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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
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16話 暗殺姫

 目を覚ますと見慣れない天井だった。

 その部屋からは桃花の匂いがした。


「……そうだった。今は桃花の家にいるんだよな」


 その匂いが桃花の家にいるという事を実感させる。

 女の子の特有の甘い匂いだ。

 寝た事により少し落ち着き頭が回るようになった。

 まず現状把握。

 俺が寝てるベッドの色は水色。

 枕と毛布はピンク。

 それにぬいぐるみもそこそこある。

 昨日は気づかなかったが間違いなくここは桃花の部屋だ。


 つまり俺は桃花が普段使っているベッドで寝てしまったのだ……

 そして壁掛け時計を見ると時間は九時を回っている。

 もう学校の始まってる時間だ。

 俺は立てるかどうかの確認でベットから降りる。

 問題なく立てたので軽く部屋の中を歩く。

 部屋で一番目立つのは勉強机。

 それからタンスとかもあるな。

 さて、少し痛みはあるが最低限の動きは出来るな。

 そろそろ下に降りよう。

 そう思った矢先だった。

 勝手に扉が開いたのだ。


「空。おはよう」

「雨霧さんおはようございます」

「とりあえず生活に支障はなさそうだな」

「はい」

「なら殴っても問題ないな」


  ……え?

 どうしてそうなった?

 頭の理解が追いつかないまま拳が飛んできた。

 寝起きの俺が雨霧さんの本気のパンチを避けれるはずなく体が吹き飛ぶ。


「なんで殴ったか分かるかい?」

「……いいえ」


 まったく検討もつかない。

 一体俺が何をしたというのだ。


「君と桃花が話したあとに桃花は泣いていた。それだけで殴る理由は十分なんだよ」

「……」

「君にだって悩みがありどうすればいいか分からなくなってるのは俺も理解してる。でもそれは桃花には関係のない事なんだよ」

「……そうですね」


  殴られたのは桃花を泣かせたからか。

 当然といえば当然か。


「さて、朝ごはんにするぞ。それと次悲しませたらこんなものじゃ済まないから覚悟しとけ」

「分かりました」


 俺はそのまま下に降りていく。

 もし、白愛を選んだら間違いなく桃花は悲しむだろう。

 悲しませない振り方などあるのだろうか。


「朝ごはんは桃花の弁当を作った時の余り物だけどいいか?」

「……問題ありません」

「それなら良かった」


 俺に確認を取ると雨霧さんは皿に盛り付けて料理を俺の前に持ってくる。

 

「いただきます」

「食べ終わったら本でも読むといい。病人は病人らしくとりあえず安静にだ」

「……分かった」


 俺は黙々と食事をした。

  食事中に特に会話したりなどはしない。


「ごちそうさまでした」

「先程言った本はお前が寝てた隣の部屋にいっぱい置いてあるから好きなのどうぞ。俺は大学に行くから家を開ける、なんかあったら電話してくれ」

「分かりました。ありがとうございます」


 俺は階段を上り先程雨霧さんに教えてもらった部屋にいく。

 そこには図書館と見間違いそうになるほど本があった。


「……いくらなんでも多すぎだろ」


 俺は本棚を見渡す。

 かなりの量だ。

 そして本のタイトルに目を通す。


『吸血鬼は実在した』

『超能力の真実』

『呪われた屋敷から生還した男の話』


 殆どがオカルトだ。

 しかしそこに一つとても気になる本があった。

 タイトルは『暗殺姫という死神』

 間違いなく白愛について書かれた本であろう。

 俺はこの本を読む事にした。

 それと他にいくつか面白そうな本を取り部屋に戻った。


「さて、どんな内容なのか」


 俺は前書きに目を通す。


『ここに書かれている事は全て事実である。暗殺姫は知る人ぞ知る最恐の殺し屋である。私が血を吐く思いで集めた暗殺姫の情報が載ってるので是非読んでほしい』


 少し胡散臭い気もするが別にいいだろう。

 次のページは暗殺姫の特徴について書かれていた。


『暗殺姫は女性である。暗殺は日時を選ばない。基本的に殺害方法はナイフの投擲がメインである。暗殺姫の投擲はとても速く銃弾なんかよりよっぽど速いと個人的には思う』


 年齢は聞いたことはないがおそらく二十代ぐらいだろそう考えると年齢は合っているか。


『ある男が暗殺姫に喧嘩をしかけた。その男は人類最強とも言われる屈強な男であった。しかしその男ですら暗殺姫の前では3秒として立っていられなかったのだ。これに関しては事実だけが残されており詳しい事は不明である』


 どこまでが本当なのだろう。

 普通なら笑い飛ばして終わりだろう。

 でも白愛を間近と暮らしてる身としては余裕でそのくらい出来そうというのが感想である。

 そこから次のページはとてもつまらないものばかりであった。

 暗殺姫の情報を得るまでの経緯とかがダラダラと書かれていて暗殺姫については書かれていなかったのだ。

 そのまま僕はつまらない本を読み終えた。


「……なるほどな」


 やはり本の内容はとても胡散臭かった。

 しかし投擲の速さについての考察は少しだけ面白かった。

 どうやらこの本曰く白愛は最低でも時速200kmの速さで投擲出来るらしい。

 その速さがプロの野球選手が全力で投げても出ない速さだとか……

 確かに白愛なりその位でもおかしくない。

 下手したらもっと出るかもしれないな……


「さて、次の本でも……」

「ただいまー!」


 学校から桃花が帰ってきた。

 もうこんな時間か。

 本に夢中になりすぎて昼食を忘れてしまった……

 俺はとりあえず一階まで出迎えに行くか。

 そのまた階段を降りて玄関に行った。


「おかえり」

「ただいま神崎君。それと昨日はごめんね」

「こっちこそ悪い」


 これ以上話は掘り下げない。

 お互い気分が悪くなるだけだからだ。

 

「そういうば神崎君は今日は何してたの?」

「本を読んでた」

「どんな本?」

「暗殺姫についての本だ」

「あ! 私のお気に入りのやつだ!」


 桃花のお気に入りのやつなのか。

 それなら暗殺姫について詳しかったりするののだろうか?


「正直暗殺姫がこんな身近にいるとは思わなかったけどね」

「そりゃそうだろ」


 それから俺は桃花に質問攻めした。

 桃花は俺の質問に優しく丁寧に答えてくれた。

 そして白愛の話で盛り上がりエニグマについて聞くのを忘れてしまった……


「ただいま」


 話が終わりかけたところで雨霧さんが帰ってくる。

 少しばかり疲れてるのが顔色から分かる。


「そうだ。空」

「なんですか?」

「お前料理出来るんだってな」

「はい」

「リハビリも込めてお前が作れよ」


 料理ぐらいなら問題ない。

 それにリハビリにはちょうど良い。


「そういう事ですか。いいですよ」

「なになに? 神崎君が夕飯作ってくれるの?」

「そうだ」

「やった!」


  とは言ったものの何を作るべきか……

  食材はなんでもありそうだな。

  ここはシンプルに炒飯にするか。


「炒飯でいいか?」

「神崎君が作るのならなんでもいいよ〜」

「分かった」


 最初に米を研いで炊く。

 米が炊ける前にタマネギやニンニク等をみじん切りにしたり肉のそぼろを作ったりする。

 しかしそれでも米が炊けるまで時間が余るので簡易的だが卵スープを作る事にした。


 卵スープは簡単に出来るから良い。

 簡単な分料理人の腕がハッキリと分かるが……

 そういうば白愛の作る卵スープは昇天しそうになるほど美味しかったな。

 そんな事を考えながら俺は卵スープを完成させた。

 それと同時に米も炊けたので先程下準備した食材と一緒にフライパンの上で炒める。

 その時に同時に醤油等で味を整えて完成だ。


「ほれ。出来たぞ」

「美味しそう! 食べていい?」

「そのために作ったんだからな」

「いただきます!」


 桃花が勢い良く食べ始めた。

 

「うん! 美味しい! 凄くパラパラなの! それに食材同士のハーモニーが凄く堪らない! 特にこの肉とネギの組み合わせがヤバイのそれに更に食欲を唆るニンニクの風味!ほんとに凄いよ! そして少し脂っこくなった口の中をこの卵スープで綺麗になる! 卵スープは凄く優しくね……」

「……ここまで言われると嬉しいな」

「まだまだ言い足りないぐらいだよ!」


 そこまで美味しいだろうか?

 正直そこまで自信が持てない。


「さて、俺もいただくとしよう」


 雨霧さんがいただきますと軽く言い炒飯を食べ始める。


「ウマッ!」


 そういうと雨霧さんは桃花以上のペースで食べ進める。


「おかわりだ!」

「すみません。もうありません」

「……そうか」


 雨霧さんは肩をガックリと落とした。

 ここまで食べるとは思わなくて三人前しか作らなかったのは失敗だな。

 

「それにしても神崎君って料理も上手いんだね」

「俺もここまで上手いとは思ってなかった」

「お兄ちゃんがここまで言うって中々だよ」


 なんだこの気配?

 一瞬とても嫌な気配がした。

 

「……雨霧」

「なんだ?」

「桃花を連れて上にいけ」

「……わかった」


 俺は声のトーンを変えてそう言った。

 雨霧さんが桃花と一緒に上に登ろうとする。

 二人は遠くに行かせないと。

 この気配は間違いなく親父。

 どういうわけか親父が近くにいる。

 

「早く!」


 二人はグズグズしている。

 それじゃあ親父から守れない!

 時間がないので声を張り上げてそう言う。

 しかし移動が間に合わず窓ガラスが割れた。


「逃がさないと言っただろ?」


 親父のねっとりとした声が部屋を舐めた。

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