128話 終戦
「痛い! 痛いよ!」
「どんどん血液が侵食されてくだろ? お前みたいな回復持ちに緑の弾丸はよく効くんだよ」
なんて手際の良さだ。
まさかこんなにも呆気なく……
「さて、死ね」
親父が桃花の頭に銃を押し付ける。
俺にはクズのはずなのに何故か親父がカッコよく見えた。
「私は待ったをかけるよ!」
あと一歩で殺せる。
そんな時に誰かが静止をかけた。
「いやいや、実に彼女は良い人材! 殺すのは惜しいと思うんだよね」
「……真央」
「折角だし彼女は私が貰ってくよ」
ふざけるな。
こいつだけは殺らねぇと……
「グハッ!」
「おっとすまねぇ。あまりにも無防備だから殴り飛ばしてしまったわ」
親父の体がかなり上空に吹き飛んだ。
その背後にいたのは夜桜だ。
「もし機会があったらまた会おうぜ」
「おい、待て!」
俺は真央に手を伸ばす。
しかし届かない。
「あ、そうそう。ルークを殺すのはまた今度にするよ。今は桃花ちゃんを訓練したいからね」
真央は俺達にそう言い残した。
そしてそのまま桃花を抱き抱えて何処かに消えていった。
「クソっ!」
完全にしてやられた!
真央は桃花を使って何をするつもりだ!
「……勝利とは言いませんね」
誰一人としてこの場で喜ぶ人はいなかった。
あまりにもアリスを失ったのが大きすぎる。
「それじゃあ俺は行くぞ」
「待て。どこに行くつもりだ?」
「エニグマだよ。俺はエニグマに戻る予定だからな」
親父はトコトコと歩き夜の街へと消えていった。
また会う機会があるかどうかは分からない。
「……空。あとは俺達大人に任せろ」
「ありがとう」
「気にするな。それにしても随分派手な事になったな。こりゃ隠蔽に骨が折れるぞ」
恐らくニュースでは爆発事故とか適当に済まされるのだろうな。
「……空君」
「桃花か」
桃花が目を覚ました。
全てを壊そうとする悪魔ではなく俺に寄り添ってくれる天使の方の桃花だ。
それにしても同じ名前だと不便だ。
今度、別の名前をつけないとな。
「これは何?」
荒れ果てた青レンガ倉庫を見て唖然とする。
あとで全部しないとな。
あの闇桃花の事も含めて……
「……アリスの弔い。しないとですね」
「そうだな」
ダメだ。
当分は立ち直れそうにない。
「空。竹林の事はエニグマに任せていいか?」
「構いませんがどうして?」
「体にどんな影響が受けてるのか審査とか色々とあるからな」
なるほど。
たしかに右手は変貌したままだしな。
「お兄様。夜明けですね」
「こんな長い時間戦ってたのか」
もうどのくらい時間が経ったのかすら分からない。
それほどまでにギリギリの戦いだった。
「……朝日が凄く綺麗です」
「そうだな」
海から登る光が優しく俺達を照らす。
それが全て終えたのを実感させる。
それなのに俺の中には悔しさしかねぇ……
もっと晴れ晴れしい気持ちで終えたかった。
「お兄様。私、凄く悔しいです」
「俺もだ」
「もっともっと強くなります。もう二度と誰も死なせたくない!」
俺も同じだ。
今以上に強くなる。
もっと守れる力が欲しい。
真央達に桃花が行った以上、再び戦うのは目に見えてる。
「でも、今だけは休んでいいですよね?」
「当たり前だ」
「ごめんなさい。私、疲れちゃいました」
海から蝶の羽が消えた。
そして俺の寄りかかってくる。
「抱っこして運んでやりてぇが悪いが俺もそんな体力残ってねぇや」
俺も足からガクンと力が抜ける。
ちょっと体を酷使しすぎたな。
「空君!?」
「……桃花」
「頑張ったのは私にも分かるよ。肝心な時に近くで支えられなくてごめんね」
桃花は俺に優しく倒れ込む俺に肩を貸してくれた。
今だけは彼女に身を委ねたい……
「桃花。二人を抱き抱えられたりするか?」
「うん。大丈夫だよ」
「それなら……海も……頼む」
「任せて」
俺の意識が落ちた。
とても長い戦いだった。
色々と思う事の多い戦いだった。
辛い戦いだった。
それでも俺は前を向く。
理由は簡単。
後ろを向く余裕がないからだ。
俺の物語はスタート地点に着いたにすぎない。
俺の物語はこれからだ!




