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世界調整  作者: 虹某氏
4章【嘘】
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幕間② 仕組まれた運命《解決編》

「……真央様」

「白愛。どうしたんだい?」

「絶対に海様に嫌われましたよ! あなたのせいで嫌われましたよ! どう責任を取ってくれるんですか」


 まったく騒がしい……

 これでも暗殺姫と名高き殺し屋だろ。

 少しは感情を隠すべきだと私は思うよ。


「知らないよ。そんなこと……」

「でも……」

「そんなこと言ったら。私だって嫌われたよ。しかも海だけじゃなくて空にも桃花にも響にもルプスにも嫌われた」


 分かってはいた。

 やるしかなかった。

 でもやっぱり大好きな人達に嫌われるのは辛い。

 もう今すぐにでも私は泣きたいね。


「しかし真央も飛んだ芝居を……」

「娘の初恋を応援しない母親がどこにいる」


 私がしたのは簡単なことだ。

 まずスーのライブ会場の防犯カメラで参加者の顔を一人一人確認していく。

 それから何人か海が惚れそうな人をリストアップしたあとに授業中にそれとなく提示。

 例えば上手く写真に合成して背景画に溶け込ませるとかしてね。

 それで海の目が少しでも動いたら間違いなく確定。

 その後は席を特定してチケットを発券した時に入力した個人情報を漁る。


「しかし良く思いつきますね」

「私を誰だと思ってる」


 それで彼の家を特定した。

 それからは夜中に転移で忍び込み睡眠中に“病院に行け”と何度も語りかけて潜在意識に働きかけた。

 そしたら私の思惑通りに病院に足を運んでくれたから上手いことバイトで入って適当な占いをして遊園地のチケットを渡しておく。

 その時に海の名前を出してほんの少しだけ意識を傾けさせておいた。


「でも私をあんな風に扱うなんて……」

「吊り橋効果先生はとっても偉大な存在なんだぞ」


 それから彼が遊園地に来たから夜桜に頼んで手刀で気絶させて遊園地に運んだ。

 普通に入ってゾンビに噛まれてしまったら取り返しがつかないことになるからね。

 それで海と会ったらそこに白愛を攻め込ませる。

 もちろん殺す気なんてサラサラない。

 ただ彼に海によって命を助けて貰ったという恩義を感じてもらうためだけの行いだ。

 それで彼も海も運命だと勘違いして無事カップルになれたわけだ。

 我ながら完璧な作戦だと思うよ。


「しかし嫌な仕事を押し付けて済まなかったね」

「……これで海様が幸せになるなら」

「幸せになる保証はないよ。そこから幸せになるかどうかも全ては海次第だからね」


 無事に好きな人と付き合えたわけだが例えば馬が合わずに別れてしまったらそれまでだ。

 私に出来るのは舞台を整えるくらい。

 あとは全て海次第さ。


「さて、白愛。私は少し行ってくるよ」

「海様の元へですか?」

「もちろんだ。私の可愛い海が必死に私を呼んでるからね」


 私はそんな会話をしながら桃花を抱き上げた。

 うん。重いな。

 やっぱり常人に女子高生をお姫様抱っこはキツい。


「……桃花。すまないが私の腕が限界だから不貞寝をそろそろやめてくれると助かる」

「……嫌」

「それじゃあ投げ飛ばすから覚悟したまえ」

「え、ちょっと! 乙女の扱いが雑じゃ……」

「笑って拷問する子が乙女なわけあるか」


 それから私は転移門を開き桃花を投げ捨てた。

 まったくこれでも私はアラフォーだ。

 少しは労わってほしいものだよ。

 とりあえず桃花なら受け身くらい取れるだろうし問題ないだろう。

 さて、私も海の可愛い顔を拝みに行くとしよう。

 それと少しばかり悪役になりにいくか……


「海。忘れ物だよ」

「……真央」


 海は私を力強く睨んでいた。

 はぁ……辛い……

 やっぱり海達には嫌われたくなかったな。


「……お兄様は?」


 いきなりそれか。

 まぁ予想通りではある。

 本人は無自覚みたいだが海は相当なブラコンだ。

 さて、覚悟を決めろ。私!

 嫌われる覚悟を!


「身柄を預からせてもらったよ。私の狙いは最初から空だからね」

「そうですか」


 もちろん多少はボヤかす。

 変に探られるのは面倒だ。

 でも心の中で海に気づいて欲しいという想いもある。

 気づいてくれると嬉しいな……


「……未だに私達の幸せをあなたは望んでますか?」


 この声のトーン。

 海は私と交渉する気か。

 もちろん幸せは望んでいるとも。

 だって私は海が大好きなんだから……


「もちろんだ。証拠に桃花も殺してないだろ」


 でもそんなことは恥ずかしくて言えない。

 それにあんな事をしたんだ。

 信じてもらえるわけがない。

 なら桃花が無傷なことで証明するしかない。


「それなら和都君には手を一切出さないでくださいね。好きな人を失って人は幸せになれませんから」


 狙いはそれか。

 答えはイエス。

 そんなの当たり前だ!

 目の前で好きな人を失う辛さはよく知ってる。

 そんなことを海に体験させるわけないだろ!


「たしかに海の言う通りだ。白愛のブレーキをかけられなくて済まなかったね」


 私はとりあえず謝っておく。

 もしも仕組まれた事だとバレたら面白くない。

 それに和都先生との関係も“ぎこちない”ものになるだろうからね。

 あの計画は墓場まで持っていこう。

 絶対に海と和都先生にだけは知られないようにね。


「分かればいいんですよ」

「彼には今後一切を手を出さないことを約束するよ」


 さて、ここまで言ったら安心してくれるだろうか。

 お願いだからしてくれ!

 私はもうこれ以上は海に嫌われたくないから!

 もう帰ろう……

 これ以上は私のメンタルが限界を迎える。

 いくらなんでもこの空気に耐えられない。

 ……と、その前に大事な事を言わねば。


「それと私達は鬼ヶ島にいる。空を奪い返したければ来るといい」


 これを言わねばならない。

 そうしないと何も始まらない。


「……むしろ奪い返しに来て欲しいんではありませんか?」


 随分と勘がよくなったものだ。

 しかし五十点と言ったところだ。

 もっとよく考えるといいよ。


「想像に任せるよ。それじゃあね」


 そして私は帰っていった。

 それから帰ってすぐ部屋に移動して枕を涙でグチャグチャにしたのは別の話であると思いたい。

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