達の想定は甘かった。

 玉座の後ろからウルフレアが飛び出してきた。

 まさかここまで身を隠していたとは……


「空! 陸の相手は僕とドラキュラ王に任せろ!」

「分かった」


 一気に加速(アクセル)を使い距離を詰める。

 時間を稼げば親父はドラキュラ王とオベイロン王が間違いなく殺してくれるはずだ。

 俺はそれまでの時間を……


「遅せぇよ」

「……グハッ」


 しかしそう上手くもいかない。

 俺の動きは見切られ腹に拳が練り込む。

 あまりの強さに胃酸が逆流する。

 だが耐えられない攻撃ではない!


「ダン・アイス……」

「させねぇよ」


 俺の体は投げ飛ばされ宙を舞う。

 ウルフレアは宙を舞った俺の体に追い討ちするかのようにもう一度蹴り飛ばす。


「お前の攻撃は落ち着いたら対処出来るものばかりだな」


 それから何とか受け身を取り着地。

 地面を滑りウルフレアと距離を取る。

 考えろ……真央ならどうする……

 真央ならどうやって攻略する……

 真央はいつもどうやって戦っていた?

 それを思い出せ!


「来ないならこっちから行くぜ」

「ちょっと妾の存在を忘れてはおらぬか?」


 天邪鬼が背後からウルフレアを襲う。

 しかしウルフレアは人外レベルの反射神経で天邪鬼の攻撃を見切りカウンターを決める。


 ウルフレアの能力は過程を飛ばして結果を得る。

 授業という過程を飛ばして天邪鬼に勝てる身体能力を得ているからこうも簡単に対処してくる。

 ……勝てる。

 間違いなくこいつには勝てる。


「……グレイプニル」


 誰にも聞こえないようにグレイプニルを呼び出す。

 あいつの攻略方法が見えてきたぜ……


「天邪鬼さん! 五秒ウルフレアの気を逸らしてくれ!」

「了承した」


 それから激しい殴り合いが始まる。

 天邪鬼の激しい攻撃。

 いくら強化されたウルフレアと言えど俺にまで気は回らないだろう。

 その間に準備を整えていく……


「ここで決めるぞ! !」


 俺はウルフレアに全力疾走をした。

 これでウルフレアに突進する。

 天邪鬼の攻撃すら見切る身体能力。

 それに対してただの人間の突進

 俺の予想ならウルフレアは間違いなく回避する。

 回避出来ないわけがない!

 そして回避した後は……


「……この程度の速さを今さら見きれないわけないだろ」


 予想通りだ!

 ウルフレアは俺の予想通り避けた!

 それから背中に激しい蹴りが入る。

 この時を待っていた。

 このコンマ数秒を俺は待っていた。


「……な!?」

「天邪鬼さん!」


 自分の体ごと炎で服を焼き払う。

 天邪鬼が稼いだ五秒。

 その間に服の下に鎖を巻き付けた。

 幸いにも突然の事だったから寝間着だ。

 もしも母さんの形見なら服を焼くなんて選択肢は取れなかっただろう。

 そして服が焼けたことによりウルフレアの肌にグレイプニルが直に触れる。

 それによりウルフレアの身体能力は地の底まで落ちた!


戦闘狂の遊び場バーサーク・フィールド


 天邪鬼さんの能力。

 自分の近くでの能力使用を禁止する。

 それによりウルフレアはこれ以上の強化は不可。

 天邪鬼さんから距離を取れれば不可能ではないがそれは至難の業だろう。


「なんだ!」

「さて、死に晒せ」


 天邪鬼さんは華麗な手刀で首を跳ねた。

 ウルフレアの首が宙を舞い血が吹き荒れる。

 俺達はウルフレアに勝った!

 残すは親父だが……


「空。こちらは終わらせたぞ」

「クッ……」


 問題ないようだ。

 親父は氷漬けにされていた。

 身動き一つ取れないように……


「親父……」

「僕を殺すか?」


 殺す?

 そんな生易しいもので済ませていいのか?

 間違いなく否だ。

 死なんて慈悲は与えない。


「なんてな! 悪いがお預けだ!」


 親父はそう高らかに叫んだ。

 一体何をする気だ?


「今この場で声帯によって爆弾を作動させた! 貴様等みんな道連れだ!」


 なんだと!?

 完全にしてやられた!

 これじゃあ俺達は瓦礫の下敷きになり生き埋めになってしまう……

 早く逃げなければ……

 親父の身柄を運ぼうにも抱えてる途中で触れられない可能性が無いわけじゃない。

 もしも触れられたら……


「まったく……一応保険に動いて良かったよ」

「え?」


 そんな危機的な状況の時だった。

 後ろからありえない人物が現れた。

 その人物は解除した爆弾を投げ捨てる。


「お前がどうして生きてる! 僕はちゃんと殺したぞ! そこに死体だって……」

「まったく。空と海を残して死ねるわけないだろ。それに死ぬとしても君にだけは殺されたくさないね」


 背後から現れたのは真央だった。

 死んだはずの真央だった……


「しかし随分と簡単に騙されたものだ。君達がルークのホムンクルスを作ったのと同じ感覚での私のホムンクルスを作りそこに人工的な脳を作って入れて私に見せたら随分と上手く騙されてくれたものだね」

「は?」


 つまり真央は最初から無傷だったのか?

 まったく問題無しなのか?


「私は無力だから不意を突くしか出来ない。そして死者に警戒する人なんていないのさ」

「どういうことだ?」

「私が死んだと思ってくれれば想定外の出来事が起こっても背後からナイフで心臓一刺しで陸だけでも殺せるかと思ってね。まぁその心配も無かったが」


 しかし良かった!

 真央が生きててくれて……


「真央。ルークの殲滅も終わったよ」

「いつも済まないね」

「気にしないで」


 それからスーも夜桜もやってくる。

 もう親父との因縁もここで終わりだ。

 真央の不安要素も全て取り除けた。


「しかし今回は私達の負けだね。完全にしてやられたよ」

「……え?」


 その時、俺は真央の言葉の意味が理解出来なかった。

 敵の親玉である親父は何時でも殺せる状況。

 それなのに真央は負けと言った。


「……真央。それはどういうことだ?」


 オベイロン王が問い詰める。

 周りを見渡すと誰一人として真央の言葉の意味が理解出来ていないようだ。

 間違いなく俺達は勝っている。

 ウルフレアも殺したし親父も捕縛した。

 それは勝ちと見ていい。

 今回の勝ちの条件は親父を仕留めることで……


「そうだね……少し解説しようか。今回のは少し複雑だから分からないことがあったら気安く聞いてくれ」

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