145話 パーティー
「というわけで桃花が使徒になった祝いにパーティーするぞ」
「お兄様。今の時間は深夜二時ですよ。騒がないください」
別に近くに家はないんだから問題ないであろう。
ていうかここに来てから夜更かしする事が異様に増えたな。
「ていうか私だけ使徒じゃないので凄く疎外感があるんですが」
「お前には蝶化ってチートがあるだろ」
「たしかに能力はありますよ。でも使徒って互いに分かるみたいですけど私にはそれがないんですよ!」
それは真央の聖杯産能力だから仕方ない。
分かるのは神様産能力の特権だ。
「ごめんね。私のためにずっと起きててもらって」
「当たり前だ。お前は俺の大事な嫁なんだからな」
「大爆発覚えさせてPP切れるまで永遠に使わせてやろうか。この腐れリア充」
海が少しだけ物騒なことを言ってるが気にしないでいこう。
ていうかPPとかいう俺の知らないワードをぶち込むではない。
「それでケーキは何を用意したんです? わさびケーキですか? からしケーキですか?」
「普通のショートケーキだよ」
海が挙げたのは完全に罰ゲーム用じゃないか。
しかもドS紅茶の作中で出てきたやつだし。
「まぁ早く食べましょ」
「……用意周到な事で」
気づいた時には海の手にナイフとフォークが握られていた。
今回の主役は桃花であってお前ではない。
「ていうか海ちゃん私達に嫉妬してるみたいだけど結構告白は受けてるじゃん」
「たしかに受けてますけどお顔が少し悪すぎます。あと嫉妬してません」
「ちょっと空君を一般レベルに置くのやめよーか」
海なら相手には困らないと思うんだがどうも海の方が願い下げらしい。
その結果、海は未だに非リアである。
我が妹がそんなとは本当に兄として恥ずかしい……
「まぁ多少顔が悪いのは妥協しますよ。でもこれと言った特技がない人というか一緒にいてつまらなそうな人ばかりではありませんか」
「そりゃねぇ……」
海の恋愛の悩みは多い。
高すぎる理想は身を滅ぼすぞ。
「やっぱり私には白愛が一番だと思うのですよ」
「おーい。百合の世界から帰ってこーい」
桃花が海に訴えかける。
そういうば海って最初に会った時は白愛をフィアンセにしてたような気がしなくもない。
自分の命を賭けて強引に結婚を迫り……
「お兄様。どうしたのです?」
「いや、なんでもない」
うん。忘れよう。
あれは恐らく一時の気の迷いだ。
考えてみたら海が生まれて初めて優しくされた相手は白愛だ。
世界を知らなかった海が惚れたとしても不思議ではない。
「愛に性別など関係……」
「あるからね」
海が高らかに宣言しようとするも桃花のドスの効いた声ですぐに否定された。
それにより海がうずくまっている。
どうやら会心の一撃だったらしい。
「桃花!私と付き合って……」
「だーめ。私には空君がいるからね!」
「そんなぁ〜」
海は俺に強い。
俺は桃花に強い。
そして桃花は海に強い。
まるでじゃんけんのような関係性だな。
「ていうか桃花の能力は何だったんです?」
「好きな周波数の音を出せる能力だよ」
「うわ。チート。なにその最大攻撃力を誇る能力……」
「あ、それと空君にあれしなきゃ」
桃花が席から立ち俺に抱きついてきた。
すると体が少しばかし揺れた。
慣性で揺れたというより音で揺れたような……
「空君の能力は一度受けた攻撃を再現。だからこれで私の音の能力も使えるはずだよ」
「……悪いな」
少し右手から音を出してみる。
するとピーーっと言ったモスキー音が聞こえた。
「さすが空君!」
しかし音は強いな。
音とは振動である。
音でワイングラスを割ると言った動画があったり音響兵器という音を使った兵器が考えられてたりするぐらいだ。
「私の存在が嘘の音を使いこなすとはね!」
「ライサウンド?」
「うん。やっぱり名称があった方が便利だから!」
ていうか普通にカッコイイ。
何か俺のも良い名前がないか……
「空君のも考えてあげる」
「頼む」
「“知識による“完全再現”はどう?」
かなり良いではないか。
気に入ったぞ。
「ありがとな」
「どういたしまして」
「桃花! 私のもお願いします!」
「うーん。海ちゃんの場合は“最も美しき蝶の羽”かな」
「良いです! すっごく良いです!」
これで能力説明も楽になった。
桃花のネーミングにはセンスしかないな。
「……ただいま」
「お母さん!」
「桃花!? 熱は大丈夫なの?」
「うん! 治ったから!」
その瞬間、桃花のお母さんは俺はギロりと睨んだ。
まるで文句があるかのように。
「いい? 桃花は病み上がりなんだからあんまりあなたの事情に付き合わせないでくれるかしら?」
「……すみません」
気迫の強さに思わず謝ってしまう。
こんな人だっただろうか……
「ていうか桃花! あなた使徒になってるじゃない!」
「うん」
「ちょっとお祝いしなきゃ。今からパーティーするわよ!」
一気に騒がしくなったな。
その方がパーティらしいと言えばらしいが。
「お母さん。今そのパーティー中なの」
「あらそうなの。さすが桃花の夫ね。娘のためにすぐパーティーを開いてくれるなんて。うちの智之もこのくらい気が利けばいいんだけど……」
「ていうかお母さん酔ってない?」
「当たり前よ! ルークが死んだというめでたい日に飲まないわけないでしょ!」
え、ルークってこんな扱い酷かったのかよ。
少し予想外……
「そもそも私達佐倉家は引きこもり姫陣営からルーク陣営に送られたスパイなんだよ。敵陣営の親玉が死んで祝わない馬鹿がどこにいる!」
いまいちエニグマの勢力図が分からない。
真央も言ってたが“引きこもり姫”とはなんなんだ。
「お母さん。それってどういうこと?」
「そういえば桃花にはルークにうっかり口を滑らせる可能性あるから隠してたの忘れてたわ。まぁ酒の味も知らないような“お子ちゃま”達は気にしなくていいのよ」
なんかすっげーイラつく。
分からないけどムカつく。
「桃花。お前のお母さんってもっと無口だよな?」
「ごめんね。お酒入ると別人になるから」
どうりで記憶にある人格像と違うわけだ。
少し納得した。
「それとお母さんは酔ってた時の記憶は一切残らないから」
「マジかよ」
酒癖悪すぎだろ……
もしかして桃花も酒を飲んだら……
「ちなみにアリスさんも引きこもり姫陣営のスパイだったんだよ。殆どがスパイってどこかの黒の組織みたいで笑っちゃうよね。ルークって本当に間抜けだったよ」
「え、そうなんですか!?」
「うん! アリスは何と言っても……ってこれは流石に言っちゃまずいやつだった」
桃花のお母さんは重要な事を言いかけてやめた。
一体アリスはなんだと言うのだろうか……
「あ、ケーキだ! 食べちゃうよ!」
「お母さん! それ私のだから!」
この人がケーキを全て胃に収める前に切り分けよう。
そうしないと怖すぎる……
「ちょっと分けるから退いてくださいね」
「え? 全部私のじゃないの?」
「そんなわけないでしょ! 今日の主役は私で空君が私のために作ってくれたケーキなんだから!」
そういえば智之さんが前というか一周目の世界で俺をエニグマに誘っていた。
それは引きこもり姫陣営だったのか。
それともルーク陣営だったのか。
一体どちらに誘っていたのだろうか……
まぁそんなことはどうでもいい。
それよりケーキを切り分ける方が先決だ。
俺はケーキの方に目をやる。
……あれ?
「桃花。ケーキ知らないか?」
「そこに……ってないね」
ケーキが消えたぞ。
一体どこに行ったのだろうか?
俺は背中を向けてうずくまってる海に話しかける。
「海は知ってるか?」
「……」
「海?」
「あ、すみません少しボーッとしてました。それでなんですか?」
「ケーキがないんだ」
海がケーキがあった場所に目をやった。
それでないのを確認する。
「本当ですね。一体どこに……」
「海ちゃん。頬にクリームついてるよ」
「嘘!? ちゃんと拭いたは……」
「もちろん嘘。でも犯人は分かったね」
こんな分かりやすい罠に引っかかるな。
しかしあの大きさのケーキを一瞬で平らげるとは……
「酷いです……」
「酷いのはどっちよ! 空君が私に作ってくれたケーキを一人で食べちゃって!今すぐ吐きなさいー」
「無茶言わにゃいでくだちゃい」
桃花がこれでもかと言うぐらい海の頬を引っ張っている。
なんかそうしてると海がマスコットキャラに見えないこともない……
「うぅ、あんまりです」
「自業自得よ!」
桃花が海から手を離してバチンと音が鳴る。
しかし姉妹喧嘩みたいだな。
もちろん姉は間違いなく桃花。
でも実際は海の方が早く生まれてるんだよな。
「ったく。次やったら覚えてなさい」
「すみません。二度としません。それと頬が凄く痛いです……」
「知らないわよ」
海は自分の頬を慰めるように撫でている。
よっぽど痛かったのだろう。
「ていうかケーキ無くなったがどうする? また作ってもいいが日が昇る方が早いぞ」
「そうだよね」
まったくうちの妹ときたら何をしてくれてるんだか。
いや、待て。
そういえば前に作ったプッシュドノエルがあったはずだ。
「桃花! プッシュドノエルってどこにやった」
「え、もう食べちゃったよ。凄く美味しかったよ!」
「お前は〜」
桃花が海にしたように俺も桃花の頬を引っ張る。
どうしてこの二人はすぐにケーキを食べてしまうのか。
「痛てて。ていうか早く食べないと腐っちゃうもん」
「それもそうか」
俺は桃花から手を離す。
たしかにその通りであるな。
「悪い」
「別に良いよ。だって空君だもん!」
「本当に一回爆発してしまえ。社会の敵」
「海ちゃんもそういう事言わないー」
「痛い。痛いです! 頬を引っ張るのだけはやめくださいー」
しかしケーキがないときたか。
もう一層の事ポテチで祝うか。
ボードゲームでもやりながら。
うん。そうしよう。
「ちょっと待ってろ」
「何か作ってくれるの!?」
「まぁな」
適当に漁ってジャガイモを取りスライス。
それからすぐに揚げてポテトチップスにしていく。
味付けは軽く塩だけでいいだろ。
「まぁこんなものになってしまったが我慢してくれ」
「凄い!」
まぁ喜んでくれたなら良かった。
さて、あとはボードゲームは何を……
「折角ツマミがあるんだしアレやる?」
「あれ?」
「TRPG。略さず言ってテーブルロールプレイングゲームね」
なんか聞いたことあるぞ。
確かすごく難しそうな記憶だったが……
「TRPG! いいですね! やりましょう!」
「それじゃあゲームマスターは私がやるよ。あとは桃花。説明してあげて。私はその間にゲーム用の道具取ってくるから」
「そうだね。お母さん」
提案者である桃花のお母さんがゲームマスターなのか。
そもそもゲームマスターとはなんなのだろうか。
「私のお母さん。GM進行が凄く上手いんだよ!」
「そうなのか」
「ちなみにGMって言うのは進行役の人の事ね」
それから俺は桃花から一通りの説明受けた。
凄く面白そうなゲームだ。
それと海が凄く好きなそうなゲームでもある。
「ちなみに舞台は現実ね」
「え!? クトゥルフ系じゃないんですか!?」
「ちょっと飽きちゃった」
海は文句を少し言うがすぐに受け入れる。
さて、どんなゲームになるだろうか……
◆ ◆ ◆
「……なぁ。どこで選択間違えたんだろう」
「私達は最善の選択をしたよ。多分このルート以外だったらもっと悲惨だったと思うよ」
「……お人形さん……怖い……もう……嫌」
最初は普通の学校から始まった。
そこまでは良かった。
スクールカーストでは真ん中を保っており普通に平穏な生活であった。
しかしある日からイジメが始まった。
そしていじめっ子に復讐するために呪いの人形と契約して……
ダメだ。思い出しただけであまりの恐怖に寒気がしてきた。
「やっぱり人形の手を借りるべきじゃなかったんだよ」
「借りなかったから虐めはエスカレートしただろ」
「うーん。どれ選んでもバッドエンドの気が私はするんだよね」
ていうか何故イジメが始まった?
恐らくイジメが始まるトリガーを引いたのが今回のミスだ。
「楽しんでくれたみたいで……なにより」
「……トラウマになりました。もう眠れません」
「ちなみに……私は眠いから…寝る」
眠れないというがもう朝の6時だぞ。
現に鶏がコケコッコーって鳴いている。
それなのに眠気は全くない。
怖すぎて寝るどころではない。
「いつもより抑え目だったね。お母さん」
「……そう……かな」
そしてこの人はいつの間にか酔いが覚めてるみたいだ。
こんなオンオフ出来るものなのだろうか。
「それじゃ、おやすみ」
そうして桃花のお母さんは“眠い”と呟きと欠伸を同時にしながら階段を登っていった。
しかし寝るのもあれだし何をするか……
「そうだ。折角だし竹林の見舞いにいくか」
どうせ退屈してたんだ。
それに彼がどんな状態か気になるしな。




