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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
215/305

212話 桃花は悪の道を選ぶ

「海ちゃん。お願い!」

「青の弾丸!」


 桃花に背負われた海が銃弾を投げ捨てた。

 撃つわけでもなく投げたのだ。

 一体何を考えて……


「……ペッ」


 それから桃花が血を口から弾丸に吐き捨てた。

 桃花はすぐにルプスの身柄を拾いこちらに走る。

 しかし天邪鬼から逃げられるとは……


「……ごめんね」

「な!?」


 天邪鬼は手を伸ばすが何かに遮られた。

 まるで見えない結界でもあるかのような


「青の弾丸。十分ぐらいの間だけ絶対破壊不能の結界を貼る術式が刻まれた弾丸。これを私の血で発動して閉じ込めさせてもらったよ」

「なるほど。手詰まりじゃな」


 それから桃花は近くにいた黒甲冑も蹴り飛ばした後に真央に向かって宝石を投げた。

 その宝石は綺麗に真央の額に当たる。


「真央!」


 スーが驚きの声をあげる。

 真央の額からは血が流れていた。


「気絶に留めておいたから死んでないと思うよ。それじゃあね」


 それから桃花は白愛を思いっきり払い飛ばした。

 もちろん白愛はジェット機から落ちていく。


「今度はもっと戦力を整えて勝ちに行くから覚悟しといてね」


 ジェット機はすぐに音速の域に達して飛んだ。

 なんとか拙者達は生き延びることに成功した。


 ◆ ◆


「これでよし」


 私はジェット機の中で響の治療をしていた。

 首を切るとはなんて危なかっしい。

 もし少しでも傷口が深かったら死んでいましたよ。


「でも血が足りません。あとでどこかで輸血をしないとダメですね」


 しかしそれよりも重症が綾人。

 彼は腹に弾丸を受けている。

 手術をしようにもこんな不安定な場所では不可能だから未だに摘出も出来ていない。


「……海ちゃん。怪我は?」

「私の怪我は鬼化の自然治癒で治ってますよ」

「そっか」


 しかし綾人は致命傷は免れているが危険だ。

 急げばまだ間に合うだろう。


「……桃花の方の傷は?」

「全部掠り傷だから大丈夫」

「ルプスも同じです」


 思ったよりも被害が大きい。

 いや、この程度で良かったと言うべきか。


「……あと帰ったらすぐに吸血鬼の国に移動するよ」

「そうですね。攻め込まれた終わりですからね」


 この弱った戦力。

 そんなところで真央達に攻め込まれたら負けは確実でしょうね。

 いや、絶好調でも負けは確実か。


「今は真央としても綾人という攻め込む理由がありますからね」

「だから場所が割れてる家には長居しないで早く旅立つ必要があるの」


 先にアララト山に行ってもいいが登山中に攻め込まれるのもこの上なく最悪だ。

 だったらまずは綾人を預けて安全だけでも確保せねばならないだろう。


「……まぁ今は生きて帰れたことを喜ぼうよ」

「そうですね」


 しかしとても喜べる状況ではなかった。

 あまりにも傷が大きすぎた。

 そして何より戦力差がはっきり分かったのが辛い。


「……とりあえず私の方で今回分かったのはとんでもなく強い鬼神族の始祖がいるってこと」


 恐らくあの和服の人だろう。

 たしかに彼女は凄まじい覇気を放っていた。

 それこそ空気が振動して強さが分かるくらい。


「海ちゃんは?」

「私は闇桃花と対面しました。そして手も足も出ないで完敗で殺されかけたところを真央に……」


 恥ずかしながらそれだけだ。

 あまりにも闇桃花は強すぎた。

 完全に理解の範疇を超えていた……


「海ちゃんがもう一人の私に手も足も出ないなんて少し考えにくいんだけど」

「天翼解放なんてことをしてきました。紫色の羽を背中から生やして身体能力が凄まじいまでに強化されてました」


 それから私は“鬼化しても目で終えなかった”とも付け加えておく。

 間違いなく速さは白愛を凌駕している。

 だって白愛の動きなら鬼化で追えるが闇桃花の動きは追えなかったのだから……


「なるほど。戦乙女(ヴァルキリー)の本来の力を発揮したってわけね」

「はい」

「……これは勝つなら私もその天翼解放を覚えるしかなさそうだね」


 桃花も恐らく出来るだろう。

 だって彼女も戦乙女なのだから。


「悪いけど私は使えないよ。だからこれから私は天翼解放のやり方を覚える必要がある」

「出来るんですか?」

「悪いけど出来る気がしない。そもそもどうやってやるのかすら検討がつかない」


 つまり手詰まりか……

 今後は天翼解放のやり方も調べないと……


「もしも神器を解放してるのが条件なら無理だけどね」

「そうですね」


 それと一つ謎がある。

 桃花がスーの洗脳を無力化した理由だ。

 一体どんなトリックを……


「そうだった。ネタばらしをしないとね」

「……お願いします」

「スーの能力はあくまで可愛いと思った人だけの洗脳なんだよ。だから可愛いと思わなかったの」

「そんなことは不可能です」


 あんな容姿を見たら少しでも可愛いと思ってしまう。

 それがスーの容姿だ。

 彼女を可愛いと思わないなんて不可能だ。


「べナ。おいで」


 桃花がそう言うと気持ち悪いことに彼女の耳から白色のムカデが出てきたのだ。

 それを桃花は優しく受け止める。

 一体彼女は何をした……


「脳ムカデっていうムカデで私のペット。ちなみに名前はべナ。私はべナを脳に寄生させて脳の中にある可愛いと思う思考回路を麻痺させていたわけ」

「もはや狂気ですね」

「めちゃくちゃ痛かったけどちゃんとスーの能力の無効化は出来たよ」


 まさかそんな対策方法があったとは……

 そもそもムカデに自分の体を寄生させるとか頭がおかしいとしか思えない。


「ちなみにこの子は洗脳はしてないよ。この子だけは自分の意思で私に力を貸してくれてるの」

「意外ですね」

「本当にそう思うよ。ここまで私に懐いてくれて指示を的確に理解してくれるなんて私から見ても意外だよ」


 スー対策に全員で脳にムカデを寄生させるか。

 ぶっちゃけそれが一番現実的な気が……


「ちなみに脳ムカデは南米の方に生息しててこの一体しか今はいないから用意出来ないよ」

「そうですか」

「それに用意出来てもべナ以外に任せるなんて怖くて出来ないよ」


 本当に桃花はべナを信用してるみたいだ。

 彼女の言動からそれが良く分かる。


「……擬人化しないかなぁ。べナとお話したいなぁ」

「引きこもり姫の能力が擬人化じゃありませんでしたっけ?」

「そうだった! ルプスの体を取り戻しに南極行った時に引きこもり姫に会ってべナを擬人化してもらおう」


 そんな会話をしてるべナがキィィと唸った。

 まるで擬人化したくないと言ってるかのように。


「えー。擬人化しようよ」

「キィィ! キィィィィィ!」

「はいはい」


 桃花はまるで言葉が分かってるかのように頷く。

 いや、わかってるのだろうか?


「なんとなくなら言いたいことくらいは分かるから」

「そうですか」


 そんなことを話してるとジェット機が家に着いた。

 早くドラキュラ王の国に行く準備を整えねば……


「……とりあえず響。綾人を中に運ぶのを手伝ってください」

「おう」


 私達は綾人を家の中に運んだ。

 家の中のリビングで桃花のお母さんとスーツ姿の男性が話していたが気に留める余裕はなしだ。

 私達はそのままどこか私の部屋に運んだ。


「……少し残酷な事をしますが勝手に行動した罰だと思ってください」

「海。何をするつもりだ」

「ただの手術ですよ。麻酔はありませんが」


 私はメスを収納箱から出した。

 少し前に医学の勉強を真央に教わりながらした。

 その時の名残で部屋には麻酔を除く一通りの機材はある。


「少し我慢してくださいね」


 私は服を剥ぎ腹をメスで切っていく。

 それにより綾人が目を覚まし痛みにより絶叫する。


「ああああぁぁぁぁぁぁ」

「少しは黙ってください。それとこの血の匂いはAB型ですか」


 残念ながら私も桃花もA型だ。

 これじゃあ輸血用の血が……


「海。拙者はAB型だ。だから拙者の血を使え」

「馬鹿言わないでください。響は既に血を失いすぎています。これ以上失ったら響が死にますよ」

「拙者なら大丈夫だ」


 大丈夫なわけがないでしょう……

 他に何か手は……


「ルプスの血を使うです」

「ルプスって血液型は……」

「神獣だから少し異なります。でも神獣の血なら人を治すくらい出来るはずです。ちなみに政府の使者の血はB型で使えないです」


 ……やってみるか。

 AB型の血を探す時間は無い。

 そんなことをしたら死ぬ。


「とりあえず弾丸の摘出は出来ました。ルプスはちょっと腕をそこのメスでリスカみたいな感じで切ってそこの桶に血を貯めてもらえますか?」

「任せるです」


 衛生状態とか知らん。

 人は想像以上に丈夫だから大丈夫だろう。

 しかし本当に雑だな……


「そしたらそれをこうして……」


 私は手際良く血を入れていく。

 ちゃんと手順通りだ。

 これで恐らく問題はない。


「……出来ました」


 そして腹を縫って無事に弾丸の摘出を終えた。

 初めてだったが上手くいって良かった。


「痛てぇよ……」

「普通なら死んでるんですから命あるだけ感謝してください」


 私は機材を片付けていく。

 一応これは持ち運ぶか。

 これから何があるか分からないし備えはあった方がいいと思う……


「……ありがとう」

「あら、素直に感謝をするなんて意外です。それと今から二十分ぐらいしたらここを出ますから覚えておいてくださいね」


 私は手早く荷物を整えていく。

 ドS紅茶のサイン本は絶対に必要。

 それと少しばかしのポテトチップス。

 あとはブドウのジュースと……


「……海」

「なんですか?」


 そんな時だった。

 綾人が私に抱きついてきた。


「君のことが好きだ」

「私は嫌いです」


 それと必要なのは爪楊枝ですかね。

 あると色々と便利ですから。

 あとはハンカチに(クシ)

 それと日記とアリスの懐中時計にアリスから貰った謎の白紙の本。

 これは間違いなくキーアイテムの気がする。


「……いい加減。離れてくださいませんか?」

「嫌だ」


 まったく……

 私はイラつきも込めて肘打ちをする。

 それから綾人は膝を付いた。


「この際だからハッキリ言いますがあなたなんて大嫌いですよ。一人で勝手に突っ込んで命を粗末にするなんて本当に嫌いですよ」

「……海」

「自分の力も湧きまえもしないで自分を常に一番だと考える。それで自分を超える存在を見つけたら思考放棄する。話してて反吐が出ます」


 第一に私は和都君という恋人がいる。

 それにいたとしても誰が好きになるか。


「……海」

「な!?」


 もっとハッキリ言おう振り返ったその時だった。

 私の体が彼に押し倒され馬乗りにされる。

 それから強引に唇を奪われる。


「い、嫌!」

「俺は本気だ。海を絶対に幸せに……」


 しかしすぐに彼の身は飛んだ。

 桃花が光の速さで駆けつけて彼を蹴り飛ばしたからである。


「海ちゃんの嫌がる声が聞こえたから来たけど何してるのかな?」

「俺は海に想いを……」

「海ちゃんには七瀬和都っていう恋人が既にいるの。それなのに海ちゃんにまで強姦するなんて一回死んだほうがいいよ。クズ男」


 桃花は静かに切れていた。

 いつものような笑顔は一切ない。


「……これ使って」


 それから桃花はナイフを投げた。

 ナイフは音を立てて転がる。


「私から殺すことはしない。これでも海ちゃんと響が命を懸けて助けた人だもん。だからせめてこの場で自害して」

「そんなこと……」

「あなたになにが分かるの? 海がどんな想いであなたを助けたか分かってるの?」


 桃花の声はとても冷たかった。

 いつもより何倍も冷たい。

 まるで氷の刃だ。


「恩を仇で返すってこのことだね」


 誰一人として動こうとしない。

 それほどまでに空気は重かった。


「そもそもあなたにはケレブリルっていうエルフのお嫁さんがいたでしょ?」

「……彼女は死んだ」

「あっそ。嫁が死んだら次は海ちゃんに乗り換えるんだ。本当に最低だね。心の底から君を軽蔑するよ」

「違う!」


 そういえばケレブリルさんを見ないと思ったがまさか死んでいたとは……

 今回は同伴じゃないと思ったがまさか戦場に連れ出してのか。


「なにが違うのかな? 嫁が死んでからすぐに他の彼氏持ちの女に無理矢理キスをしたことのどう言い訳するの?」

「それは……」

「不快だから早く自殺して」


 桃花はこれ以上何も言わなかった。

 ただ冷たい目で彼を見ていた。


「……そんなに死んでほしいなら殺せばいいだろ」

「馬鹿じゃないの。あなたの命は海と響が必死の死闘をして繋ぎとめたもの。そんな命を私が奪ったらその活躍を否定することになる。そんな事が出来るわけないでしょ」


 桃花の吐いた言葉は正論だった。

 少なくとも私にはそう聞こえた。


「だからせめて海ちゃん達の働きを否定しないために自殺という形でこの世を去ってくれないかな?」

「……死にたくない」

「そう。だったら今はこれで許してあげる」


 桃花はそう言うと落ちてたナイフを拾った。

 そしてそれを迷わず彼の右目に突き立てた。

 それからナイフは投げ捨てて、左目にはいつの間に取ったのか私のメスを突き刺す。

 彼の目から血が噴水のように溢れ出す。


「……痛い痛い痛い痛い痛い!」

「せめてのもの報いとして私達を一生視界に入れないでくれるかな。今はそれで許してあげるから」


 桃花はそう吐き捨てると部屋から去っていた。

 まるでもう興味が無いかのように……


「見えない! 何も見えない!」


 彼は立とうとするがすぐにバランスを崩して倒れ込んでしまう。

 見ていてとても哀れだ……


「海! 俺に手を貸して……」


 貸すわけないだろ。

 私はそこまでのお人好しではない。

 目の前に命の危険がある人がいたら手を差し伸べるぐらいのことはする。

 でも今のお前に命の危険はない。

 もう私が助ける理由はない。


「響。あとは任せましたよ」

「……おう」


 とりあえず荷物も一通り鞄に詰め終えた。

 あとは桃花達を待つだけだ。

 そう思い部屋の外に出ると桃花がいた。


「海ちゃん。大丈夫だった?」

「えぇ。なんとか」


 そう言うと桃花は私にキスをしてきた。

 私も大人しくそれを受け入れる。


「……せめて私のキスで上書きしてあげるね」

「ありがとうございますね」


 桃花とのキスは好きだ。

 普通に安心するし何よりも温かくて心地よい。

 大好きだ。

 それに私自身が桃花の事が好きだ。

 だから不快でもなんでもない……


「ごめんね。私が近くにいるべきだったね」

「桃花は悪くありませんよ」


 私はそれから泣き出してしまった。

 情けないことに目から涙が溢れてくる。


「……怖かった。とても怖かった」

「分かるよ」

「虐待の時に……馬乗りにされて殴られたことがあります……その時の背景と重なって……凄く怖かった」

「もう大丈夫だよ。私がいるから」


 全てブチ撒ける。

 私の弱いところから抱えていたことまで全て。

 何もかも全てだ。


「……戦う時も怖かった。闇桃花のあの目が怖かった……悪魔が凄く怖かった……死ぬのが怖かった!」

「次は私が守るから」

「それでも……助けるためだと言い聞かせて……必死に身体を動かした! でも……」


 そう言うと桃花は優しく私を抱きしめてくれた。

 彼女の胸に顔が埋まっていく。


「無理なんてしないでいいんだよ。辛かったら辛いって言っていいんだよ。私は何時でも海ちゃんの話を聞いてあげるから」

「辛いです! 戦って誰かに殴られる度に虐待の記憶が脳裏に浮かびます! でも強い言葉を使って自分を誤魔化して必死に戦うんです! それでも常に頭からあの記憶が離れなくて……」


 もう戦いたくない……

 痛い思いなんてしたくない。

 たしかに望めばそれは叶う。

 でもそれをしたら真央は死ぬ。

 それはもっと嫌だ。

 結局のところ私が我儘なんだ。

 そのせいで苦しんでるんだ。


「でも海ちゃんは目の前に苦しんでる人がいたら助けちゃうんでしょ。だって海ちゃんは真央と同じくらい優しい人だもん」

「そんな……こと……」

「あるでしょ。たしかに海ちゃんは虐待で心が壊れてると思う。でも治り始めてるのも事実だと思うよ」


 私は既に壊れている。

 誰も苦しんで欲しくない。

 それなのにいざ殺すとなったら躊躇いはない。

 それは間違いなく矛盾だ。

 そんな矛盾が起こるのは心が壊れてるからだ。


「海ちゃん。一つだけ約束しよっか」

「約束?」

「海ちゃんはこれから絶対に人を殺さない。闇桃花であっても絶対に殺しちゃだめ」


 そんなことしたら犠牲者が増えます。

 闇桃花だけはなんとしても殺さなければ……


「私が海ちゃんの分まで殺すから。闇桃花も私が殺すよ。だから海ちゃんは私の分まで人を助けて」

「人を助ける?」

「そうだよ。悪は私が担当するから善は海ちゃんが担当するんだよ」


 こんな私が善?

 そんなことがあっても……


「海ちゃんの本質は善なんだよ。だから海ちゃんは善行をした方が精神的に楽だと思う」

「……そうでしょうか?」

「間違いなくそうだよ。逆に私の本質は悪。だから私は海ちゃんが出来ない悪をするよ」


 善と悪。

 私が善で桃花が悪。

 互いに正反対の性質だ。

 なのに何故かこんなにも惹かれあっている。


「人殺しは等しく悪である。もしも闇桃花など絶対に殺さなければならない存在がいたら殺すのが私」

「……なるほど」

「そして困ってる人がいたら誰でも手を差し伸べるのが海ちゃん」


 私にそんな大役が務まるだろうか……

 こんな弱い私に人を救うなんて……


「海ちゃんの傷は私の傷だよ。もっと全部ぶつけてくれてもいいんだよ。海ちゃんが何を言おうがどんな姿になろうとも私は絶対に海ちゃんの事を嫌いになんかならないから」


 この言葉で私の何かが砕けそうになる。

 どんどんヒビが入ってくる。

 あともう少しで砕ける……


「海ちゃんはもう幸せになっていいんだよ」


 その一言で完全に壊れた。

 世界が今まで以上に色付き始める。

 こんな私でも幸せになってもいいんですね……

 本当にいいんですよね?


「もっと自分に正直に生きていいんだよ」

「真央を助けたい! 真央に私みたいに傷ついて欲しくない! でも私は傷つきたくない! 痛い思いなんてもうしたくない!」


 初めて告げた本音。

 桃花はそれを優しく受け止めてくれた。


「分かったよ。私が真央を絶対に助けるよ。海ちゃんの代わりに痛い思いだってするよ」

「でも……」

「そこは“ありがとう”だよ」


 桃花に会えて本当に良かった。

 もしも桃花に会えていなかったら……


「だけど一つだけ約束して」

「なんですか?」

「絶対に後悔しないように生きて。常に自分が正しいと思う選択をして。それがたとえ私と敵対する選択肢だとしても」


 そんなこと……

 桃花と敵対なんて……


「海ちゃんが綾人を虐めるのに乗り気じゃなかったのは知ってるよ。そういう時に自分に正直に選択してほしいの」

「それで桃花との反対の意見だったら……」

「その時は互いに納得する選択肢を見つければいいんだよ。だって人は考える事が出来る生き物だよ?」


 そっか。

 それでいいんだ……


「少しは落ち着いた?」

「はい」


 ここからだ。

 やっと私の一歩が踏み出させる。

 私の物語が始まる。

 神崎海の物語がここから始まる。


「……頑張れ。いつだって私は海ちゃんの味方だよ」

「ありがとうございます」


 痛い思いも怖い思いもいっぱいした。

 でもこれからはしない。

 そういう選択肢を選んでやる。

 ここから始まるのは明るい未来だ。

 そして明るい物語だ。

 暗い話はここまで。

 これからは希望と光に満ちた物語だ!

ここで海ちゃん目線はとりあえず終わり。

次からは空君目線に戻ります!

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