206話 深夜二時の甘えん坊
「……海お姉ちゃん。まだ寝ないの?」
「ルプス。待ってください! あと一話で寝ますから!」
時計は既に深夜二時近くを指している。
たしか私が部屋に移動したのが二十三時。
まだ計算のうちだから問題ない。
とりあえず四時に寝て十二時に起きる。
これが一番だ。
「……ていうかテレビは真央の電磁バルスで壊されたんですよね?」
「ルプス。世の中には細かく考えてはいけないこともあるんですよ」
「はーい」
しまった。
そろそろマンゴーのジュースが切れてしまう。
せっかく部屋の冷蔵庫でキンキンに冷やして長い間保存していたというのに……
まぁ一週間持ったし良しとすべきか。
ここはイチゴのジュースで妥協しよう。
「……ルプス。冷蔵庫からイチゴのジュースお願いします」
「……四杯目。虫歯になるよ」
「大丈夫です。虫歯を治す魔法の術式なら桃花が使えますから」
「ママに依存しすぎだよ」
しかし残念なことに桃花は胸を大きくする魔法は使えないらしい。
というより存在しないとか。
まったくあんな大きなものをタプンタプンと付けてるんですから少しは分けてくれても……
「……ていうかママって胸があんなに大きくて肩が凝ったりとかしないんでしょうか?」
「前に聞いたらそういう問題は全て魔法で解決してるみたいですよ」
「……なんとなく察してました」
はぁ……
せめて巨乳特有の悩みくらい持てという話だ。
全て魔法の一言で解決させやがって。
「え、嘘……ですよね」
「どうしました?」
「テキヤクビーが死にました。私が推してたキャラでしたのに……」
「なんだアニメの話ですか」
ルプスはそう言いながらさっきから携帯ゲーム機をずっと弄っている。
携帯ゲーム機がなぜ動くのか。
それはツッコミを入れてはいけないお約束だ。
そんなことはさておきルプスはなんでも厳選がうんたらとか言っている。
私もやってるがこのゲームはかなりシビアだ。
名目上では小学生向けとか謳ってるいるが実際のプレイ人口は大学生がメインという話すらある。
「あ、やっとアルビノ個体産まれましたです! 最大レベルまで育ててティアラを使うです!」
「やっとですか。あとで対戦でもします?」
「海お姉ちゃん強いから嫌です」
まったく……
そういうが私は桃花にこのゲームで五回に一回くらいしか勝てないんですが。
このゲームは主に読み合いですから当然と言えば当然ですが。
やはり勝ちたいものではありますね。
「あと変態だから嫌です」
「変態とは酷い言い様ですね」
「マイナーモンスターばっか使って意表を突くのは変態です」
「そういうゲームじゃありませんか」
私とルプスは軽く言い争う。
そう言うならルプスもマイナーモンスターを使えばいいと私は思うのだが……
そんなことを考えてると“トントン”と扉を叩く音がした。
こんな真夜中に誰だろうか。
私は恐る恐る……いや、恐る恐るでもないか。
まぁとりあえず私は扉を開けた。
すると目の前には可愛らしいピンク色の羊のブカブカパーカーに身を包む茶色髪のツインテールの美少女がいた。
胸は凄く大きい。
それと笑いながら拷問とかしてそうでもある。
つまり桃花だ。
「……私」
「桃花。まだ寝てないんですか?」
夜更かしは肌に悪いんですよ。
それなのに夜更かしとは……
「その、寝れなくて……」
「それで?」
「海ちゃん。一緒に寝よ?」
もう仕方ないですね……
なら今日は三人で寝ますか。
ルプスと私と桃花の三人で。
「ずっと空君と一緒に寝てたみたいだから人肌が無いと眠れなくなっちゃったみたいで……」
桃花は顔を真っ赤にしながら必死に言い訳する。
これでも来年から高校三年生なのだからもう少ししっかりしてほしいものだ。
……まぁ肝心の学校は機能停止したが。
「いいけど服は脱いでくださいね」
「う、うん。それはいいんだけど……」
はい! ごちそうさまです。
桃花の裸体は非常に眼福である。
体のラインはとても整っていて肌はシミ一つ無くて凄く綺麗なのだ。
あれを一日に一回拝むのは義務のようなものだ。
「……でも海ちゃんも脱いでね」
「もちろんですよ。それとルプスも脱ぐんですよ」
「よくわかんないけどわかったです」
そうして私達は寝間着を脱いでいく。
しかし分かってはいたが凄く寒い。
私達は急いでベッドに飛び込み毛布に潜る。
三人で一枚だから少し狭いがその分だけ肌が密着して凄く暖かい。
ちなみに並びは真ん中に私で左に桃花。
右にルプスだ。
「桃花の体。凄く暖かいですね」
「もう海ちゃんったら。抱きついちゃって甘えん坊さんだなぁ」
「……深夜に人の部屋に来て添い寝を要望した人がそれを言います?」
「それもそうか。あと電気消しますよ」
私はスイッチを押して電気を消す。
リモコン式はこういう時に便利だ。
「なんかいつもと変わらず平和ですね」
「そうですね」
これでも外は大惨事だろう。
なんて言ったって通信機器が全て使用停止。
間違いなくインフラは全て停止の大混乱。
しかしこの家の中はそんな影響を感じさせないくらい平和だ。
「……海ちゃん。それとさっきから胸ばっかり揉みすぎだよ」
「何か問題が?」
「まぁ別に海ちゃんならいいんだけどね」
目の前に胸があったら揉むのはマナー。
それが美少女なら尚更である。
桃花はどこからどう見ても美少女。
なら胸を揉むのは必然だ。
「空君もよく私の胸を揉んでたし」
「ド変態お兄様。次会ったらシバきます」
「それって海ちゃんが言えること?」
「私はいいんですよ。私は」
そんなことを話してると桃花の手が私の胸にきた。
それから優しく撫でていく。
「……海ちゃん。胸無いから揉めないじゃん」
「無くて悪かったですね」
「まぁ貧乳が海ちゃんの魅力なんだけどね」
なんですかそれ。
私は胸が欲しくて必死に悩んでるというのに……
「でもそれじゃあ代わりに」
そう言うと桃花は私に顔を近づけ唇を奪った。
桃花は私にキスをしたのだ。
「海ちゃんの唇を貰うね」
「まったく……」
桃花とのキスは甘いから嫌いじゃない。
むしろ大好きだ。
「ていうかそろそろ寝ないと明日起きれくなっちゃうね」
「そうですね。寝ましょうか」
「おやすみ。海ちゃん」
「おやすみなさい。桃花」
◆ ◆
太陽の光が目に刺さる。
それからコケコッコーってニワトリの鳴き声がする。
私は自分の身体を一通り見る。
すると何故か白色をベースとしたネグリジェを着ていた。
しかも下の方には赤薔薇の刺繍がしてあってとてもお嬢様感のある服だ。
近くにルプスはいない。
恐らくリビングのソファーで横になって携帯ゲームでもしてるのだろう。
「あ、起きた」
「……いま何時ですか?」
「朝の十一時だよ。それと男性陣が来たら困るだろうから私が服を着させといてあげたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「妹の裸体を守るのも姉の仕事だよ」
思ってたより早く起きてたから良しとしよう。
さて、まずは朝ご飯を食べよう。
「桃花。今日の朝ご飯は?」
「今日は和食でカニの味噌汁とカニのお造りとカニの炊き込みご飯とフレッシュサラダかな」
「カニ尽くしですね」
「冷蔵庫空けたら丸々一匹いたからね」
そういえばスーパーとかやってるのだろうか。
いや、流石にこの状況じゃ開店できないか。
恐らくどこのお店もやってないだろう。
「桃花。食料はいつまで持ちます?」
「……えっと。節約しなかったから五人で三年くらいかな」
「なんだ。余裕ですね」
恐らく腐らないのは魔法だ。
基本的な悩みは魔法で全て解決する。
「ちなみにお昼はエビの頭を丸々一つドカンと入れたエビラーメンの予定だよ」
「……本当にこのペースで食料持ちます?」
「言ったでしょ。節約しなくて三年だって」
このペースでの消費なら節約したら十年くらい持ちそうですね。
とりあえず食料問題は解決と。
「と、まずはその前にお風呂だね」
「そうですね」
この服を脱がねばならないか。
せっかく可愛い服だからもう少し着ていたいが……
「海ちゃん。これ外では着ないでね?」
「どうしてです?」
「ネグリジェは寝間着だから。寝間着を外で着たら凄く目立つから」
「目立って何か問題が……」
「問題しかないから」
はぁ……
問題しかないか。
せっかく可愛い服を見つけたのに……
「とりあえずお風呂行こっ」
「そうですね」
私達はそのまま下に降りて浴室へ行く。
桃花の家の浴室は何度見ても広くて驚く。
それから身体を洗い湯船に浸かる。
「んー。お風呂はいいねー」
「そうですね」
さて、今日は忙しい。
なんだかんだと後回しになっていたがまずは今後のことを考えねばならない。
お兄様の奪還は間違いなく一筋縄ではいかない。
「そういえば桃花。あまり動揺してませんね」
「何処の馬の骨か分からない人なら話は変わるけど空君を誘拐したのは真央だよ。ならそこまで動じるようなことじゃないよ」
「真央を信じてるのですね」
「うん。信じてるよ」
ぶっちゃけて言うならお兄様はどうでもいい。
ただ怖いのは真央だ。
真央に動きがあったということは間違いなく計画は大詰めのところまでいってるはず。
早くしないと全て手遅れになる。
「……私もタイムリミットがないのは理解してるよ」
「とは言っても真央に勝てないのも事実。白愛に夜桜にスー。そのうち一人倒すのですら困難だと言うのに……」
「そうだね。そして私は真央の戦力がそれだけとは思えないかな。真央の本拠地は鬼ヶ島でそこは鬼神族のテリトリーだから最悪は鬼神族の始祖との戦闘もありえるかもね」
完全にお先真っ暗だ。
本当にこの戦力で攻略出来るのだろうか。
「あともう一人の私。ぶっちゃけ私からしたら彼女が一番厄介かな」
「……闇桃花」
「私のことは私が一番良く知ってる。だから強さも手に取るように分かる。それに私と同じ戦乙女でもある。間違いなく一番警戒した方がいいね」
相手にも桃花。
こちらに桃花。
単純計算でプラマイはゼロだろう。
つまり桃花抜きで相手の戦力を超えねば勝ち筋は掴めないのだ。
「それに空君のタイムリープしてた時の話を思い出すと触れた相手と入れ替わるラグーンに食人鬼のアペティとかもいる」
「今思うと真央が何故あんな人達を雇ってたのか謎ですね。私も三周目の世界でラグーンに会ってますが真央が気に入る人物だとはとても思えません」
「そっか。海ちゃんは記憶があるのか」
もちろんだ。
三周目の世界でお兄様は私を過去に飛ばした。
だから三周目の記憶だけなら顕在している。
ただ話す意味も無いから話してないだけで……
「うーん。捨て駒かな」
「仲間想いの真央がそんなことをするでしょうか?」
「多分だけど簡単に切れるように最初から仲間と思わないようにしてるんじゃないかな。だから真央が嫌いな性格の人を集めた」
「……なるほど」
筋は通ってるか。
そして捨て子として一つの部隊になってるならたった二人ということは考えにくい。
間違いなくもっといる。
「それに学校の先生達だけで三十人か」
「能力者が三十人超えてるって考えるとゾッとしますが……」
もう数は大した問題じゃない。
桃花がいるなら数をいくら揃えても無駄だ。
「私の音の衝撃波で一掃出来るよ」
ルークの私兵団で数が無意味なのは実践済みだ。
そんな数だけの軍団など靴底を鳴らして終わりだ。
「本当にチート能力ですね」
「あれかなり計算大変なんだよ。少しでも音の強さと反響地点の予測間違えたら失敗するし」
前にお兄様が出来ないとボヤいてましたね。
あれはただ音を使えるだけじゃなくて人外レベルの計算能力で可能にしてる技ですか。
あくまで桃花だから使いこなせると。
「まぁ真央なら同じこと出来ると思うけどね。ていうか下手したら音叉兵器でも作ってて似たようなことをやってくるんじゃない?」
「電磁パルス兵器の次は音叉兵器ですか。本当に化学兵器のオンパレードですね」
「うーん。そう考えると真央一人で本当に世界を滅ぼせる気がしてきた」
桃花も感心してる場合じゃありませんよ。
まずはその対策を考えなければなりません。
「下手したら手の平サイズの核とか持ってそうだよね」
「間違いなく持ってますよ。薬品とか転移で潜入して自由自在に盗み放題だし作る知識もありますし持ってないと考える方が不自然です」
転移って現代世界だと本当に強いですよ。
なんていうかめちゃくちゃです。
「それより厄介なのが暗殺かな」
「暗殺?」
「そうそう。真央の転移を使えば各国の政治家を皆殺しにして国としての機能を失わせるくらい容易いかなって」
そういうことか。
なんとなく計画の全貌が掴めてきた。
本当に現代での転移はえげつないですね。
「そしたら真央の言ってる世界調整も現実味が出ない?」
「電磁パルス兵器による情報制御。また各国のリーダーを殺して誰からも指示が来ない状況。その中でテロをしたら……」
「間違いなく世界は滅びるよ。でも全滅まではいかないかな」
「全滅はしない。つまり真央の言った通り人の選別が行わるんですね」
突然のテロ行為。
誰も指示をくれず国も何も言わない。
そんな中で情報機器が壊され他者との連絡も不可。
そんなことを世界全域で起こす。
間違いなく大混乱だ。
「……まぁ私の予想でしかないけどね」
そんな大混乱では自分で考えて動ける人以外はまず生き残らない。
まさしく真央好みの展開だ。
真央はその生き残った人だけで理想世界を作るつもりなんだ……
ちゃんと考えることが出来る人達だけの世界を……
「ぶっちゃけ同時テロとか真央の転移を使えば容易いと思うしね」
「もう詰んでますね」
「ツケが回ってきたんだよ。自分で考えないで一部の人達に全て押し付けてたツケがね」
そういう解釈もありか。
さて、それを止めるには……
「止めるとしたら一番現実的なのは国のトップを一人ずつ守ることだけど無理だね」
「私達だけじゃ人手が足りませんもんね」
「それもそうだけどスーが一緒にいたら手も足も出ないもん」
「なるほど」
本当に隙がありませんね。
もし伝えたとしても自衛できるとは思えません。
あまりにも戦力が違いすぎます。
「それと真央のロボット覚えてる?」
「なんか学校で自慢してましたね」
あれはかなり記憶に新しい部類だ。
なんでも情報の授業だとか言ってロボットを持ってきて一から私が作ったとか自慢してたな。
もちろん構造を説明することなくひたすら真央の自慢とAIが発展した場合の世界に与える影響について話すだけの授業になってしまったが。
「恐らくあれで殺すんだよ。真央はあくまで人間だから撃たれたら死ぬ。その撃たれるという最悪を想定してロボットを送り込むはず」
「どこまでも徹底してますね」
万に一つでも自分が死なないようにしてるのか。
なんて完璧主義な……
「まぁそういうことだよ。凡人に殺されるのは私も面白くないからね」
「……知ってますよ。それと毎度の事ながら転移で現れるのは勘弁してくれますか。真央」
私は振り向く。
そろそろ彼女が来ると思ってた頃だ。
特段驚くことではない。
真央はそういう人だ。
「もっと驚いてくれてもいいと私は思うんだよ」
「わー予想外ー……これでいいですか?」
「すごーく棒読みだね」
目的なんて特にないだろう。
彼女はそういう人だ。
「それと海に一つ伝言だね」
「なんですか?」
「悪いが今の私は君と共有してないからもう何があっても助けに行けないよ」
「おや、真央から解除してくれるとは意外ですね」
「空にグレイプニルを押し付けられて強制的に解除させられたのさ」
なるほど……
お兄様もちゃんと働いてるのですね。
真央の嘘かもしれないがそれは置いておく。
真央はつまらない嘘を吐く人だから怖い。
「……共有を再度してもいいが身体能力的に真正面から海に触れられるとは思わないよ」
「スーで洗脳でもしたらすぐでしょ」
「まぁね」
結局のところ真央に生かされてるだけ。
それが今の私達だ。
周りからどんなに評価されようともそれは変わりようのない事実でしかない。
「……電磁パルス兵器。随分と厄介な事をしてくれましたね」
「ちゃんと教えたことが身に付いてるようで私は嬉しいよ」
「しかしこの国全域とか正気ですか?」
「もちろん正気さ。現在この国のインフラは完全に停止した。国内でのインターネットに接続は間違いなく不可だよ」
「やっぱり……」
恐らく私達が思ってる以上に大混乱だ。
しかも荒れるのはここからだ。
「ちなみに色々な国が大混乱だよ。まずこの国で何が起こってるのか理解すら出来ていない。恐らくそろそろ海外が調査隊を派遣するだろうね」
「……でも電子レンジとか冷蔵庫は使えますよね」
「随分と勘が良いね。さすが私の娘だ。さて続けたままえ」
従来の電磁パルス兵器は簡単に言ってしまえば指定した範囲のマイクロコンピュータを全て破壊するというものだ。
マイクロコンピュータは冷蔵庫や電子レンジと言った白物家電にも使われてる。
例えばタイマー機能とか表示機能。
「……真央が使ったのは電磁パルス兵器ではありませんね?」
それなのにその自家家電は使用出来ている。
やっぱり桃花と話した通り完全に新兵器だ。
それも真央が独自に開発したもの……
「正解。電磁パルス兵器とやってることは近いがそもそも理論がが違うのさ」
「つまり他の国がそれを把握して電磁パルス兵器の対策をいくらしても……」
「そう。無意味なのさ。例えるなら火事に対して台風の対策をするようなものさ」
果たして周りはどう思うのか。
不完全な電磁パルス兵器と結論付けるのか。
それとも新兵器として考えるのか……
「どこまで頭が回るか。とりあえず小手調べと言ったところだね」
「お兄様はこの一件について把握は?」
「してないんじゃないかな。鬼ヶ島は完全に外との関わりがないからまったくそういう情報は入ってこないから私が伝えない限りは不可だよ」
やっぱりそうか。
だったら本当にお兄様はお気楽なものですね。
「……真央。空君はどうしてるの?」
「少し修行をさせてるよ。鬼化をマスターしてもらおうと思ってね」
「なるほど」
「まぁかなり惨いが……空なら大丈夫だから心配しなくていい。彼はたしかに弱いがあのくらいで折れるほど弱くはない」
真央が惨いと言うなんて相当だ。
一体お兄様の身に何が……
「隠しても仕方ないから言うよ。何度も殴られて気絶させられては回復させられての繰り返しだ。そんなのが既に二十回近く行われているかな」
「……真央。なにしてくれてるのかな? 私の可愛い空君にそんなことをしてもいいと思ってるのかな?」
「もちろん良いとは思ってないさ。ただ現実として今の空は戦力不足だ。もしも今の中途半端な強さのまま行ったら他の人……名前を挙げるとしたら神崎陸とかに殺される可能性すらある」
あのクソ……
名前を聞いただけで吐き気すら覚える。
そういえばまだ生きてるのか。
「神崎陸は獣人族と同盟を結んだと考えられる。またルークのホムンクルスを作った主犯とも考えられる」
「それで?」
「下手したら空は今の強さのままだったら今後の戦いで死ぬ。だったら今は苦しい思いをしてもらってでも強くなってかもらいたい。だって私は空が大好きで死んでほしくないからね」
「なるほど……今回はたしかに真央の言う通りだねら。一応許すけどこれ以上やったら承知しないから」
お兄様の戦力不足はかなりの問題だ。
私は鬼化で底上げが出来るし最悪は白愛の時みたいに蝶化して逃げるという選択肢すらとれる。
桃花は元々強いから言う必要はない。
しかしお兄様はどうだ?
一応脳強化という技があるらしいがあれは一分も保てない。
しかも負荷が重すぎて多用出来る技じゃない。
言うならば諸刃の剣だ。
「……でも空君に聖杯の能力は渡さないの?」
「渡したら弱くなる。増えすぎた選択肢は優れた人じゃなければその人の視野を奪い動けなくする。今の能力数でさえ多いくらいなのにそれ以上増やしてどうする」
「なるほど……確かにその通りか」
悪いが私も真央の言う通りだと思う。
お兄様が良く使うのは火と風と強化だけ。
他にも雷や飛行。
それに音に重さを変えることも出来る。
お兄様は選択肢が多すぎるあまり逆に視野が縮まっているとしか言えない。
「空の能力はどれを取っても強力なものばかりだ。ただ多すぎる選択肢が邪魔をしているら。まったく空と契約した神は本当に趣味の悪い能力を授けたものだと心の底から思うよ」
「結局のところ変にたくさん能力を持つより一つを極めた方が強いってことね」
「そういうことさ。夜桜でさえ保持する能力は三十を超えてるのに基本的に使うのは五つ前後になってるしね」
そういえば私も毒の鱗粉を殆ど使わないな。
あれは仲間も巻き込むから凄く使いにくい。
たしか神経毒で体の動きを奪うくらい強力なものなのだが……
「さて、私はそろそろ帰るよ」
「……また来る予定は?」
「気が向いたらかな」
「そっか」
そうして真央は消えていった。
なんとなくお兄様の状況も掴めた。
「さて、そろそろお風呂から出よっか」
「そうですね」
そうして私達は真央と別れお風呂から出た。
随分と長い会話になってしまったがかなり情報が得られた。
今回得た情報も踏まえて桃花と作戦を建てるとしよう。




