224話 最強戦力
「という理由で判別行動だ」
「あぁ」
班は三つに分けられた。
一つはスーと真央と夜桜の潜入部隊。
もう一つは俺とオベイロン王の錯乱部隊。
そして最後は天邪鬼とドラキュラ王の陽動部隊。
「私達は適当なタイミングで転移で敵の本拠地を叩きにいく。潜入部隊は裏口からヒッソリと侵入して陽動部隊は正面から出来る限り荒らしてくれ」
「……分かった」
このタイミングで敵に鬼ヶ島に攻め込まれる。
それは考えなかったわけじゃない。
ただ闇桃花とダークナイトと白愛の三人を奴らに攻略は出来ないという考えている。
「空。よろしく頼むよ」
「こちらこそ」
それからすぐに移動する。
奴らのアジトはロンドンの路地裏にある地下だ。
人目に付くことはまずないだろう。
「……ここだね。しかし当然のことながら鍵か」
「ダン・アイス・キー」
俺は氷の鍵を作って空ける。
こういう時はこうやって解くのがお約束だ。
「……さすが!」
「ダン・アイス・スクルプトゥーア」
それから氷の彫刻を作り滑らせる。
その瞬間、派手な爆発音が鳴った。
やっぱり地雷が仕掛けられていたか。
「ミュート」
すぐに風で音を包んで掻き消す。
こんな感じで罠が多彩に仕掛けられていることが予想されている。
ここは慎重に行動せねば……
「始祖の体なら地雷ぐらいなら傷一つ付かないのに随分と手間をかけるね」
「流石に地雷踏んだらかすり傷くらいは負うんじゃないですかね?」
「どうだろ? 僕は傷を負わないに秘蔵のワインを賭けるよ」
それは魅力的な提案だ。
しかしそれでオベイロン王が万が一にでも怪我をしてしまったら大問題だ。
ここは断らさせてもらおう。
「しかし、空」
「なんですか?」
「ウルフレアは本当に獣人の始祖なのだろうか? 僕にはちょっと始祖にしては弱すぎる気がした。あれはどんなに高く見積もっても夜桜や暗殺姫クラスで僕達と同じ土俵に立ってるとは思えない」
なるほどな。
たしかにインパクトに欠けるというか戦い方が単調というか……
「それに始祖はあそこまで能力頼みにはならない。正直言ってウルフレアが無能力だったら僕は秒殺出来る自信がある」
「まぁ……そりゃそうですよ」
「つまり始祖とは本来は能力無しでも一筋縄ではいかない相手なんだ。それなのにウルフレアは……」
なるほどな。
つまりあれは影武者……
本来の獣人の始祖は別にいると。
「でも始祖にじゃないとしたら強過ぎますよ」
「……考えられるのは始祖の子供か。始祖の血は引いてるが始祖ではないと考えるべきか。分かりやすく言うなら空や海、ペッシェと同じ立ち位置だね」
まぁなんでもいい。
目の前の敵は倒すだけだ。
「さて、そろそろ敵のお出ましかな」
「殲滅ならとっておきがありますよ」
今の俺の戦闘スタイルは氷だ。
基本的に氷以外は使う気はない。
増えすぎた選択肢はいざと言うときに迷いを生み判断を鈍らせ隙を作る。
そのためどんなに打てる手が多くても基本的には一つに統一しておいた方がいい。
他は氷が通用しない時のサプウェポンくらいの認識でいるのが一番いい……
賛否両論あるだろうが少なくとも俺はそう考えている。
「氷の殺戮結界」
俺の周りが冷気に包まれる。
それから宙に氷が形成される。
氷の形は弾丸の形になり戦闘態勢を取る。
「空。まさか君がそんな愚行を……」
「まったく。またルークのホムンクルスかよ。しかもご丁寧に記憶まで残していくとはな」
この技は大体教室一個分の中にいる生物に無造作に氷の弾丸が飛んでいくという技だ。
かなり集中力がいるから他の技との併用は出来ないが雑魚を蹴散らすのには丁度良い。
「死ね」
氷の弾丸は的確にルークの額に飛んでいった。
しかし彼は間一髪で横に飛び回避。
流石“エニグマ局長”だ。
一応常人以上の身体能力があるか。
だが今の俺の前でお前は無力だぞ?
まして時間止めも出来ないお前など恐れる必要も無しだ。
「な!?」
「一秒に生成される弾丸は三つと言ったところだ。初撃は回避出来たとしても二撃目を回避出来るとは俺は到底思えないな」
氷の弾丸は彼の心臓を綺麗に貫いた。
それからすぐに蜂の巣のように穴だらけになり辺り一面に血の華が咲き舞う。
「おっと油断……」
再び上からルークが降ってくる。
しかしすぐに血祭りになる。
「全部で四十二人か。排気口に潜んでいる。この排気口はどうやら通路としての役割もあるとみた」
それから無造作に弾丸が飛び舞う。
全てが的確にルークの体を貫いていく。
しかし同じ顔の人が何人も襲いかかってくるというのは本当に気持ち悪いものだ。
「空。こいつらは全部、使徒の反応が無かった」
「オベイロン王もそう感じますか。恐らくここにはオリジナルや使徒の死体をベースにしたホムンクルスはいないみたいですね。捨て駒と見て間違いないでしょう」
それから俺達は奥の方へと進んでいく。
稀に量産型ルークが襲いかかってくるが全て殺しているから大した支障はない。
「しかし妙ですね。ルーク以外の人を全く見ないなんて……」
「これは一杯喰わせられたかもしれないな。恐らくウルフレアも発信気を付けられるの前提でわざと適当な場所に転移した可能性がある」
攻め込んでくるのが相手の計算の内だとしたら相手はドラキュラ王の城か鬼ヶ島に攻め込む可能性が高いと思われるな。
鬼ヶ島には白愛もダークナイトに闇桃花もいるから問題は無いしドラキュラ王の城に限っては桃花とルプスに加えて様々な侵入者避けのギミックがある。
間違いなく問題はないだろう。
「……大広間だな」
「しかし随分と激しい血の跡がある。それもかなり新鮮な血と思われますね」
あれから歩くと大広間に出た。
そこには足の踏み場もないくらいの死体の山。
それも全てルークの死体。
俺達はそれを迷うことなく踏んで山を登っていく。
「おや、空じゃないか?」
「……天邪鬼さんがどうしてここに?」
すると山の上には返り血に染まった天邪鬼どドラキュラ王がいた。
まさか鉢合わせになるとはな。
「妾達はまっすぐ歩いてきただけじゃ」
「なるほど」
そういう事か。
ここはダミーだが敵の本拠地でもある。
「天邪鬼さん。地面を破壊してもらっても?」
「理由を聞いても良いか?」
「この床の下にもう一部屋あります」
音の能力で音を起こしその反響による探知。
それで下に大きな空洞があるのを把握した。
つまり壊せば……
「なるほど。容易い」
それから天邪鬼さんが床に踵落としを入れる。
床はまるで爪楊枝が折れるかのように簡単に割れて俺達の身は地面に落ちていった……
「この穴の深さはマンション一つ分です」
「この面子なら着地で足を折るマヌケはおらぬな」
当たり前だ。
この程度の高さでどうやって骨が折れる?
「よいしょっと」
それから俺達は難なく着地した。
するとそこには玉座に座った人物がいた。
よく見慣れた人物だ……
「久しいな。空」
「親父……」




