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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
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17話 決着

「どうしてここがわかった?」


 親父は桃花の家に来た。

 それは疑いようのない事実だ。

 しかしどうしてバレたのか。

 家は出てないし特定は不可能だったはずだ。


「車のナンバープレート。逃げる時に使った車のナンバーを覚えてたってわけよ」


 ナンバープレートか。

  ナンバープレートまで気が向かなかった。

 恐らく一件一件虱潰しに探したのだろう。

 そして今回は前回みたいに逃げられないぞ。

 どうすればいい……


「……この男は誰?」


 桃花がそう俺に問いかける。

 隠しても仕方ない。


「俺を撃ったやつで俺の親父だ」

「……お前が神崎君を!」


 桃花の怒りが声で伝わる。

 俺のために怒ってくれるのはありがたいだ今はそれどころではない。


「桃花! ここは俺に任せて上に逃げろ!」

「この程度の奴、私なら……」

「早く!」

「……分かった」


 桃花は渋々上に行ったようだ。

 こんなの女子高生が相手する敵ではない。

 それにこいつを相手に誰かを庇いながらなんて戦えない。


「雨霧さんは一緒に上に行って桃花の近くで念のため桃花を守っててください」

「了解」


 雨霧さんもそのまま上に行った。

 さて、どうする。

 絶好調の状態ですら怪しいのにこいつに勝てるのか?

 いや、やるしかない。


「女を逃がすなんて俺に似てカッコ良くなったじゃねぇか」

「……黙れ」

「そうつれない事言うなよな!」


 バンッ!


 親父が言い終わると同時に銃声が鳴り響いた。

 ヤツは足元狙って銃を撃ったのだ。

 俺は間一髪で後ろに飛び回避する。

 そして睨み合いになった。


 バンッ


 ヤツはまた銃を撃ってくる。

 しかし銃の向きから弾道は予測出来てる。

 予測通り左太ももを狙ってきたので難なくさける。


「この銃は全部で六発だろ?」

「……」

「残り四発だな」


 あと四回避けられればどうにかなる。


「だからどうした?」


 親父は余裕な表情でそう言う。

 たしかに四回も避けるのは難しいな。

 少し煽るしかないな。


「正直親父の怖いところって銃だけだから弾切れしたら余裕だなって思って」

「……舐めるのもいい加減にしろよ?」

「なら銃を捨ててかかってきたらどうだ?」

「その挑発にのってやるよ」


 親父は予想通り銃をホルスターに収めて殴りかかってきた。

 最初は右ストレート。

 それはしゃがんで回避。

 しかしここでカウンターはいれない。

 何故ならその次は……


「オラッ!」


 カウンターを見越して顔面を狙った膝蹴りが来るからだ。

 それは予想通り。

 俺は半歩後ろに下がりそれを回避。

 親父の軸足が片足になったのでから足をかけて転ばせる。

 そして宙に舞った親父の頭を掴み大理石の地面に顔面を思いっきり叩きつける。

 その後は触れられないようにバックステップして距離を置く。

 完璧な立ち回りだ。

 親父の鼻はその衝撃で潰れており少なくない量の血がダラダラと垂れている。


「……痛てぇな」

「随分とタフなんだな」


 これで起き上がらないのを期待したがそうも上手くはいかないらしい。

 親父も先程の攻撃から得意な膝蹴りが対策されたのに気づいたはずだ。

 つまりもう同じ手は通じない。

 情報というアドバンテージが奪われて能力の有無によりこちらが不利な状況になった。

 出来れば接近戦は避けたい。

 しかしヤツの銃を考えるとあまり距離もとりたくないな。


「俺は久しぶりにキレっちまったぜ」


 親父は銃を再び構える。


「……銃は使わないんじゃなかったか?」

「気が変わった」

「そうか」


 バンッ


 銃声と同時に俺は机を倒して盾にして弾丸から身を守る。


「……小賢しい!」


 銃が通じない事を察した親父はこちらに接近。

 俺は親父の猛攻を避けながら台所に移動。

 一瞬の油断も許さぬ攻防。

 そんな俺に必要なのは武器だ。

 台所なら包丁とか色々とある。

 しかし台所に来ることは同時にあるリスクを背負う事となる。


「さて、逃げ道はなくなったぞ」


 それは逃げ場が無くなることだ。

 しかし得られる武器は大きい。

 俺は狙い通り包丁を取る。

 さて、白愛みたいに出来るだろうか?


「なんのつもりだ?」

「こうするんだよ!」


 アイツの右太もも目がけて包丁を投擲する。

 動きを鈍らせろ。

 こんなヤツでも殺すのには抵抗がある。

 だから刺さっても即死せず動きを制限させられる右太ももだ。

 しかし親父は体を回転させる。

 包丁は刺さる事なく掠っただけだ。


「……クッ」


 親父は痛みに少しだけ顔を歪ませる。

 やはり投擲は難しいな。

 でも、狙い通りではないがそれで充分だ。

 俺はこの隙を見逃さず思いっきりヤツの膝元まで転がり込んで右手を使ってヤツの顎を砕く。

 いわゆるアッパー。


「……グハッ」


 下手に迫撃をせずダイニングに撤退。

 親父に触れられたら全て終わりだ。

 あそこまで重体でも手ぐらい動かせるだろう。

 変なリスクは負わない方がいい。


「……このくらいじゃお前はまだ動くだろ」

「……」


 親父は憎悪を秘めた目でこちらを見ている。

 さて、どうしたものか……


「空! 二階に上がれ! 俺達に考えがある!」

「……わかった」


 雨霧さんの声が響いた。

 何か策があるのだろうか?

 とりあえず雨霧さんを信じよう。

 俺は全力で走り二階に移動する。

 そして雨霧さんと合流した。


「……考えというのは?」

「当たり前だがここには高低差がある。そして大会で俺が取ったトロフィー……」

「なるほど」


 このトロフィーを思いっきり親父に投げつけるってわけか。

 それなら気絶が狙えるかもしれない。


「……チャンスは一回だ」

「分かってますよ」

「……神崎君」


 雨霧さんの後ろから桃花が細々と出てきた。

 正直、彼女には隠れていてほしいのだが……


「バカ! 部屋に隠れてると言ったろ」

「違う。これを渡しに来たの」


 桃花から渡されるのは何か液体が入った容器。

 ズッシリとした重さが手に伝わる。


「中身は油よ。これを階段にバラまいたら間違いなく転ぶと思う。それとトロフィーも私の案」


 鬼か。

 思わずそうツッコミたくなる。

 よくそんな発想が出来たな。

 でも桃花の言う通りだ。


「ありがとう」


 俺は階段に油をバラマキ雨霧さんからトロフィーを受けとる。

 トロフィーはそこそこ重いな。

 その時丁度親父が千鳥足で階段を登ってくる。

 やはり少なくないダメージを受けているようだ。

 あんなフラフラなら当てやすい。

 俺は全力で親父の顔面を狙いトロフィーを投げつけた。


「オラッ!」


 左手を犠牲にしてトロフィーを払い除けたのだ!

 ガシャンと鈍い音が響く。

 でもあんなものを素手で弾いたらかなりのダメージがあるはずだ。

 

「……クソッ」


 親父はかつてない力で階段を駆け上ってくる。

 火事場の馬鹿力ってやつだろうか。

 絶体絶命と思ったその時だった。


「……おっととととと」


 親父が階段から転げ落ちた。

 桃花がバラまいた油のせいだ。

 そして桃花は何処からともなく木刀を出して一階に駆け降りた。


「……」


 桃花は親父を回し蹴りして倒した後に上乗りになり木刀で喉を思いっきり突き刺して潰す。

 親父は白目を剥き鈍い悲鳴が聞こえる。


「……その手厄介ね。潰れて」


 桃花は迷わず手首を思いっきり踏んだ。

 バキバキバキバキと音が聞こえる。


「もう片方も貰うよ」


 桃花が木刀を振りかぶる。

 そして残った方の手首を木刀で叩いた。

 それも一度ではない。

 何度もだ。

 その度に親父の絶叫が家の中に響いた。


「神崎君。ちゃんと倒したから安心していいよ」


 俺は唖然とした。

 容赦のない攻撃。

 無駄のない動き……


「……ウチの妹はヤバいんだよ。だからあまり戦わせないようにしてる」

「そういう事ですか」


 親父なんかよりよっぽど恐ろしい。

 桃花を上に避難させる必要なんてなかった。

 俺は桃花を守る側ではなかった。

 桃花に守られる側だったのだ……


「デメェ……」


 しかし親父はまだ動けたみたいだ。

 紫色に腫れ上がった左手首を桃花の首に回して捕縛する。


「……桃花を離せ」

「神崎君。私はこの程度なら大丈夫だよ」


 俺は桃花の方を見た。

 彼女の右手にはいつの間にかナイフがあった。

 間違いなく彼女は親父を殺す気だ。


「……この女の命が惜しければ大人しく俺に触れられろ!」


 桃花に人を殺させるわけにはいかない。

 何とかしなければ……


「……もういい?」

「てめぇは黙ってろ!」


 桃花は何故かいつもと変わらない表情をしてる。

 考えろ。桃花に親父を殺させない方法を……


「今から十秒数える!それまでに両手を頭の上に乗っけてここまで来い」

「……わかった」


 俺が手を頭に乗っけようとしたその時だった。





 ――親父は急に倒れたのだ。





 まだ桃花のナイフは血に染まっていない。

 彼女の仕業ではない。

 第三者が来たのだ。

 そして親父の後ろから最も愛しい声が聞こえた。


「空様。ご無事ですか?」

「あぁなんとかな」


 白愛がこの場に来てくれたのだ。

 親父を見ると背中には果物ナイフが刺さっている。


「死んでません。麻痺毒です」


 そして親父戦は終わりを告げた……

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