204話 いじめ
「……えぇ」
私はドン引きしていた。
いや、桃花がそういう人だと知ってはいたが……
「だってよくよく考えたらおかしくない! 私は押し倒されて胸を揉まれ、肉欲の限りをぶつけられたんだよ! もう一種の強姦だよ!」
「……押し倒されてませんし強姦もされてはいないじゃないですか」
「それは海ちゃんの記憶違いだよ」
そうですね。私の記憶違いでした、
では虐めましょう。強姦は最低です。
……ってなると本気で思ってるのだろうか。
悪いが私もそこまで馬鹿ではない……と思う。
「しかし私が一方的にやられたのも事実である。ならそれ相応の落し前をつけてもらわないとね」
「ていうかあの時に腕の骨でも砕けば良かったんじゃないですか?」
「本当それだよ! どうして私はあの時に手を出さなかったんだろ! あーー思い出したら自分に腹が立ってきた」
大人になる宣言は一日持たずに崩壊ですか。
まぁそっちの方が桃花らしいですけど。
「それで落し前っていったも具体的には?」
「うーんとね。虐めて拷問して四肢を落として性奴隷として変態に売って……」
「やりすぎです。ていうか男の性奴隷の需要とかあるんですか?」
「意外と少年を犯したい願望を持ってる変態は多いよ」
知りたくなかったです。
そんな事実は知りたくなかったです。
「何度も言うように拷問はやりすぎです。私も手助けしますから虐めくらいで勘弁してあげてください」
「もーしょうがないなぁ。今回は虐めだけでいいよ」
たしか桃花にはやられたら五倍にして返すというモットーがあります。
今思うとやろうとしたことは百倍近くになるのではないでしょうか?
「ママ。なんか面白そうなことやるの? 私も参加したいです」
え、いやちょっと!
ルプスは綺麗なままで……
そういう汚れ仕事は私達がやりますから!
「いいよー。それじゃあルプスは?」
「たまには拷問したい!」
「ごめんね。今回は無しなの」
「……ちぇ」
あー頬を膨らませるルプス可愛い。
もちろん話の内容に目を逸らせばだが。
「ていうかルプスは拷問したこと……」
「ないよ! だからやってみたいの!」
「拷問の意味分かってます?」
「うん! 痛ぶって死んだ方がマシだと思わせるんでしょ!」
やっぱり桃花の娘です。
血が繋がってないのにそう思います。
ルプスと桃花はあまりに性格が似すぎている。
「拙者は参加しねぇぞ」
「大丈夫。あの程度なら私達二人で壊せると思うから」
壊すって言いましたよね?
今、壊すって言いましたよね?
「さて、まず最初にやるのは……」
◆ ◆
「海ちゃん見てあの哀れな姿! まるでボロ雑巾みたいだよ!」
「そうですね! 本当に気持ち悪いですね! さっさと死んだらいいと思いますよ!」
綾人は目を覚まし私達はいじめを行っていた。
主犯というか提案者は桃花。
対象は柊綾人。
理由は身の程も弁えず桃花にセクハラした。
それ以上の理由はない。
「あれって学校とかでも虐められてそう」
「分かります! なんか校舎裏に呼び出されて殴る蹴るされたあとにネットで悪口とか書いてそうです!」
やり方は簡単。
聞こえるように悪口を言う。
たったそれだけだ。
拷問に比べたらマシだ。
この程度で済んで本当に彼は幸運だ。
「しかしルプス。なんか変な匂いしますね」
「海お姉ちゃん! 私分かるよ! あそこのゴミからすごく異臭がしてるよ!」
ルプスは綾人の方を指さした。
実はルプスも虐めには加担している。
幼女からの暴言。
私ならご褒美だがきっと彼は心に大きな傷を残してくれるであろう。
実際はそこまで変な匂いはしないが事実などどうでもいい!
桃花にセクハラした者には制裁を!
イエス桃花! ノータッチ!
彼はその約束を破った。
万死に値すると言っても過言ではない。
だが優しい私の配慮でこの程度で済んでいる。
「死ねよ! お前ら死ねよ!」
「海ちゃん。ゴミがなんか言ってるよ!」
「出来れば人が理解出来る言葉で喋って欲しいものですね。私達は人間なので」
それから私は紅茶を軽く飲んだ。
なんでも和都君が原点に戻って悪口を言うアクマちゃんを書きたいらしいからその手助けだ、
それに私は紅茶は嫌いな部類ではない。
ちなみに彼はひたすら剣を振るが桃花の作った結界は破れる気配すら見えない。
「そうだ。ここにホースがあるの」
「桃花? どうするんです?」
「こうするんだよ」
それから桃花は勢い良く水を飛ばした。
それにより彼の服はビショビショのグチヮグチャになってしまった。
まぁ替えの服など無いのにビショ濡れなんてとっても可哀想ですね。
「ほら、それっぽくなったよ! 折角だから写真でも撮ってあげよう!」
「いいですね! それ!」
私達の陰湿ないじめは現在進行形で進む。
桃花はどうやらいじめには慣れてるらしい。
やられる方ではなくやる方に……
「やめろよ! やめてくれよ!」
「えー嫌だー。だって楽しいんだもん」
桃花はそれからスマホで写真を撮った。
なんでも気合で自分のだけは復旧させたらしい。
「ほら、見て! それっぽい姿になったよ!」
「俺が一体何をしたって言うんだよ……」
「セクハラ。あなたはセクハラをしたからその裁きを私が直々に与えてるの。それじゃあこの写真は個人情報と共にネットにばらまきます」
「やめろ! それだけはやめてくれ!」
桃花はそれから軽く微笑んだ。
綾人はひたすら顔を涙で濡らしていた。
「ごめんね。もう押しちゃった」
「お前えぇぇぇぇぇぇぇ!」
「あとで全裸で自慰させてそれを録画してネットにバラまいてあげるから安心していいよ」
やることがえげつないですね。
まぁ妥当と言えば妥当ですが。
「そ、そんなことをするわけ……」
「大丈夫。嫌でもその方がマシだって思うくらいボコボコに金属バットで殴ってあげるから」
しかし桃花にも桃花なりの考えがある。
桃花は彼のことをこう考察していた。
恐らく“異世界に行く前はいじめを受けている”と。
ならまたいじめてあげてトラウマを蘇らせようという深い考えがあってこそだ。
「ひぇ……」
「大丈夫大丈夫。私の体で実験したけど金属バットの方が歪むくらいだから異世界を救えるような勇者様なら余裕だって」
なんかそんなこともあったな。
あれは桃花が響の力がどのくらいになったのか知りたいって言って自分を殴らせたんだった。
まぁ結果としては桃花の言う通り無傷でバットの方が変形したが……
「まぁ前に普通の女子中学生でやった時は五回で死んじゃったけど」
「桃花。何やってんですか……」
「中学時代の話だよ。それにしてもあの時の私は若かった。今では少しだけ反省してるよ」
本当に彼女の中学時代は何があったんですか……
間違いなくいじめっ子なのは確定してます。
それでいじめの末に人を殺してるのも確定。
また問題になってないことから揉み消してるのも明白過ぎます。
本当に彼女の中学時代って……
「さて、綾人君。こっちにおいで〜」
「い、嫌だ! 嫌だ!」
「君に断る権利なんてあると思ってるのかな? あと私も大人になったから力加減間違えて殺すなんてことにはならないと思うから安心していいよ」
さて、そろそろ桃花一人で良さそうですね。
私は和都君に耳かきしてもらうために家の中に戻りましょうかね。
「それと海ちゃん。生ゴミってもう捨てちゃった?」
「まだ残ってたと思いますが何に使うんですか?」
「そこのゴミに食べさせるの。ゴミがゴミを食べる光景なんて面白いでしょ?」
よくそこまでポンポンと嫌がらせが思い付きますね。
やっぱり桃花は天才ですよ。
今のは悪い意味での天才ですけど。
「綾人君。異世界から返って力を手に入れていじめと無縁の生活を送れると思ってた君に教えてほしいな」
「は、はい?」
「ねぇ今どんな気持ち? 折角だから海ちゃんの彼氏さんの和都さんのために取材もしとこうと思ってね」
あ、それ私も聞きたいです。
和都君は最近スランプらしいので……
「ねぇ早く言おうか?」
「と、とても嫌な気分で……」
「もっと具体的に言ってよ。プロの漫画家が参考にするんだよ! そんな一言が参考になるわけないじゃん!」
桃花はイライラしながら近づき蹴り飛ばした。
それから何度も何度も蹴る。
「次はないと思ってね」
「も、もうやめてくだ……」
「そう言うなら最初からセクハラなんかしなきゃ良かったんだよ。君もほんとに馬鹿だと思うよ」
もう鬼だ。
鬼と人間のハーフの私よりよっぽど鬼だ。
「つ、つい出来心で……」
「そっか。出来心で私みたいな純粋な女の子を傷物にしたんだ。本当にクズだね」
「それは……」
あーこれは殴る蹴るの連続コースだ。
とりあえず言われた通り生ゴミを取ってくるとしましょうか。
「……海ちゃん」
「和都君。どうしたんです?」
「……異世界に行って帰ってきていじめっ子に復讐しようとしたら返り討ちに遭う話を考えたんだがどう思う?」
「まんま桃花の事じゃないですか。あと一つ言うとしたら世間一般では勧善懲悪以外は受け入れられませんよ」
「だよなぁ……」
でも彼が紡ぐ物語なら見たい!
最高に心が踊りますよ!
そのいじめっ子をイケメンというか和都君にして脳内でシュミレーションして……
和都君に虐められるなんてご褒美じゃないですか!
これは意外と売れる可能性も……
「海ちゃん?」
「な、なんでもありませんよ。少し生ゴミ取ってきますね」
「あぁ……」
桃花は誰よりも人の壊し方を知ってる。
物理的、精神的問わずに人を壊せる。
それが桃花だ。
桃花の前で人は無力感に教われる。
私からしたら彼女の方が真央よりもよっぽど魔王。
それでも私の大切な姉であり親友だ。
もしも彼女の本質が魔王だとしても私はそばにいるだろう。
「……ありました」
私は生ゴミを手に取った。
桃花の前で人はゴミだ。
いや、始祖の前で人はゴミ同然だ。
あくまで人は生かさてるのだ。
「この世の中って本当に不条理ですよね」
弱い者は常に強き者に喰われる。
シマウマがライオンに勝てない。
それと同じように人は始祖に勝てない。
何をされても文句は言えない立ち位置である。
それは総合戦闘能力がハッキリと証明した。
綾人の馬鹿げた能力だがあれは真理とも言える。
恐らく綾人は人間最高クラス。
それでも1000である。
それに対して私と桃花は1800を超える。
1違うとどのくらい差が出るか知らないが恐らく圧倒的なものなのだろう。
それこそ天と地がひっくり返っても変わらないくらいの差があるのだろう。
「……やっぱり私達は既に人間じゃないんですよ。だったら考え方もそれ相応の物に変えないとダメですね」
人が虫に同情することはあるだろうか?
虫を殺す度に罪悪感を覚えるだろうか?
私達のやってる事はそれと同じだ。
種族が違うとはそういうことだ。
桃花は本能的にそれを理解している。
そもそも種族が違うのだから今回のいじめを見てクズとか思うのは筋違いではないか?
「桃花。生ゴミを持ってきましたよ」
「ありがとね」
私はそんなことを考えながら桃花にゴミを渡す。
真央ならこの問題にどのような解答を用意するのだろうか……
「それじゃあ綾人君。地面に這いつくばって犬のように食べようか?」
「い、嫌だ!」
綾人が断ると桃花の激しい蹴りが入る。
それにより彼は少なくない吐血をした。
「ねぇ。断る権利があると思ってるの?」
「い、嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」
「そう。次は四パーセントの力で蹴ってあげる。ちなみに参考までに言うとさっきのは二パーセントね」
再び蹴りが入る。
かなり鈍い音が庭中に響いた。
見ているだけでも痛々しい。
「次は六パーセント。私の予想だけど次の蹴りで多分内臓破裂するよ?」
「俺が死んだら警察もエニグマも……」
「大丈夫。死体が発見されるようなヘマはしないから」
そりゃそうだ。
そんな簡単に見つかるなら桃花は既に……
「エニグマは……」
「黙って」
そんなことをしてると桃花が足を止めた。
それからすぐに凄い風が私達を襲った。
桃花の表情も変わる。
無理もない。
上からヘリコプターが降りてきていたのだから。
「……桃花……久しぶり」
「お母さん。思ったより来るの早かったね」




