193話 現代神話
「……また殺した。この手で何人も殺した」
真央は一人そう呟いていた。
俺はあれから真央に拉致された。
それから変な洞窟にいる。
まるでアリの巣のような洞窟だ。
「……真央。だからやめようって言ったのに」
「スー。これが私の選んだ道なんだ。今回のでやっと人を殺す感覚を思い出した」
それから真央は悲しそうに笑って呟いた。
“大切な人に嫌われる気持ちもねと。
あの一件で一番ダメージを受けてるのは真央なのか。
「あの生徒達の絶望した顔を見たかい?」
「うん」
「今まではあの程度なら何とも思わなかったのに今じゃこんなにも心が痛いよ」
「仕方ないよ。だって真央に優しさが戻り始めてるんだから」
こんな後悔するなら最初からしなければいいだろ。
馬鹿馬鹿しい。
「空。真央が人を殺したあとに後悔するのはいつもの事だから気にしなくていいよ」
「……馬鹿だろ」
「私もそう思うよ。でも馬鹿だって分かった上でやるのが真央なんだよ」
クソっ。
わけわかんねぇよ。
あれが必要なことだって言うのかよ……
「スー。教えてくれ」
「なにを?」
「私はあと何人殺せばいい?」
「ざっと七十億だよ。それが真央が殺さなければならない人数」
「……そうか」
七十億?
世界の総人口の殆どじゃねぇか!
「何度も言ってるだろ。世界を滅ぼすって」
「それに意味はあるのか?」
「あぁ。食料問題とか地球温暖化とか資源不足。それらの問題は全て人が減れば解決する。人は増えすぎたんだよ。だから争う」
彼女から出たのは正論だった。
何も言い返せない。
「人は減れば一致団結出来ると私は信じてるよ。だから一回文明を全て壊して再構築する。一言で言うなら世界調整さ」
「その行為に何の意味が……」
「私は見たいんだよ。全員が笑って心の底から生きてるって言える世界が。でもそれを作るためにはどう計算しても今の人口じゃ不可能だ」
優しい魔王。
文面だけ見ればそんな感じだ。
でもやってるのは殺人に変わりない。
しかし真央はそれを理解をしてる。
だから自分を魔王と名乗る。
「まずは人を減らす。それでオーストラリアに生き延びた人をまとめてそこに新国家を作る」
「この世界に存在する国を一つにする気か?」
「そうだ。そしてその新国家の王様はアーサーだ。本音を言えば空と悩んだが空にはもっと重要な役目を果たしてもらうことにした」
重要な役目?
一体俺に何をさせる気だ?
「空。君には神になってもらう」
「は?」
「目に見える神が出たら人はそれに従うしかない。だから君には生きる神話になってもらうしかない」
あまりにも飛躍しすぎだろ。
そんなことが出来るわけない。
「ちなみにオーストラリアの理由は適度に良い大きさの島だからだ。あのサイズじゃないと新国家を作ったところで失敗するからね」
「……本気なんだな?」
「当たり前だ。私はこの手で世界を変える!」
まったく。仕方ねぇな。
それならやってやるよ。
「真央。本心で答えろよ」
「どうした?」
「あの学校の生徒。どうして殺した?」
この答えだけは聞いておきたい。
そうしないとダメだ。
「計測だ。人が理不尽の前にどんな対応をするのか計測しておきたかった。そうやって様々なデータを集めないと新国家は間違いなく失敗する」
「お前の理論的な考えがあってのことなんだな?」
「当たり前だ」
「だったらやってやるよ。お前の言う通り神になってやるよ」
もう真央は引き返せねぇ。
だったら真央のサポートをしてやるしかないだろ。
「……悪いな」
「気にすんな。お前は俺の母親だろ」
「まだ母親と思ってくれるのか……」
先に母親だと言ったのは真央だぞ。
あれから俺も海も真央を母親として接してきた。
「空。君には私の計画を全部話す」
「任せろ。全て覚えてやる」
「でも一番大事な事を覚えておけ。計画の最後で私は死ぬ」
知ってた。
なんとなくそんな気はしてた。
「それで殺す時は空の手で殺してほしい。私という最大悪を殺すことによって圧倒的な力を世界に見せ付けて神としての立場を絶対の物にしてほしいんだ」
……辛い仕事だ。
でもやると決めたからにはやるしかねぇか。
「分かった」
「さて今日から大忙しだ」
「体は壊すなよ」
「分かってる」
桃花。悪いな。
少しだけお前から離れるよ。
でも次に会う時はもっとカッコよくなってやる。
桃花に相応しい男になってやる。
だからそれまで待っていてくれ。




