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世界調整  作者: 虹某氏
4章【嘘】
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140話 夜桜の指導

「はぁぁぁぁぁぁぁぉぉ!」


 掛け声と共に一筋の銀光が走る。

 鋭利な刃によるものだ。

 その刃はあまりにも早く空間すら切り裂かんとする勢いで男の頬に吸い込まれていく。


「だから遅ぇって」


 しかし男は意図も簡単に回避。

 それにより先程の綺麗な銀光を発した少女はバランスを崩して倒れかける。


「たしかに基本的な人は反応出来ないが俺みたいな規格外が相手だと別。そのためそこからすぐに次の動きに繋げなきゃならない」


 少女は下唇を血が出そうになるほど強く噛んだ。

 あまりにも圧倒的な力の差を見せつけられた悔しさに。


「でも武器の選択は悪くねぇ。お前さんの場合は力があまりない。だったら軽いナイフとか簡単に火力を出せるハンドガンは良い選択と言える」

「舐めやがって!」


 少女は近づいてきた男の懐に潜り込み足を引っ掛けようとする。

 しかし男はこれをジャンプして簡単に回避。


「技の動き自体は完成されてるがその技に入るまでが点でダメだ。そしてその技に入るまでの動きを型という。お前らは体は完成してるから必要なのは型だな」


 そう言うと男はポケットから煙草を出して吸う。

 まるで一服つくかのように。


「……まさかあなたに教えてもらうとは思ってませんでしたよ。夜桜百鬼」

「俺も海ちゃんに戦い方を教える日が来るなんて夢にも思ってなかったよ」


 勝負はついた。

 これでもかと言うほどに決定的に。


「空。分かるか?」

「……なんとなくならな」

「お前らの場合は実戦形式で鍛えたんだろ。だから基本が点でダメ。それが俺との差よ」


 俺達は部活に来るなりすぐに夜桜に型を教えてもらうことになった。

 彼に教えを乞うのに抵抗はあるが身になるのもたしかである。


「お前らのパンチとか蹴りはあれよ。言っちゃ悪いが大振り過ぎて避けるのがめちゃくちゃ楽なのよ」

「……そうなのか?」

「あぁ。でも基本的には体が完成しすぎて俺や暗殺姫みたいな規格外以外には通用してしまう。だからそれが正しいと思い込んでるのがお前らだ」


 なるほど。

 つまり夜桜は俺達は成長の余地を残してると言ってるのか。


「まったく暗殺姫も酷な教え方をしたものよ。これじゃあ格下には勝てても同格以上には勝てねぇよ」

「……」

「それでも体の鍛え方はピカイチだ。半年かからずに完全に完成された体にしたんだからな」


 あくまで俺達にある武器は体だけ。

 技術はないのだ。

 だからこそ夜桜は俺達に技術を教えようとしてる。


「本当はこういう型とかについてはアルカードの方が詳しいんだがアイツは太陽が出てる時は外に出れねぇから仕方ねぇ」


 やはり吸血鬼は日光に弱いのか。

 一応覚えておこう。


「さて、とりあえず海ちゃんは今からやる動きを反復練習して体に覚えさせてくれ」

「分かりました」

「それと空の主な武器は鎖だったよな。だったら北の集落で習ったあれが一番良いな」


 本当に詳しいな。

 夜桜ならどんな武器でも扱えそうだ。


「空が体に覚えさせる動きはこれだ。空の場合は鎖をモリみたいに使うことも出来るがその型は別物になるから今は忘れろ」

「わかった」


 夜桜は一通りの動きをする。

 たしかに戦闘中に使う機会はあるであろう動きではあるな。

 もしもこの動きを体が覚えてて反射的に出来たらかなり戦いやすくなる。

 彼の言う通り型は大切だな。


「型かぁ。私も体に覚えさせるの苦労したなぁ」

「桃花の場合は型は一通り入ってるみたいだが体がまだ未完成だな」

「まぁね。基本的にこの性能で困ることはないから。あなた達みたいな規格外と正面から戦うなんて稀だろうし」

「そりゃそうだ」


 普通だったらそこまで強くなる必要はない。

 でも俺がやろうとしてるのは真央の計画の阻止。

 それなら夜桜とも敵対することになるだろう。

 そのための力を得ようとしてるのだ。


 まぁ夜桜に教わってるから役に立つかは分からんが。


「……ていうか体が完成してるってどういうこと?」

「そのまんまだ。これ以上鍛えようがないほどに体が強いって事だ。まぁゲームとかで言うならレベルがカンストしてるってやつ」

「ふーん」

「しかしおかしい。普通なら一生かけても体が完成する事なんてないんだがあの二人は完成してやがる。一体どういうトリックだ?」


 そんなのしるか。

 どうせ神崎家の血筋が関係してるんだろ。


「まぁどうでもいいか。とりあえず今日は部活の時間一杯これを続けとけ」


 そうして俺達の部活はただの反復練習で終わった。

 それはとても退屈で飽きるが続けるしかないのだろう。


「おつかれー。顧問として少しは様子を見に来てあげたよ」

「真央か。話がある」

「知ってる。そんな顔してたもん」

「俺の記憶にお前が欲しい情報がある。それを百万で買わないか?」


 一つ言おう。

 今は非常に金が必要である。

 俺のお金はつい最近海に全額取られてばかり。

 それなのに高い買い物をする必要が出てきたからな。


「……高いね。それに君の手料理を一つ追加なら買ってもいいよ」

「分かったよ。今度弁当でも作ってきてやるよ」

「やった!」


 しかし俺の料理が随分と高く見られたものだ。

 大したものではないというのに。


「私の共有。聴覚、触覚、嗅覚、視覚、味覚の五感に加えて記憶も出来る。オンオフは自由自在」

「やっぱり記憶も出来たのか」

「そうだよ。それにより君のクズ親父の記憶閲覧の真似事も出来る。まぁ消去は出来ないけどね」


 改めてチートだと思う。

 触覚の中には痛覚も含まれているのだろう。


「同時に出来るのは三人まで」

「制限はあるんだな」

「うん。ちなみに私は夜桜の聞こえる音を常に全て拾ってる。少し前まではルークの音まで拾ってたけどね」

「は!? お前頭おかしいだろ!」

「よく言われるけどそのくらいの無茶はしなきゃダメだよ」


 なんだよそれ……

 つまり少し前までは音が三重に聞こえてたわけだろ。

 しかもそれを聞き分けて情報として処理。

 そんなのを二十四時間常に行ってるのが真央だ。

 間違いなく常人なら発狂する。


「今日一日体験してみる? ちなみに私は慣れるのに半年必要とした」

「……遠慮します」

「そうするといい。私も共有をやった最初の方はあまりの気持ち悪さに一日中吐いてるのだって珍しくなかった」


 恐らく今も気持ち悪い感じに音が聞こえてるのだろう。

 それが真央のやってる事だ。


「共有は私以外が持ってたらただの平凡な能力だと思うよ」


 俺達は真央を舐めていた。

 真央はとても凄い人だ……


「さて、共有するけどいいかな?」

「あぁ」


 渡すのはあの手紙の内容。

 記憶を勝手に漁らせる分にはセーフだろ。


「……随分と面白いね。これは百万でも安いくらいだ」

「満足してくれたなら何よりだ」


 これで真央には情報を掴ませた。

 真央が動いたらお前は一瞬で終わるぞ。


「百万と言いたいが君のお金を欲する目的を考えるとこちらの方がいいだろ」


 そう言って真央は俺の手を取り何かを握らせた。

 俺は手を開き中身を確認する。

 真央が俺に握らせたものはルビー。

 これほどに良い物はない。

 真央は本当に良い物をくれた。

 おかげで買う手間が省けた。


「どうせ結婚指輪だろ。加工は自分でしてくれ」

「ありがとな」

「気にすることはない。これは君のくれた情報に対する対価なのだから」


 さて、これを加工する時間をとれるかどうか。

 そして加工方法を覚える時間があるかどうか。


「さてさて明日は頑張ってくれたまえ。せいぜい死なないようにね」

「あぁ……」

「最低限の護衛はするよ。君が死んだら海が悲しむからね」


 結局真央の頭の中にあるのは海だけか。

 少しだけモヤモヤというか空虚感に苛まれるな。

 どうしてだろうか。


「さて、夜も遅いし私の転移で自宅まで送っててあげよう。どうせ桃花と同棲してるのだろう?」

「やっぱり気づいてるか」

「当たり前だ。私を前に隠し事ができるわけないだろ」


 そうして俺達は真央に家まで送り届けられた。

 そういえば転移とかも共有も攻撃と認識できるのだろうか……

 今回はまったく意識してなかったが次にされる機会があったら試すだけ試してみよう。


「そうしてば桃花は今日の部活は何してたんだ?」

「部室にコタツ出してたよ。あれって意外と重くて運ぶの大変なんだね」

「だからコタツがあったのか」


 桃花は団らんして俺達は反復練習。

 本当に何部か分からなくなる。


「さて、時間あるし今日の夕食は久しぶりに俺が作るか」

「本当!? やったー!」


 今日は無難にハンバーグだ。

 あの朝から考えていたことがある。

 桃花宅には何でも食材がある。

 つまりトリュフという高級食材の代名詞を使えるのではないだろうか。

 あれで香り付けを出来たら見違えるぐらい料理が変貌する。


「あ、そうそう。私の家にはマイナー食材以外にも色々とあるからね」

「例えば?」

「ペガサスの手羽先やドラゴンの血とかファンタジー食材だよ。流石に中々出回らないしポンポンとは出せないけどね」

「マジかよ……」


 出るのは絶句。

 考えてみたらここには魔法とかあるし魔物もいる。

 ドラゴン等の幻獣が実在しないって考える方が不自然だよな。

 それにどっかで誰かがドラゴンの話題を出してた気がしなくもないし……


「それじゃあオーク肉は?」

「……ないよ。そもそもオークなんて実在するわけないじゃん」

「オークはいないんかい!」


 ドラゴンもいてペガサスもいる。

 だったら普通はオークくらいいると思うだろ!

 なのに現実はオークがいないらしい。

 なんて酷い差別なのだ。


「まぁ太ったゴブリンがオークに見えなくもないけどめちゃくちゃ不味いよ」

「どんな味なんだ?」

「うーんとね。腐った馬肉を砂糖に浸してから泥のソースを塗ったような味だね」


 ここまで適格に言ってほしくはなかった。

 なんか想像してはいけないものを想像してしまった。


「さて、気を取り直してハンバーグ作りますか」

「頑張ってね〜」


 ハンバーグは比較的な簡単な料理だ。

 今回使うのはなんと比較的珍しい部類に入る猪肉。

 それにトリュフ。

 まぁなんと贅沢な事だ。

 俺はそれを手順通りテキパキ調理していく。

 ちなみにトリュフはソースに使う。


「お兄様。ハンバーグを作ってるなら私の分はハンバーガーにして出してください」

「まぁ大した手間じゃねぇな。まかせろ」


 しかし夕食にハンバーガーか。

 少しアレな気がするが多めに見よう。

 とりあえずレタスとかトマトも追加で出してパンズで挟む。

 ソースはそのまま流用。


「出来たぞ」


 今回のはかなり自信がある。

 今の俺が作れる最高の一品だ。


「……いただきます」


 海がハンバーガーを掴み小さな口を開き食べる。

 さて、味はどうだろうか?


「美味しい!」

「それなら良かったよ」


 あれ?

 そういえば海が俺の料理に美味しいって言ったのはこれが初めてじゃないか。

 つまり海から初めて美味しいをもらったわけだ。


「ただ噛む度に肉汁が凄くて少し食べにくいのが難点ですかね。でも味は良いです。肉の脂っこさも野菜により良い感じに消されていますし何よりトリュフの匂いが全てを引き立てて食欲をそそります。これは私の中ではかなりの高評価ですよ」


 まぁハンバーグ用だし肉汁が多いのは仕方ない。

 でも本当に上手く出来たみたいだな。


「空君。私のは?」

「今からよそる」

「はーい」


 お皿に丁寧に慎重にハンバーグを盛り付けていく。

 見栄えはかなり大事だ。

 最初は目で食べると言っても過言ではないくらいに重要だ。


「美味しそう! いただきます」


 そして桃花もハンバーグを食べる。

 桃花は口に運ぶと同時に花が開いたかのような笑顔を見せた。

 とっても可愛らしい……


「美味しい! これ、すごっく美味しいよ!」

「お口にあったようで何よりだ」


 少し不安はあった。

 猪肉をきちんと調理出来たかどうか。

 旨みを引き立てるために少しばかし香辛料も使ったがそれが悪い風に働かなかったか。

 しかし何の問題もなかったみたいでなによりだ。


「空君! また作ってよ」

「あぁ。言えばいつでも作ってやるよ」


 まさかここまで高評価を貰えるとは。

 それに何よりも桃花のあの笑顔。

 あんなの可愛いのを見せられたらまた作らざるおえないじゃないか。


「さて、俺は風呂入って寝るが桃花はどうする?」

「私もそうするー」


 またいつも通り一緒のベッドだな。

 ただシングルサイズに二人は少し狭いから新しいのをそろそろ買いに行くとしよう。


「私は見たいアニメありますからもう少し起きてます。それに日付変更と共に新しいイベントも始まりますし」

「そうか」


 海は夜更かしで桃花は俺と一緒と。

 さて、今日は桃花にかなり元気貰わないとな。

 なんと言っても明日は戦争だからな……


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