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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
212/305

209話 鬼ヶ島攻略戦

 あれから私達は紅茶を片手に状況整理を含めた作戦会議をしていた。

 とりあえず会議名はの名前は“ツンデマスヨ”だ。

 私が帰ってからツンデマスヨ開幕までなんとたったの十五分という速さだ。


「とりあえず綾人がジェット機を盗んで特攻したんですね」

「そうだよ」

「それで問題点は響が助けに行こうって言い出したこと。とりあえず勝手にジェット機を使わないように縛り上げたの。ちなみに私とルプスは見殺しにするつもりだけど……」


 なるほど。

 主に響の説得をすればいいのか。


「……桃花。真緒はどう動くと思いますか」

「間違いなく殺すね。真央が敵として定めたら容赦ないのは三周目を体験済みの海ちゃんが一番分かってるんじゃない?」


 その通りだ。

 一度でも敵と認識されたら間違いなく死ぬ。

 それこそ私は桃花みたいに真央に愛されない限りは容赦なく殺してくる。

 綾人の生存は絶望的か。


「……桃花……助けに行って」

「お母さん。そう言うとけどメリットは? たしかに私達は殺されないと思うけど返り討ちに真央に生け捕りされる可能性はありえるんだよ」

「綾人の能力が夜桜に渡ったら誰も手を付けられなくなる」


 そういえば夜桜の能力は略奪だ。

 能力を奪うことが出来る。

 殺せば殺すほど強くなるのが夜桜だ。


「綾人の能力は倍化。身体能力を倍にする能力」

「なるほど。それは詰みますね」


 これは総合戦闘能力を使わせてもらおう。

 恐らく綾人の総合戦闘能力は五百だろう。

 それで二倍して千。


 しかし夜桜が使ったらどうだ。

 彼は私達よりも強い。

 仮に二千五百だとしたら彼の総合戦闘能力は五千。

 それで桃花が二千前後だ。

 綾人の様子を見るに五百程度の差でも手も足も出なくなると考察できる。


 間違いなく誰も夜桜に勝てなくなる。

 何があっても綾人を夜桜に殺させてはならない。


「でもお母さん。綾人から使徒の反応はなかったよ」

「彼は異世界転移特典での能力入手だから使徒とは少し別扱い」

「なるほど」


 行くしかないがあまりにもリスクが高い。

 私が綾人に希望を与えたのがミスだ。

 綾人を立ち直らせなければ……

 私のせいで……


「うーん。お母さんの話を聞くと助けに行く理由も分かる。でも私的には助けに行っても綾人の死は避けられないと思う」

「根拠は?」

「スー。スーに動くなって言われて動きを止められてその間に綾人を殺される可能性があまりにも高い。つまり行っても無駄死する」


 桃花の意見も正しい。

 これは詰んでいるな。

 あの会議名も頷ける。


「……桃花。鬼ヶ島に行きますよ」

「正気?」

「はい。でもメインは偵察です。綾人は救えたらラッキー程度に考えます」


 たしかに綾人を助けに行く理由はない。

 だったら別の理由を作ればいい。

 綾人を助けられなくても私達に残る物があれば全ての問題は解決するはずだ。


「たしかに真央の戦力も全て割れていない。偵察は必須か」

「その通りです。だから私達は偵察という名目で行きますよ。もしも響が助けたらそれはそれです」

「まぁそれならいいか。みんな行くよ!」

「あ、私は戦力にならないだろうからパスね」


 桃花のお母さんは軽くそう言った。

 それもそうか。

 たしかに私達レベルで戦えるかどうかって言われたら否だろう。


「それにそろそろ政府が状況把握にここに来るからその対応もしとく」

「政府?」

「一応私達はこの国担当のエニグマ職員だから怪事件があったら政府は私達の自宅に来て状況判断と解決を依頼するの」

「なるほど」


 それじゃあ行くのは四人か。

 私と桃花とルプスと響。


「とりあえずジェット機があるところに案内するから私に付いてきて」


 ◆ ◆


 それから私は地下に行った。

 桃花の家にある迷路のような地下室だ。

 何故か稀に悲鳴が聞こえるが……


「これがジェット機だよ。とりあえず四人乗り出来るから安心して」

「……どうやって地下から発信するんだよ」

「こうするんだよ」


 そう言うと桃花は赤いボタンを押した。

 すると天井が割れて滑走路が現れた。


「何のアニメの影響ですか?」

「それはナイショだよ。さぁ乗って!」


 随分とカッコイイ事を……

 とりあえず早く乗りましょう。

 驚いてる時間も惜しいですから。


「はい。ドーン」


 桃花はみんなが乗り込んだのを確認するとすぐに発射した。

 空から見るが出てきたのは庭か。

 つまりあの地下室は庭の真下。

 それで天井という名の庭が割れて発射したと。


「とりあえず作戦会議だよ」

「まず拙者は綾人の救出に動く」

「了解。それじゃあ私とルプスの二人でまとまって動くね」

「戦力の偏り酷いですね」

「陽動は必要でしょ?」


 なるほど。

 二人が陽動してその間に私が情報を集めろと。

 たしかに飛行能力がある私が適任か。


「ただもう一人の私は飛んでくるから気を付けてね」

「分かっていますよ」


 最大の強敵である闇桃花。

 間違いなく正当法では勝てない。

 なんて言ってもアリスと私とお兄様と白愛の四人で戦ってなお互角以上に戦う化け物だ。

 それもお兄様を巻き込まないように範囲攻撃を縛るという舐めプもして……


「ていうか位置は分かるんですか?」

「お母さんから聞いてるから大丈夫。あと三十分くらいで着くよ」


 とりあえず出来るだけのことをする。

 今出せる全てを使って……


 ◆ ◆


 俺は森に降り立っていた。

 海から言われた。

 人は可能性がある生き物だと。

 なら現代の魔王とか舐めた奴を殺してやるよ。

 それで俺の力を分からせてやる。

 だって人は可能性に満ちている!

 魔王を倒す可能性にも満ち溢れている!


「……ケレブリル」

「綾人様」


 俺の嫁が愛おしそうに名前を呼ぶ。

 彼女にはスナイパーライフルを渡した。

 俺が魔王の気を引く。

 その間に彼女が撃ち抜けばいい。


「私は君を招いたつもりはないんだけどね」

「誰だ!?」


 そんな中で突然声が聞こえた。

 目の前には黒髪ロングの女性がいる。

 総合戦闘能力は400前後だ。

 間違いなく雑魚。


「私の可愛い息子が疲れ果てて寝ているんだ。静かにしてくれるとありがたいかな」


 ケレブリルは既に森に身を潜めている。

 俺の二十三の神器の一つの透明になれるパーカーだ。

 これでこの女を……


「ただ名乗るなら魔王さ。理不尽に全てを奪い人の屍を積み上げた魔王を名乗るに相応しき犯罪者“神崎真央”だよ」

「ケレブリル!」


 俺の合図と共に彼女が弾丸を放った。

 それは間違いなく魔王を貫いた。

 見たか! これが勇者である俺の実力で……


「最近の子供はホログラムも知らないのか……狙撃手が潜んでると分かっていながら敵の前におろおろと出てくる馬鹿がどこにいる?」


 なんだよそれ!

 いくらなんでも反則じゃ……


「異世界じゃ科学に触れる機会はなかったか。だから少しばかし頭が回らないみたいだね。実に怠惰だと私は思うよ」

「どこにいる!?」

「君の後ろって言ったらなんて返してくれるんだい? 海や桃花にこのイタズラをしても反応が薄くて少し寂しいからオーバーに反応してくれると大変喜ばしいんだけどね」


 言葉が聞こえた時には腹が熱くなっていた。

 それから非情なまでの痛みが走る。


「……お前」

「転移で背後に移動してナイフを刺しただけさ。いくら総合戦闘能力ってやつが低くても頭さえ使えば簡単に有利不利は変わるのさ」


 血がボタボタと溢れてくる。

 俺は死ぬのか……

 嫌だ! 死にたくない!


「嫌だ!嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」

「君だってどうせそう言った異世界人も殺したんだろ。お互い様さ。もっと言うなら悪いが私は人殺しにかける温情はないんでね。それと毒は塗ってないから出来るだけ足掻いて逃げるといいよ」


 死にたくない。死にたくない。

 俺は生きたい!

 まだ生きたいんだ!


「それとこの収納バッグは貰っておくよ。もうそろそろ海の誕生日だから彼女の誕生日プレゼントに丁度良いと思うんだ」


 魔王はそう言うと俺の全てが詰まったバッグを奪い去っていた。

 俺は魔王を舐めすぎていた。

 この魔王は異世界の魔王とは格が違う。

 弱いのを自覚した上で頭を回してきやがる。

 俺の動きが全て掌握されている。

 やっと皆が恐れる理由が分かった……

 こいつは間違いなく魔王だ。

 世界最悪の魔王だ。


「さて、ソフィア! 見切ったかい?」

「はい。ケレブリルと名乗るエルフの心臓に世界樹の種が根付いていますね」


 そう言うと木の上から猫の付け耳を付けた水色の髪の幼女が降りてきた。

 なんだ彼女は……

 しかも金色と赤い目のオッドアイ……


「真央から見て三十五度の5mと48cm先にスナイパーライフルを私の方に構えてます」

「ありがとう。いつも助かってるよ」


 それから魔王は銃を驚くくらい早く抜きケレブリルが幼女に向かって撃った弾丸を弾丸で弾いた。

 あまりにも人外過ぎる反応速度だ。


「反応なんてしてないさ。ただ座標が分かったからそこに物理の数式に代入して座標を求めてそこに撃っただけさ。弾丸を狙いの場所に当てるなんて物理学をマスターしていれば容易いしね」


 あの一瞬でそんな計算まで……

 本当に化け物だ……


「君も高校で物理の授業を受けて習っただろ? もしかしたら大学の範囲かもしれないが少なくとも私の高校では応用したら弾丸の位置を求められるくらいの内容は取り入れてるよ」


 それから魔王は銃をもう一撃撃った。

 弾丸は吸い込まれるようにケレブリルの額に吸い込まれて見事なヘッドショットを決める。

 バタンという非現実的で冷酷で不快な音が俺の耳に届く。


「貴様ァァァァァァァァ!!」

「奪われるのは弱いからだ。強くなろうとしなかった君のせいじゃないかな?」


 ぜってぇぇ許さねぇぇぇぇ。

 こいつだけはぶち殺してやる。


「おや、この剣は魔道具かい」

「……魔王剣フォロボスナだって」

「見た目と名前に気に入った。私が使うとしよう」


 彼女は笑いながら俺の愛刀を奪った。

 あまりに残酷な現実だった。

 俺は武器も嫁も全てを失った。


「さて、ソフィア。あとは夜桜に任せて帰るよ」

「トドメは刺さないの?」

「そしたら最強クラスの能力が奪えないだろ。彼の能力は倍加って言う凄く強い能力なんだ」

「よく知ってるね」

「綾人には前から目を付けていたからね。空を拉致したのに彼をおびき寄せるという役割もあった。引きこもり姫なら間違いなく援軍に彼を寄越すと思ってね」


 全て手の上だったのかよ!

 こいつにとって俺はその程度の存在かよ!


「どこで知ったか聞いてるんです」

「そりゃエニグマの一人を拷問して聞き出したのさ」


 魔王はそんな会話をしながら消えていった。

 俺から全てを奪い尽くして……

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