124話 気持ち悪い怪物
「……クソっ!」
失敗した! 結局俺は何も出来やしない!
いつもそうだ!
「お兄様。懺悔より今は……」
「そうだね。良くない予感がするよ」
目の前には依然として発狂を続ける竹林。
目は剥き出しになり体をバキバキと音を立てながら現在進行形で骨格が変わっている。
良い気はしないね。
「それにあの膜……」
桃花が何処からかナイフを出して竹林に投げる。
しかもそれは物理法則を無視してクルクルと何処かに飛んでいった。
「何も通さない。あれは接近も出来ないよ」
「……グレイプニル」
俺は軽く呟き愛用の武器で思いっきり紫色の膜を叩く。
しかしびくともしない。
神器すらも無効化するか!
「……お兄様。間違いなく戦闘が予想されます」
「そうだな。今のうちに少し休んどけ」
問題はあれとどう戦うか。
恐らく頭は人みたいにあまり良くないだろう。
人格が吹き飛ぶと予想されてるんだから当然と言えば当然。
つまり思考はしてこない。
「……決定打に欠けますね」
「恐らくあれも姫みたいに再生するだろうな」
殺すなら武器として作られた神器か。
でもそれはない。
「ねぇ空君。魔神なのは右腕だけなんだから竹林の部分を狙えば殺せるんじゃない?」
「却下だ。それは最後の最後」
「はーい」
でも、どうするか。
もしも出来るとしたら……
「竹林の右腕を切り落とす。そうすれば問題はないはずだ」
「……それでダメだったら?」
「その時は殺す。あんなのを放っておいたら間違いなく不味い」
真央もとんでもないものを残しやがって。
もしも次会った時は一発ぶん殴って刑務所にでもぶち込んでやる。
まぁ刑務所に入れても転移で逃げられるのがオチだろうが。
「海。頼みがある」
「なんですか?」
「白愛達を読んできてくれ。飛行能力があるお前が一番の適任だ」
「……そうですね。でもそれまでの間は?」
「俺達が死ぬ気で抑える」
それしかないだろう。
これさえ終わればあとはのんびりするだけだ。
最後の一踏ん張りだ。頑張ろう。
「それしかありませんよね。絶対に死なないでくださいね」
「当たり前だ」
海はそう言い残してパタパタと飛んでいった。
恐らくアレに適うのは白愛しかいない。
「あ、空君。膜が破れたよ」
桃花のセリフで戦闘態勢に入る。
あんな化け物にどこまで通用するか……
「神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス神崎コロス」
狙いは俺かよ……
見た感じだと竹林の元の性格が少なからず反映されてそうだな。
「誰の許可を得てッ……」
「桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス桃花オカス」
「気持ち悪っ!」
セリフの内容に気にしてる場合じゃねぇ!
何か桃花を見てから右腕の先端が無数の触手に変わったぞ。
「防御力の大切さを教えてあげる」
しかし桃花はものともしない。
指にエメラルドを挟み迷わずばら撒く。
「千切りになりさい」
その瞬間、触手が落ちた。
しかし気持ち悪いことに触手だけでも行動している……
「ちょっと! 何よこれ! 集団戦は苦手なのーー!」
「あんまり桃花を泣かせるなよ?」
俺は地面に火焰を踊らせる。
火焰は触手の破片を全て焼き焦がした。
「……ありがと」
「ちぎれた部位は焼き焦がすか凍らせるしか対処方法がねぇな」
「そうみたいだね」
俺は無限に使えるが良いが桃花の場合は宝石を使うからストックに不安を覚えざるえない。
「……白愛が来るまで持ち堪えるぞ」
「そうだね」
あんなの勝てるわけがない。
時間稼ぎに徹するしかねぇな。
「グレイプニルで何処かに縛りつければ多少は時間を稼げるんじゃないかな?」
「そうだな」
縛りつけるには地面しかねぇな。
他は不安がかなり残る。
1回アイツを押し倒してその時にグレイプニルで右腕を貫通させてその時に地面を貫通させる。
そしたら俺は思いっきり地面をぶち壊してグレイプニルを地中から拾い竹林の腕の所で結びつける。
この作戦のキモは地面を壊しすぎないことだな。
あとはどうやって竹林を押し倒すか……
「桃花。竹林押し倒したりって?」
「無理! あれめちゃくちゃ身体能力上がってて攻撃の隙もないの!」
たしかに身体能力上がってるのは同意する。
でも桃花でも無理となるとその作戦は不可。
「来てくれ。グレイプニル」
とりあえずグレイプニルを呼んでおく。
鍵は神器であるコイツにあるはずだ。
「カンザキィィぃぃぃいいいいいいいい」
「空君くるよ」
気づいた時には遅かった。
俺の目の前には既に竹林が迫っていた。
しまった……反応遅れたな。
「空君!」
「桃花!?」
しかし間一髪で俺は無事だった。
桃花が俺を突き飛ばしたのだ。
そして代わりに桃花が竹林に殴り飛ばされる。
桃花は思いっきり飛ばされそのまま地面を転がった。
「桃花ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
地面に擦り体中が傷だらけになる。
頭もぶつけたのか血がダラダラ流れている。
「お、おい。桃花……」
俺は弱々しく桃花の元へ近寄る。
しかし返事はない。
「桃花! おい、桃花!」
そのまま桃花を抱き上げた。
良かった! 死体の冷たさじゃない!
気絶してるだけだ。
俺は安堵を覚えて桃花を優しく地面に寝かせた。
「……お前だけは絶対許さない」
静かに怒りの火焰がメラメラと燃え上がる。
俺はこいつを殺したい。
よくも桃花をこんな目に合わせたな。
「キャハッハッハッ! オコッタ! オコッタ!」
「黙れよ。今の俺はかつてないくらいに切れてんだからよぉ」
グレイプニルを再び呼び手に絡める。
何時でも奴の体を貫けるぞ。
「殺してやるよ。生まれた事を後悔するくらいな」
無言で加速を使おうとする……が、発動しなかった。
「クソっ! グレイプニルの無効化って俺にも影響あるのかよ!」
「ユカイ!ユカイ!」
いつもなら犯さないへまなのに桃花がいないせいであまりにも冷静さが欠如している。
そういう時はどうすればいい。
素数でも数えればいいのか……
1.2.3.5.7……って1は素数じゃねぇよ。
ダメだ。動揺しすぎて頭すら回らねぇ。
「まぁいいや。お前を殺せば全て解決だもんな」
「イマノオレサイキョウ! オマエカテナイ!」
最強でも何でもねぇよ。
今からそれを証明してやるよ。
コイツにグレイプニルは恐らく効かねぇ。
能力の方が最適だ。
「落ちろ」
迷わず雷を落とす。
しかし無傷。
それでも俺は連続的に雷を落とし続けた……
「ムダムダムダムダムダムダムダ……ダヨ?」
「クソっ! 加速!」
結局これが一番頼りになるんだよ。
そのままお前を切り刻んでやるよ。
「風の刃」
「ソノワザメイ、ダサイ!」
肉体を斬ろうと無数に飛ばすも全て右腕で受け止められた。
そして右腕はいくら斬っても再生する。
でもこれでハッキリした。
こいつの竹林の部分を庇うということは魔神になってない部分はおそらく再生しねぇ。
そこを狙っていけば……
「コノオレサイキョウ!」
「そんなわけないでしょ。あなたよりよっぽど桃花や空の方が強いんだからね!」
そう思った矢先だった。
景色が草原に変わっていく……
「空。遅れてごめんね」
金髪の女性は迷わず台座にあるエクスカリバーを引き抜き桃花を照らす。
それにより桃花の傷は全て消えていった。
「私は【物語】の使徒。アリス・ローズベリー。遅かれながら夢と希望を溢れる可能性の塊を補助するために参上したわ」




