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世界調整  作者: 虹某氏
4章【嘘】
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171話 桃花理論

「桃花。剛田はどうだ?」

「空君が言ったようにちゃんと地下で拷問してるよ。でもあの感じだと最高でも二週間……いや、三日で心が壊れちゃうかな。だからそこは上手く調整するよ」

「そうか」


 最近は俺もまだまだ子供だと思う。

 あれから海には剛田は殺したと言ったが実際は違う。

 桃花の地下室で半永久的に拷問するつもりでいる。

 あいつはそれだけの罪を犯したのだ。


「しかし空君が拷問を命じるなんて意外だな」

「嫁の趣味を理解しようともしないダメ夫になりたくないからな」

「空君! 好き!」


 しかし良い物が見えた。

 桃花がここまで笑顔になったんだ。

 剛田には感謝しないとな。


「あと私の部屋にリアルタイムで剛田の拷問が中継出来るカメラを取り付けたけど見る?」

「……海にバレないか?」

「大丈夫。テレビのチャンネルを5、3、4、8、7、8、7、8の順番で変えないと表示されないから」

「無駄に凝ってるな……」


 まぁそれならバレないな。

 誰もテレビのチャンネルがキーになってるとは思わないだろう。


「あと音声は漏れるのを想定してヘッドフォン越しに聞くのを推奨するね」

「分かってる」


 まぁとりあえずどんなもんか見てみよう。

 早速テレビに画面を表示させる。


 するとそこには想像を絶する光景があった。

 ロボットに剛田の皮がまるでスライスチーズのように切られている。

 しかし切れる度にすぐに再生する。

 そのせいで地面には人皮が束なっていた。


「わぁーお。さすが真央のロボットだね」


 目は白目を剥いているが、ロボットが定期的に塩酸で溶かしている。

 しかしすぐに再生してるな。


「桃花としての評価は?」

「満点。やっぱりどんなに過激な事をしても死なないのはいいね」

「そうか」


 俺は桃花の頭を優しく撫でる。

 そう言えばコイツの癒しは他者も可能だよな?

 現に真央の骨折を治している。

 つまり俺にも使えるはず。

 それで俺の能力を考えると俺も再生が使えるようになるのでないか?


「桃花。海がいない時に俺も剛田の元へ案内してくれるか?」

「うん! 分かった!」


 再生。

 しかも他者の傷も癒せる。

 この強さは尋常ではない。

 もしかしたら脳強化(ブレインブースト)を永遠に使うことも出来るかもしれないし何より誰かが致命傷を受けた時にすぐ助けられる。

 間違いなく強い……


「最近は運が良いな」

「他にも良いことあったの?」

「あぁ。お前に結婚指輪を渡せたり海が過去を乗り越えられたりと良いことが多いんだ」

「違うよ。私が空君から受け取ったのは運が良いんじゃなくて必然だよ」

「そうだな」


 でも脳強化(ブレインブースト)の練習は出来ない。

 あれは負担が大きすぎる。

 もしやるとしたらぶっつけ本番だな。


「……桃花」

「いいよ。来て」


 俺達は互いに舌を絡める。

 もう言葉にしなくとも大体の事は通じる。

 俺と桃花はそういう関係になった。


「桃花。可愛いよ」

「空君の方がカッコイイよ」


 そのままベッドに優しく押し倒す。

 桃花が少しだけ顔を赤くした。


「……たまには無理矢理してくれない?」

「怖くないか?」

「うん。獣みたいに空君の肉欲を私にぶつけて」

「分かった」


 ◆ ◆


 起きた。

 目に入るのは桃花の寝顔。

 とても可愛い。


「空君。おはよ」

「おはよう。桃花」


 一見平和な家だが地下では現在進行形で拷問が行われてる。

 そう言えば最近は主人公が敵に容赦ない仕打ちをしたり度の過ぎた復讐をするとネットで叩かれたりするらしい。

 凄くどうでもいい。

 ていうかどうしてこんな事を思い出しのだろうか。


「今日の朝ごはんは?」

「まだ決めてない」


 ちなみに桃花曰くスカッとするためには自分のされた事の五倍以上の事をしないとスカッとはしないらしい。

 まぁ不快指数なんて数値化出来ないからどの程度が五倍になるかどうかは桃花の気分次第ではあるが。


「食物連鎖は絶対的なものなんだよ。例えば人が蟻の足を割いて殺しても裁かれないし自分に返ってくることもない。それは食物連鎖で人が上位だから」

「ふむ。興味深い。続けたまえ」


 桃花が弁明らしいことをする。

 別に謝る必要はないんだが……

 桃花の目には俺が引いてるように映ってしまったのだろうか。

 だとしたら少し反省。


「そして始祖って言うのは人に食物連鎖的に上の存在。つまりただの人間に何をしても問題ないと思うの!」

「なるほど。理解」


 実際それ。

 考えてみたらヤツらがどう逆立ちしても俺達には適わない。

 やはり始祖か否かは大きな差である。

 俺達と対等にしていいのは始祖ぐらいであろう。

 まぁ友人である竹林や師である夜桜に気を遣われたら困るがそれはそれだ。


「だからね。まずは人のゴミみたいな感性で私を計らないでほしいんだよ。でもこの国は無駄に縛ろうとするから癪なんだよ」

「お前が縛りに応じたのを俺は見たことがないけどな」

「まぁね」


 果たして今まで桃花が法を一度でも気にしたことがあっただろうか?

 間違いなくない。


 ていうか何故か桃花のは見てて不快じゃない。

 それについて俺は少し考えてみた。

 そしたら一つの答えに行き着いたのだ。

 桃花の拷問は単純にカッコイイ。


「あれ食べたい! ケバブ!」

「昼な。朝からは重いだろ?」

「分かった!」


 桃花の拷問には言い訳がない。

 例えば“コイツは罪を犯したから仕方ない”とか“私はみんなのためにやってる”とかがない。

 桃花の場合は格下だから“何をしても問題無し”という凄く傲慢な考えだ。

 そもそも悪いと欠片も思ってないから言い訳をしないのだ。

 俺には桃花のその姿勢が凄くカッコイイと思った。

 人は少しの悪に憧れると言うがそれがこういう事なのだろう。

 俺は恐らく心のどこかで桃花に憧れているのだろうな。


「空君。実は最近考えるんだけど……」

「どうした?」

「私って強いじゃん」


 うん。たしかに。

 自分で自分の事を強いって言うのはあれだが桃花の辞書に謙虚の文字はないからそれは置いておく。


「でも私の強さって魔法や能力ありきじゃん。もしも何かしらの要因で魔法や能力が使えなくなったら私ってどうなるんだろ?」


 ……魔法や能力ありき?

 あの、俺が前に能力を使って全力で戦っても棍術だけで俺を完封してましたよね。

 ちょっとそれで魔法ありきって言うのは……


「最近創作物とかで異世界に行ってチート貰って無双してたら主人公から突然チートが消えてゴミになるってあるじゃん。私って客観的に見たらその立ち位置じゃん!」

「桃花。現実と創作物は違う」

「創作物は現実を参考にしてるから創作物で起こることは現実で起こる可能性が高いんだよ! 創作物って言うのは一種の予言書なんだよ!」


 たしかに。

 それも一理あるな。


「それで創作物でそういう展開がある以上は……」

「安心しろ。そうなったら俺が戦うから」

「そうじゃん! 私には空君がいるじゃん! その時は空君に守ってもらえばいいんだ!」


 ていうか能力無しでも俺達は握力で人骨くらいなら砕けるしどうにかなるだろ。

 まぁ海は人骨が砕けなかったが……

 ちなみに握力がいくつかは知らね。

 だって握力計が壊れるしな。


「そうなると今後は素での力とかも鍛えねぇとな」

「そうだね」


 当分の間は能力とか封印するか。

 少なくとも俺達が安心を感じるには始祖達に無防備で勝てるようにならないとな。

 始祖達は俺達の一種の座標だ。

 目指すべき座標である。


「よし。デートするか」

「デート!? するする!」


 やっぱり休日と言ったら桃花とデートだよな。

 行くとしたらやっぱり映画か?

 飲食店は桃花が満足しないしな。


「桃花は観たい映画あるか?」

「特にないよ。アニメでも実写でもOKだよ」


 うーん。それが一番困る。

 でもやっぱり無難に恋愛系に……


「それなら“劇場版恋愛未経験のキモオタワイが美少女を食べるまで”とかどうです?」


 そんな事を考えてると扉が開き、海の導きが聞こえた。

 そう言えば先週から劇場版が始まってたな。

 いつかは観に行こうと思ってた作品だ。


「海ちゃん。空君はまだアニメ版観てないよ」

「本当に無能ですね」

「バカ言うな。悪いがお前らの目を盗んで一通りのメジャータイトルくらいは観させてもらったぞ」

「さすが空君!」


 しかし最近のアニメはすげぇな。

 まさかあそこまでクオリティ高いとは。

 正直舐めてたわ。


「それにネットスラング用語も一通りマスターした。もうお前らに話題で置いてかれることはねぇよ」


 どうやら信じてないみたいだな。

 たしかこういう時に海が一番苦しむのは……


「クリぼっち。クリスマスに彼氏も彼女もいないめちゃくちゃ悲しい人。あれ、海のクリスマスって……」

「や、やめてください!」

「マジレスすると彼氏や彼女とかいて当たり前だと思うわ」

「お兄様がネットスラング用語をマスターしたのは分かりましたからこれ以上私のライフを削らないで下さい!」


 フッ。

 兄より優れた妹など存在しないのだよ。

 それを理解したまえ。


「それと早く朝ごはんをお願いします。お腹と背中がくっつきそうです」

「悪い。今から作るわ」


 俺はとりあえず一階に降りて台所に立つ。

 さてさて朝は何にするか。

 うーん。スクランブルエッグで!

 タマゴなら有り余ってるしな。


「なるほど。スラングとスクランブルをかけたんですね」

「ち、ちげぇーし!」


 無意識下に思ったかもしれないが意識的にはしておらぬ。

 なんなら神に誓ってもいいね。

 いや、待て。

 神ってあの知の神じゃねぇか……

 あいつの滲み出る性格の悪さを考えると誓えねぇわ。

 なんて考えてると知の神の声が脳内に聞こえた。


 “私が一体何をしたと言うのだ!”


 神だからこの程度は造作もないのか。

 突然現れるのは心臓に悪い。

 さて、これは聞かなかったことにしようか。

 色々とめんどくさそう。

 ていうか知の神と真央って似てるよな。


 “当たり前だ。頭の良い者同士なのだから似た者同士に決まってろだろ”


 はいはい。そうですか。

 ていうかたまにはお前と話したいから夢に干渉してこい。


 “神に命令するとは随分と良いご身分だな。まぁ暇であるし今夜辺りに行ってやろう”


 まぁ精神世界だし菓子とかは用意出来ねぇがな。

 今の俺に彼女の話は大いに役立つであろう。

 まだまだ知りたいことはあるしな。


「よし。出来たぞ」


 頭の中で会話しながら作業を終わらせた。

 うん。美味しくできたな。


「早い!」

「桃花もお腹空いてただろ? それにさっさとデートに行きたいしな」

「いや、私は別にそこまで急がなくてもいいかな」


 ……え?

 おいおい嘘だろ……


「だって外でも中でもずっと空君の隣にいられるからね! 私は空君の隣でさえあればどこにていてもいいんだよ!」


 まったく。

 桃花は最高だぜッ!

 彼女の恋の矢は百発百中で俺の心を射抜いてくぜ。


「そう言えばお兄様」


 海がそう言うと何かを投げた。

 それを俺は難なくキャッチ。

 これはどこにでもある小粒のチョコだな。


「これはバレンタイン祭にもらった百合チョコの一つです。そして世の中にはポッキーゲームより難易度が高いゲームがあるそうです。お兄様と桃花なら簡単にクリアできるのではないでしょうか?」


 海は軽く笑いながら“もちろん唾液とか経血は入ってませんよ”と呟いた。

 海の鼻なら異物混入してたなら匂いですぐに分かる。


「どんなゲーム?」

「互いに唇で挟んで溶けるまで舐め合うんです。もちろん落としてはいけません。ちなみに先にチョコを噛んだ方が負けです」


 随分と面白そうなゲームだな。

 朝食を食べ終えたらやってみるか。


「いいね。でもゲームっていうからには罰ゲームが必要だね」

「罰ゲームか」


 さて、どうするか。

 なにか面白いのはないか……


『空君。今は音の能力で直接脳内に語りかけてるよ』


 は?

 桃花、能力を応用させすぎだろ!

 いやいやどうやってそんな事をしたんだよ。

 ていうか最近は脳内に話すやつ多いな!


『負けたら剛田の飯当番でどう?』


 とりあえず頭を切り替えよう。

 なるほど。

 たしかにそれは罰だわ。

 俺は桃花に微笑む。

 これで全てを察するはずだ。


「うん。分かった。とりあえずそれじゃあ始めよっか?」

「夫婦の独自言語で会話しないでください。私にも罰ゲームの内容が分かるように説明してください」

「内緒だよ」

「むー」


 桃花は窘めるように海の頭を撫でた。

 しかし海はどこか不服そうだ。

 そんな中でピロリンと桃花の携帯が鳴った。


「メール? 珍しいな」

「そうだね。えっと……エニグマからだ」


 とりあえず暇だしエニグマの依頼は受けるようにしてる。

 そのためにミネルさんとメアド交換を桃花はしていた。


「えっと。黒魔女を倒してほしいだって」

「黒魔女?」

「うん。人間なんだけど凄く魔法が上手い人。まぁ私の方が魔法を使いこなしてるけど」


 さすが魔女と呼ばれるだけのことはある。

 だって桃花が褒めるくらいだしな。


「でも見た目が黒一色で凄く不気味なの。人と関わりを取ろうともしない」

「それがなぜ突然討伐に?」

「簡単だよ。近くの村人を突如皆殺しにしてエニグマが保護してる森を焼き払ったから。間違いなく魔法テロ行為」

「なるほど」


 それにしても黒魔女か。

 なんか嫌な予感がするな。

 しかし黒魔女は何故突然そんな事を……


「とりあえず真央の転移を借りて来週のどこかで行こうかな」

「分かった」

「いつも通りチャチャっと片付けちゃうよ」


 まぁ桃花がいればどうにかなるか。

 並大抵のことならな。

 俺は桃花は真央を除けば間違いなく人類最強だと思っている。

 その桃花で対処出来ないならその時点で詰みだ。


「まぁとりあえずチョコゲームしようか」

「そうだな」


 そして俺は唇でチョコを挟み桃花とキスをした。

 互いの舌でチョコを溶かし合う。

 唾液とチョコが混ざりあってとても良い味になる。

 いつまでも舐めたいと思う。

 しかし楽しいことはすぐに終わる。


 バキッ


 思わず俺がチョコを噛んでしまったのだ。

 この勝負は俺の負けか……


「空君。よろしくね」

「仕方ねぇな」


 俺は当番を引き受けた。

 まぁ俺も拷問をしてみたかったし丁度良いだろう。

 そして俺達はこの後にデートに向かった。

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