173話 授業風景
あれから時はかなり経ったと思うがまだ一週間だ。
バレンタイン祭を終えて三日休み。
月曜日から真央担任の新しい学校に通うが金曜日は真央の気まぐれで休み。
しかし金曜日は剛田の件でゴタゴタ。
土曜日はデートだがスーの乱入。
日曜日は特に変哲のない日常
月曜日も同じく日常。
そして現在は火曜日。
すなわちマリンのライブ前日だ。
「バレンタイン祭の景品で明日は海と空が休みだ。問題は水曜日に何をするか……」
「真央。話題を変えないでください」
「すまない。それでマホーンの氷魔法理論により氷魔法が水生成の延長線上ではないことが証明されたわけである」
授業は真央がかなりの頻度で脱線することを除けば平常通り進んでいる。
しかし授業の終了タイミングは真央の気まぐれだ。
五分で飽きて切り上げることもあれば話が盛り上がりすぎて三時間通しで続くことすらある。
間違いなく異質な授業。
「でも化学的に考えてるならば氷とは水の状態変化であるため氷魔法は水に分類されると思うのだよ。そこで昔に【雑】の使徒マラーが雑の神に訪ねたら人に任せるということでとりあえず水と氷は別扱いとなった」
なるほどな。
なんかタメになるようなどうでもいいような……
「あと空。【知】の能力で再現出来る元素魔法を教えてくれるか?」
「火と風と雷だ」
「そうだ。やはり空でも水と氷は出来ていない。だから私は下手したら水と氷は同一なのではと考えるのだよ」
ハッキリさせろ。
なんかモヤモヤさせるから。
「さて、桃花。君はどう思う?」
「そうね。たしかに水も氷も宝石魔法で起こす際にはサファイアが一番効率が良いって共通している。だから十分その可能性は高いと思うよ」
「そうだろ?」
「でも術式が根本的に違うよ。そこについて真央はどう説明するのかな?」
そうなんだよなぁ。
つまり変な話をするから解釈で簡単に変わる。
魔法理論にはそういうあやふやな物が多い。
しかも殆どが使徒が神と対談して得た情報を元に組み立てられている。
あの神たちは平気で嘘をつくような性格をしてるから真偽の見極めが難しい。
「そもそも私はまず術式の存在を疑問視してるよ」
「でも術式無しでは魔法は使えないよ?」
「いや、言霊現象や呪いとかを魔法と捉えるならば術式無しでも魔法が起こってることになる」
「なるほどね」
言霊現象は謎が多い。
例えばガチャで“当たれ!”って呟くと実際に当たるという偶然に無理矢理名前を付けたようなもの。
呪いも言ってしまえばそうだ。
「だから私は術式とは見えない何かを可視化させて干渉を可能にして人類が魔法を使うための技だと踏んでいる」
「その見えない何かって?」
「それは今日の魔法授業の宿題にしよう」
「魔法理論が根本から覆るようなものを宿題にしないでくれるかな? ていうか自分が解けない問題を人に押し付けるのって凄く酷いと思うよ!」
まぁこんな感じに座学は行われてるわけだ。
なんていうか誰が先生なのか分からない感じで……
「そうだ。あとあれをやろうと思ってたんだ!」
「あれ?」
「粉塵爆発さ! あれは覚えといて損はない」
「それ幼稚園児の時にやったから私は降りるよ」
「そう言うな。とりあえず小麦粉用意するよ」
次の時間は物理か。
粉塵爆発はたしか化学より物理に分類されるはず。
まぁどっちでもいいか。
どうせ真央はカリキュラムなんて考えてない。
つまり授業時間の調整とかやるつもりもないはずだ。
「パパ。粉塵爆発ってなに?」
「これから真央が説明するからそれまでのお楽しみな」
「はーい」
俺はルプスの頭を撫でる。
今更だがなんで高校に八歳児である俺達の娘がいるのだろうか。
「……ロリコン」
「娘の頭を撫でてロリコンはないだろ!」
「うるさいです。ルプスちゃん。こんな変質者なパパは放っておいてお姉ちゃんと遊びましょうね」
「うん。海お姉ちゃん!」
ロリコンはどっちだ……
毎晩ルプスを抱き枕にして寝て……
「さて、実験を始めようか。まず粉塵爆発というのは……」
◆ ◆
現在の時刻二時。
それなのにまだ昼食にすら入ってない!
「おや、もうこんな時間か。そろそろ弁当の時間にするか」
「……せめて昼食の時間くらいは他のクラスと統一してくれませんかねぇ」
竹林が愚痴るようにそう言った。
いいぞ言ってやれ!
「ていうか私考えたんだ。弁当やめて四時間目を毎回家庭科にして空に作らせるのが一番平和じゃないか?」
「いいなそれ」
は?
おいおい待て!
このクラス真央も入れて七人だぞ。
七人分も作れというのか!
それにそんな先生の私利私欲で授業を決める学校がどこにある!
今に始まったことではないがそれでも……
「ていうか空。見たまえ!」
「どうした?」
真央がなんかキャラ弁を見せてくる。
凄く子供っぽい弁当だな。
「どうだ。私だってやればこのくらい出来るんだぞ!」
「……そうか」
このくらいでドヤ顔されても反応に困る。
何も言えねぇよ……
「反応が薄いぞ」
「キャラ弁ではしゃぐ大人にどう反応しろと?」
「……それもそうだな」
はぁ……
普通の学校は退屈ではあるが真央のよりは疲れない。
無駄にテンションが高いから凄く疲れる……
「あら、凄く可愛いじゃないですか」
「海は分かってくれるか。とくにこの耳の辺りの色表現とか凄く大変で……」
「どれどれ。私にも見せて」
「私も見たいですー」
なんか女性陣が全員キャラ弁で盛り上がってる。
桃花が望むならそのくらい作るのだが……
「空。こっちはこっちで弁当食べましょ」
「そうだな」
俺はアーサーに誘われ彼の元へ行く。
そこには既に竹林もいた。
「竹林。そう言えば右腕どうなった?」
「とりあえずは動くようになった。ただ変色は治らねぇし聖包帯は外せないがな」
「そうか」
「あと苦しいが包帯を取った時の出力の調整が出てるようになった。今なら五パーセント出力で二分動ける。もっと体を鍛えれば今以上に魔神の力を解放して長時間戦えるだろうな」
魔神の力は異常だ。
下手したら始祖にも匹敵する。
いや、それ以上か……
少なくとも今の竹林の最大出力でもドラキュラ王を一泡吹かせるくらいのことは出来る。
長い目で見たら一番強くなるのは竹林かもな。
「でも竹林兄さん。真央が言ってたように使いすぎたら姫と同じ状態になるのを忘れないでくださいね」
「分かってる。命が危ない時にしか使わねぇよ」
やっぱり力の代償は重いか。
まぁ基本的に俺と桃花で大抵の事には対処出来るから出番は無いだろう……
「ていうか普段どんなことしてるんだ?」
「夜桜との手合わせに20kmマラソン等で基礎体力作りにあとは言語の座学だな」
「大変そうだな」
「めちゃくちゃ辛ぇ。遊ぶ時間が全くないぜ」
ちなみに俺がやる事と言えば桃花と出かけたり桃花に耳かきしてもらったり桃花とアニメ見たりだ。
あと食事を作ったりだな。
「母さんはスパルタですからねぇ。でも最高効率でやってくれるのですぐに身になりますよ」
「そうか」
そろそろ鍛え始めねぇとまずいな。
とりあえず寝る前に桃花に戦闘中の思考については軽く聞いていたりするが……
「とりあえず拙者は魔神の右腕をマスターして使いこなせるようにする。話はそれからだ」
「なるほど」
「変わると自分自身に誓った。今投げ出せば拙者は永遠に主人公にはなれないからな」
俺の課題は目を逸らしてるだけでとても多い。
まずはグレイプニルの使い方。
夜桜の言うように型を覚えねばならない。
それも最近はサボり気味だ。
あとは能力。
スーの話だとどんな能力でもチートになる。
あれは遠回しに能力の使い方が甘いと言われてるのだ。
「空。母さんはそういう空を見兼ねて自ら教壇に立っているんですよ。不安に思うことはありません」
「そうだな」
最近は桃花に頼りすぎた。
そろそろ自分を高める時だな。
「ていうか真央の転移でどっか食べに行けば良くねぇか?」
「……校則その四。学園内での能力使用禁止だ。先生たる私が破ってどうする?」
「その校則誰得だよ……」
このクラスには六つの校則がある。
まず一つ目は欠席遅刻早退禁止。
二つ目は廊下を走るの禁止。
三つ目は真央の許可が出てない時の魔法使用禁止。
四つ目は真央の許可が出てない時の能力使用禁止。
五つ目は授業内容での口答えの禁止。
六つ目はありとあらゆるものが連帯責任となる。
「縛られるという行為に慣れるのは大事さ。人生は理不尽の連続だ。理不尽に耐性をつけなきゃね」
はぁ……
めんどくせ。
特に六つ目が一番めんどくさい。
まぁこのクラスに足を引っ張るのは海を除いていないのが救いだが……
「……なんですか?」
「なんでもねぇよ」
前にテストで赤点を取ったのは海だけだ。
みんな八割越えだったぞ。
そのせいであんな事になっただろ……
「ていうかテスト普通に難しいから仕方ないよ。なんていうか私達の苦手なところだけを詰め込んで来た感じがする」
ちなみに前にやったテスト。
アーサーと桃花が百点。
俺が八十九点でルプスが八十四点。
竹林が八十二点で海が七十六点で四点足らずの赤点だ。
「ていうか拙者は思うのだが八割取らないと赤点ってかなりボーダー高いだろ。しかも殆どが授業を聞いてるだけじゃ取れない応用問題だ」
「当たり前だ。考えることは常にやめてはいけないからね」
あのテストは全て初見殺し。
下手したら次の赤点は俺かもな……
「そうだ。五時間目は社会の授業としてアイドルの実態とライブに持っていく物にしよう」
「ていうか真央はアイドルについて知ってるのかよ?」
「当たり前だ。前にアイドルになりたいって言った友人がいたからそのくらいのことは勉強済みだ」
なるほどな。
まぁだったら真央に任せよう。
「まず徹夜は禁止と言うが実際問題徹夜の対処はされないので徹夜すること前提と……」
「こういう奴らがいるから徹夜組が消えねぇんだよ!」
あ、竹林がキレた。
まさかここまでキレるとは。
「とは言うがマリンのライブで徹夜対策がされた事があったかい?」
「あれはキャパわざと減らして人数を絞ってしかもグッズ販売すらもチケットが無い人は買えない鬼畜イベントだろ!」
「鬼畜とはなんだ。合理的だろ」
「おかげでグッズ一つが何百万って額で売買されるんだぞ! しかもそのくせに百にも満たないカズしか売らないしな!」
うーん。闇が深いというかなんていうか……
ていうかマリンの場合はそういう異質なクソ運営をやることにより知名度を爆発させたところもあるのがなんとも言えない。
ただの炎上商法だがある意味では賢いのかもしれないな。
「そっちの方がプレミアムとか付いたりして面白いだろ」
「何が面白いだ! そのおかげで……」
この論争は長くなりそうだ。
これで五時間目は終わりだな。
◆ ◆
「さて、これで本日の授業はすべて終了だ」
とりあえずライブ時のマナーとかは一通り覚えさせられた。
でもやはり一番は楽しむことを重視しろだそうだ。
あとマリンの楽曲の乗るタイミングとか全て。
ていうか真央はどこで知識を得たのだろうか。
「それと明日は休校にする。私はめちゃくちゃ眠いし空も海も休みなら無くても良いかなってね」
「眠いって……」
「これでも一週間続けて徹夜してるんだよ。少し体の悲鳴が聞こえてきたからいい加減に二時間くらい寝たいのさ」
一週間って……
控えめに言って頭おかしいだろ……
「まぁ睡眠欲が出てきただけで体には支障ないから安心したまえ。それと私はマイ枕じゃないと寝れない人だから明日は家を空けるから竹林とアーサーもその辺よろしく」
「分かりました。母さんが家を空けるのはいつものことですから」
「すまないね」
「それとお気をつけて。何かあったら転移を使って撤退してくださいな」
「……ただ寝るだけだ」
アーサーは“そうですね”と返した。
寝るなんて言ってるがそれは建前で恐らく何か問題が起こったのだろうな。
それこそ早急に対処しなければならない案件。
「そうだ。空君。海ちゃん。帰りにゲーセン行こうよ?」
「いいぞ。でも突然だな」
「なんかたまには遊びたい気分なの。海ちゃんは?」
「桃花の奢りなら行けますよ」
「私のお金は空君と海ちゃんのお金でもあるからもちろん私持ちだよ」
ていうか桃花の場合は金の使い道が無くて困ってるからな。
奢りという行為がまったく負担になっていない。
「とりあえず白愛さんに遅くなるってメールしといて……」
桃花はすぐに準備していく。
そんな時にハッとしたかのように手を止めた。
「ルプスどうしよ?」
「一応年齢は小学生だから色々と面倒だな……」
変な連中に絡まれないか。
それとゲーセンはルプスに悪影響な気がするぞ。
「あと宿題はこの本を読んどくように」
真央が古びれた本を渡してきた。
なんていうか風情があるな。
「これは?」
「タカニック教授が第一次世界大戦の中で書き出したホムンクルス理論だ。暗殺姫もこの理論が参考とされている」
つまり白愛のルーツか。
しかしどうしてこのタイミングで……
「さて、私は帰るよ。じゃあね」
でも真央は俺が問いただす前に転移で消えてしまった。
つまり渡した意味については自分で考えろと……
まぁそういうことなら仕方ない。
とりあえず帰ったら考察するとしよう。
◆ ◆
「さて、昨日の話を整理するよ」
真央はあれから自分のアジトに戻っていた。
夜桜とスー以外は知らないアジトだ。
「まず君達の親玉は――――で間違いないね?」
真央の目の前には血だらけの女。
女はコクリコクリと何度も首を振った。
「目的はなんだい?」
女は何度も首を横に振る。
知らないと言わんばかりに。
「夜桜。ペンチ」
「あいよ」
「スーは洗脳で水蒸気に出来ないようにして」
「はーい」
女は必死に何度も何度も首を横に振る。
真央は真剣にその顔を見る。
「……本当に知らないらしいね」
「そうなのか?」
「あぁ。彼女の目は嘘をついてない」
真央は現在カナサラを拷問していたのだ。
今回は珍しく楽しむための拷問でも復讐をするための拷問でもない。
情報を吐かせるための拷問だ。
スーの洗脳はあくまで操り人形のように体を動かすだけであり情報を吐かせるのは不可。
「ていうかソフィアを連れてきた方が早くない?」
「スー。あまり迂闊に名前は出すな。いつどこで盗聴されてるか分からないしそれにこれ自体がソフィアを呼び出すための罠の可能性もある。ソフィアは本当に詰んだ時にのみ使う」
「はーい」
真央は頭を悩ます。
単純にソフィアの元へ連れてくか否か。
しかし答えはすぐに連れてかないと結論になる。
「それとこれが一番大事なんだ」
真央は声をドスの効いたものに変える。
まるで強調するかのように。
「……ホムンクルスはどこで作っている?」
「ホ、ホムンクルス?」
「これは駄目だね。彼女は下っ端過ぎて殆ど情報を貰ってない。恐らくホムンクルスというワード自体聞くのが初めてって感じだ」
“収穫は親玉の正体だけか”と真央は呟いた。
まるで満足してないかのように。
「真央。共有は?」
「それも考えた。今の私の共有は海にソフィア。あとは夜桜で誰も切れないよ」
「……真央。一瞬だけ俺を切れ。俺なら自衛は出来る」
真央は少しだけ悲しそうな顔をした。
一つ言うなら真央は女の子だ。
恋した人との繋がりは一瞬足りとも外したくなかったのだ。
それにこんな小物に使うならなおさら……
「困ったね。前ならもっと迷わずやれたのにな」
「真央。やっと自分に正直になれるようになってきたんだね。もう世界の調整なんてやめようよ……」
「スー。馬鹿を言うな。そんなことが許されるわけない」
「私はもうこれ以上苦しむ真央を見たくない。もう世界なんてどうでもいいよ。真央が笑ってくれればそれでいいよ」
その言葉は真央にとって地雷だ。
真央にとって自分を考えろ系統の言葉は決心を固くするだけだ。
より深く黒く冷酷に魔王らしく……
もしも真央を魔王ではなくするにはその話題について忘れるくらい一緒に楽しい日常を過ごすしかない。
「私は……」
「でも真央はそんな道を選ばない。真央は強い。私の知ってる真央は絶対に選択肢を変えない」
でもそんな事はスーも分かってる。
スーはたしかに真央に魔王をやめてほしいと思っている。
でもスーは真央が魔王じゃなくなるのは真央が死ぬに等しいことだと知ってるから最後まで魔王としての真央を見届けると決めているのだ。
「……夜桜。五秒だ。五秒だけ全神経を使って私を全てから守れよ」
「言われなくてもな!」
真央はカナサラに触れた。
そして共有する。
共有の能力を使い記憶を閲覧していく。
「真央!」
夜桜が真央の手を握る。
それで真央は再び夜桜と共有する。
真央が共有を外した時間はたったの3.4秒だった。
「うっ……」
真央は吐血した。
血をドバっと口から吐いた。
「……あと二回か」
「やっぱりもう記憶は覗くなよ」
記憶を共有で盗み見る。
強力ではあるが負荷は計り知れない。
他人の一生を全て脳に刻んでいるのだ。
多すぎる情報量。
それにより脳の容量が耐えられず吐血したのだ。
真央が呟いた二回。
それは記憶の閲覧の回数。
真央は耐えてあと二回。
それ以上は自分の脳が情報量に耐えられなくなって破裂すると予想していたのだ。
「……夜桜」
真央は夜桜に寄りかかった。
まるで子供のように……
「痛いよ……辛いよ……もう全部投げ出したいよ」
ひたすら泣きじゃくる。
真央は弱さを人に見せない。
いや、正しく言うならスーと夜桜以外に見せない。
逆言えば彼女は無理に押し殺してるのだ。
「もうやだよ……普通に暮らしたいよ。先生として授業して空とか海と冗談を言い合うような普通の生活をしたいよ……」
夜桜はなにも返さない。
真央は背負うと決めたものが大きすぎたのだ。
「世界なんて……救いたくないよ」
「でもお前は投げ出さないんだろ。お前はそういう女だ。だから俺達もお前の望む世界になるまで力を貸すと決めた」
「……うん」
「誰も傷つかず苦しまない世界を作るんだろ?」
「……うん」
真央の心は決して強くない。
それでも彼女は自分の描く理想のために剣を振る。
心の剣を振るう。
「だったら諦めるな。最後までお前の隣にいてやるからよ」
「……ありがとう」
「気にすんな。俺達は仲間だろ」
真央は涙を拭った。
何度も折れては何度もまた立ち上がる。
それが真央だ。
「夜桜。ここからはノーストップでいくぞ」
「おうよ」
「スー。魔物が目標数になるまであと何日くらいだ?」
「二ヶ月かな」
「分かった。予定通り一ヶ月後に空を拉致する。それで二ヶ月後に世界を調整する!」
もう真央は誓った。
折れないと。
あとは必死に足掻くと。
「……最後に一つ」
「どうした?」
「スー。夜桜。私のために死んでくれるか?」
「当たり前だ!」
スーも夜桜も一寸の曇りもなく返事した。
もう分かってはいたことだ。
「あと一ヶ月。それまでにこの謎の第三勢力の情報を死ぬ気で掻き集めるぞ」
「了解」
「スー。カナサラは自害させておけ。捕らえるにしてもやつの能力は厄介すぎる」
「はーい」
再び真央は手を打ち始める。
ここで運命は分かれた。
この瞬間魔王の世界調整は止まらないものとなった。




