表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界調整  作者: 虹某氏
4章【嘘】
184/305

183話 音楽の授業

 あれから海鮮丼を無事に完成させた。

 正直に言ってめちゃくちゃ美味しかった。

 もうマグロが口の中で溶ける溶ける。

 しかもウニはすっげー濃厚だしエビも旨みが爆弾のように弾ける。

 まぁそんな感じに海鮮丼を食べ終え今は五時間目ですよ。


「というわけで音楽の授業だ。この超絶特進コース設立してから初めての音楽だ」

「歌とかやる必要があるのか……」

「馬鹿言え! 音楽の授業なんて桃花のピアノとスーの歌の最強コラボを聞くため名目に決まってるだろ! 誰が空みたいな素人の歌をき聞きたいと思うか!」


 完全に私益じゃねぇか!

 何度も言うが本当に授業こんな感じでいいのかよ!


「しかし海鮮丼美味しかったよ」

「そりゃどうも。それと一応お摘みにマグロの塩焼串のウニソースなんて作ったが……」

「ウニとマグロって合うのか?」

「それはちゃんと工夫したから安心しろ。味見したが問題無しだ。あと響。あれを」


 俺は指を鳴らす。

 良い音楽には良い食材が必要不可欠。


「フグのお造りよ!」

「あ、私が毒抜きしたやつだ」

「まぁ先程食べたあとであまり入らないと思うがお菓子感覚で気軽に食べてくれよ」

「そうさせてもらうよ」

「ねぇズルくない! 私は歌うから食べれないんだよ!」

「スーの分も残してるから安心しろ」


 桃花とスーの分は少し多い。

 流石にそうしないと悪いからな。


「それなら良かったよ」

「スー。とりあえず即興作詞って出来る?」

「よゆーです。人魚族を舐めるなです」

「了解。それじゃあいくよ」


 桃花の指が盤上を踊り始めた。

 それと共にピアノの音が流れる。

 彼女の音楽には楽譜がない。

 常に作曲しながらの演奏だ。


「私達は〜♬」


 しかしスーも化け物レベル。

 桃花の音に合わせてその場で作詞していく。

 なんていう音楽だ。

 間違いなく人間業じゃない。


「……なんですかこれ」

「そう言えば海は桃花のピアノ聴くの初だな」

「はい。頭の中で楽譜を作りながら演奏って不可能です。そのくらい音楽に関して素人の私でも分かります」

「海。たしかに桃花は規格外だがそれに付いてこれるスーも中々だと思うんだよ」


 こんなのは音楽じゃない。

 これはもう音楽の域に収まる音楽じゃない。

 もっと上を行く存在だ……


「いや、まさかここまでとはね」


 真央が震えている。

 これは感動のあまり震えているのだ。

 人はあまりにも想定を超えたものを見ると震えることしか出来なくなる。

 今のがまさしくそれだ。

 俺達は彼女達に魅せられていた。


 ◆ ◆


「中々やるね! これはどう?」


 私は音を飛ばす。

 しかしスーはすぐに捌いていた。


「良いよ! 良いよ! 凄く良いよ!」

「私は空君のお嫁さん。このくらい出来て当然!」

「あぁ桃花ちゃん! 最高! もう最高だよ! こんなに心躍る音楽は何年ぶりかしら?」


 それは私もだ。

 まさかここまで興奮出来るとは。

 どんな無茶苦茶の音を飛ばそうがスーは綺麗に料理してくれる。

 逆もまた然りだ。


「私達は最強ね!」

「同感! スー。次の音いくよ」

「任せて。次の歌詞を少し重くしても良き?」

「問題無し!」


 私は必死に指を走らせる。

 指を動かすのが凄く楽しい。

 スーはどう返してくれるのか。

 それを考えるのが楽しい。


「優れた音楽家とは一種の小説家である。その通りだね」

「そうだね」


 今ではスーと一心同体。

 彼女が何を考えてるか手を取るように分かる。


「スー。そろそろ残虐性を表現したいんだけど?」

「分かった。いいよ」

「了解!」


 私は低音を使って残虐性を生みだした。

 音楽で作る残虐性だ。


「楽しいね! 桃花。次はファンタジーっぽく出来る?」

「もちろん! 上手く調理してあげるわよ!」


 こんなに音楽で心踊ったことがあっただろうか。

 間違いなくなかった。

 誰かと合わせるのがこんなにも楽しいとは!


「桃花! グッジョブ!」

「スーもね」

「ちょっと荒らすよ! ヴィヴァーチェでお願い!」

「アニマートじゃダメかな?」

「桃花がそう言うならアニマートで! でも三十二小節先はアレグロ・アツサイのクレッシェンド寄りにして!」

「分かった。任せて!」


 私は頭の中の楽譜をスーの要望に合わせて書き換えていく。

 三十二小節先をアレグロ・アツサイ。

 すなわち充分に速く。

 音楽用語は曖昧だから嫌いだ。

 それでクレッシェンドはだんだん強く。

 つまり速くしながら強くしていけと。

 だったら次の音はこうする。


「ナイス!」

「スー。他に要望は?」

「そうだねないよ。それとそろそろ終わりを決めないとね」

「そうね。私の予定ではあと二千と八百二十七小節で終わりにする予定だけどスーは?」

「桃花に合わせるよ」


 少し長いのは仕方ない。

 思ってた以上に楽しいのだ。

 時間に換算すると平均的にというよりよく見られる四分の四拍子の速さ百二十で一小節で二秒。

 ただ私達の場合は適当に曲の速さも拍子もめちゃくちゃ変えまくってるから軽く見積もってもあと五時間。

 たったの五時間だ。


「そろそろ展開に行こうかしら!」

「分かった! それに合った歌詞にするね!」


 ◆ ◆


「いや凄かった! 完全に私の想定を遥か上を行く演奏だった!」


 演奏を終えた時には既に太陽が落ちていた。

 しかし不思議と長いという感じは全くしなかった。

 それどころか物足りないくらいだ。


「流石に疲れたよ」

「あんな長時間続けて歌ったんだ。無理もない」


 ここでアンコールをしたいがそんな事を始めたら終わるのは深夜になってしまう。


「たしかにこの長時間続けて演奏する体力も怖いが常にその場で作詞作曲をしながら演奏してるとい事実が拙者は一番怖ぇよ……」


 たしかに響の言う通りだ。

 彼女達は常に作詞と作曲を行っていたのだ。

 間違いなく人外のレベル……

 常人なら間違いなく不可能だ。


「それは感覚だよ。感覚でやるの」

「すみません。何言ってるかさっぱりです」


 そんなたわいのない会話をしてる時だった。

 扉をトントンと叩く音がした。

 こんな場所に一体誰が……


「失礼。真央先生」

「これはこれは死月君。こんな隔離校舎に何か用かい?」


 かなり久しぶりだ……

 彼は俺達のクラスの担任だった男……


「はい。流石に授業を終えるのが遅すぎます」

「何か問題が?」

「いいえ特には。ただ遅すぎると悪目立ちしますから忠告までに」

「私の転移で帰らせるから問題ないよ」

「はぁ……こんな夜だと電気が目立って生徒の話題になるから言ったんですけどね。まぁ大した問題じゃありませんが私は面倒事は避けたいので」


 どこか掴めない男……

 そして真央の手駒の一つ……


「それと空と桃花が消えてクラスの様子は?」

「最初の三日くらいは話題になりましたよ。でも今では綺麗さっぱりです。本当に学校っていうのは表面上の浅い関係ばかりだ」

「そうかい? 私はそうだとは思わないけどね」


 しかし彼は何故ここに?

 まったく意図が掴めない。


「あと二週間後に終業式があります。そろそろ心の準備をした方が良いのでは?」

「……出来てるよ」

「そうですか。魔王様。私は貴方の指示に忠実に従いますのでどんな些細な事でも命じてくださいね」


 それから死月先生は膝をついて真央に頭を下げた。

 まるで騎士みたいに……


「分かってる。それとバレンタイン祭で私が初めて生徒達に演説をしたが反響はどうだった?」

「この上なく悪いですね。モノマネされて笑われたり小馬鹿にされてますよ。一部の生徒を除いてね」

「死月遊戯。命令だ。その一部の生徒に細心の注意を払え」

「御意」


 なんだ?

 一体真央は何をする気か……


「それと馬鹿にされるのも癪だ。赤点でも付けて地獄を見せてやれ」

「殺さなくてもよろしいのですね?」

「あぁ。今はその程度でいい」

「貴方の赴くままに」


 それから死月先生は去っていった。

 まさか真央の前ではあんな態度をとるとは……


「彼にはこの学校の事を一任していて定期的に連絡を受けているんだ」

「それより真央。バレンタイン祭のスピーチにもやっぱり意味があるんだな?」

「当たり前だ。それと君達に提案がある」


 それから真央はニッコリと笑った。

 まるで楽しいことを始める前のような笑顔だ。


「終業式の日に遊園地に行かないか? 私もたまにはストライキをしたい気分なんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ