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世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
123/305

123話 真央は笑顔で地獄を展開する

「グレイプニル!」


 俺は胸元に束ねて展開して夜桜の拳を受け止める。

 黙ってやられるわけないだろ!


「ケッ。痛てぇな」


 彼の手が赤くなった。

 このグレイプニルの硬さは尋常ではない。

 それを全力で殴ったらそうなるよな。


「……今日のところは帰れ」

「すまんな。真央は自分の計画を変えるのがこの世で一番嫌いだからそれは不可能だ」


 こんなで引き返したりしねぇか。

 だったら俺には適わないと思わせるしかない。


「俺を殺すつもりか?」

「いいや、お前らの作戦は俺がいる以上行えないって分からせてやるよ」


 身体中に強化(ブースト)をかける。

 ちょっとは体を鍛えたんだよ。

 そこそこの時間は持つぞ。


「……馬鹿らしい。つまり殺さないで俺達を追い払うって言うのか」

「悪いか? 俺はお前らを敵だと思えねぇから殺さない」

「甘い理想論だな!」


 気づいた時には遅かった。

 夜桜は俺の背後に回っていた……


「でも、俺は好きだぜ。気絶で済ませてやるよ」

「お兄様に触れるなぁぁぁぁぁ!」


 絶対絶命だと思ったその時だった。

 海が俺に急接近して夜桜を蹴り飛ばしたのだ。

 もちろん蝶化している。

 そして蹴り飛ばすと共にバサバサと地面に降り立った。


「私が相手します」

「海か。お前も気絶くらいは覚悟してもらうぞ」


 あんなにクリーンヒットの蹴りを喰らってピンピンしてるのかよ。

 知ってはいたが相変わらずの化け物っぷり。


「お兄様。援護お願いします」

「言われなくても!」


 海が再び飛行した。

 綺麗な羽を使い夜桜に接近して追い打ちをかける。


「その程度の動きで」

「お兄様!」


 海の言いたい事は分かる。

 俺はグレイプニルを飛ばして夜桜の手を絡めとる。

 そして……


「燃えろ」

「……クッ!」


 夜桜の右腕を燃やす。

 狙いはダメージじゃなくて服を焼き焦がすこと。

 それにより俺のグレイプニルはヤツの肌に直に触れた。


「……すみませんね」


 海は方向を変えて遥か上空に飛び立つ。

 そして空で能力を解除。

 それと共にクルクルと回転しながら地面に向かって落ちていく。


「シューート!」


 以上なまでの勢いがついたかかと落とし。

 それが夜桜の顔面に直撃した。

 歯は欠けて顔面から血が飛び散る。


「……再生は出来ませんよね」


 俺もしっかりとグレイプニルで夜桜を捕縛している。

 これで勝負ありだな。

 俺は夜桜に近づき彼の体を持ち上げる。


「降伏しろ。お前の負けだ」


 もしも獣化されたら負けていた。

 だからこそ俺達はされる前に勝負をつけに行った。


「……脇が甘いぜ。空」


 しかし間違いだったと気づいた。

 まだ夜桜は諦めていない!

 俺の体がグワンと夜桜の方へと寄せられた。

 服を雑に引っ張りやがって!


「悪いな」


 ゴツンと鈍い音が夜の静寂に鳴り響く。

 俺は突然の痛みに手が緩み一瞬、グレイプニルを手から離してしまった。

 そして夜桜がそれを見落とすわけがない。

 彼は腰からナイフを取り出し迷わずグレイプニルで捕縛された方の手を切り落とす。


「逃げ道はいくらでもあるんだよ」


 そしてそのまま獣化。

 完全にしてやられた。


「お前らをちっと舐めすぎた。ここからは本気で行くぜ」


 空気が揺れる。

 改めて思うがなんて圧だ!


「お兄様。失礼します」


 そう思ってた矢先、体がフワリと浮かんだ。

 まるで何かに攫われるように……


「って海!?」

「透明化がある以上、地上で戦うのは危険です。一旦空中に退避しますよ」


 海が俺を持ち上げて空を飛んでいたのだ。

 どんどん夜桜が点になっていく……


「……雷お願いします」

「いいんだな?」

「はい。たしかに聖地を荒らすのは心惜しいですが仕方ありません」

「分かった」


 俺は迷わずここら一帯に雷の雨を降らせる。

 桃花は難なく回避。

 夜桜は当たるが無視して動き続ける。


「やっぱり火力足りねぇ。このまま俺を落とせ」

「分かりました。地面に打つかるギリギリで拾いに行きますね」


 ありがてぇ。

 流石にこの距離から落ちたら着地なんて出来ねぇで俺は死ぬしな。


「夜桜ぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……頭おかしいだろ」

 

 グレイプニルを再び出す。

 あいつはこれで触れた瞬間、能力が解ける。

 そうすればやりようはいくらでもあり!

 そう思って夜桜の太ももを狙って投げ槍のようにグレイプニルを飛ばす。

 そのまま貫け!


「まぁ当たらねぇが」

「畜生!」

「それと落ちたら死ぬぞ。俺からのサービスだ」


 夜桜はそのまま跳躍。

 そして俺を思いっきり殴り飛ばした。

 畜生。痛てぇ。


「加減はしたから気絶はしねぇだろ。あとは勝手に上がってこい」


 これで加減かよ……

 夜桜が俺を飛ばした方には海。

 可愛い方の海ではない。

 でかい水溜まりの方の海だ。

 そのまま俺は冬の海にデカい水飛沫を上げてダイブした。


 クッソ。冷てぇ……


 服が水を吸い中々思うように動けない……


「何やってんですか!」


 そう思っていると体が誰かに持ち上げられた。

 とても優しい感じだ……


「海!」

「まったく。私まで濡れてしまったじゃないですか」


 あの後に海が俺を追って潜ったのか。

 そして俺を拾って再び浮上。


「ていうかこんな中によく躊躇わず入れるな」

「当たり前です! 放っておいたらお兄様が死ぬではありませんか!」


 俺は遠目で夜桜の方を見る。

 桃花の善戦もありまだ竹林は生きてるな。


「お前ら、何なんだよ!」

「ちょっと黙って! それどころじゃないの!」


 桃花の手には氷の槍が握られていた。

 おそらく魔法で作ったのだろう。

 それを夜桜に突き出すが思いっきり握り潰される。

 しかし桃花は想定内なのか迷わず槍を捨てて夜桜の懐に潜り込み正拳突きを喰らわせる。

 でも、夜桜はびくともしない。


「こんなものか?」

「なんて筋肉なの! まったく衝撃が伝わらない」

「殺すのは楽だが生け捕りとなるとこのレベルは骨が折れるぞ」


 夜桜がボキボキと首の関節を鳴らしていく。

 なんのアニメの影響を受けてやがる……


「海ちゃん! 竹林を連れて遠くまで逃げて!」


 桃花が俺達に気づいたのか大声で合図した。

 やはりそれしかないか……


「分かりました!」

「俺はどうするつもりだ?」

「決まってるでしょ! 私の彼氏があなたなんてコテンパンにやっつけるんだから!」


 鼻から俺もそのつもりだ。

 海に目で合図をして再び俺を落としてもらう。


「ちょっと骨の一つや二つ覚悟してもらうぞ」

「……大丈夫。私にあなたの拳は届かない」


 桃花に夜桜の拳が迫る。

 かなり重い一撃。

 あんなのを喰らったら一溜りもないぞ。

 でも、桃花に拳は届かない。

 俺は夜桜と桃花の間に着地して拳を手の平で受け止める。

 クソっ……威力が強すぎてめちゃくちゃ痺れる……


「俺の女に手を出すなよ」

「まぁ随分とカッコイイ彼氏だな!」


 しかし俺が握り返す前に夜桜を手を引っ込める。

 あとは海が逃げるまでの時間を……


「お前らなんなんだよ! ホントなんなんだよ!」

「とりあえず今は逃げますよ!」

「やめろーー! 俺は死にたくないーー!」


 ダメだ。

 竹林が混乱している。

 そのせいで無駄にじたばたして海が抱き抱えるのを苦戦して中々飛べないでいる。


「安心して身を任せてください!」

「誰がお前らを信じられるかーー!」


 もう黙って海の命令に従えよ!

 俺達が誰のために戦ってると思ってんだよ!


「空君。ちょっと時間を稼いで。十秒でいいから」

「分かった」


 俺は夜桜と睨み合いになった。

 ここからの動きはまるでコマ送りだった。

 夜桜が桃花の元へ行こうとしたので俺は足をグレイプニルで巻き付けようと這わせる。

 しかし夜桜は触れるか触れないかのギリギリの所で気づきバク宙して回避。

 俺はそれを見過ごさず雷を落とすが安定の無傷。

 それと同時に桃花が竹林の元へついた。


「今は黙って従ってくれるかな。そうしないと殺すよ」


 その一言で竹林が硬直した。

 海はその隙を見逃さず竹林を抱いて飛んだ。

 可愛らしい少女が蝶の羽を生やしてガリガリのキモオタを抱き抱えて飛んでるのはシュールこの上ない。


「……ありがとよ」

「どうした?」

「あの時の言葉をそのまま返すよ。チェックメイトだ」


 しまった!

 気づいた時には既に遅かった。

 夜桜は海に向かって石を投げた。

 石は恐らく創造の能力で作られた。

 しかし当てる気はサラサラない。

 でも石が海の上を通過する時に僅かな影が生まれる。

 夜桜はその僅かな影を使って海の元へ影移動。

 完全に他の能力を使える事を忘れていた!


「悪いね」

「竹林。落としますよ」

「おまえぇぇ! 末代まで呪ってやるからなぁぁ!」


 竹林の体が自由落下を始める。

 しかしその程度で夜桜から逃げられるわけがない。

 夜桜は瞬時に自分の指を切りそこからデカい血の刀を出した。

 そのまま獣の目付きを見せて竹林の右腕を豆腐のようにスッと切り落とした。


「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 血が吹き荒れる。

 汚かった顔が痛みと恐怖で更に汚くなる。

 やはり間に合わなかったか!


「あとはお前の出番だぜ」


 そういうと竹林の着地地点からゴシックドレスのお姉さんが現れた。


「夜桜。遅いよ」

「すまねぇ」

「海。残念だけど私は計画通りにいかないのがこの世で一番嫌いなんだ。お酒が不味くなるからね」


 真央だ。

 真央が転移を使って現れたのだ。

 漂うのは圧倒的なラスボス感。


「ゴスロリは私の正装だ。さてフィナーレといこうかさ」


 真央は夜桜を優しく抱きしめてクルクルと回る。

 おかげで墜落死は免れたか。


「空と桃花。君達にはちょっとした罰だ。海ちゃんはその羽で飛べば逃げられるはず。ここから先は自己責任だよ」


 どこからが毒々しい肉塊を出した。

 間違いなく魔神の肉……


「それ! 訪れるのは地獄か楽園か! さぁお楽しみください!」


 竹林の腕の切断面に魔神の肉が触れる。

 それと共に真央は迷わず糸と紐を使って縫い付けていく……


「この紐は竜の髭! 簡単には取れもしなければ燃えもしない!」

「あああああぁぁぁぁぉぁぁぁ!」


 竹林が地獄のような悲鳴をあげた。

 この悲鳴はとても不気味……


「さて、私は遠目で観察するよ」


 そして真央の後ろに夜桜が着地。

 彼女は天使の笑みと地獄を残して消えていった。

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