122話 運命の渦
「……どうしてそうなった」
俺は今、唖然としてる。
どうして海が竹林とデートする事になったのだ。
「ですからデートじゃありません。少し買い物に行くだけですよ」
俺は学校を休み必死にプッシュドノエルを作っていたのに海ときたら……
「というわけで真央に貰った服を着ようかと……」
「あれなら洗濯してたぞ。白愛が」
「魔法で乾かしなさい! お兄様ならそのくらい出来るでしょう!」
はいはい。
そういうと思って先程取ってきましたよ。
左手で風。右手で小さい火球。
それで温風を作り赤いドレスを乾かしていく……
あれ、これってドライヤーで良くないか?
「ほれ、乾いたぞ」
「流石です。お兄様」
まぁ結果オーライだ。
乾いたんだから良いとしましょう。
「さて、着替えましょうか」
海はそういうと大胆にスカートを目の前で降ろし黒色の下着を見せてからワイシャツのボタンを外し……
「ていうか海はなにしてんだよ!」
そう言うと海の顔がヤカンのように赤くなっていく。
どんどん赤くなっていき……
「キャーーーーーーーー!」
甲高い悲鳴が上がる。
それと共に腹にかなり強めに蹴りが入る。
「妹の着替えを見るなんてどんな変態ですか!」
「いや、お前が見せてきたんだろ!」
まさか天然か?
海がここまで天然だったとは……
「海ちゃん流石に今のは理不尽じゃないか……」
「うるさいです! たった今お兄様は大罪を犯したんですよ! 乙女を穢すという!」
言い過ぎだろ。
まったく酷いものだな。
「本当に酷いです……」
「そうかよ」
俺は無言で扉を開けて外に出る。
そして扉越しに言う。
「着替え終えたら教えてくれ」
ったく。飛んだ災難だ。
まぁこのくらい表情が豊かになったんだ。
ここは兄として喜ぶべきだろう。
しかし竹林とのデートは解せぬ。
たしかに真央の策略を防ぐためには有効だが……
「……着替え終わりましたよ」
海が扉越しに俺に言った。
入っても良いのだろうと思い俺は部屋に入る。
「やっぱり綺麗だな」
「そうでしょう? 私もお気に入りです」
しかし悪目立ちはする。
でも海にそれを言っても無駄だ。
「それじゃあ私は行ってきますね」
しかし海はデートに行ってしまった。
俺をこの場に残して……
「さて、空君。あと五分したら行くよ」
「行くって……」
「決まってるでしょ? 竹林が海ちゃんに変な事したら何時でも殴り飛ばせるように尾行するよ」
「お、おう」
しかしなんかワクワクするな。
妹のデートを尾行とは……
傍からみたらどんなシスコンだと言われるかもしれんがやはり不安なものは不安だ。
「空君。準備出来た?」
「……誰ですか?」
「私だよ! 桃花だよ!」
驚いた。
完全な別人だった。
肌は黒くホットパンツを履いて季節に合わない半袖のTシャツ。
「……ギャルだな」
「当たり前でしょ! 変装しなきゃ海ちゃんにバレちゃうもん!」
「そうだな」
「ほら、空君も変装するよ」
「や、やめろーーー」
しかし俺の静止も虚しいかな。
為す術もなく服は剥がれていく。
剥がれたら舐めまわすように桃花に全て見られたあとで黒色のスカートに白いタイツ。
ピンク色のモコモコのアウター。
それに髪を適当に弄られてきぱきとメイクをされる。
「うん! 可愛い!」
「……人を勝手に女装させるな!」
「食べちゃいたいくらい可愛いから大丈夫だよ」
……食べちゃいたい?
それ以上は怖いから考えるのをやめとこう。
「まぁたしかに女装は尾行には良いが……」
「そうでしょ!早く行くよ!」
「海にバレたらなんと言われるか……」
一生そのネタで弄られるな。
バレた時のために着替えくらいは持っていこう。
俺はそう思い適当な紙袋に服を詰めていく。
折角だし桃花の服も入れとくか。
「行くよー」
「……はぁ」
あまり女装は気乗りしないが仕方ない。
背に腹は変えられぬ。
俺は重い足を上げて外に出た。
そして待ち合わせ場所である不夜公園に先回り。
「やっぱり海ちゃん目立つねー」
「そうだな。あ、不良だ」
ナンパ目的なのが透けて見える。
まぁ今さら不良如きで止まる海じゃないか。
「腹パンしたね。そして倒れ込んだみたいだよ」
「倒れたら追い打ちに腹を踏むか。本当に容赦ねぇーな」
海は意識が失ったのを確認するとそのまま放置する。
まぁ概ね予想通りだな。
海が掃除を終えたと同時に竹林が来た。
「……は? 海ちゃんとデートするくせにジャージとかありえねぇよ。ていうかメイクくらいしろよ」
「桃花。気持ちは分かるが抑えろ」
うーん。もうちょい女性との買い物なんだから気を使うべきだと思うが俺がとやかく言うことじゃない。
「でも海ちゃん楽しそう……」
「俺は竹林が地雷を踏まない事を祈るばかりだ。頼むから海を怒らせないでくれ……」
本当に心臓に悪い。
彼がいつ地雷を踏むかと思うと……
「た、多分大丈夫だよ。海ちゃんを信じよ?」
「そ、そうだな。あいつも初デートで殴り飛ばすようなヘマはしないはずだ」
色々と怖い。
もうただ無事で終わってくれれば……
「あと空君」
「どうした?」
「真央の襲撃があるかもしれないことを忘れないでね」
……すっかり忘れていた。
そうだよ。海は竹林を助けるために一緒にいるんじゃないか。
だったら俺もしっかり彼を守らねぇと。
「それにしても空君、ホントに可愛いよ」
「……うるさい」
「ムスっとする空君も超絶可愛いーーー!」
はいはい。
おっ海達が移動するみたいだ。
「桃花。行き先は分かるか?」
「うん。“ししのあな”だと思う」
なんじゃそりゎ?
聞いたことないぞ。
「それか“Kの本”。Kの本は中古グッズを売ってるところでたまに掘り出し物があるの。ししのあなは同人誌だね」
なんだこの怪文書は。
まったく理解出来ねぇ。
「あ、でもドS紅茶は今コラボカフェをやってた気がする」
「桃花。頼むから分かる言語で言ってくれ」
「特別なカフェ。二人で飲みに行く」
「どうしてカタコトなんだよ……」
まぁ喫茶店デートか。
王道と言えば王道だが……
「あ、電車に乗って移動するみたい」
「電車!?」
「うん! ちょっと遠出しないと“ししのあな”はないからね」
だからそれはなんなんだーーー
一体同人誌とはなんなのだーーー
「私達も移動するよ」
「おう」
足音を殺して海達を尾行。
そしてバレないように電車に乗る。
「フッフッフ。二人ともこの完璧な変装に気付いてないようだね」
「……気づけって言う方が無理だと俺は思うぞ」
それほどまでに桃花が俺に施した変装は完璧。
これなら海と会話しない限りバレないと俺は思う。
「お、着いたみたいだね」
「ここは?」
「秋葉原だね」
オタクの街で名高い秋葉原。
まさかこんな場所に降り立つ事になろうとは……
「あ、イセランの巨大パネルだ! 写真撮ろー」
「……海達を見失うぞ」
「そうだったね」
それにしてもやたらと俺への目線が凄いな。
なんか今まで感じた事のない類の目線が……
「なんだこの街。何かが歪だ……」
「そうかな?」
「空気が違う。なんか違うぞ」
「ちょっと私には分からないかな」
まぁ歪だが面白い街なのだろう。
多分……
「ほら! やっぱりししのあなに向かったよ!」
「ここがししのあなか」
俺も迷わずに入っていく。
それにしても本がいっぱいあるがどれも薄いな。
あと匂いが少し独特な気が……
「お、鮭丸先生が書いた“獣聖夜”の同人誌があるじゃん」
「何を買う……」
俺は桃花が持ってた本の表紙を見て後悔した。
そこにはピンク髪ロングの少女が半裸にされてタコの触手が手足にまとわりついてるイラストがあった。
「あ、空君は同人誌初めてなんだね」
「……完全にR18だろ」
「大丈夫。暗黙の了解で売ってくれるよ」
違う。そうじゃない。
俺が言いたいのはそういう事ではない。
「まぁなんでもいいか」
とりあえず言っても仕方ない。
そして俺はチラリと海の方を見た。
「……海も買うのかよ」
「ここに来たら当然でしょ」
これが当然で本当にいいのだろうか。
いや、これは俺が理解できない世界。
これ以上考えるのは野暮というものだ。
「さて、私もお会計済ませてこようかな」
「俺は外で待ってるから勝手にしてくれ」
そう思い俺はそのまま外に出た。
ダメだこれは。
もう完全に理解の範疇を超えている。
「そう? じゃあ買い終わったら私も出るね」
とりあえず桃花に断りを入れて俺はその店を後にした。
まだ俺には早すぎる世界だ。
「とは言ったものの何をするか」
待つだけというのもかなり退屈。
しかし桃花が出てきたら拾えるようにすぐ傍にいなければならない。
「今度、海に携帯で出来るゲームについて教えてもらうか」
今日の朝そんなことを口走っていた。
実のところ携帯で出来るゲームとはどんかものか多少は興味がある。
「……空君。買い終わったよ」
「そうか。海はどうだ?」
「まだ物色中。このあとに聖地である港に行くみたい」
「先回りするか」
案内は桃花に任せよう。
俺にはさっぱりだ。
「うん。じゃあ電車だね」
「また移動するのか……」
俺は桃花にされるがままに電車に乗ることになった。
そういうば桃花とデートっぽい事をするの初めてだな。
「……手繋ぐか?」
「うん! でもどうして?」
「デートなんだから手を繋ぐくらい普通だろ」
まったく何を驚いてるのか。
それにこんなにも顔を真っ赤にして……
「……良い時間だね」
「そうか?」
「うん。好きな人の隣でのんびり電車に揺られる。私は好きな時間だな」
まぁ悪くはないか。
たしかに俺も悪い気はしない。
「あと何駅だ」
「まだかなりあるよ」
「そうか」
つまりこんな時間が長く続くのか。
それは良いな。
「空君。ちょっと寝てもいいかな? 私、疲れちゃった」
「あぁ。何駅で起こせばいい?」
「……水の橋駅……だよ」
桃花はそう言い残して俺の肩で安らかな寝息を立てはじめた。
考えてみれば俺のために徹夜で看病してくれたんだ。
無理もない。
「……ちゃんと起こしてやるから安心しろ」
俺は一人そう呟いた。
向こうについたら珈琲の一つでも買うか。
折角のデートを楽しめないのも可哀想だしな。
◆ ◆
「桃花。着いたぞ」
「……分かった」
目を擦りながら起きる。
そして千鳥足で電車から出て駅に降り立った。
俺は迷わず自販機に行き珈琲を買う。
「ほれ」
「私のためにありがとね」
「気にするな」
しかしこの女装では動きにくい。
それに桃花とのデートでこれは悪いな。
「少し着替えるから待ってろ」
「……嫌だった?」
「違う。お前とのデートに相応しい格好になるだけだ」
「それじゃあ私も変装解く〜」
着替える場所はトイレくらいしかないか。
俺と桃花は一旦別れトイレでいつもの格好に戻り再度合流する。
やっぱりこれが一番良いな。
「うん! 空君カッコイイ!」
「当たり前だ。誰の彼氏だと思ってるんだ?」
桃花の彼氏である以上はそれなりの服を選ぶ。
そんなの当たり前だろ。
「それに桃花だって凄く可愛いぞ」
「……もう。馬鹿」
「馬鹿とは心外だな。ほれ、海が来る前に俺達のデートを済ませるぞ」
俺は桃花に手を差し出す。
繋ぎ方はもちろん恋人繋ぎ。
「この繋ぎ方って初めてだね」
「そうだな」
言われてみれば桃花とは恋人繋ぎどころか手すら繋いでなかったな。
これで恋人なんて言ってんだから笑わせてくれるわ。
「そういうば聖地の名称って何なんだ?」
「青レンガ倉庫だよ!」
「……どこかで聞いた名だ」
「多分、例の赤い方の人気にあやかろうとしたんじゃないかな。まぁ結果としては大爆死でドS紅茶の信者以外は訪れることがないけどね」
なんとも悲しい歴史なのだろうか。
まぁ妥当と言えば妥当なのだが……
「……で、一つ問題があるんだよ」
「どんなだ?」
「遊べる場所も買い物する場所も一つもない!」
おい、この上なくデートに不向きじゃねぇか!
そりゃ人気でねぇよ!
「あると言えば虫の博物館なんだけど」
「これまたカップル殺しだな!」
ツッコミどころしかねぇよ。
そもそも虫が苦手な女性は多い。
少なくとも俺はそう思っている。
そのためデートには論外としか言い様がない。
「で、その虫がムカデとか黒光りとかばっかなのよ。それにもっと言うと死体じゃなくて生きてるやつ……」
ムカデか。
そういうば真央のアジトに3mくらいある奴がいたな。
あの時は俺の精神状態的に何とも思わなかったが今みたら凄い嫌悪する気がする。
まぁ恐らく真央もそれを理解しており用心棒にしているのだろうが……
「俺は平気だが桃花は?」
「平気だけど好き好んで見たいとは思わないかな」
「……デートとしては最悪だな」
他に近くにどこかないのか……
たしかここは港だったよな。
「……釣りは出来るよな?」
「うん。でも道具がないよ」
それまた困った。
まぁとは言っても青レンガ倉庫以外ならあるはずだ。
「一応ここは駅ビルなんだな」
「そうだよ。少し初デートには物足りないけど駅ビルで遊ぶしかないね」
とりあえず駅ビルの中身を見よう。
えっと一階はスーパーで二階は中古屋。
そして三階は本屋……
「服屋どころか喫茶店やレストランすらねぇのかよ!」
間違いなくこの駅は地域ぐるみでカップルを殺しに来ている。
その証拠として男女二人で遊べるところがまったくない。
「うん。とりあえず本屋行く?」
「……それしかねぇだろ」
本当になんなんだここは。
まだ秋葉原の方がデートに向いてるぞ。
「そうだ! 空君。あの原作見ようよ」
「あの原作?」
「うん! 海ちゃんが好きなドS紅茶!」
たしかに海がどんな作品が好きなのか興味がある。
試しに買ってみるか。
「全部で四巻のコミックだね」
「随分と少ないんだな」
「そうだね」
とりあえず買ってみよう。
俺は桃花の手を取り本屋へ向かう。
本屋は一回丸々使ってるだけあって中々の大きさを誇っていた。
「あったあった。これだよ」
「……」
凄く反応に困る。
だって表紙に描かれてる女の子が思いっきり……
「これ、海だよな?」
「うん。だって海ちゃんって思いっきりこの作品意識してるもん。髪下ろしてるのだって表紙の悪魔ちゃんって子の影響じゃないかな?」
うん。出来れば知りたくなかった事実暫定一位だ。
まさか妹がここまでのガチ勢だったとは……
「それにしてもよく似てるねぇ」
「似てるというか瓜二つだ。逆にこの悪魔ちゃんは海をモデルに書いたんじゃないかって思うくらいな!」
萌え系漫画の表紙に妹が描かれた兄の気持ちを考えた事はあるだろうか?
きっと誰一人としてないはずだ。
ちょっとあまりにも精神的ダメージが大きすぎて立ち直れそうにない。
「まぁとりあえず買ってみようよ」
「……そうだな」
でもまだ希望はある。
読んだらめちゃくちゃ良い内容の可能性も否定出来ない。
海がハマったくらいだ。
きっとそうなのであろう。
「これお願いします」
俺はドキドキとしながら四巻まとめてレジに通す。
いわゆる大人買いってやつだ。
「さて、どこで読むか」
「あそこに休憩所あるしそこにしよ?」
「そうだな」
そして桃花と座り恐る恐る本を読んでいく。
中身は普通の漫画と言いたかった。
しかし現実は違う。
モンスターが出たり異世界に転生したりしないのだ。
一言で言うなら展開がない!
それと俺にはワンパターンとしか思えなかった。
「……うん。まぁアクマちゃん可愛かったな」
「海ちゃんモデルにしてるんだから当然でしょ!」
「桃花! 逆だ! 海がアクマちゃんのコスプレをしてるんだ!」
でも可愛かったのは事実。
アクマちゃんにそのお姉さんであるデビルさん。
他にも同級生のテンシちゃんなどどれも個性的なキャラばかりだった。
たしかに展開もなくワンパターンだが飽きはしなかった。
それと微妙に中毒性がある気がしなくも……
「桃花。5巻はどこだ?」
「まだ発売してないよ」
「……は?」
いやいや、早く発売しろよ!
もっとアクマちゃんを俺は見たいんだ!
「……空君。微妙にハマってない?」
「いやいや、俺がハマるわけ……」
「本当?」
「嘘です。多分ハマってます……」
なんだこの尋問。
展開もワンパターンで中身もない!
それなのに何故か続きを読みたいと思ってしまう!
「……そういうば作中で青レンガ倉庫が出てたな」
「だって聖地だもん」
「ついでに見てくか」
「そうだね」
そういうば作中で毎回必ず出ていたあの紅茶。
海に聞けば出てくるだろうか。
今度聞いてみよう。
あとバレンタイン回にアクマちゃんが作ってたリア充必殺ワサビチョコ。
今度あれを再現してみよう。
見た感じだとそこまで難易度は高くない。
恐らく俺なら間違いなく作れる……
「……」
「桃花?」
「別になんでもないですー」
何か拗ねてる気がするのは気の所為だろうか。
拗ねるようなことを俺がしただろうか。
「ていうかもう夜の二十三時じゃん」
「……時が経つのって早いんだな」
「そうだね」
「でもドS紅茶の原作では夜の青レンガ倉庫が出てきた。海が聖地目的で行くなら時間的にはちょうど良いはずだ」
「よく覚えてるねー」
ていうか桃花も隣で読んでただろ。
だったら分かるだろう。
「……本当ドS紅茶のどこがいいのよ」
「アクマちゃんだろ」
「可愛いだけじゃない!」
いや、可愛い以外にいらないだろ。
ドS紅茶に可愛い以外を求めるものではないだろ。
「そういうばドS紅茶では夜の青レンガ倉庫はライトアップされてたがされるのか?」
「たしかされてたと思うよ」
「それじゃあ少しはデートっぽい事を出来るな」
俺は桃花の手を取りそのまま駅ビルを後にして青レンガ倉庫を目指す。
さすがに漫画を一緒に読んで終わりっていうのはあまりにも寂しすぎるしな。
「それと腹減ったなどこで……」
「空君。待って。海ちゃんがいる」
やっぱり来るならこの時間か。
遠目からは青レンガ倉庫にいる海と竹林を確認出来た。
「桃花! 急げ!」
「どうしたの!?」
それだけならまだ良かった。
俺はこの目で捉えてしまった。
夜桜の姿を……
「竹林。ここでアクマちゃんの言ったセリフ覚えてる?」
「あ、当たり前だ。こんなゴミみたいな施設しか……」
良い雰囲気になってんじゃねぇよ!
今、お前らの元に夜桜が迫ってるんだぞ!
幸いにも夜桜はまだ青レンガ倉庫に足を踏み入れようとしているだけで踏み入れてはいない。
踏み入れた瞬間、身体能力強化でも使って竹林の右腕をもぎ取るつもりだ。
俺は桃花をかなり強引に引っ張り加速を使う。
「海! ここから離れろ!」
「お兄様!?」
「まぁバレるよな」
海に声を挙げて合図を送った。
そのまま俺は夜桜に接近して腹を殴る。
それからすぐに桃花を海の方へ投げ飛ばす。
彼女なら問題なく着地するはずだ。
「……いきなりひでぇじゃねぇか」
「桃花。海を任せた!」
「うん!」
そのまま戦闘態勢をとる。
こいつらの狙いは竹林。
俺は真央にこれ以上罪を重ねてほしくはない。
だから夜桜を阻む。
「どうしてお前が邪魔をするんだ?」
「……俺には俺の事情があるんだよ」
なんてメンバーだ。
たまたまだが全員が高校に通ってるメンバー。
これが運命の渦ってやつか。
でもやることに変わりはない!




