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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
13/305

13話 想い

「神崎君。一緒に帰ろ?」


 桃花がそう話しかけてくる。

 断る理由がないな。


「いいぞ」

「やった」

「そういうば桃花から見て今日の剣道の試合どうだった?」


 気になるので聞いておく。

 正直アレはかなりやりすぎた。

 何人かドン引きもしただろう。

 それに怖かったのではないだろうか?

 しかし桃花の返答は予想外のものだった。


「カッコよかったよ」


 彼女はアレをカッコイイと言ってくれたのだ。

 それがとても嬉しい。


「怖くはなかったか?」

「……怖くないと言えば嘘になるかな」


 やっぱり怖いのか。

 そりゃそうだよな。

 

「でもそれ以上にカッコよかった」

「……ありがと」

「あの試合はアニメの戦闘シーンでも見てるみたいだったよ」


 アニメか。

 たしかにそうかもしれない。

 そのくらい現実離れしていた。


「私はなにも神崎君の事知らなかった」


 桃花は衝突に語り始める。

 たしかにそこまで深く俺の事を説明してなかったかもしれない。


「お兄ちゃんとの試合の時は神崎君全然本気を出してなかったんだね」

「そんなことは……」

「だって動きが違ったもん。もしその気になればお兄ちゃんが動く間もなく勝ってたはずだよ」


 完全には否定出来ない。

 たしかに雨霧さんはとても強かった。

 でも海に比べるととても弱い……

 そして秒殺出来たのも事実だ。


「桃花。お前は一体なんなんだ?」


 もちろんブラフだ。

 それでも俺は彼女について知りたい。


「お前なら俺や桃花くらい実は簡単に勝てるんじゃないか?」


 確証はない。

 完全に推測だ。


「そんなわけないよ。私はただの女の子だよ」

「……エニグマの意味は?」

「知る時がきたら言うよ」


 桃花は何故か悲しげに言った。

 まるで言いたくないような感じだ。


「今日ね。ハッキリしたの」

「何が?」

「私なんかじゃ神崎君に釣り合わないって事よ!」


 桃花は怒鳴った。

 目には涙を浮かべている。


「そんな事は……」


 桃花のそのセリフを否定しようとする。

 しかし何故か強くは言えない。


「あるよ。正直私は白愛さん。いいえ、暗殺姫に何一つ勝てる気がしないもん」


 そのセリフに反論出来ない。

 たしかに彼女は白愛と比べて劣っている。

 でも彼女にも白愛に勝ってるところの一つぐらいあるはずだ。


 しかし俺はすぐにそれを言えなかった。


「でも、私は神崎君の事を諦められないの」


 彼女がそう涙ながらに言った。

 その言葉が心に深く突き刺さる。


「私はどうしたらいいの!どうしたら私と付き合ってくれるの! 全部教えてよ!エニグマとか神崎家とかどうでもいいから私と付き合ってくれる方法を教えてよ! 私に何が足りないの!」


 そして心に突き刺さった物をもっと突き刺すように追い打ちをかける。

 彼女の一言一言が辛い。


「……空君。教えてよ」


 桃花はメイドである白愛が暗殺姫だと知った事により劣等感から溜め込んでいたものが全て爆発してしまったのだ。

 前に桃花はOKをもらうまで告白を続けると言っていた。

 たしかに桃花は可愛い部類に入るしスペックだって低いわけじゃない。

 もしもアタックを続ければいつかは折れる可能性の方が高い。

 でもそれは暗殺姫がいなければの話なのだ。

 彼女は白愛が暗殺姫という事を知って全て崩れてしまったのだ。

 彼女の心の支えが完全に折れてしまったのだ。


「暗殺姫は何だって出来るよ。多分、神崎君のどんな願いだって叶えられるよ」


 彼女は恐らく俺以上に暗殺姫の事を知ってる。

 だから心が折られた。


「……こんな女の子嫌だよね」

「そんなことは……」


 否定したい。

 しかし言葉が詰まる。


 クソッ!!!


 どうしてこんな大事な時に言葉が出ないんだよ!


「ないわけがないよね! だって神崎君には白愛さんって非の打ち所のない完璧な人がいるもん」


 彼女の言葉が更に刺さる。

 どう言えば彼女の救えるかは分かる。


 そんなのは「白愛よりお前が好きだ」って言えばいい。


 しかし何故か口は動かない。

 言おうとした瞬間に白愛の顔が浮かんでくる。


 それに桃花とは恋人としてでなく友達でいたいと思っている……

 

「ごめんね。私、少し考えるね」


 桃花はそう言い残して走って帰っていった。

 そして俺の心に大きな空洞が出来た。

 どうやったら桃花が傷つかなかったのだろうか……

 俺はそんな事を悩みながらそのまま家に向かった。


「……どうすれば良かったんだよ」


 俺は独り言をボソッと呟いた。

 でも、返す人はいなかった。


 そして運命は待ってくれない。


 俺はこれから本当の世界の一面を知る事となる。


 俺の長い戦いはここから始まったのだった……

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