213話 真央は手始めにこの世界を異世界にします
「つまり市民のことを考えない絶対王政は間違いなく革命が起こる。それはフランス革命が証明している」
俺は現在アーサーとソフィアと一緒に授業を受けていた。
もちろん先生は真央である。
そして真央は俺に一切海達のことを教えてくれない。
海が攻め込んでどうなったのか。
俺は何も知らないのだ。
「他にもフランス革命の原因というのは階級制度の不満とかいう理由もある。だが国となると間違いなく経済格差は生まれる」
「それで?」
「だったらお金というのを無くしたらどうだと思うんだ。つまり完全な物々交換の世界だ」
そして真央は何故か世界史の授業。
世界調整を終えたあとに作る国の話らしい。
「……それだと農民が力を持つんじゃないでしょうか?」
アーサーは真央に質問を投げかける。
真央の計画だと新国家の王はアーサーだ。
彼には人一倍覚えてもらわねばならないのだ。
「一人一人に大きな土地を与えて最低限の自給自足が出来るようにすれば解決すると私は思っている」
「なるほど。たしかに世界調整を終えて人口一万人近くでオーストラリア大陸の面積を分ければ全員に大きな土地を与えるのも可能ってわけですね」
「そういうことだ」
たった一万人でオーストラリア大陸を分けるか。
単純計算でも一人につき東京都一つ分以上の面積が与えられる。
間違いなく農業は余裕を持って行えるな。
「……それとあとはダンジョンタワーだね」
「なんだそれは?」
「空には言ってないか。ゲームとかによる出てくるダンジョンを人工的に作るのさ」
そんなことに何の意味が……
お金の無駄遣いだろ。
「ダンジョンタワーは命の危険はあるが運良ければ一攫千金を狙えるシステムにする」
「人に夢を与えることで日々の生活のモチベーションにして自殺率を下げるんですね」
「そういうこと。またダンジョン攻略という大きな目標が出来れば一致団結もしやすいかなって思ってね」
すげぇな……
ここまで考えていたのかよ……
「例えば仕事を無くして途方に暮れてもダンジョン攻略って道が残され希望を持てるのさ」
「問題はこのダンジョンタワーをどうやって作るかですよな」
「それはある程度の目処が付いてるから私に任せてくれていい」
なるほどな。
とりあえず存在意義は把握した。
「それと次は麻薬対策の方法だがこれは歴史を漁ってみると……」
◆ ◆
あれから数時間授業は続いた。
法整備のやり方とか宗教による国崩壊とかもう色々な歴史を全て叩き込まれた。
その中でも特に多かったのは国の成り立ち。
国の成り立ちを知ることにより新国家の中に別の国が出来るのを先回りして潰せるようにしておく必要があるとかなんとか……
「とりあえず俺が神になってその俺を崇める宗教を国教とすると」
「そういうことだね。さすがに目の前に本物の神が現れたら嫌でも人は信じる。それで宗教戦争が起こらないように防ぐんだよ」
実際に俺は神を偽る事は可能だ。
目の前で雷の雨を増やしたりしてそれらしい事を言えば神だと思ってくれるだろう。
「最初に私という絶対的な力を見せてそれを空が意図も簡単に倒して“俺は神だ。お前らを助けてやった”的な感じを言えばいいと思うんだ」
「それで俺にお前を殺せと。俺を絶対的な神にするために」
「そういうこと。それで新国家の管理は全てアーサーが行い理想郷を作る」
果たしてそんな上手くいくのか……
まぁ上手くいくように計画してるのだろうが。
「……それと文明を中世ヨーロッパぐらいまで落とすつもりでもいるよ」
「その意図は?」
「今の文明だと進みすぎて理想郷を作るのは難しいからね。とりあえず携帯やパソコンと言った物は全て過去の遺産として眠らせる」
なるほど……
まるで異世界だな。
よく創作物で異世界だと思ってたら未来の地球でしたという話を見るがそういうトリックかもな。
「あとは魔法を普及させたいね。今度は化学じゃなくて魔法が発展した世界を見たいね」
「どうしてだ?」
「悪いが明確なメリットはないよ。ただそっちの方が面白そうだと私の本能が言ってる」
ただの趣味か。
まぁいいんじゃねぇか。
「まぁ強いて言うなら排気ガスとか出さないから空気を汚さないとかかな」
「なんじゃそりゃ」
「意外と空気問題は深刻なんだぞ!」
俺は思わず突っ込んでしまう。
なんかあまりにも今までとスケールが違って……
「とは言っても電気とかお湯とかは残すつもりでいるよ。さすがにスイッチを押しても電気が付かない生活は想像したくないし温かいお風呂に入れないのも御免だからね」
「世界観は中世ヨーロッパ。でも何故か文明は一部だけ現代ですってことか。本当に異世界系の作品でよくある世界だな」
「……私も心のどこかで異世界に憧れてるのかもしれないね」
冗談はやめてくれ。
お前は誰よりもこの世界を愛してるだろ。
真央が世界を話す時の目がそれを証明してる。
真央は誰よりもこの世界を愛してるはずだ。
「それと空にこれを渡しておくよ」
「……種?」
そう言うと真央は俺に種を渡した。
一体何の種だろうか?
俺の拳一つ分くらいある大きな種だ。
「世界樹の種。ずっと探しててやっと手に入ったのさ」
「どこで手に入れた?」
「ケレブリルという異世界のエルフの心臓がそれになっていた。だから殺してあとで死体から回収させてもらったよ」
なるほどな。
本来だったらこの世界に存在しない物か。
それにこれはどこか神々しさがある。
間違いなく神器の一種だな。
「恐らくケレブリルという人に人格は無かった。多分その世界樹の種で最低限の返事だけをできるようにしてたんだろう。一言で言うならゾンビさ」
「……そしたら柊綾人って奴が気付くだろ」
「どうかな。彼は馬鹿っぽいし意外と気付かないんじゃないかな」
そういうものかね。
しかし真央はそんな世界樹の種をどうして俺に……
「植物学的に少し私なりに調べたらこれは植えたら瞬く間に山のような世界樹が生えるらしい。もしもそれを人前でやったら神としてのデモンストレーションにはこの上なく良いと思ってね」
「なるほど。それなら俺が適任か」
俺は世界樹の種をポケットに仕舞う。
また一つとんでもないものを手に入れてしまった。
「それと空。今から一週間後に少し始祖同士の会談があるんだかそれに参加してもらって構わないかい?」
「急にどうしたんだ?」
「人魚族の始祖にしてスーの娘であるマリア・エリザベスが来て会談を開くことになったんだ」




