18話 対応
「空様。遅れてしまってすみません」
白愛が丁寧にそう言う。
来たのが桃花が人殺しになる前で良かった。
「来てくれて助かった。それでなんで白愛がここにいるんだ」
「……それについては私が説明するわ」
白愛の後ろから黒いワンピースに身を包んだ黒髪の可憐な少女が現れた。
「……海様。ご命令通りお父様を倒させていただきました」
白愛が畏まって軽くおじぎをする。
しかしどうしてここに海が?
そんな事を考えてると桃花が口を開いた。
「私だって何もしないわけじゃないよ。二階に上がったと同時に海ちゃんにメールで助けを求めたの。そしたら偶然近くにいて駆けつけてくれたの」
桃花が増援として呼んでくれたのか。
しかし実際は桃花一人でどうにかなっただろう。
桃花はあくまで保険で白愛達を呼んだだけだ。
「お父さんにはキツく私の方から言っておくわ」
「……海は親父の能力について知ってるか?」
そこが重要だ。
もし知らなければ海が何をされるか分かったものではない。
「知らないわ」
やっぱり知らないのか。
情報の共有は大切だ。
伝えておこう。
「親父の能力は手の平で触れた人の好きな記憶を任意で消すというものだ。気をつけろ」
「そう。まぁ私には白愛がいるから特に気をつける必要はないわね」
そういえば海には白愛がいるんだよな。
それだったら無駄な心配か。
「桃花。怪我はないかしら?」
「うん! 特にないよ」
「なら良かったわ」
桃花は怪我する側じゃなくてさせる側だ。
それにしても前の親父はこんなんじゃなかったとみんな述べている。
確認も込めて海にも聞いておこう。
「海」
「何かしら?」
「お前と暮らしてた時も親父はこんなヤツだったか?」
「いいえ。正直私も人が違いすぎて驚いてるわ」
「……そうか」
間違いなく何かがあったと考えるべきだ。
意見の共有のためにもう一度白愛に尋ねる。
「白愛はどう思う」
「たしかにお父様とは完全に別人ですね。容姿こそお父様であるものの中身が違うような……」
「やっぱりそう思うか」
しかしもう追求のしようがない事だ。
今はとりあえずコイツをどうするか考えねば……
「警察に渡すのが一番だがヤツの記憶を消す能力もあるし……」
「それなら私がどうにか出来るよ」
関係のなかった桃花が話を遮り横から入ってきた。
どういうことだろうか?
「たしかにエニグマ関係者の桃花なら可能ね」
桃花の突拍子もない発言に海が相槌を打つ。
ここにきてのエニグマか。
一体エニグマとは何なのだろうか?
「私のお父さんはエニグマの職員。エニグマはこういう超能力や異種族の犯罪を取り締まったりする仕事の人だから大丈夫だと思う」
それがエニグマ……
秘密組織みたいなものだな。
「……それって神崎家専門の警察じゃないか」
しかし考えてみれば超能力が使えるのは神崎家だけ。
一家系を見張るためにそんな大規模なのは……
「空様は勘違いしてるようですね」
「というと?」
「超能力が使えるのは神崎家だけというわけではありません。神崎家以外で能力を使えるのを“使徒”と呼んでいます。まぁ数が少ないのは事実ですが」
前に海が言ってた使徒とはこういう意味か。
やっと謎が解けた。
そして世界は思ってた以上に不思議に満ちているらしい。
「だからオカルト関連の本が多かったでしょ?」
言われてみればこの家にはオカルト関連の本が多かったな。
それは親の職業柄ってわけか。
「……ってことは吸血鬼とか実在するのか?」
「もちろん。数こそは少ないけど私のお父さんの部署は超能力者だけじゃなくて吸血鬼みたいな異種族も取り締まってるから」
もう何が来ても驚かない気がする。
そこら辺は完全にファンタジー世界の存在だと思ってた。
しかし今日でその常識は壊れた。
「そういうば桃花と海って仲良いんだな」
「うん! だって親友だもん!」
いつの間にそんな関係になっていたのか。
ていうか会ってから二日も経ってないよな。
まぁ別によいが……
「とりあえず明日にはお父さん達が帰ってくるからとりあえずそれまでは縛っとくね」
「そういうば桃花のお父さん達ってどこにいるんだ?」
「丁度海外から帰ってくるところだから海の上じゃないかな?」
「なるほど」
海外に行ってたから両親が家にいなかったのか。
アニメとかでよくある親は仕事の関係で海外にいないというやつか。
「あと私達も今夜は泊まってくわ。もしもなんかあった時に白愛がいないと対処出来ないでしょ?」
海の言う通りだ、
縛ってもなんかしらの方法で抜けられて記憶を消されでもしたら最悪だ。
「白愛もそれでいいかしら?」
「えぇ。構いません」
でも白愛がいるなら抜けられたとしても簡単に対処出来るだろう。
「みなさま夕食は食べましたか?」
「あぁ」
「そうですか。私達はまだなので台所と食材お借りしてもよろしいでしょうか?」
「いいよー」
「ありがとうございます」
そして白愛と海は一階に降りていく。
白愛の料理を食べたいが生憎先程食べたばかりでお腹は膨れており入りそうにない。
「……桃花のお父さんの仕事について聞いていいか?」
「どうして?」
「ただの好奇心だ」
「なるほど。私のお父さんが働いてるのは超能力や異種族の犯罪を取り締まったり調査するの。でもそんなに能力者も異種族もたくさんいるわけじゃないから職員の数も少ないの。そしてそれはエニグマって呼ばれていて世界に五つ支部が存在するの」
おそらく日本国内の超能力犯罪だけでなく海外の犯罪にも駆り出されるのだろう。
一体支部がどこにあるのか気になるところだ。
「エニグマのトップは“局長”って呼ばれていて能力者や異種族みたいな人では対応出来ないものの逮捕を行ってるからお父さんなら対処出来ると思ったの」
それで超能力者である親父をエニグマに引き渡すというわけか。
「それとエニグマと警察の違いは戦闘力と超能力等への理解だよ。能力者や異種族は普通の人間なんか簡単に殺せる人が多い。だからエニグマの人たちは卓越した戦闘能力を持ってる人が多いの。そして目には目をって事で能力者もいるわ」
まぁそりゃ能力者はいるだろう。
逆にいないと考える方が不思議だ。
「でも流石に白愛さんレベルの戦闘力の人はいないけどね」
「……大体どのくらいのレベルの人が集まってるんだ?」
「強さだけで言ったら神崎君と同じぐらいだよ。多分神崎家と勝負したら経験の差で負けると思うけど」
俺と同じくらいか。
逆を言えば俺でも経験の差を埋めれば超能力者に対応出来る力はあるという事だ。
「他になんか質問ある?」
「特にない。ありがとう」
「どういたしまして」
それにしてもまだまだ知らない事だらけだな。
そして謎はまだ残る。
桃花とファミレスに食べに行ったあの日に漏らした人の名前。
夜桜という人物名。
今思えばあれは俺がどこまで知ってるかの確認だったのではないだろうか。
「そういうば今は私とお兄ちゃんと神崎君と海ちゃんと白愛さんって五人もいるね」
「そうだな」
桃花が突然そう言い始める。
だからなんだと言うのだろうか?
「ってことは人生ゲーム出来るんじゃない?」
あぁ人生ゲームか。
それにしても桃花はホントに人生ゲーム好きだな。
「ちょっと海ちゃん達誘ってくるね!」
桃花は俺の返答を聞かず階段を駆け下りていった。
まるで子供みたいだ。
考えても仕方ないし全て終わった。
俺もぼちぼちみんなの元へ行くとするか。
「空様!遅いです!人生ゲームやりましょう!」
いつになく白愛のテンションが高い気がする。
かなり浮かれているな。
「早く!」
俺は白愛に手を引っ張られリビングに連行された。
白愛の体温を感じるのは凄く久しぶりだ。
久々に賑やかな夜。
海もいて白愛もいて桃花もいて雨霧さんもいる。
みんないる夜だ。
ようやく日常が戻ってきたんだ。
時としてはあまり長くない。
しかし俺には長く感じた。
俺はこの後、快くまでこの時間を楽しんだ。
そして余談だが今日の人生ゲームでも誰一人として白愛に勝った人はいなかった。