149話 寝取り
あれから俺達はすぐに帰宅した。
ロリコーンが目撃されたところには真央に連れていってもらう予定でいる。
そして今は竹林への説明だ。
「つまり世界の均衡はエニグマによって保っているわけか」
「とりあえずそうです」
「あとお前ら神崎家は血筋からして色々と規格外なのは把握した。たしかに神の血を引いたる血縁ともなればまぁ納得だわ」
ちゃんと理解してるみたいだな。
何よりだ。
「そしてラオベン。俺の右腕をこんなにした組織か」
「そうだ」
「そのボスががお前らの入ってる部活の顧問でしかも海ちゃんに限っては能力まで頂いた」
「はい。ていうか竹林も魔神の右腕とかいう最高に厨二能力を貰ってるじゃありませんか」
これを能力と捉えるか。
被害者と見ずに漁夫の利を得たと見るのか。
「いやいやおかしいだろ! たしかに身体能力がかなり上がってたりするが……」
「ここは眼帯でもして“俺の右腕が疼くぜ”とか“右腕に宿りし魔神よ! その封印を今解かん!”とか言えばいいんじゃないですか?」
「やめろ! 俺は厨二じゃねぇ!」
「すみませんが冗談は顔だけで十分ですよ」
まぁ仲の良いことで。
しかし竹林をこれからどうするか。
聞いた話だと行方不明扱いになってるらしい。
家に帰してもいいが家族がラオベンとは関係ないこちら側の世界に巻き込まる可能性もあるし何より魔神の腕の説明がつかない。
「空君。竹林どうするの?」
「俺も考えていたところだ」
桃花の家。
すなわちここに住ませる。
うん。却下。
桃花と同じ屋根の下で暮らすとか俺が許せねぇ。
「そういうば空君のマンションあったじゃん。あそこ再契約して住ませるのはどうかな?」
「いいなそれ!」
桃花ナイスアイデアだ!
あのマンションの管理人となら話を合わせやすい。
あれは金さえ積めば動いてくれるタイプの人間だ。
「竹林。とりあえず明日から住む家は俺の住んでたところな」
「……住んでた? 神崎は今どこに住んでんだ?」
「ここだが?」
まったく何を当たり前のことを。
俺が桃花と違う家に住むわけがないだろ。
「ここって桃花さんの家だよな?」
「当たり前だろ。同棲してんだから」
「はぁぁぁぁぁぁ! ていうか他にも部屋有り余ってんだから俺もここに住ませろよ!」
「却下。ここは桃花の家でうっかりお風呂上がりとかに鉢合わせてラッキースケベなんてしたらお前を殺さざる負えなくなるからな」
竹林がここに住むのは問題しかないんだよ。
ここは俺と桃花の愛の巣だ。
この絶対聖域に癒し担当の海と家事担当の白愛以外は不要である!
まして男とか論外!
桃花がどんな目に遭うか考えただけで恐ろしい!
下手したら俺の特権である寝巻き姿の桃花が見られたりしてしまうではないか。
「えぇ……」
「まぁとりあえずあのマンションは前まで俺と白愛の二人で住めてたくらいだから狭くはないから安心しろ」
「なんか腑に落ちないんですがそれは……」
知るか。
俺は人目を気にせず桃花とイチャイチャしたいんだ。
はっきり言って邪魔なのだ。
「まぁそういうわけだからよろしく」
「うーん。この邪魔物扱いされてる感」
やれやれ。
ていうか普通にしてるのも疲れてきたな。
「桃花」
「膝枕だね。良いよ!」
察しが良くて助かる。
俺はそのまま桃花に体を預ける。
「まぁ何か問題が起きたら対処するから言ってくれ」
「ていうかお前はさりげなく何しとんじゃい!」
「何って見ての通り膝枕されてる。やっぱりここが一番落ち着く」
「きゃ。嬉しい!」
本当に桃花は反応とか全てが可愛いなぁ。
だからこそ色々としたくなる。
「ていうかロリコーンってどこに出没するんだっけ?」
「たしかどっかの森だよね。もちろん海外だったけど」
「折角だし観光地の一つや二つ寄ってデートしてから帰るか?」
「いいねそれ! 私も久しぶりに空君とデートしたい!」
「決まりだな」
さて、国名も覚えてるしあとで調べておこう。
めんどくさかった依頼が楽しみになってきた。
「おい依頼放り出すな」
「放り出してねぇよ。ちょっと桃花とデートしてからこなすだけだ」
勘違いもはなただしいな。
ただ依頼が終わるのが深夜になるだけだろ。
「まぁそのぐらい平和なら良いんですが……」
「海。どういう事だ?」
「ロリコーンは八歳に満たない幼女の子宮だけを好んで食べる一角獣。もしかしたら村は観光客を向かい入れる余裕すらないかもしれませんよ」
「なるほど。やっぱりデートよりロリコーンの討伐が先か」
たしか見た目は角が生えた馬で魔獣だったはず。
エニグマ指定危険ランクはB。
それがどのくらい強いのかは知らん。
相手が再生とかない生物なら桃花は余裕だろう。
「……ていうかそれってユニコーンじゃないのか」
「たしかロリコーンはユニコーンの突然変異種です。だからある意味ユニコーンかもしれませんね」
ロリコーン。
またの名を“幼女殺し”。
極めて害悪な魔物の一種である。
それこそ見つけ次第殺せと言われるほどの……
「ちなみにおっさんみたいな顔をしてるみたいです」
「完全にネタじゃねぇか」
竹林も随分と失礼な奴だな。
ロリコーンだって好きでロリコーンとして生まれた訳ではないだろ。
彼等の食生活がたまたまロリコンと似ているだけでロリコーンからしてみたらいい風評被害だ。
まぁ殺さないと桃花とデートできねぇから殺すが。
「でも気をつけてください。相手は馬で非常に獰猛で隙あらば串刺しにしてきますよ」
基本スペックはただの馬か。
なら雷で一撃だな。
「それってかなりヤバくないか……ちゃんと銃とか持って武装したほうが良いじゃないか?」
「ビビりすぎだ。相手は所詮は馬だ。動じることはないだろ」
なにを馬如きでビビってるのか。
あんなの素手でも勝てるだろ。
「とりあえずお兄様と桃花は私にくっついてください。念の為に安全マージンを取ります。竹林は適当に走ってください」
海のバリアを破れない程度の攻撃か。
負ける要素がねぇな。
「……は? どうして俺は走るんだよ!」
「生理的に触れられたくないからです」
「ちょっと酷すぎねぇか!」
「握手くらいなら良いですが流石に抱きつかれるのは……」
前々から思ってたが海の力はどこから出てるのだろうか。
見た感じはそこまで筋肉もついてなく細身である。
しかし俺と桃花を同時に持ち上げて簡単に走れるだけの力はあるわけだ。
まぁ神崎家の何か特殊な力ってことにしとくか。
桃花は才能だから考えてるだけ無駄だ。
「俺の命がかかってるんだぞ!」
「相手は馬ですからそれはないです」
「お前ら馬を舐めすぎだろ! 踏まれたら人の骨なんて簡単に粉砕するんだぞ」
一体どうやったら踏まれるんだよ……
そんな場合なんて早々ないだろ。
「ていうか空君。学校遅刻しちゃう!」
「仕方ねぇ。真央に休むって言っとくか」
そういえば今日は期末テストだっけ?
まぁなんでもいいか。
「今日って……」
「月曜だな」
「期末テストじゃねぇか! 俺はどうして学期末じゃないのに名称が期末なのか問い詰めたいがヤバいぞ!」
「お、そうだな。とりあえず部活の時間になったら俺達は学校に行くから部室で待ち合わせな。部室は四号館の二階だ」
さて、俺は桃花とイチャイチャするとしよう。
桃花成分が足りないしな。
「……お前ら行かねぇのかよ」
「当たり前だ。点数には余裕があるし学校行く暇あったら桃花に耳かきしてもらうわ」
「あ、空君の耳かき私やりたーい」
桃花がそう言うならやってもらうとしよう。
間違いなく上手いんだろうな。
「行ってらっしゃい」
「ていうか制服どこだよ!」
そういえば制服ないのか。
たしか死んだ事になってるから家に取りに行かせるわけにもいかないな。
ていうか普通に学校行って大丈夫なのだろうか。
「まぁ真央に頼むか」
「分かりました。事務室に用意しとくように真央に頼んでおきますね」
「というわけだから何も心配するな。行ってこい」
「はいはい。俺は厄介者ですよ」
察しが良いな。
実際その通りだ。
そして竹林は去っていった。
海は真央にメールをしている。
「海ちゃん。耳かき取ってー」
「あとで私もお願いしますね」
「いいよー」
海はメールを打ち終わり携帯を閉じると耳かきを取ってくれた。
そして桃花が俺の耳かきをする。
あぁなんと心地良いのだろうか……
「痒いところはない?」
「特にないぞ」
「それじゃあそのまま奥に行くね」
さて、ロリコーン討伐。
あと依頼はもう一つあるんだよな。
それは明日終わらせる予定ではあるが。
「お兄様。まだですか。私も早く桃花に耳かきしてもらいたいんですが!」
「すまん。これは妹であるお前にも譲れないわ」
「ふざけないでください。私の姉でもある桃花を独占しないでください!」
ちゃっかり姉認定してるし。
でもこれだけは譲れないんだよな。
「その前に桃花は俺の嫁だ」
「海ちゃんも焦らない。あとでやってあげるからのんびり待つんだよ」
「まったく……」
そうそうそこだ。
そこが心地良いのだ。
「空君。海ちゃんの耳かき終わったらベッド来て。もう我慢出来なくなっちゃった」
「俺もだ。終わったらやるか」
「おいそこ。朝からパコパコするな」
仕方ないだろ。
最近は忙しくて出来なかったんだから。
「ていうか桃花! 今度私ともしてください!」
「……女性同士だよ?」
「問題ありません!」
「まぁ私も海ちゃんならいいかな」
おい、目の前で寝取るな。
俺、今寝取られたぞ。
実の妹に……
「やったぜ」
海は誇らしげにガッツポーズをする。
まさか寝取られるとは思ってなかったよ。
桃花ならそんなことないと信じていたのに……
「空君。右耳終わったから左耳いくよ」
「……おう」
いや、まだだ。
まだ取られてはいない。
一回寝るだけだ。
「空君妬いてるの〜?」
「……妬いてねぇし」
「絶対妬いてるよ〜。妬いてもらえるなんて私嬉しいな!」
はぁ……
まさかこんな日が来るなんてな……
「私だって海ちゃんだから許すんであって他の人には許さないよ」
「分かってるよ」
俺もまだ海でしかも女だから許せる。
もしもそれが何処の馬の骨とも分からない男だったら……
考えただけで寒気がしてきた。
「いつやろっか?」
「明日の夜とかどうです?」
「それじゃあそうしよっか」
でもなんかモヤモヤする!
なんかすっげーモヤモヤする!
「これで私もリア充に!」
「付き合うわけじゃないからね〜」
「クソが!」
「海ちゃん言葉遣い汚いよ〜」
これが海が俺達に抱いて感情か。
たしかにこれは文句の一つや二つ言いたくなるわ。
でも俺は海と違って大人だから言わない!
「はい。終わったよ。海ちゃんおいで」
桃花が太ももをポンポン叩いて呼ぶ。
俺は渋々頭をずらす。
もう少しあの弾力に包まれていたかった……
「ていうか桃花は耳かきしなくて大丈夫ですか?」
「もうそろそろ空君にやってもらおうかと思ってるよ」
「よろしかったら私がしましょうか?」
「うーん。やっぱり空君かな!」
やったぜ!
海に勝ったぜ!
「……そうですか」
「そうだ。今度お風呂一緒に入ろうよ! 流石に一人じゃ大きすぎるでしょ?」
「是非お願いします!」
「ていうか三人で入る?」
……え?
いや、流石にこの年で妹と風呂に入るのは……
「……お兄様。どうします?」
「問題しかないような気がするんだが」
「でも考えてみたら何が問題なんでしょう? ただ少し恥ずかしいだけで……」
「それもそうだよな」
あれ、問題なくないか?
つまりこれからは三人で入るわけになるのか。
「どうします?」
「海が良いならそうしよう」
「じゃあこれからは三人で入りますか」
たしかに二人でもかなり持て余してたしな。
ていうか三人でも持て余す。
やはりあの風呂は広すぎる。
まぁだからと言って人を増やす気はないが。
「さてと海ちゃん終わったよ。次は右耳やるからゴロンして」
「……はい」
なんか海が猫みたいだ。
今すぐにでも“にゃー”とか言いそうな気がする。
「そういえば海ちゃん猫耳付けてよ! 絶対似合うと思うの!」
桃花も同じ事を思ったか。
やっぱり海に猫耳は合うよな。
「いいですよ」
「やったー!」
猫耳海か。
間違いなく可愛い。
「なんなら語尾を“にゃん”にしましょうか?」
「本当!?」
「はい。そのくらいなら問題ありませんし」
「それじゃあお願いするね」
あ、絶対可愛いやつだ。
ていうかネコは海のツンとした部分と相極まってめちゃくちゃ相性良いと俺は思っているのだ。
「桃花は動物コスプレするならウサギか?」
「そうだな。私は空君がいないと寂しくて死んじゃうもん!」
やっぱり桃花は可愛いぃぃぃ!
もう言い方とかセリフとか反則でしょ!
いくらなんでも可愛すぎでしょ!
「寂しく死ぬは病気のサインに気付かず死なせてしまうっていう曲解が通説ですよ」
「海ちゃんは水を差さないの」
そうだぞ。
揚げ足を取るような行為は感心しないぞ。
「はーい」
「分かればいいんだよ」
しかし見ていて微笑ましい光景だな。
これが尊いと言われる感情なのか。
「さて、耳かき終わったよ」
「名残惜しいです……」
「また今度ね。それじゃあ空君。ベッド行こっか?」
かなり久しぶりだな。
さて、桃花に可愛がってもらうとしよう。
「学校始まる時間にはやめくださいね」
「分かってる」
そうして俺はリビングを後にしてベッドに桃花と移動した。




