152話 ゾンビ×ドラゴン
俺達、男性陣が風呂から出るとすぐにこの場はお開きになった。
その後は俺は桃花と海に半ば強引に寝かされた。
寝かす方法は簡単で薬だ。
それで目覚めた時には朝になっていたのだ。
「……おはよう。空君」
「学校の時間じゃねぇか」
「真央がどうにかしてくれるから大丈夫」
行ってもテストだけだからめんどうだから別に良いが。
しかしあんな強引に眠らされるとはな。
もちろん俺は桃花に身体能力で勝てない。
薬を吸わせるくらい簡単なのだ。
「まさかお兄様があんな気持ちの良いことをしていたなんて……」
そして実の妹に寝取られた。
桃花が寝取られた。
こんな怪奇な体験をしてるのは世界中を探しても俺くらいだろう。
「お兄様! 曜日決めましょう」
「いいぞ。土日と平日が俺で海は2月の30日な」
「……馬鹿ですか。2月に30日はありませんよ」
「つまりお前は今日を最後にこれから二度とヤれないということだ。残念だったな」
さて、平和的な解決だ。
今日はたしかヴァンパイアの国に行くくらいしか予定はないな。
残った一つの依頼は明日終わらせる。
木曜日は適当に家で遊んで金曜日はバレンタイン祭だな。
「酷すぎます!」
「何が“酷すぎます”だ! 桃花は俺の女なんだ! 一回ヤれただけ良いと思え!」
はぁ……
そういえば昨日はなんか盛り上がって折角買ってきたゲームをやる時間すらなかったな。
今やるか。
「ていうかお兄様は朝ごはん早く作ったらどうですか?」
「そういえばそうだったな」
すっげーやる気が出ない。
まさかこんな精神的にダメージが来るとは。
「なぁ桃花」
「どうした?」
「もしも俺が竹林としたらどう思う?」
「不快! 空君が汚れちゃう!」
やっぱりそうだよな。
つまり桃花はそういうことをしたんだよ。
「それと同じだよ。だから俺は桃花が海と……」
「え……。私からしたら空君と海ちゃんがヤる分には余裕でセーフだよ」
「は?」
いやいやおかしいだろ!
何か色々と!
「だって海ちゃんは綺麗だもん! だから空君が海ちゃんを抱く分には問題ないよ! まぁ海ちゃん以外の人だったらダメだけど」
「えぇ……」
つまりあれだ。
桃花は同性だからOKしたんじゃない。
海だからOKなんだ。
恐らく桃花にとって海と俺は周りと違う扱いになっている。
「お兄様。桃花が何を言ってるのか理解出来ません」
「安心しろ俺もだ」
桃花は常に理解の範疇を超えている。
よく天才は常人では理解出来ないと言うがそういうことだったのか。
身を持って理解したよ。
「ていうか三人で今度ヤろうよ!」
「海。一旦同盟組まないか?」
「奇遇ですね。私も同じ事を思いました」
そうしてこの一件はとりあえず幕を閉じた。
ていうかそもそも俺は海にそういう感情はない。
やはり兄妹だからだろうか。
「海。ちょっと料理手伝え」
「はい」
俺達は一旦桃花から距離を取る。
落ち着け俺達。
まずは状況を整理だ。
「お兄様。どうします」
「どうするって……」
「このままだと間違いなく三人同時にヤる事になります。流石の私もそれは遠慮したいところです」
「なるほど。それは俺もだ」
海を抱くのは絶対に無理。
というより血がそれはダメだと叫んでいる。
「まぁとりあえず作るか」
「そうですね」
「今日の朝食はトマトエッグにする。今から言う食材と機材を取ってくれ」
「分かりました」
とりあえず料理の手順を順にこなして完成させていく。
しかし問題は思ったより深刻だ。
「ていうか海が無防備すぎるのが問題だろ」
「無防備ってなんですか! 人を尻軽女みたいに言わないでください!」
「実際そうだろ。桃花が三人で風呂入るって提案した時に断らなかったりと……」
「それは……」
だんだんと境界線がもろくなっている。
本当にそんなのを繰り返してたら一緒に寝るのに一切の抵抗がなくなってしまうぞ。
最初の方は笑い事で済んでいたが今ではこの上なく深刻な問題だ。
「……気をつけます」
「そうしてくれ」
こんな話をしてるうちにトマトエッグが完成だ。
俺はそれを皿に盛り付けて持っていく。
「待たせたな!」
「そんな事ないよ! すごく美味しそう!」
さてと食べ終えたら昨日言ってたゲームをするか。
それにしても最近は遊んでばっかりだな。
少し前の大変さが嘘みたいだ。
ただ事件はいつだって突然起きるものだからな……
「うん! やっぱり美味しい!」
しかし桃花の秘密か。
真央は一体何を見たのか。
それと俺は桃花に一つある感情を抱いてる。
俺は間違いなく好きだ。
ただ俺は同じくらい無茶苦茶にしたいと思ってる。
ダメだ。そんなこと思っちゃダメだ。
感情を押し殺せ。
「……お兄様。どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか。凄く怖い顔をしてましたよ」
桃花は俺の命令なら何でも従う。
もしもこの場で俺か海か選ばせたら凄く面白いだろう。
彼女がどんな表情を浮かべるのか……
「そういえばヴァンパイアの国ってどんなところなんでしょうか?」
「俺のイメージ的には何か古城のイメージだ」
「つまり城下町ですか」
今は考えるのはよそう。
今は桃花を愛することだけを考えればいい。
「さて、いい加減ゲームするか」
「そうだね!」
◆ ◆
「やぁ来たね」
部室に来ると真央が眠そうに応答する。
しかも何故か枕を抱き抱えてピンクのボンボン付きの帽子と寝巻きを着ている。
後ろの方ではコタツに入りスマホで何かの動画を見てる竹林。
「私は眠いんだよ。転移門は開いとくから勝手に行ってくれ。一眠りしたら迎えにいくから」
随分と適当だな。
まぁなんでもいい。
「それじゃあ行ってらっしゃい」
そして俺達は竹林を引っ張り飛び込んだ。
こいつにも良い勉強になるだろ。
「かなり暗いね」
「たしかここでは深夜だもんな」
俺達が飛ばされたのは山の山頂。
しかし古城が目視出来る。
「あれがヴァンパイアの国か?」
「真央の話通りならな。ヴァンパイアは個体が百近くしかいないくらい少ないから全員が城の中に住んでるんだってよ」
答えたのは意外な事に竹林だった。
つまり小さなコミュニティなんだな。
「ちなみに転移で来たが本来ならエニグマ推定ランクAを超える魔物がうじゃうじゃいる領域だそうだ」
「……このエニグマ推定ランクってなんだよ」
「さぁ? 真央もその基準は知らないって言ってた」
一体このランクがどのくらいなのか。
ロリコーンでたしかBだったからそこまで強力な魔物ではないだろうな。
まぁ能力を得る前の俺ならロリコーン相手にもかなり苦戦しそうだが。
「おい。竹林。後ろ」
「どうし……」
「グギャァォォド」
かなりでかいトカゲだな。
しかもところどころ腐敗してるし。
名付けるならゾンビドラゴンって言ったところだ。
「で、出たーーー!」
はぁ……
また戦闘か。
「お兄様! お兄様! ドラゴンですよ! リベンジしましょうよ!」
「あの時はお前の回復が間に合わなくて死んだんだろ!」
「私は攻撃と回復の両刀ですから!」
俺達は一回負けている。
そう。朝やってたゲームで。
ドラゴンに惨敗したのだ。
「桃花。剣あるか?」
「もちろん! やっぱり冒険のお供は剣だよね!」
ナイスだ。
さて、勝負といきますか。
「お兄様。折角ですから能力縛りで行きましょう!」
「お前。昨日は命がかかってる場面では縛りするなとかほざいてたよな」
「だって秒殺するのもあんまりじゃないですか!」
まぁなんでもいいか。
海は銃を構えてるが特殊弾丸は使わないだろう。
桃花は手には宝石を構えている。
「空君。海ちゃん。もしも危なくなったら私が迷わず粉々にするね」
「頼んだ」
俺はドラゴンの懐に潜り右前足を切り裂く。
紫色の血を吹き出すが対して動じない。
体力はあるようだな。
「空君!ブレス来るよ!」
「分かった!」
桃花の合図と共に走り込み尻尾の下に移動。
それから間もなく凄い熱量の炎が放たれた。
色は赤ではなく毒々しい紫。
紫の炎なんて初めて見たな。
「まったく……ちゃんと避けてください。私が助けなければ死んでましたよ」
「お前らどうして普通に避けれるんだよ!」
竹林は桃花に持ち上げられている。
まるでトンビに攫われたかのようなアホな図面で。
「お兄様。さすがに彼の命が危なかったので能力使わせていただきました」
「分かった」
「適当な木の上に落としときますね」
そう言うと海は竹林を無慈悲に落とした。
彼は木に引っかかる。
そこなら大丈夫だな。
「……さて、そろそろ私も戦います」
海が羽を仕舞い降り立った。
片手には銃が握られている。
闇に紛れし黒でとてもカッコいいな。
俺も銃を使いたくなってきた……
「凍てつく氷。冥界から下りし死の冷気。相手の魂をいざ凍らさん!」
そして桃花が宝石を片手に詠唱し空に投げ飛ばす。
その瞬間、地面から幾万もの氷槍がドラゴンを串刺しにした。
「……桃花。今の詠唱すごくカッコイイです!」
「今後考えてあげよっか?」
「是非お願いします!」
「でもカッコイイだけで威力が上がったりとか唱えないと魔法が発動しないなんてことはないからね」
ただの演出じゃねぇか!
もっと言えばファッション!
たしかにめちゃくちゃカッコいいし俺も真似したいと思ったけどさ!
あんな言葉選びしてぇな……
「うわ、厨二……」
「竹林。うるさい」
水を差すな!
もしもそれで桃花が恥ずかしがって詠唱やめたらどう責任取るつもりだ!
あのかっこよさが分からないなんてそれでもお前は男か!
「……まだ生きてるみたいだね」
ドラゴンは先程より動きが鈍ってるが生きている。
しかし刺さった氷が抜けず身動きが取れないみたいだ。
「お兄様。今度は魔法も禁止しましょう」
「そうだな」
結局秒殺か。
まぁそうなるよな。
「もう殺していい?」
「任せる」
「それじゃあ殺すね」
そう言うと桃花は靴底を鳴らした。
その音が聞こえると同時にドラゴンは血をまき散らしながら粉砕した。
桃花お得意の音での破壊だ。
俺も一回やってみたが中々上手くできない。
中々壊れないのだ。
あれは脳内で人外レベルの計算をして成し得る技。
俺の場合はせめて触れてれば出来るが遠距離からは無理だ。
改めて桃花のチートっぷりが明らかになる。
「……なんだよ……完全に化け物じゃねぇか……」
そういえば竹林は俺達の戦闘を見るのは初か。
お前もそのレベルになるんだぞ。
「海。竹林を降ろしてやれ」
「分かりました」
桃花が再び羽を出して飛び竹林を向かいに行きゆっくり降ろしていく。
「しかしドラゴンなんて早々出るものじゃないです。しかも見た感じだと死体を動かしたような感じ。一体誰がそんなことをしたのでしょう」
「誰かが故意的に仕向けたってことか」
「少なくとも私はそう考えますね」
一体誰がこんなことを……
また雲いきが怪しくなってきたな。
「いやいや見事だ。さすが王女様」
そんなことを考えてると若い男の声が聞こえた。
一体誰だ!?
「お初お目にかかります。プフィルズィッヒ様」
「私の名は佐倉桃花よ。雑魚に名前を呼ばれるのは不快だけどそれ以上に名前を間違われるのは不快なの」
「いいえ。プフィルズィッヒはあなたにつけられる予定の名前であり本名ではありません。つまりあったかもしれない名前なのです」
どういうことだ?
まったく話が読めない。
いや、それよりコイツは……
「ふーん。それでこのドラゴンはあなたが?」
「以下にも。吸血鬼流の歓迎の義でございます」
「そう。それとあなたの名前は? あなたは私を知ってるみたいだけど私は知らないの」
桃花は一体なんなんだ……
これが真央の言ってた桃花の秘密なのか……
「失礼。私は吸血鬼でペーター・ネクロ。【血】の使徒で能力はネクロマンス。このドラゴンみたいに死体を動かすことが出来る」
「なるほど。なら今から行くから帰って伝えてくれる? この国の時期女王“佐倉桃花”が観光に訪れたってね」
新たな闇が姿を見せる。
俺の知らない桃花を知ることになる。
また一波乱ありそうだ。




