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世界調整  作者: 虹某氏
4章【嘘】
135/305

134話 魔王

「もっと気楽にしたまえ」

「……一応俺達って敵対関係だよな?」

「え!? そうなの!?」


 違うのか?

 少なくとも俺はそうだと思っていたが……


「海は?」

「私も立場的には敵対関係だと思ってましたが」

「桃花は?」

「海ちゃんと同じ」


 うーん。

 そして当の真央は……


「私は味方でもなければ敵でもない。一言で言うなら第三者的な立ち位置だと思ってたよ。まさかそう思われていたとは心外だよ……」


 心外ね。

 でも何か直感的には真央は敵の気がするんだよな。

 もっと言えばこれからなるような……


「そういえば闇桃花はどうしてるんだ?」

「あ、そういう名称になってるのね。闇桃花はまだ苦しんでるよ。体中の血液が毒になってるからね」

「……まだ治ってないのか?」

「うん。治癒を一日中かけてるみたいだけどそれでも最低三ヶ月は動けないみたい」


 最低三ヶ月。

 それが俺達が平和に暮らせる時間の猶予か。


「それで真央は何の用だ?」

「そうだった。君達に部活をやってほしいんだ」

「は?」


 いや、おかしいだろ!

 なんかこうもっと大きい話じゃないのかよ!


「ほら、私は海に普通の高校生活を送ってほしいんだよ。それで高校って言ったら部活で青春の汗を流して……」

「なるほど。でもそれなら普通の部活じゃ……」

「ダメ! 海が汚らわしいリア充になっちゃう!」


 親バカという何というか……

 ていうか立場的にもここまで個人に介入するな。


「それに海が楽しめる部活はここにはないよ。運動系に行ったら多分海なら目を瞑ってでも勝てる。文化系は凄くドロドロしてるから海が汚れるから論外」

「凄い偏見だな」

「つまり! 海が楽しめる部活は空や桃花みたいに同じ立場の人が好き勝手ワイワイやる部活だと思うんだ」


 それって部活なのか?

 こんなの家で集まっても同じだと思うのだが……


「とりあえず顧問は私か夜桜かな」

「コイツ。ラオベンの主戦力を躊躇いもなくだと!?」

「当たり前だよ。下手して海が悲しむのは御免だからね」


 ラオベンは海ファンクラブに改名するべきではないだろうか。

 そんな気しかしない。


「まぁ顧問は後々考えるとしてまずは内容だね」

「あ、もう部活作る事前提なのね」


 桃花がすかさずツッコミを入れた。

 たしかに内容がまったく分からない。


「とりあえず学校を良くするために頑張るってことで学校生活向上部でどうかな?」

「……これって真央のパシリじゃん」

「いや、受ける依頼は君達で決めていい。まったく受けなくてもいいし私利私欲で選んでもいいよ」


 あまりイメージが出来ない。

 つまりどういうことだ?


「まぁ初日は私が行くしその時に詳しくは説明するよ。それと桃花のテニス部は既に退部にしといたから気にしなくていい」

「は!?」

「かなり苦労したよ。どうしても桃花を離したくないみたいだったから思わずテニス部を廃部にさせてしまうところだったよ」


 桃花の同意も得ずに辞めされるとは……

 それまた何とも強引な……


「ほら、桃花もどうせ部活辞める予定だったんだろ?」

「そりゃ明日にでも退部届け出すつもりだったけどさ……」

「だったら面倒な手続きが省けて良かったじゃないか!」

「それもそっか」


 桃花も納得するな。

 しかし雰囲気が軽いな。


「まぁとりあえず明日学校で。私と他に話したいことがあるなら話は別だけどね」

「それじゃあ帰るか」


 あれ、そういえば桃花の腹パンの件は大丈夫だったのだろうか。

 なんか真央なら笑って許す場面が想像出来るから怖い。


「ちょっと待って!」

「まだ何か?」

「お昼。まだなら一緒にどうかな?」


 そんなことかよ。

 まぁダメではないが……


「私。これでも学食には力を入れててかなり向上してると思ってるんだ」

「あれで!?」


 桃花が驚きの声を上げた。

 そこまで酷くはなかった気がするが……


「あれでとは失敬な! 君は一体どのような物を食べてるんだ!」

「普通のよ!普・通・の・!」

「あれか。“どうして私がこんな庶民の食べ物に満足してるの! ダメよ私! 耐えるのよ!” っていうツンデレが発動してるだけか」

「そんなわけないでしょ!」


 まぁ食べればハッキリするんじゃないか。

 早く行こうではないか。


「……ていうか神崎二人。なんだいその服は」

「結構カッコイイだろ」

「ただの厨二じゃないか。それで海の方は……」

「あなたに貰った服ですよ」

「それ日常的に着る服じゃないから」


 たしかに目立つかもしれないな。

 でもこれしか服がないわけで……


「仕方ない。私が適当に盗んでくるから着たまえ」


 そして真央は転移を使って消えた。

 転移を使ったこの上なく完璧な万引き。

 これほど酷い小犯罪が今まであっただろうか。


「消えたね」

「消えたな」

「そういえばラオベンの資金って真央が銀行から盗んでいるので枯れることはまずないそうです」

「転移ってずるいな」


 なんでもやりたい放題し放題。

 戦闘能力は大してないがサポートにはこの上なく特化しているな。


「ほれ、これでどうだい?」

「凄いブランド物ばかりだー」

「金に糸目はつけない主義なんだ」

「……お前は一銭も払ってないだろ」

「まぁね」


 俺は所持金ゼロなのに真央ときたら……

 少しだけ怒りを覚えるぞ。


「そういえば私達って再従姉弟(またいとこ)。すなわち“はとこ”になるんだよね」

「マジで?」

「うん。私は今は亡き神崎家当主の娘で神崎当主って空君達の父親である陸の従兄弟だからね」

「なるほどな」


 ダメだ。

 実感湧かねぇ。

 ていうか真央が従姉。

 つまりこれは下手したらただの神崎家身内問題ではないか。


「まぁ遠すぎる血縁関係だしあまり気にする事でもないだろう」

「……真央が振ったんだろ」

「そうだったかな」


 ここは惚けるところじゃないぞ。

 それより真央って俺達にかなり身近な人物じゃないか。

 はとこであり俺達の学校の理事長。


「あと君達に聞きたいことが一つあってね」

「そういうのは食事の場でいいか?」

「そうだね」


 真央はニッコリと微笑んだ。

 まるで私は逃げないからゆっくり語りたまえと言いたげに。


 ◆ ◆


「それでなんだ?」


 あれから食堂に移動。

 海は寿司を頼み俺はカルボナーラ。

 桃花はきつねそば。真央はフライドポテト。

 これまた見事に一致してないものだ。


「竹林の時になんで私達の邪魔をしたいんだい?」

「こっちにも事情があるんだよ」

「その事情を聞いてるんだよ」


 真央はフライドポテトを一つ頬張ると鋭い目付きを俺達に向けた。

 やっぱり言うしかないか……


「お前に間違った道を歩んでほしくねぇからだよ」

「そっか。でも悪いが私は生まれながらの悪役であり生涯最後まで悪役として生きると決めたんだ」

「それが気に入らねぇ。お前、本当はそんなことしたくねぇだろ」

「……ずっと前に夜桜にも同じ事言われたな」


 真央は何のために自分を悪役にする。

 無理に悪役になろうとしなくてもいいじゃないか。


「でも私はそれ以外の生き方を知らないし知ったとしてもおそらく悪役の道を選ぶ」

「……お前。人前ではヘラヘラ笑いながら人を殺して誰も見てないところでは涙で枕を濡らす質だろ?」


 俺の問いかけに真央は無言を貫く。

 彼女は悪役になるにはあまりにも良い人すぎた。


「俺がお前にそんな思いはさせない。だから俺達はお前の邪魔をする。お前のためにな」

「誰も頼んでないよ」

「馬鹿か。俺がお前に後悔してほしくないから独断で行うんだよ。そこにお前の同意なんていらねぇだろ」


 そして俺も良い人すぎだ。

 こんな人を救おうと足掻くんだから……


「そうか。でもここで私が止まったら私が殺した人達に申し訳が立たない。もっとわかりやすく言えば無駄死にとなる」

「それでも……!」

「だから私は未来永劫に渡って悪役だ。そう死ぬまで悪役だ。今までの悪事を正当化するために悪事を重ねる。それが私だ」


 まるで呪い。

 この上ない呪いだ。


「そう。世界のためだと自分を言い聞かせてね」

「お前、やっぱり本心で動いてないだろ」

「想像に任せるよ」


 おそらく俺はこれ以上何も言えない。

 だって全ては真央の中で完結しているのだから。

 俺の出る余地などない。


「……馬鹿らしい」

「海!?」


 俺は思わず声を上げた。

 一体何を言うと言うのだ。


「これが真央の本当のしたいことですか! もっと自分がやりたいがままに動けばいいじゃないですか!」

「もう遅いよ。私は罪を重ねすぎた」

「ふざけないでください。あなたは私に言いましたよね。“正しいと思った事だけをこれからは行え”って。そのあなたが間違ってる事をしてどうするんですか」


 海は静かに怒っている。

 あまりにも自分を軽視する真央に。


「……間違ってもやらなきゃいけない事があるんだよ」

「詭弁です。それに私には“自由に羽ばたけ”なんて言ってあなたが亡霊に縛られてどうするんですか?」

「それが私の罪だから仕方ない。私は君と違って綺麗じゃないからね。この手は既に血で塗り染められた人殺しの手だ」


 何も言い返せない。

 真央の意見は間違っているが間違っていない。

 矛盾してるが実際そうである。


「私は神崎真央。世界の悪役にして世界初にして世界最後の魔王だ」

「……魔王か」

「覚えておくといい。私は自分の行った事に後悔こそするが反省はしない。常に最善の一手を打ち全てを投げ捨てて理想を掴む。まさしく現代の魔王よ。そして後にも先にも私以外の魔王が生まれる事は無い」


 その姿はまるで自分の逃げ道を塞ぐかのように見えた。

 弱い自分を押し殺すかのように見えた。

 そして覚悟を決めたその姿はとても強大で邪悪。

 まさしく魔王であった。


「それじゃあ私はこれで失礼するよ」

「……俺はお前を止めるぞ」

「勝手にしろ。私は何を犠牲にしてもこの世界を救うって決めたんだ。その犠牲にするものが自分であろうともね」


 真央はそのまま消えていった。

 これから俺達のやる事は決まった。

 何としても真央を助ける。

 何からか知らない。

 でも今の彼女の言葉はまるで計画が終わったら死ぬかのように聞こえた。

 そんなことはさせない。

 真央は絶対に殺させない。

 俺が必ず助けてみせる。


「桃花。また俺の我儘を聞いてくれるか」

「うん。真央を助けるんだね」

「あぁ。そのために俺は全力であいつの計画をぶっ壊す。力を貸してくれ」

「いいよ。だって私は空君の彼女だもん。彼氏が困ってたら手を貸すのは彼女の役目でしょ」


 本当に助かる。

 俺にはまだ桃花が必要だ。


「でも最後の“世界を救う”が気がかりだね」

「そうだな」

「真央は何から救おうとしてるんだろ」


 たしかに言われてみれば謎だ。

 この世界は比較的に平和だと言ってもいい。

 それなのに真央は救うって言っている。


「未来予知とか持っててそれで何か見たのかな」

「何かって?」

世界の終末(ラグナロク)とか? 近々来るって予言があるって噂だし」


 北欧神話のあれか。

 もしも実際にそんなことが起きようとしてるとしたらたしかに頷けるし筋も合う。

 世界の終末が来るとしたら闇桃花の力は何としても借りたいよな。


「まだ推測だし掠りもしてないかもだけどね」

「とりあえず今は出来る事をしよう。少なくとも真央も三ヶ月は動かないはずだしな」

「そうだね」


 とりあえず帰ったら世界の終末について調べておこう。

 それに俺は神話に疎開すぎる。

 神器は基本的には神話に出てるのが多い。

 そういうのを知らないのは間違いなく今後命取りになるし桃花も知ってる前提で話を進めるだろう。


「……でも真央を止めるならもっと強くならないとな」

「そうですね」


 今の俺達は真央がその気になれば一瞬で殺せる。

 二周目は真央が敵に回り海はダルマにされアリスは殺され白愛もルークも殺された。

 三週目はこちらが万全の状態で勝負を挑んだのに完膚なきまでに全滅。

 現在は真央を敵に回さなかったため犠牲者はアリスだけで済んでいる。

 そして真央に勝てないのはそれは今も変わらない。

 少なくとも俺はそう思ってる。


「真央。どこを突いても隙がありませんから」


 俺がこのタイムリープで学んだ事。

 それは真央が敵に回ったら絶対に勝てないという事。

 情報収集力も高く戦闘能力も高い。

 でもそんなのは些細な問題だ。

 一番の問題は真央の頭の良さ。

 俺は二周目も三周目も真央の作戦でやられてる。

 ラオベンには優秀な頭も駒も揃ってる。


「本当にルークと真央を交換してぇ」

「そしたら戦う意味がなくなります」

「それもそうか」


 あぁラオベン羨ましいな。

 真央みたいな優秀なトップがいて。


「……エニグマなんてアリスくらいしか良い人いないもんね」

「お前の親は?」

「悪くはないけどそこまで良くもないよ」


 はぁ……

 そのアリスもいない現エニグマ。

 どこでそんな差がついてしまったのか。


「やっぱりトップって重要ですね」

「そうだな」


 海が楽しい人生を遅れるように全力でフォローするのが真央。

 海に黒髪ロングだからという理由で腹パンして裸体を撮って脅迫するのがルーク。

 よっぽどルークの方が悪役じゃないか……


「ていうかなんで私達は真央を褒めてるのでしょう?」

「そりゃ普通に優秀だからでしょ」


 桃花の言う通りなんだよな。

 真央は敵だとしても優秀だから褒めてしまうのだ。

 こちら側のルークと違って。


「でも空君。間違いなく真央は悪魔だからね」

「悪魔ねぇ」

「それに関しては私も同感です。私の場合はこの上なく良くしてもらってるので悪魔だと分かってて助けたいと思ってしまいますけどね」


 なんか悪魔、悪役と言うがイメージが湧かない。

 真央が悪魔ねぇ。


「さて、ご馳走様でした。下校時間と重なる前に帰りましょう」

「やけに人がいないと思ったら今は授業中か」

「そうですよ」


 俺は急いで残ってるカルボナーラを口に入れて食事を済ませ学校を後にした。

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