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世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
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127話 英雄譚の起源

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


 俺は怒鳴りまくる。

 こんな無力な俺が嫌だ!

 現実が嫌だ!


「……空様!」


 地面にぶつかる前に白愛にキャッチされる。

 まだ背景は草原のままだ。

 つまりアリスはまだ死んでいない。

 だったらエクスカリバーで……


「これね。これが回復道具だね」


 しかし不幸な事に桃花の手にエクスカリバーが渡ってしまった。

 それでも俺はアリスの元へ行き抱き抱える。


「空君!?」

「あなたの相手は私です」


 白愛が桃花を抑えている。

 その隙をついて海もアリスの元へ来た。


「アリスしっかりしなさい!」

「……ごめんね。私弱いから……」


 もういい! 喋るな!

 俺がアイツからエクスカリバーを……


「空。海。私はもう助からないよ……」


 そんなわけないだろ!

 俺はもう誰も死んでほしくない!

 それはアリスも例外じゃない!


「あなたのやり残した事はないんですか!」

「……あるよ。美味しいものをもっと食べたかった。もっと色々な物語を読みたかった」

「だったらまだ生きなさい! そんなにあるじゃありませんか!」


 これからやればいいだろ!

 どうして諦めモードに入って……


「それに……恋もしてみたかったな……」


 まだ出来るだろ!

 なんで、なんで!


「まだ、生きたいよ……」


 だったら生きろよ!

 お前は生きたいんじゃないのかよ!


「でも、神様は……許してくれそうにない」


 やめろ。やめろ。

 もう言わないでくれ!

 聞いてて辛い!


「……海。私の分も……幸せになって……」


 腕の中から体温が消えてく……

 なんで!なんでそうなるんだよ!


「空。実はあなたのこと。少しだけ……好みだったんだよ」


 アリスの力が抜けた。

 完全に抜けた。

 それと共に景色が草原から薄暗い港に戻る。

 桃花の手からエクスカリバーが消える。


「アリスゥゥゥゥ!!!!」


 俺は必死に彼女の名前を叫んだ。

 でも、もう喋らない。

 アリスの声が聞こえない。

 もっと会話したかった!

 彼女に色々な話を聞きたかった。


「アリス。しっかりしなさい」


 海が必死に揺らすも声は返ってこない。

 当たり前だ。

 死体が返事をするわけがない……


「何寝てるんですか……」


 海の目から涙が溢れている。

 海も分かっている。

 彼女が死んだ事くらい。


「……分かってますよ。でも、認めたくないんです」


 海に何の言葉も返せない。

 俺も認めたくねぇよ。

 こんな事は……


「アリス。あなたには感謝してるんですよ」


 でも認めるしかない。

 それが現実だ。


「私の傷を消してくれました。あなたのおかげで今の私は笑えているんです」

「……海?」

「お兄様。アリスに寄り添ってください」


 海は無理矢理、涙を拭い立ち上がった。

 真っ直ぐ前を見据えて……


「私はアリスをこんな目に遭わせた悪魔を殺します」


 それと共に海も戦火に飛び込んでいった。

 いつだって俺は無力だ。

 だから力を得ようと足掻いた。

 それでも俺はまだ無力だ。

 現にアリスが死んだ。


 それなのに俺は戦わず眺める事しか出来ない。

 色々な音がする。

 戦いの音だ。

 海は殺そうと必死に歯向かうが桃花はそれらを全て眉一つ動かすことなく避けていく。


 彼女の死体は何度も見た。

 一度は生首を見た。

 一度は自殺したと思われる死体を動画で見た。

 でも、死に目に合うのは初めてだ。


 結局、俺は何のためにループを繰り返したんだよ!

 全部拾えてねぇじゃねぇか!

 拾いこぼしてるじゃねぇか!

 全て救うって言っただろ! 神崎空!

 お前は自分との約束すら破るのかよ!


「俺は何がしたかったんだよ! 結局何も出来なかったじゃないか!」


 嫌だ嫌だ。もう嫌だ。

 全てが嫌だ。

 必死に足掻いても全ては救えない。

 どうしてこうなるんだよ!


「それは違うぞ」

「……え?」


 誰かが俺の肩を叩いた。

 俺はその姿を見る。

 桃花のお父さんだ。


「お前は変えた。ここにいる竹林ってヤツを救ったのもお前だ」

「そんなの幻想だ!」

「ウチの桃花を人のために動ける人間にしたのもお前だ」

「違う!」


 違う違う違う!

 そんなのは“まやかし”だ!


「それに海。お前のおかげで前を見て生きれるようになってるだろ」

「あれは海自身のおかけだ! 俺の成果じゃない!」

「でも、お前が手を差し伸べただろ?」


 甘い物を見るな!

 そんなんだからアリスが……


「空。私から頼みがあるんだ」

「……え?」

「あの道を踏み外したバカ娘を殺してくれ」


 この人は俺に何を……

 そのくらい自分で。


「アレがここにいるうちの娘じゃないって言うのは分かる」


 そう言うとお父さんは優しい手で寝ている自分の娘を撫でた。

 とても優しく。


「私にはよく分からないがあそこにいるのも私の娘であることに変わりないと思う」

「……」

「だからこれ以上、罪を犯して後悔する前に殺してくれ」


 ……ショックを受けてる場合じゃねぇ!

 そんなことを言われたら。


「甘えだが流石に自分の娘を殺すのには抵抗がある。それに恐らく私はあそこでは手も足も出ないだろうしな」


 俺は立ち上がる。

 泣くのも悲しむのもあとだ!

 今は目の前の敵を狩れ!


加速強化(アクセルフルブースト)!」


 これ以上、失わせるか。

 もう俺は何も失わない!


「しまった!?」


 桃花の刃が海を襲おうとしていた。

 でも次は間に合わせてみせる!


「……グレイプニル」


 グレイプニルを迷わず手に結びつける。

 そしてそれで桃花の刃を受け止めた。


「これはアリスの分な」


 風の刃を飛ばす。

 しかし意図も簡単に避けられる。


「空君。今からこのゴミも……」

「それ以上はさせねぇよ」


 焦がせ。全てを焼き焦がせ!

 必死に頭の中でイメージしろ。

 こいつを焼く火焰を!


全てを払う地獄の火焰(ヘルフレイム)


 かつてない程の規模の火だ。

 今までに出すことが出来なかった威力。

 でも今では何故か出せる。

 その俺の限界を超えた火焰が桃花を囲う。


「燃え尽きろ」


 火を生き物をように操り桃花をそのまま閉じ込める。

 火で出来たドームが彼女を囲った。


「凄くカッコイイよ!」


 しかし俺の全力すら届かない。

 目の前で火焰は凍てつき砕ける。


「でも、ごめんね。流石にこれを直撃は私の命も危ないから」


 相変わらずの規格外。

 でも俺はその上を行く規格外になればいいだけだ。


「……お兄様。私の獲物です」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」


 こいつは協力しねぇと殺せねぇ。

 それほどまでの強敵だ。


「私のナイフ。何度も当たるんですがすぐに回復されますね」


 白愛の攻撃じゃ決定力に欠けるか。

 今必要なのは圧倒的な火力。

 再生すらも意味を成さないぐらい圧倒的なやつだ。

 白愛は少し分が悪いか。


「超電磁砲は?」

「まだ残ってます」


 どのタイミングで打つか。

 超電磁砲からの全てを払う地獄の火焰(ヘルフレイム)で殺せるはずだ。

 問題はどうやって当てるか。

 相手は桃花だ。

 一筋縄でいくわけがない。

 そう思ってた矢先だった。


 バンっと一度だけ銃声が鳴り響いた。


「誰!?」

「なんかエラい事になってそうだから来てみたらなんだこれは……」


 銃弾は氷の盾により防がれた。

 それにしても一体誰だ……?


「ったく。僕だよ。神崎陸だよ」


 ……親父!?

 どうしてここに?


「お前。まだ爪が甘いな」


 再び銃声が鳴った。

 桃花に同じ手は無意味だ。

 彼女は再び氷の盾を作る。


「……え?」


 しかし結果は予想外の物だった。

 氷の盾は音を立てて倒壊。

 それから桃花が胸から血を吹き出していた。


「隠し弾だよ。白の弾丸を最初に打って魔法を破壊。それとバレねぇように全く同じ軌道に緑の弾丸を撃った」


 緑の弾丸は血液を毒に変える。

 数ある弾丸の中でもトップクラスで凶悪だ。

 親父の手にはいつの間にか二つもの銃が握られていた。

 一つは丁寧にサイレンサーまで付いている。


「戦闘経験が浅すぎんだよ。能力頼みの雑魚」


 親父は意図も簡単に桃花を倒した。

 それはあまりに一瞬の事だった。

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