144話 本当の私
「本当の桃花。ありのままを言うぞ」
「……うん」
改めて言うとなると恥ずかしいな。
でも桃花の命がかかってる。
彼女の性格からして間違いなく死ぬまで試練を続けるだろう。
それが桃花だ。
「ちょっぴり……いや、かなり腹黒でドS。常に自分の立ち位置はトップで全てを見下す」
海と桃花は似ている。
どちらも芯が強くて癖が強い女の子。
少し他者を見下す癖がある女の子。
でもそれが俺の好きなところだ。
「……ひどい。さすがの私でも傷つくよ」
「でも合ってるだろ?」
「まぁね」
俺は桃花に魅せられた。
だからこそ多少桃花の性格が悪くても問題ない。
多少誰かを虐めるような人格だとしても。
「でも俺はそんな桃花が好きだ。どうやら俺は相当なマゾみたいで腹黒い女の子が好きみたいだ」
「そんなこと……言われたの……初めて……」
最近気づいたことがある。
俺は腹黒い人が好きらしい。
いや、表面では黒でも中身がピュアな人と言った方が正しいのだろうか。
「みんな……私の……本性を知ると……離れるから」
「俺はいつまでも隣にいるから安心しろ」
「……嬉しい」
桃花が笑顔になる。
しかしすぐに噎せてしまう。
俺は優しく背中を撫でる。
「大丈夫か? 無理をするな」
「うん」
だったら話を続けよう。
いや、俺のプロポーズを。
「桃花。お前はいつまでも俺の嫁だ。お前の全てが好きだ」
「……嬉……しい」
「腹黒なお前も強いお前も頭の良いお前も全てが好きだ」
お前じゃなきゃダメなんだよ。
お前だからいいんだよ。
俺は身近な人を殺されない限りは桃花が好きだ。
さすがにあの闇桃花の方は好きになれないからな。
「本当のお前。それはずっと俺の隣にいてくれるお前だ」
「……空君」
「俺は全部で三回のタイムリープをした。それで分かったんだ」
一度だけ桃花がいなかった世界があった。
それは二周目だ。
その時はただただ地獄だった。
俺のメンタルも一番すり減ったと思う。
その原因はなにか。
桃花がいなかったことだ。
「桃花がいない俺はとっても弱っちいらしい」
「そんな事……」
「俺がいないお前が弱いように俺も同じなんだよ」
「そっか」
彼女の手を握る。
かなり熱くてとても不安になる。
「桃花。どんなお前でも俺は大好きだ」
もう返事は返ってこない。
完全に限界なんだろう。
でも言いたいことはまだある。
「って言えたら最っ高にカッコイイんだろうけど俺はそうは言えない」
「……」
「海を大切に思い俺に尽くしてくるお前が好きだ。俺の事を考えてくれお前が好きだ。お前が大好きなんだ」
全てを好きだとは言えない。
それは闇桃花も好きということになるから。
桃花は好きでも闇桃花は好きではない。
つまり俺はまだ桃花の全てを愛せない。
でも俺は桃花が世界で一番好きだ。
俺はずっと彼女の隣で過ごすつもりでいる。
「全て見せてこい。俺はそういうお前が世界で一番好きだから」
「……うん!」
あとは桃花が試練の合格を祈るだけ。
さて、試練合格祝いにケーキを作るとしよう。
◆ ◆
「……吹っ切れたみたいだね」
再び嘘の神と対面する。
ここは精神世界だからか現実で熱があるのが嘘のように体軽い。
「……どうしてこんな簡単なことに気づかなかったんだろう」
「おや、気づいたのかい?」
「幻っていうのはこの世界の事。つまりあなたの出した課題はここを現実にしろってことだったんだね」
「正解だ。しかしこれをどうやって現実にするつもりだい?」
さて、それが問題だ。
あと彼の言っていた“本当の私”の意味も不透明なまま。
「ここは私の精神世界。すなわち私の中の世界」
「そうだね」
「つまりここは私にとって一つの現実でもあるわけだ。だから私が導き出す答えは既にこの問題は解けている!」
「違うよ。ここは君の中の世界でもあるが僕が干渉することによって実態を持っているに過ぎない。つまり半分は幻なのさ」
この世界を現実にするかは私が如何に自分を認められるか。
それに全てかかっているのだろうか。
そう考えれば本当の自分にも辻褄が合う。
「……私は空君が好き。大好き」
「急にどうしたんだい?」
「本当の自分を確かめたの」
少し腹黒な私。
なんでも出来る才能に満ち溢れた私。
誰よりも可愛い私。
とても傲慢な私。
そのくせ勝てない相手には泣き叫ぶ事しかできない私。
そして、空君を世界で一番愛してる私。
それが私という存在だ。
他の誰でもない私自身。
「エメラルド。貰えるかしら?」
「どうして」
「あなたに本当の私を見せてあげるからだよ」
「そういう事なら」
上からエメラルドが降ってきた。
私はそれを受け取るとすぐに口に手を入れる。
それから迷わず歯をぶち抜いた。
思った以上に痛いね……
「わぁお」
どうせここは精神世界。
怪我をしても実際の肉体は損傷しない。
私は抜いた歯で術式を刻んでいく。
「……出来た」
少し掘りにくかったが無事に書けた。
私は迷わずそこに血を垂らす。
「……痛いよ」
魔法はきちんと発動して嘘の神の頬を掠った。
頬に赤い線が走りるもすぐに消えていく。
「風。私が生まれて初めて使った魔法」
「それで?」
「私の原点よ」
私は魔法使いだ。
魔法を使うのが私だ。
「その意味が分かるかしら?」
「いいや」
「人っていうのは積み重ねの生き物なの。だから私が積み重ねたものを見せてあげる」
私はニヤリと笑う。
悪いがこの試練はもう終わった。
「私は佐倉桃花。佐倉家歴代最強の魔法使いにして宝石嬢の異名を授かりし者! そして空君のお嫁さんだ!」
心の雲が綺麗に晴れた。
今の私こそ本当の私。
「まぁ妥協点かな。いいよ。合格で」
その言葉を聞いて体から力が抜けた。
やっと空君と対等になれたよ……
私も空君と同じ使徒になれたよ。
「佐倉桃花。君はこれから【嘘】の使徒だ。誇って名乗るがいい!」
「そうさせてもらうよ」
「能力は少し嘘とは関係ないが君にピッタリの物を用意させてもらったよ」
体に光が入った。
それと共に能力が頭の中に入ってくる。
「君の能力は音だ。音を自在に操ることが出来る。とは言っても催眠とかではなく基本的には破壊だけどね」
「なるほど。つまり色々な周波数の音を自在に出せる能力だね」
音は振動だ。
高い音になればなるほど周波数。
すなわち一秒間に振動する階数が高くなる。
この能力を使えばコンクリを破壊するくらいならわけないだろう。
「君なら使いこなせるよね」
「うん。それとあなたに免じて“存在が嘘の音って呼ばせてもらうね」
「おお! 少しは嘘が関係したよ!」
さすがに厨二すぎたかな。
でも空君はそういうの好きだし空君が喜んでくれるなら問題はない。
今度、空君の能力にも名称をあげよう。
もちろん厨二成分マシマシのやつをね。
「良かった。これでこの能力は“【音】の使徒の方が使った方が相応しいんじゃないか”って言われることもなくなったよ」
「私もそう言ってもらえると嬉しいよ」
さて、そろそろ帰るとしよう。
何故か知らないが私は凄く疲れた。
「もう帰るのかい?」
「えぇ」
「おやすみ」
「おやすみなさい。とは言っても私には神様が睡眠を楽しむような種族には思えないけどね」
「最後まで酷いなぁ」
新しい私が生まれた。
また私に一つだけ“嘘”が出来ちゃったな……




