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世界調整  作者: 虹某氏
4章【嘘】
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131話 ルーク・ヴァン・タイム

「空君。起きて〜」

「……なんだよ」

「起きないならキスしちゃうよ」

「桃花からなら何時でもOKだ」


 まったく人が疲れて寝てるというのに容赦なく起こしにきやがって。

 少しは休ませて欲しいものだ……


「はい。じゃあチュッ」


 俺の唇に桃花の唇が重なる。

 ほのかに甘い味がする。


「……それで何なんだ?」

「ルークさんが来てるよ」


 ……は?

 おいおいちょっと待て!

 今の言葉で一気に目が覚めた。


「ていうかお前はなんで俺のベッドにいるんだよ!」

「だって恋人同士だよ」

「……それもそうか」


 そう考えれば桃花と同じベットなのも当たり前。

 違うベッドの方が問題だな。


「ほら、早く着替えて。空君に話があるみたいだから」


 俺に話?

 あまり良い予感はしない。


「……何いちゃついてんですか?」

「いや、恋人同士だし……」

「恋人でも朝からこんなイチャイチャはしませんよ」


 ヤレヤレと言いたげに海が手を振る。

 ていうかお前は何故ベットの下から出てきた。

 俺はまずそこを聞きたい。


「……精液のイカ臭い匂いはありませんね」

「当たり前だ。流石に疲れきってやる体力はねぇよ」


 逆に体力があったらやってたかもしれないがそこはノーコメントでいこう。


「ていうかお兄様はどうして桃花のベットで寝てたんですか?」


 俺はキョロリキョロリと辺りを見渡す。

 たしかにピンク色の毛布にシーツ。

 凄く女の子っぽいベットだ。

 俺が寝た時とは明らかに違うベットだ。


「私が寝てる空君を拉致して抱き枕にしてたんだから当たり前じゃん」

「桃花は何をしてんじゃい!」


 俺は桃花を少し軽めに叩く。

 そして桃花が幸せそうな笑みを浮かべた。

 ……この程度でツッコミを入れてたら今後俺の体力が持たないのではないだろうか。


「それで何で海はベットの下にいたんだ?」

「お兄様に合う服を探してたからですよ」


 ベットの下はどうなってやがる。

 一回それを確かめたい。


「それであったのか?」

「はい」


 そう言って海は俺にアルファベットが羅列のように刻まれた白色の服に膝まである黒色のコートを渡した。

 中々にカッコイイ服ではないか。


「あ、私の男性用厨二コレクションだ」


 ……聞かなかったことにしよう。

 きっと空耳だ。

 とりあえず俺は海から服を受け取り袖を通す。

 黒のコートは着てみると分かるがズッシリとした重みがある。


「お兄様。こう言ってください」


 海が俺の耳元で呟く。

 まぁたまにはサービスも必要……


「あ、空君。右手に包帯つけなきゃ」

「……必要か?」

「うん! これを付けて初めて完成するんだよ」


 まぁそういう服なら仕方ない。

 俺は桃花に言われたように手に包帯を巻いていく。

 意外と巻いてみるとカッコイイではないか。

 流石桃花。

 センスはピカイチだな。


「お兄様。早くしてください」

「そうだったな」


 俺は大きく息を吸う。

 そして海に言われたセリフを言う。


「俺は天界から墜ちし堕天使。世界の光を闇に変え混沌をもたらさんとする者。貴様らゴミは我が羽の音色だけでくたばってしまうであろう」


 言い終わると同士に海が携帯をしまった。

 一体何をしていたのだろう。


「録画しました」

「俺は世界を制する堕天使。白を黒に染める執行者(ホワイトチェンサー)だぞ。この程度で動じるとでも?」

「……重症ですね」


 こんなカッコイイ服に設定まで渡されたら言いたくなるのが男の性というものだろう。

 その程度すら分からないとは兄である俺は悲しく泣きそうだ。


「さて、行くぞ。我が妹よ」

「……桃花。すみません。変なスイッチを押してしまったみたいで」

「次からは気をつけよっか」


 俺はそのまま階段を降りていく。

 コートはカッコイイのだが動きにくい。

 少し不便なので後で脱ぐことになりそうだ。


「君が神崎空かい?」


 降りるとそこには白髪の女の人がいた。

 いや、違う。


「初めまして。僕はルーク・ヴァン・タイム。エニグマの局長をしている」


 俺は肝心なことを忘れていた。

 この腹黒そうな女性……


「言い忘れていたが僕は……」

「男なんですよね?」


 コイツは男だ。

 見た目に騙されてはいけない。


「おや、初見で見破られたのは初めてだよ」


 底が見えない。

 何を考えてるのか分からない。


「とは言っても君は初見じゃないみたいだけどね」


 油断は出来ない。

 コイツは親父と結託して海にあんな事をした人間。


「あなたがルークです……」


 その瞬間、ルークさんは消えた。

 全く見えない。

 ただ気づいた時には海が腹を抑えて倒れていた。


「海!?」

「“さん”を付けろよ。僕は赤の他人である雌豚に呼び捨てにされるのが死ぬ程嫌いなんだ」


 俺は戦闘態勢を取る。

 妹を目の前で殴って怒らない人などいないだろう。


「特に身の程も弁えないような格下にはね」

「俺の妹に何をしやがる」


 ルークの能力は時間止め。

 俺のグレイプニルなら無効化出来る。

 しかし届く前に時を止められて回避されて終わるだろう。


「やめたまえ。僕は争う気はない」

「海にこんなことをして笑って許せると思いますか?」

「うん。だって悪いのは取るべき態度を取らなかった彼女じゃないか」


 あまりにもふざけてやがる。

 こいつは会話が成立するような人種じゃねぇ。

 人種的には真央と同じような奴……


「海。上に戻ってろ」

「おや、僕に謝りもしないのかい?」

「今のあなたは謝罪すら不快に感じると判断しました。だから謝罪もさせないで帰します。それが兄としての義務ですから」


 適当な言葉を並べる。

 ルークと海はなるべく早く遠ざけたい。


「よく分かってるじゃないか」


 何なんだこいつは。

 どこまで人を見下せば……


「でも不正解だ。残念だけ……」

「待て。今のは俺のミスだ。殴るなら俺を殴るのは道理だろ?」


 イラつきが沸点に達した。

 コイツは今まで会った中で一番不快だ。

 それこそ夜桜以上に。


「敬語は?」

「必要ねぇよ。てめぇには敬意なんて払えないからな」


 殴られても構わない。

 その分だけいつの日か倍にして返してやるからな。


「うん。君は気に入ったよ。僕はこういうストレートな人は大好きだ」


 俺を殴らないのか?

 海は殴った癖に……

 いや、大事なのは敬語とかじゃねぇ。

 彼は海に雌豚と言った。

 恐らく女性に凄いコンプレックスを抱いている。

 その容姿と何か関係があるのだろうか。


「それと海の事は悪かったね。私は黒髪ロングの女が死ぬ程大嫌いでね!」

「……どうしてだ?」

「西園寺華恋。いいや、神崎真央。彼女を思い出すからね。あぁ思い出しただけでイライラしてきた。本当にあの雌豚は僕を愚弄しやがって。名前すら聞きたくないよ」


 一体彼と真央の間に何があった。

 さっきから異常なまでに情緒不安定だ。


「早く夜桜をぶち殺したい。アイツの生首を真央に見せてやったらどんな顔をするか想像しただけで勃起するよ」


 一周目では夜桜を殺そうとしてた。

 二周目でも同様だ。

 彼は真央を苦しめるだけに夜桜を狙ってるのではないか?

 平和とかなんて本当は建前でしかなく……


「……お前。狂ってるよ」

「そうかな? 嫌いな人が最も苦しむであろうことをするのは普通じゃないかな?」


 あまりにも今までの彼と違いすぎる。

 一周目や二周目では皮を被っていたのだろう。

 まさかここまで杓変するとは……


「いや、僕も見ず知らずの人にここまでは言わないよ。ただ君は西園寺華恋の本当の名前。すなわち神崎真央の名前を知ってる一人だからね」


 それが基準か。

 たしかに過去に彼と会った時の俺は真央の名前を知らなかった。


「もしあいつさえ居なければエニグマは神崎家と結託して世界の神になっていた。それなのにあの雌豚は邪魔をしやがって!」

「お前は真央に劣るよ。真央の姿を追う事しか出来ない以上真央より下なのは当たり前だろ?」

「君も随分と口の減らない餓鬼だな」


 こいつより真央の方がよっぽど人として尊敬出来る。

 こんな奴よりもよっぽど……


「あぁ。今すぐにでもこの世から黒髪ロングの人を消し去りたい。あの腕をバキバキに折り曲げて泣き叫ぶ顔を録画して晩飯のお供にしたいよ」


 ハッキリと分かった。

 エニグマだけは信用してはならない。

 こんな奴がトップなんだ。

 信用出来るわけがない。


「君。気に入ったよ。エニグマに来ないか?」

「断る」


 何故入ると思ったんだ。

 この状況で首を縦に振るわけがないだろ。


「そんな〜。今のエニグマの人数知ってる?」

「知ってるわけないだろ」

「二十以下だよ! スタッフはいても職員はたったそれだけなんだよ! ほんとに仕事が回んないんだよ〜」


 知るか。

 お前の性格が原因だろ。


「まぁ真面目な話だけどエニグマは死の危険があるが給料はどこよりも良い。それに大体の犯罪だったら無かった事にも出来る。それに労働時間も決まってはいない。これほどホワイトな会社はないだろ?」

「悪いが海を殴るような奴の下で働くなんて死んでもゴメンだ」


 俺はお前にだけは絶対に従わない。

 もしも働くとしたら真央の元で働く。


「どうしたら入ってくれるかな?」

「お前が黒髪ロングが愛せるようになったら考えてやらねぇこともない」

「それは永遠に無理そうだ」


 つまりそういう事だ。

 俺は永遠にエニグマには入らない。


「……空。もしも僕がその気になれば海も桃花も殺せるんだよ?」

「その前に俺がお前を殺す」

「言ったね?」


 相手は時間止め。

 たしかにその気になれば一瞬で殺られるな。

 でもそれはこちらも同じだ。

 こっちがその気になれば時間を止めるより早くお前の首を白愛が刎ねる。


「仮に殺したとしよう。そしたら俺がエニグマに入る可能性はゼロになる」

「……そうかい。それじゃあ良い物を見せようか」


 そう言うとルークは胸ポケットに手を入れてある写真を俺に渡した。

 そこには裸体の海が映っていた。


「時間停止。この能力を行えばその程度は造作もない」

「……どうするつもりだ?」

「そうだね。君がエニグマに入らないならこの写真をネットの海にばら撒くって言うのはどうかな?」


 下衆が。

 そこまでやるか……


「……佐倉家秘伝の隠しトラップ行きますー!」


 そう下唇を強く噛んでいた時だった。

 桃花の透き通った声が部屋に響いた。

 それと共にルークの足元が崩壊した。

 突然の事にルークは手から写真を離したので俺は迷わずそれを掴む。


「古典的だけど落とし穴だよ。時間止めは身体能力とか上げるわけじゃないよね。だったらお前がここから出る術はないよ」

「ナイスだ! 桃花!」

「当然だよ! 空君の妹って事は私の妹って事でもあるんだよ! 私の妹が傷物にされて黙ってるわけないじゃん」


 手に握った写真をクシャクシャに握り潰し焼却する。

 まったくいつプリントアウトしたのか……


「それでどうする?」

「真央を呼んで処分してもらいたいんだけど……」


 桃花がギロりとルークを睨みながら言う。

 しかしルークは依然として余裕な表情。


「こいつを殺すと後々面倒なんだよね。少なくともエニグマが能力を使った犯罪を取り締まる唯一の機関。それが機能しなくなると世界が混乱するからねぇ」


 たしかに世界は大混乱するだろう。

 しかしルークを野放しにも出来ねぇよな。


「智之。僕をそろそろ上げてくれないか」


 ルークが桃花のお父さんを呼ぶ。

 しまった! 彼はエニグマ側の人間で……


「……悪いな」

「どうしたんだ。早く!」

「そんなことをしたらウチの娘に殺される。物理的にも社会的にもな。つまり行動不能だ」


 一体佐倉家の力関係はどうなってやがる。

 わけがわからない。


「一番偉いのが私。次がお母さんで底辺がお父さんだよ」

「お、おう……」


 とりあえず逆転してるわけですか。

 これまたなんともコメントに困る状況だ。


「凄い音がしましたけど何かあったんですか!?」


 海が階段を駆け下りて来た。

 流石に落とし穴に落ちた時にそれなりに音はするか。


「ちょっとルークを懲らしめただけだ」

「……は?」


 ちゃんと海にも説明する必要があるそうだ。

 こんなキョトンとした表情をしてるって事は事態を飲み込めてないだろうしな。

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