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世界調整  作者: 虹某氏
5章【未来】
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197話 不可能は可能に

「……真央。お前はもう教師を辞めたよな」

「そうだが一体どうしたというんだい?」


 真央が夜桜にそう尋ねた。

 キョトンとした顔で尋ねた。


「……今までありがとな」

「すまない。私にはさっぱり分からないんだ」

「あの学校。俺に学校の楽しさを伝えようって意図もあっただろ」

「そんなわけないだろ」


 夜桜は何が言いたい。

 彼の考えが全く分からない。


「でも俺は楽しかったぜ。色々な人と話をしたり真央と学園行事を練りたりしてな」

「……私に皆殺しにした文句でも言いに来たのか?」

「それもある。殺しは俺の役目でお前の役目じゃねぇよ」

「仕方ないだろ……」


 夜桜はそれだけじゃないな。

 彼の目を見ればそんなことは分かる。


「お前。この三日間ずっと泣いてただろ」

「な!? そ、そんなわけないだろ!」

「声がダダ漏れだよ。ずっと自分を責めてただろ」

「私は魔王で……」

「お前は魔王以前に女の子だろ」


 やっぱり真央は後悔してるのか。

 彼女は前に言っていた。

 “後悔こそするが反省はしないと”。


「……仕方ないだろ。私だって誰も殺したくない! でも国を作るには全然データが足りない! 反乱や革命が起きた時の対処にテロリストが攻めた時の対処方法! まったく足りてないんだよ!」


 真央の目からは涙が溢れていた。

 やっぱり彼女は弱いな……


「データを集めるには殺すしかなかった! そうする以外の道を必死に模索したさ! せめて私を憎んで死ねるように悪役を必死に演じた!」

「分かってるよ。そんなことは」

「これ以上私にどうしろって言うんだよ……」


 真央は敵の前では涙を決して見せない。

 常に魔王としての言動をする。

 でも裏では……


「……夜桜。私が何人殺したか分かるか?」

「さぁな」

「数え切れない程だ。私は罪のない人を何十万人と殺した! その罪のない人の死を意味が無かったものにしないように再び屍を重ねる。そんなのは負の連鎖じゃないか! 一体いつまで続ければいい!」


 恐らく何度も真央は心が折れている。

 でも常に未来への一歩を歩んでいる。

 一切足は止めないのだ。


「あぁ……そうだよ。世界調整が終わるまでだよ。世界調整が終わるまで私は人を殺し続けるしかないんだよ。自分でとっくのとうに答えは出てるんだよ……」

「……真央」

「七十四億。たったの一万人でこんなにも荒れてる私が本当にそんなたくさんの人を殺せるか? 間違いなく無理だ!」


 真央が全てを吐き出したのか息切れを起こす。

 これが真央の本音……

 これが本当の真央。


「俺はそんなことを言いに来たんじゃねぇよ」

「……早く言え」

「今まで先生お疲れ様。俺達のためにありがとな」


 それから夜桜は真央を抱き寄せた。

 それにより真央の顔が真っ赤になる。


「な、何を……」

「少し頭貸せ」


 夜桜はそう言うと真央の髪に触れた。

 大切なものに扱うように大切に……


「これで良しと」

「こ、これは……」

「青薔薇の髪留めだよ」


 真央の頭には青薔薇が添えられていた。

 とても綺麗な青薔薇だ……


「夜桜。手鏡」


 真央が頬を含ませながら夜桜に手を伸ばす。

 仕草が凄く女の子っぽい。


「あいよ」


 夜桜が手鏡を渡すと真央はひったくった。

 まるで恥ずかしさを隠すかのように……


「か、可愛い……」

「だろ?」

「す、少しうるさいぞ!」


 それから真央は夜桜に背中を向けて。

 プンスカしていた。

 でも俺の角度からはめちゃくちゃ顔がニヤけてる真央が見えてしまっている。


「青薔薇の花言葉。教えてくれるかい?」

「お前ならそのくらい知ってるだろ」

「乙女心を少しは学べ。私は君の口から聞きたいんだ」


 夜桜はやれやれとした表情を見せた。

 それから青薔薇の意味を説明していく。


「青薔薇の花言葉は“不可能を成し遂げる”だ。真央のこれからにはピッタリだろ」

「……ありがとう」

「気にすんな」


 それから夜桜は去っていった。

 真央はいつになく嬉しそうだった。


「まったく。どうせなら赤薔薇が欲しいね」

「花言葉は“あなたを愛しています”だったか?」

「そうなのか。初耳だ」


 絶対に知ってただろ。

 かなり有名な話だぞ。

 あの真央が知らないとはとても思えない。


「しかし見たまえ! 凄く綺麗だろ!」

「……そうだな」

「私もちょっとは女の子らしくなれたかな」


 俺は敢えてノーコメントで返す。

 そういうのにはイマイチ慣れてない。


「次があったら次は血とか殺しとかと無縁の生活が送りたいものだ」

「次?」

「こう見えて私はロマンチストなんだ。だから転生とか全く根拠がないものを考えたりする」


 転生か。

 そんなもの……


「でも私には許されないだろうな。私は人を殺しすぎた。そんな人間が来世で笑って普通に生活をするなんてどう考えても許されるわけないだろ」

「……でも世界調整が終わったらみんな笑える世界になるんだろ」

「一万人というほんのひと握りの幸せのために七十四億人から全てを奪い去る。この行いが正義とは私は思えない」

「それじゃあどうして……」


 人は正義のためにしか動けない。

 俺はそう思ってる。

 どんな悪役にだって悪役なりの正義がある。

 でも真央は自分を悪だと言った。


「夢だからだよ。争いのない平和な世界を作る、それが私の夢だからさ」

「夢か……」


 それが真央の原動力。

 果たして本当にそれだけなのだろうか……


「夢、約束、使命、そして憧れ。まだまだ色々あるけどね」

「真央はどうしてこんなにボロボロになっても頑張れるんだ?」

「それは私自身が探してる答えだよ。本当に私はどうしてこんな馬鹿みたいに頑張れるんだろうね」


 自分でも分からないのか。

 そんな状態でも足を止めない。

 それが真央。


「でもやれるだけのことはやるさ。今出来ることを常に全力でやる。それがこの世界に生まれた者の義務だからね

「今出来ること……」

「空も頑張るんだよ。私も頑張るから」


 真央の背中はとてもカッコよかった。

 真央は常に信念がしっかりしていて前を向き自分の可能性を信じて足掻いている。

 その姿がとてもカッコよく感じる。


「空。一つアドバイスだ」

「なんだ?」

「自分を信じろ。それはどこでも一番強力な武器だ。桃花や海の強さは君が一番理解してるだろ? 彼女たちの強さはこの上なく自分を信じ常に限界を突き破ってくるからだ」


 ……自分を信じろか。

 桃花は常に自分の力を信じている。

 海は常に自分なら出来ると信じてる。

 口に出さぬとも近くにいればそのくらい分かる。


「自分を信じられる人間は強いぞ」

「そうかもな」


 俺もいつかあそこに届くかな。

 もっと自分を信じれば……

 そんなことを考えないながら星に手を伸ばす。

 今は夜でいつか見たような満天の星空が見える。


「……なんて届くわけないよな」

「今は届かなくても届くようにするのが人間だ。人間に不可能なんて存在しない。なんて言ったて気が遠くなるような距離がある月に降り立った種族だぞ」

「真央は人を信じてるのか?」

「あぁ。人は可能性の塊だ。望めばなんだって成し遂げるポテシャルを誰もが秘めている」


 可能性の塊。

 頑張れば何でもできる。

 考え続ければ道は切り開ける。

 真央は本当にそういう言葉が好きだよな。


「私の好きな言葉に“七転八起”って言葉にがある。何度失敗しても前をひたすら向き、足を止めずなりたい自分になるために歩き続けるって意味だ」

「知ってる」

「空もそういう人間になるんだよ」

「……分かってるよ」


 何度も聞いた。

 それでも真央は繰り返して言う。

 何度でも。何度でも。


「さて、空。リベンジと行こうか?」

「リベンジ?」

「そうだ。天邪鬼に殴られたままじゃ屈辱だろ。そろそろ反撃に行こうじゃないか」


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