130話(エピローグ)消された人
「君は人如きが並行世界をそうポンポンと移動出来ると思うかい?」
俺はどこにいるんだ?
一面真っ暗で場所は分からない。
体の感覚すらない。
「失礼。私は剣の神だよ」
なんだそれは?
つまりお前は神なのか?
「話を戻そう。人が並行世界を移動する。もちろん対価は伴うんだよ」
わけがわからない。
それが俺にどう関係してくる。
「対価。それは一人の完全消滅。並行世界を飛ぶ度に世界から誰か一人が誰の記憶にも残らず痕跡すら残らず消えるんだ」
つまりどういう事なんだ?
彼女は何を言いたい?
「それを神崎桃花は二回も行った。その結果。サラって言うまぁ君の知らないであろう人と……」
もしかして……
消えたのは俺なのか!
「その桃花の兄である佐倉雨霧。すなわち君。君達の存在は完全に世界から切り離されたんだよ」
なんで俺なんだ!
俺じゃなくても……
「本来ならここを永遠に漂うだけの存在。そこで私は提案をしたいんだ」
俺をどうするつもりだ!
俺に何をさせるつもりだ!
「君をこれから【剣】の使徒にして蘇らせる。しかし人として蘇らせるのは困難だから君は“影の種族”という理を外れた存在となる」
影の種族だと!?
お父さんの本で一度だけ見た事がある。
肉体を失い魂だけになったアンデット。
ボロ雑巾のような布切れを頭から被り無意味に世界を彷徨い続ける呪われた存在……
「そして、真央って人をサポートしてほしいんだ」
真央?
誰だそれは?
お前らの狙いはなんなんだ!
「私達は真央の作る世界が見たい。だから真央を手伝ってほしい」
わけがわからない!
さっきから何を言ってるか全然分からねぇ!
「まぁ君に拒否権はないけどね。それと今から行く世界では誰一人として君を覚えてないから覚悟するように」
やめろ。やめろ。やめてくれ!
嫌な予感しかしない!
「まぁ頑張ってよ」
俺の叫びも虚しく、俺は飛ばされた。
影の種族として……
「並行世界に移動する時に誰が消えるか。それは無造作に選ばれる。神にすら干渉は許されない。それなのに実の兄を引くとはどんな確率だろうね」
◆
目を覚ますとそこは森だった。
しかし緑はない。
草木はすべて枯れ果てている。
果たして森と言えるのか知らないが俺はそれを森以外で表す言葉を知らない。
草木が枯れ果てたは言え元は森だろう。
「……あ……ぁ」
声を発しようとするが言葉にならない。
でも慣れたら普通に喋れるようになるだろう。
そのまま俺は途方もなく歩き始めた。
すると川を見つけた。
周りの背景と似合わず綺麗な川だ。
少なくとも鏡の代わりに使えるくらいには。
そして川にはボロ雑巾みたいな茶色のローブに身を包んだ骸骨が移された。
恐らく俺だろう。
俺はこれからこの姿で生きねばならないのだ。
ここから俺の苦難が始まる。




