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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
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208話 海のミス

「海ちゃん! 出来たよ!」


 桃花はそう言うと机にラーメンを置いた。

 ラーメンの真ん中にはドンとエビの頭が丸々一つ浮かんでいる。

 お店で頼んだら一体いくらになるのか……


「凄くインパクトがありますね」


 しかしとても美味しそうである。

 部屋中に濃厚なエビの匂いがしている。

 それに少しばかしの辛味もあるだろう。

 私の鼻がそう言っている。


「唐辛子。使ってますね」

「当たり!」


 エビラーメン(辛め)と言ったところか。

 それも相当辛い一品。


「とりあえずいただきます」


 私はラーメンを啜る。

 予想通り凄く辛い!

 でも濃厚なエビの旨みが口の中に広がる。

 しかも麺との絡みも相当良い。


「美味しい!」


 でも辛い。

 だけどその辛さが癖になり箸が進む。

 まったく無駄がない一品だ。


「それなら良かった」


 それから私はスープまで飲み干した。

 とても美味であった。


「ご馳走様でした」

「お粗末さまでした」


 さて、和都君を家に送らねば。

 この状況では一人で返すのは難しいだろう。


「桃花。バイク借りてもよろしいですか?」

「いいよー。ただ信号とか全部機能してないと思うから少し気を付けてね」

「分かりました」


 私は近くにあったヘルメットを付ける。

 まぁ困ったら空中を走ればいい。

 流石に空の道までは閉鎖されてないだろう。

 しかし交通規制がどうなってるのか未知数なのが怖い。

 なにせ状況が状況だ。

 まぁ警察が機能してるかどうかも怪しいが。


「和都君。行きますよ」

「は、はい」


 私は和都君を連れてガレージに移動する。

 それからバイクに乗る。

 彼はガッチリと私の腰を掴んでいる。


「大まかな場所でいいから教えてください」

「はい。僕の家は……」


 ◆ ◆


 それから街中をバイクで駆け抜ける。

 軽く走ってる外は大混乱だ。

 街が街として機能していない。


「少し飛びます」

「飛ぶ!?」

「言葉通りですよ」


 目の前に少し交通規制があって面倒だったので二段ジャンプをして飛び越えていく。

 それを見た警官が目を白黒させる。

 追ってくると思ったが状況が飲み込めないらしい。

 今のうちに距離を取ろう。


「なんですか! 今の!」

「ゲームとかでよくある二段ジャンプですよ。前に桃花にやり方を教わりました」

「物理法則的に出来るんですか!」

「知りませんが出来たのは事実です」

「常識外れだ……」


 常識外れは凡人の言い訳だと聞きましたよ。

 それと桃花曰く常識とは壊すものだとも。


「……困ったことがあったら電話くださいね。メアドと電話番号は教えましたよね」

「はい。分かってます」


 電話は桃花に一から全て作ってもらった。

 本当に彼女にそういう知識があって助かった。


「あと鳩は持ってきましたよね?」

「リュックの中にある鳥籠にしっかり入ってますよ」


 再び電磁パルス兵器もどきで壊されても厄介だ。

 その時は伝書鳩を使って連絡をしてもらうつもりでいる。


「ていうかなんで桃花さんは鳩なんて用意をしてるんでしょうか……」

「なんか近くにいた鳩を捕まえて洗脳音波で自分の家を巣だと思わせたそうですよ」

「本当に何でもありですね……」

「私もそう思います」


 ただ桃花曰く不満らしい。

 どうも戻ってくる可能性が低いとかなんとか。

 本当にこれは緊急の時のためだ。


「一応電磁パルス兵器の対策はしてある携帯だから使えなくなることはないと思いますけどね」

「そうですね」


 ……次はいつ会えるだろうか。

 このまま自然消滅なんて嫌だな。


「海ちゃん!」

「なんですか?」

「もし全て終わったら僕とデートしてください」

「いいですよ」


 彼も同じ心配をしたのだろうか。

 だからデートの約束なんて……


「場所は考えといてくださいね」

「任せてください。最高の場所を用意しておきますよ」


 彼と一緒ならどこでも楽しいと思う。

 見るものが全て新しくて楽しく感じられると思う。


「拷問展とか行きたいですね」

「あら、和都君は拷問に興味がおありで?」

「恥ずかしながら……」


 なんで私の好きな人は揃いも揃って拷問が好きなのだろうか。

 とても解せない。


「まぁ桃花さんに見せてもらった以上の物はないと思いますけどね」

「そんなに凄かったんですか?」

「はい。もう世界のありとあらゆる拷問器具があってもうずっと興奮してました。特に鉄の処女まであって触ってもいいだなんて……」


 ちなみに桃花の拷問器具は全て自作らしい。

 なんでも探すより自分で作った方が早いとか。

 桃花は基本的に人が作った物であるなら人が作れないわけがないという考えだ。


「あと色々な服とかもあって凄く参考になったんですよ。しかも僕が聞いたことのないような紅茶のフレーバーまであって……」

「桃花に言えば大体の物は出てきますよ」


 彼女は本当にどこかの青タヌキを連想させる。

 それくらいまでにどんな物でも揃えている。


「大学生になったら僕も居候したいと思うくらいですよ」

「それでしたら桃花にそう伝えときますね。私も和都君と一緒に暮らしたいですし」

「いや、さすがにそれは桃花さんに悪いですよ」


 えぇ……

 私は和都君とずっと一緒にいたいのに!

 もうここは素直に“お願いします”って言え!

 この鈍感男!


「……海ちゃん」

「なんですか。あと飛ばします」


 私は軽く頬を膨らませて拗ねる。

 もういいもん!

 和都君なんか知らない!


「速い! 速いです!」

「知りませんよ。しっかり私を抱いてれば落ちませんから安心してください」

「えぇーー」


 まぁとりあえず和都君を家に送り返します。

 そうしないきゃ私が戦いに身が入りませんし。


「和都君。いつになるか分かりませんが必ず迎えに行きますのでそれまでの間に浮気とかしたら許しませんからね」

「しませんよ」

「……本当にしないでくださいよ」


 絶対に真央に勝たねばならない。

 それでみんなで笑いたい。

 真央も桃花もお兄様も和都君もみんないる中で笑える未来を私は掴みたい。

 そのためならどんな犠牲だって払ってみせる。


「……海。死なないでくださいね」

「初めて呼び捨てにしてくれましたね」


 親近感が出来たみたいでとっても嬉しい。

 好きな人には名前を呼び捨てにしてもらいたい。

 少なくとも私はそう思ってる。


「僕はいつまでも海を待ちます。だから絶対に迎えに来てくださいね」

「はい。絶対に迎えに行きますよ。そして真央の所に行って私の彼氏として紹介するんですから」


 まだまだ真央とやりたいことはたくさんある。

 私もしたいことは山ほどある。

 絶対に死ねないし死なせない。

 誰一人として私の好きな人は死なせない。

 それが私の在り方だ。


「海は僕よりもよっぽど強いです。だからこそ僕はとっても怖いんです」

「怖い?」

「そのうち人間じゃなくなるんじゃないかって。だから生きて帰ってくることは当然として人のままで帰ってきてくださいね」


 人のままか。

 それは無理な相談だ。

 私は既に人間を辞めている。

 虐待が始まったあの時から人間じゃない。

 あんなことをされてショック死しない人間をはたして人間と言えるだろうか?

 ドブ水を平気で飲み体を崩さない人間を人間と言えるだろうか?

 少なくとも私は言えないと思う。

 この身は既に化け物だ。


「少なくとも自己犠牲だけはしないでくださいね」

「すみませんがその約束は出来ません。私は大切な人を守るためならこの身を悪魔に捧げてもいいと思ってます」

「そんな……!!」

「私が傷付くのは慣れてますから平気です。でも私の大切な……いいえ、愛した人達が傷付くのは平気じゃないんですよ」


 地獄は何度も見た。

 私はどうなろうが耐えられる。

 爪を剥がされ手足を落とされ顔を焼かれようが悲鳴一つで簡単に耐えられるし実際に耐えてきた。

 でも目の前で好きな人達が死ぬのだけは……


「もっと自分を愛してもいいと思いますよ」

「自分を愛す?」

「はい。一つある理論を話しましょう。僕が漫画を書く時に人物の考え方に悩んだ時に知った理論です」


 私が私を愛してどうなる?

 それで何が変わる?

 なにも変わらないだろ。


「あなたが笑うことが一番の幸せです」

「は?」

「少しだけ傲慢な考えです。真央さんや桃花さん達の幸せはなんだと思いますか?」


 桃花の幸せはお兄様といること。

 真緒の幸せは皆が笑ってること。

 そんなのは既に分かりきっている。


「みんな海の幸せを見るのが幸せだと思いますよ」

「そんなわけ……」

「桃花さんの顔。海と会話してる時だけ凄く笑顔になってるんですよ。心の底から笑っているんですよ。そんな桃花さんが傷付く海を観たらどう思いますか?」

「……傷つきますね」


 やっと分かった。

 自分を愛するの意味が。

 そういうことだったんだ。

 私って本当に馬鹿だ。


「真央さんが海の元に現れた時。今にも泣きそうな顔をしてましたよ」

「……よく見てますね」

「そりゃ漫画家ですから。それでどうして泣きそうだったんだと思いますか?」


 今なら分かる。

 もう分かりきっている。

 そんなのは私に嫌われたと思ったからだ。

 彼女は私に嫌われたのがすごく悲しかった。

 たった数千人殺してお兄ちゃんを拉致したくらいで多少はイラつきこそするものの私が真央の事を嫌いになんかなるわけないのに……


「そんな二人が傷付く海を見たらどうも思いますか?」

「間違いなく悲しみます」

「そうです。だから二人が幸せであるためにはあなたはこの上なく自分を愛してください。みんなにとってあなたの幸せこそが幸せなんですから」


 私が傷付いていいわけないのだ。

 私が傷付かないのが幸せの最低条件だ。

 まるで幸せの連鎖だ。

 誰か一人が幸せになれば皆が幸せになる。

 なんて心地良い関係性なんだろうか……


「海。もっと自分を愛してください」

「はい」


 私は返事をすると共にバイクを止める。

 もう目的地に着いたからだ。


「……和都君!」

「なんですか?」


 それから私は彼に飛びかかる。

 逃がさせはしないし拒ませもしない。

 もう私の物になれ!

 彼に呪いをかけてやる!


「な!?」

「……異性に対しては私の初めてのキスですよ」


 少し恥ずかしい。

 桃花とするのは慣れてるがやっぱり異性となると凄く恥ずかしい……

 それが好きな人となるとなおさら……


「ありがとうございます。私の彼氏になってくださって」


 それから彼に何も言わずバイクを飛ばした。

 早く立ち去りたいのだ。

 あまりにも恥ずかし過ぎた……

 これはミスだ。

 間違いなくミスをした……


「あぁぁぁぁ私のバカバカバカバカバカ!!」


 バイクに乗りながら叫ぶ。

 もう本当に恥ずかしい!

 なんで私はあんなことを……

 まぁとっても良い物であったのは事実だが……


「……早く帰りましょ」


 私は我に返る。

 やってしまったものは仕方ない。

 考えるのはやめよう。

 それからすぐに桃花の家に帰った。


「……ただいま帰りましたよ」

「あ、海ちゃん! 大変だよ!」


 しかし凄く異様な雰囲気だった。

 何故なら響が縛り付けられていたのだ。

 間違いなくやったのは桃花だ。


「どうしたんですか?」

「綾人のヤツが私の自家用ジェット機盗んで単独で鬼ヶ島に行っちゃったの」

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