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世界調整  作者: 虹某氏
4章【嘘】
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177話 必然テンペスト

「……これは酷いな」


 俺達は街に来ていた。

 ちなみにアーサーとルプスはお留守番だ。

 そして転移で来たのは黒魔女によって焼かれた街だ。


「私も想像以上だよ。黒魔女は間違いなく人としての心が死んでるね」


 辺り一面から死の匂いがする。

 周りには顔が重点的に焼かれて見分けの付かない死体だらけだ。

 いるだけで気分が悪くなる。


「ダメだね。少し触っただけで肉がボロボロに崩れちゃうよ。死体として残ってるのが奇跡って言ってもいいくらい焼かれてる」

「お兄様。あれを見てください」


 海が指を指す方向を見る。

 そこには子供の焼死体を抱き抱えて死んでる人の死体があった。

 恐らく親子だろうか……


「真央。黒魔女の場所はどこだ?」

「今回は手を貸さないと言ったはずだ」

「そうか」


 胸糞が悪い。

 こんな感情を抱くなんて久しぶりだ。


「ここからは別行動だ。竹林行くよ」

「……おう」


 そうして真央と竹林は街中に消えていった。

 俺達三人はこの場に残された。


「ねぇ空君。この人達って本当に焼かれて死んだのかな?」

「さぁな。死因すら分からないくらいに焼かれてるから何もコメント出来ねぇよ」

「そっか。まぁとりあえず終わらせちゃおうか」


 しかしどうやって探す?

 間違いなくこの街にはいないだろう。

 聞き込みをしようにも誰一人として街にはいない。


探知(サーチ)


 桃花が靴底を鳴らして音の反響で人を探し始めた。

 でもなんとなく結果は読めている……


「ダメ。周囲五キロ以内に人は誰もいないよ」

「なるほどな」


 参ったな。

 完全に八方塞がりだ。


「でも近くに馬が一頭いるね。まぁ街の外で野良だけど」

「桃花。動物と会話は?」

「流石にそれは無理かなー」


 そういえば黒魔女は森を焼き払ったとも言ってたな。

 だったら馬を捕まえてそこに行くか。


「とりあえず真央の手を借りられない以上は足の確保からだね」

「あぁ」

「とりあえず私に捕まってください。蝶化して一気に馬の元へ行きますから」

「頼む」


 桃花は海の背中にぎゅっと捕まり俺はいつもの事ながら海にお姫様抱っこされる。

 その際に海の負担にならぬよう桃花と俺の体重を軽くしておく。


「……いました」

「分かった」


 桃花が海の背中から手を離して地面に降り立つ。

 それから迅速に馬に触れた。


「うん。終わったよ」

「何をしたんですか?」

「音波で脳を刺激して動きを操るだけだよ」


 こんな器用な真似出来るのは桃花くらいだ。

 脳を音で操るなど俺には間違いなく不可。


「そんで森はどこ?」

「地図によるとずっと北だな」

「了解」


 桃花が馬に乗った。

 そして桃花が俺を手招く。

 俺は大人しく桃花に従ってお姫様抱っこされる。

 ちなみに海は後ろで桃花の腰に手を回して捕まってる。


「やっぱり三人だと無理があるな」

「んー。まぁ仕方ない! 行くよ!」


 ちなみに全員の体重を軽くしたから馬への負担はほぼゼロに等しい。


「それにしても黒魔女は何で森を焼いたんだろ?」

「さぁな」


 それにしても馬が走る度に桃花の胸が何度も体に当たる。

 その度に少しばかしの罪悪感が襲う。


「そういえば空君。腰の剣は?」

「前に真央に貰った。もし戦闘になったら使う予定だ」

「そっか」


 俺の武器は剣で桃花が槍。

 海が銃と見事に被らないものだな。


「なんか三銃士みたいな」

「そうか?」

「まぁあくまで私のイメージだから気にしないで」


 剣と銃と槍との三銃士か。

 まぁ面白いと言えば面白いな。


「しかし時間かかるねぇ」

「まぁ20キロ近く離れてるしな」


 そういえば黒魔女はどこで暮らしていたんだろう?

 そこに行けば手掛かりが掴めるのではないだろうか。


「まぁ場所が割れないのは私達の情報が竹林に依存してたから仕方ないね」

「あいつ仕事してたんだな」

「雰囲気は無能なのに実際はかなりの有能なんだよねぇ」


 それは分かる。

 ガチで使えなそうなのに振り返るとただの有能でしかない。

 もしかしてあの無能な雰囲気は相手を警戒させないためにわざと出してるのではと思うほどに……


「そういえばここら辺の風は変な匂いがします」

「変な匂い?」

「はい。鼻を刺すような強烈な毒の匂いです」


 海の嗅覚は相変わらず凄いな。

 俺達はまったく気づかなかった。


「……警戒した方が良さそうだね」

「そうですね」


 俺達はそれから速度を上げて急いで森を目指した。

 なんとか地図で森を示してる場所に着くもそこには草木一つ無かった。

 もっと言うなら焼け野原……


「……酷すぎます」

「そうだな」

「しかも焼いた上で毒を染み込ませて地面を殺しています……」


 はっきり分かる。

 海レベルの嗅覚が無くてもハッキリと毒の匂いがする。

 反吐が出そうになるほど酷い匂いだ。

 近くにいるだけで吐き気すらする。


「空君。風で飛ばしちゃダメだよ。毒が広がっちゃうから」

「……分かってる」


 この毒は強烈過ぎる。

 なんなんだこれは……

 立ってるだけで頭が痛くなってきた。


探知(サーチ)


 桃花が近くに誰かいないか探す。

 こんなところじゃ誰もいないだろう。


「地下にめちゃくちゃデカい生き物がいる。大きさで言うなら8mくらい……」

「……マジかよ」

「うん。恐らく魔物だけど今までの魔物とは次元が違う。下手したら私達三人でも倒せるか怪しいかも」


 エニグマ推定ランクってやつで言うならSSってやつか。

 もうSで最高にしろって話だが……


「神話に出てくるような化け物よ」

「黒魔女は何をする気だ……」

「とりあえず早く動いた方がいいのは間違いないね」

「そうだな」


 しかし一体何がいる?

 とりあえずここから離れて情報を照らし合わせねぇとな。


「それと朗報。人を見つけたよ」

「本当か!?」

「うん。この焼け野原の中心ね」


 ……間違いなく黒魔女。

 やるしかねぇか。


「お兄様。よく目を凝らせば視認できます」

「……そうだな」


 そこには灰色の髪の女がいた。

 詳しい容姿は見えない。


「行きますよ」

「おう!」


 再び馬に乗り走り抜ける。

 そうして黒魔女の元へたどり着いた。


「……お前が黒魔女か?」

「以下にも。そなたらはエニグマの使いの者か?」

「あぁ……」


 肌はかなりカサカサで驚くぐらい白い。

 髪も殆ど艶がない。

 可愛いとは掛け離れた容姿。

 それに何よりガスマスクで一人だけ毒対策をしてる。

 だが貫禄はある。


「まいったな。もう少し時間がかかると思ったんだけどね」

「……何のために街を燃やした!」

「その方が君達に都合が良いだろ」


 何が都合が良いだ!

 人が死んで都合の良いわけないだろ!


「逆に問おう。君達はどうして私を殺そうとする?」

「悪だからだ」

「そうか。しかし悪と善は見方によって変わるぞ」


 ダメだ。こいつとは話が合わねぇ。

 しかし一向に仕掛けてくる気はない。


「お前の目的は何だ?」

「平穏さ。この森も街も私の平穏のために焼いた」


 こいつほどの悪は初めて見た。

 根っから腐ってやがる。


「ねぇ空君」

「どうした?」

「誰か来てる」


 その言葉と共に黒魔女の表情が変わった。

 まるで想定外の事が起こったかのように。


「あの、馬鹿!」


 そして黒魔女はそう言うと煙幕を撒いた。

 それから煙幕に紛れて俺の首をナイフで狙う。


「空君は殺させないよ」

「……クッ」


 でも桃花が槍でナイフを弾いたから無傷だ。

 どうやら戦闘が始まったらしいな……


 ◆ ◆


「ふむ。間違いないね」

「おい、どういうことだ?」

「黒魔女は今回の一件は白だ。犯人は別にいる」

「は?」


 焼け残った街には二人の人がいた。

 竹林と真央である。

 彼等は彼等なりに捜査しているのだ。


「……よく死体を見たまえ」

「全部同じじゃねぇか」

「馬鹿言え。焼けたと言っても骨は残ってる」

「だから……」


 その時に竹林は気づいた。

 この死体の異様さに。


「……骨格が殆ど同じだと?」

「あぁ。とても気味が悪いよ」

「真央。拙者の予想を話して構わないか?」

「もちろん」


 竹林は少し息を吸う。

 しかし焦げカスが喉に入り噎せた。


「……ゴホッ……ゴホッ」

「無茶はするなよ」


 真央は優しく竹林の背中を叩いた。

 それにより彼は少しだけ息を整える。


「今回の件だが真央の言ってたあの勢力の襲撃があったんじゃないか? それで黒魔女は応戦すべく街を焼いた」

「ふむ。では何故住民の死体まで焼く必要が?」

「それは……」

「やはりもう少し調査しようか。君にとっても良い勉強になるだろう」


 再び街の中を歩き進める。

 何か分かるようなものがないかと探すために。

 しかしこの場はこの上なく完璧に証拠隠滅がされていた。

 そして三時間くらい経った時だった。


「……やっぱり予想通りだな」

「どうした?」

「黒魔女はかなり誤解を招きやすい性格。それに何より視野がとても狭いらしい」

「は!?」

「まぁ一言で言うなら空達と戦いを始めたよ」


 真央は海経由で全て聞いている。

 つまり解散したとは言え現状は把握出来るのだ。


「しかし毒で魔物。もしかしたらヒュドラかもね」

「……ヒュドラ?」

「九つの首を持つ化け物。体液は強力な毒で鉄すらも溶かし、ヒュドラ周辺は毒されていく。何より厄介なのが彼の周辺は毒ガスになり数分でも近くにいれば歩くのも困難になる」


 真央は熱弁に語っていった。

 その魔物の特性を……


「おいおいやべぇだろ」

「間違いなくヤバいね。もしもヒュドラが目覚めるようなことになったら私も加勢に行くよ。流石に海や空の身が危なすぎる」

「あいつらでもか?」

「当たり前だ。ヒュドラに勝てるのはルプスくらいしかいない」


 実はルプスの戦闘能力はとても高い。

 真央は彼女の正体を知っている。

 だからこのようなコメントが出来る。


「ルプスはそんな強いのか?」

「あぁ。本来の姿を取り戻せばの話だけどね」

「本来の姿?」

「それはまだ内緒だ」


 しかし真央は呑気に話しながらも必死に頭を回す。

 どうやったらヒュドラを倒せるか。

 本来の姿ではないルプスでは勝てない。

 スーの洗脳も魔物だから効かない。

 夜桜なら五分五分で勝つ。

 ダークナイトの戦闘能力は高いのはたしかであるが不明だから賭けるには危うい。

 しかし空達のために夜桜に危険を背負わせる気にはならない。


「ていうかこのままだと黒魔女が死ぬぞ!」

「それは構わん。黒魔女には空達の教材として死んでもらうつもりだからね」

「やっぱりお前のこと完全には好きになれねぇわ」

「当たり前だ。魔王を好きになる方が人としてどうかしてる」


 真央は冷酷だ。

 どこまでも冷酷だ。

 だからこそ普通に理不尽を行う。


「私は君から右手を奪った張本人だぞ」

「悪いな。その件に関してはどうでもいいんだわ」

「……ほう?」

「何度も言うようにお前が右手に魔人の肉を埋め込んでなかったら拙者は変われなかった。変わるきっかけをくれた人を恨むわけないだろ」

「……本当に君は馬鹿だな」


 竹林の言葉は真意であった。

 紛れもない本心だ。


「それにお前はちゃんと責任取って拙者に生きる術を教えてくれてるじゃねぇか」

「……教員である私が教えを乞う人に教えないなんて出来ないわけないだろ」

「たしかに拙者は真央の事を好きになれない。でもそういう所があるから嫌いにもなれないんだよ」


 竹林はそっと真央の頭に手を置いた。

 それから優しく撫でる。


「や、やめろ……恥ずかしい」

「はいはい。真央先生」

「その言い方もやめろーーーー! なんか凄く背中がムズムズするから!」

「ワガママの多い先生だな」


 竹林はヤレヤレと言いながら手を離した。

 真央はヤカンのように顔を真っ赤にしている。


「……帰ったら大量の課題押し付けてやる」

「どうぞ。お前の課題は役に立つから大歓迎だ」

「後悔するなよ」

「当たり前だ。拙者は変わると決めたんだ」


 しかしその時の竹林は知らなかった。

 その課題により徹夜を強いられることを。

 その発言を後悔することを。

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