15話 嘘
「空様。全て終わりましたよ」
俺はベットにいた。
近くにいるのは白愛だけだ。
「……ありがとな」
「メイドとして当然です。さて、本題に入ります。誰にやられましたか?」
話はいきなりあの事件の話に入った。
しかし話さないわけにはいかないだろう。
「……父親だ」
「それは本当ですか?」
「あぁ」
「……あの優しい人がそんな事をするとは思えません」
俺もその通りだ。
だからこそ俺は間違いなく中身は親父ではないと確信を持って言える。
「俺もだ」
「でも……」
「とりあえず今の親父の現状を伝えていいか?」
「はい」
俺は白愛に伝える。
帰ったら親父が家にいた事。
性格が親父とは正反対の事。
そして狙いは白愛である事……
「中身はもう別人と思っていいですね。でもおかしいですね。海様は特に性格が変わったなんて事を言ってなかったんですが……」
「海と親父は一緒に暮らしてるんだったな」
海がそんなことを言っていたな。
もしあんな杓変した親父と海が暮らしていたならあの海が何もしないとは思えない。
それに海は俺に優しい親父と言っていた。
つまり変わったのはつい最近だ。
それこそ海が来る前。
「はい。木曜日に家を出て土曜日の昼にこの街に着いたそうですよ。そして賃貸を一ヶ月だけ借りてるみたいです」
海は白愛に会うためだけに来たのだ。
そして土曜日に結婚して帰るつもりなのだろう。
だから一ヶ月。
そして親父が杓変したとしたら木曜日。
「海は親父の能力について知ってるのか?」
「いいえ」
「分かった。それと白愛の方で親父の無力化は可能か?」
そこが一番重要だ。
白愛が対処できるならそれでこの話は終わり。
「二日ほど時間はかかると思いますがやってみますね」
「頼んだ」
もう問題はないと見ていいな。
ただその二日間どうするかだな。
「それと絶対に自宅には帰らないようにしてください。あそこはお父様に場所が割られています。学校にも行かないでください。下校中を狙われる可能性もございますから。とりあえずは桃花様の配慮によりここに泊まっても良いという事なのでここにいてください」
それが一番安全だろう。
親父がどうにかなるまでここに籠るしかないな。
少し悪いとは思うが今は桃花に頼るしかないのが現状だ。
「さて、名残惜しいですがそろそろ海様の元に戻りますね」
「あぁ」
まだ白愛は海のメイドだ。
本来はここにいる方がおかしい。
「今回は無理を言ってに二時間だけ時間をもらったにすぎませんかれね」
「分かってる」
「それではさようなら」
そうして白愛が帰っていった。
久しぶりに会えて満足だ。
「……話は終わった?」
白愛が去ると同時に桃花が入ってくる。
心配して扉の前にいてくれたのだろう。
桃花には悪いことをしたな。
「白愛さんって凄く可愛いくてしっかりしてたね」
桃花の言う通りだ。
恐らく桃花の劣等感はさらに強くなった……
「これから夕食だけどどうする?」
「食べる」
「それじゃあ持ってくるね」
桃花が晩御飯を持ってくるため部屋を後にした。
しかし親父の件は警察に行くという手段もあるが親父がなんの対策もしてないとは思えない。
それにヤツの能力で警官の記憶が奪われて終わりだろう。
「……とりあえず当分の間は白愛の言う通り学校は休むしかないな」
話には出さなかったがそれには問題が一つある。
それは海と白愛の結婚式ただ。
なんとしても結婚は阻止したい。
つまり学校に行かず海に会って説得する方法を考えないといけない
海を説得しないと白愛が取られてしまう……
それだけは絶対に嫌だ。
白愛は渡したくない。
「神崎君。持ってきたよ」
「ありがとう」
桃花が作った料理を持ってくる。
どうやら作ったのは肉じゃがらしい。
「いただきます」
「どう?」
口に運ぶがそこまで特別美味しいというわけではない。
でも不味いわけでもない。
強いていうなら普通。
「うん。美味しいよ」
俺は桃花を傷つけないために嘘を吐いた。
しかしそれが不味かったらしい。
「……嘘つき」
桃花に嘘がバレてしまった。
考えてみたら桃花はとっても察しが良い。
桃花に嘘や隠し事は無理だ。
「そんなことは……」
俺は必死に否定しようとする。
否定しても意味がないのは分かってる。
しかし口が勝手に動いてしまうのだ。
「分かってるよ。私の料理が白愛さんに敵わない事だって……」
桃花が悟ったようにそう言う。
俺はそれに返す言葉もない。
「神崎君が寝てる間に白愛さんがクッキーを作ったの。それ一口もらったんだけど今までに食べたどんなものより美味しかった。私にだってそんな料理を日常的に食べてる人が満足しないのは分かるよ」
「……ごめん」
申し訳なさから謝ってしまう。
「神崎君は悪くないよ。神崎君は私を傷つけないように嘘を言ったんだもん……」
桃花はそう言うが桃花の心情を知ってしまった今ではその言葉は刃でしかなかった。
心が針に突き刺されたようにズキズキと痛い。
「……とりあえず食べるよ」
「うん」
俺は桃花の作ってくれた料理を平らげた。
食事中も特に話が弾む事はなかった……
「ごちそうさまでした」
桃花はそれに言葉を返すことは無い。
ただただ無言で片付けていく。
「それと明日学校休むから先生に伝えてくれ」
「……明日だけ?」
桃花が小さい声でそう尋ねる。
なんとか聴き取れるレベルのホントに小さな声だ。
「分からない。でもほとぼりが冷めるまでは休もうと思う。下校中に見つかってアイツに尾行されたら最悪だ」
「分かった」
桃花はしっかりと伝えてくれるらしい。
彼女なら上手くやってくれるだろう。
「ありがとう」
「……怪我人なんだから早く寝なね」
桃花は優しくどこか冷めた声でそう言った。
この声にはとても寂しさを感じた。
「あぁ分かってる」
桃花が部屋を後にした。
俺は再び一人になった。
そして俺は疲れからかそれとも桃花を傷付けた罪悪感からかどうかは分からないが凄い眠気に襲われてそのまま眠りについた。