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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
12/305

12話 兄妹喧嘩

 教室に戻ってきて俺達は思い出した。

 五時間目と六時間目が体育だという事に……

 体育の場合は体育館。

 すなわち移動しなければならない。

 もちろん時間がギリギリな事もあり教室でのんびりなんて出来ない。

 俺達は急いで更衣室に向かって着替えて体育館に移動した。

 そしてギリギリ授業に間に合った。


「今日も剣道だ。さて、前回も言った通り試合をしてもらう。もちろん勝敗は成績に入るから忘れずにな」


 授業が始まると共に今日の内容が言い渡された。

 完全に忘れていた。

 試合に問題はない。

 問題があるのは対戦相手だ。

 誰と試合したものだろうか?

 間違いなく誰とやっても俺が簡単に勝ってしまう。

 それはクラス中に知れ渡った事でそのせいで誰も相手をしてくれそうにない。

 そんな困った時に海が話しかけてきた。


「……お兄様」

「なんだ?」

「相手がいないなら私と試合しませんか?」


 海が俺に勝負を申し込んだ。

 今回は男女同士でも問題はない。

 つまり特に断る理由はないのだ。


「いいぞ」

「妹に負けたら情けなすぎて笑い者ですね」


 海が笑いながらそう言った。

 俺に敗北をクラスメイトに晒させて馬鹿にしようという算段か。

 復讐も先程と比べて随分優しくなったものだ。


「言った通り正面から打ち破ってやるよ」

「よし! 決まったみたいだな。とりあえず最初はそこの兄妹の試合だ」


 先生がこの話を聞いていたのか俺達をトップバッターに指名する。

 それにしても一番手か。

 まぁいいだろう。

 その瞬間、周りがざわめいた。

 よく耳を澄ませると賭けを疑わせるような声も聞こえる。

 

「両者持ち場に着いたな。それでは試合開始」


 その合図と共に海が面を狙ってきた。

 しかし遅い。

 もしかして彼女は素人だろうか。

 とりあえず身を捻って……


「小手!」


 海が目に見えない速さで打つ手を変えた。

 完全にしてやられた!

 油断を誘うために遅くしやがったんだ。

  間一髪で回避するが少し掠する。

 でも掠りは1本として認められない。

 剣道はかなり判定が厳しいからな。

 

「……本気でやらないと厳しいな」

「では、私も」


 その言葉と共に俺達は剣を片手持ちに変えた。

 正直両手はやりにくてて仕方ない。


「おい!それは剣道として……」


 その様子を見ていた先生が注意しようとする。


「先生は黙ってください!」


 しかし海は苛立ちを込めて先生を怒鳴りつける。

 その言葉で先生の足は震えてしまう。


「す、すみません」


 海の気迫に負けて先生が逆に謝ってしまった。

 海はこちらをチラッと見るとすぐに飛びかかってきた。

 とりあえず竹刀で受け止めよう。

 少し鍔迫り合いになる。

 しかし海はすぐに下がり胴を狙ってくる。

 

「……クッ」


 なんとかそれも受け止めるが目で追うのがやっとだ。

 

「甘いですね」


 そして海は足を引っかけててきた。

 正直剣道とかでは反則に近いだろう。

 いや、間違いなく反則。

 しかし俺達のやってるのは既に試合ではない。

 ただの兄妹喧嘩だ。

 そこにルールは無用だろう。

 俺はバランスを崩して倒れる。

 もちろん海はそれを見逃さず竹刀で払ってくる。

 俺は回転してなんとか回避し構えなおす。


「おい、足かけは無しだろ」

「殺し合いにルールなんてございませんよ」


 何度も聞いたセリフだ。

 海にとってこれは殺し合いなのか。

 たしかに殺し合いに近いものがあるな。


「それは白愛の口癖だったな」

「えぇ」


 そろそろ、こちらから攻めににでないとな。

 受け身に回ってばかりなのは不味い。

 とりあえず俺は喉元を狙い竹刀を突き出した。

 海はそれを難なく体を海老反りして回避。

 海は再び足かけをする。


「同じ手を二度は食らわねぇよ」


 俺はそれを跳躍して回避。

 そこそこ高く飛んだため地に足が着くまで時間がかかる。


「回避は計算通りです」


 しかし海の策略通りみたいだ。

 海は竹刀で額を狙って突いてくる。

 最初からこれが狙いか。

 なんとか竹刀の腹で受け止めるがその反動で後ろに転がる。

 もちろん海はそんなのを見逃すはずがなく追撃してくる。

 でも今度はは俺の狙い通りだ。

 俺は追撃に来た海を足を引っかけて転ばせようとする。

 目には目を歯には歯を。

 足かけには足かけをだ。

 

 ――しかし海は前宙してそれを回避した。

 

 それから回転斬りで面を狙う。

 俺は体を横に回転させて回避する

 まさか足かけを避けられるとは思わなかった。


「……これが高校生の試合かよ」

「もうアニメの世界じゃねぇか」

「ていうかこれ剣道?」


 そんな声が周りから聞こえ始めるが無視だ。

 こんなのに気を取られたら負ける。

 それにもう先生まで目を奪われてて勝負を止めるつもりはないらしい。

 まぁ好都合だが……

 それにしてもかなり不味い。

 ずっと押されている。

 攻めようにもカウンターを喰らう。

 このままだとジリ貧だ。

 しかし攻略の糸口は一向に掴めない。


「お兄様。早く死んでください」

「……断る」

「あっそ。なら死ね」

「わけがわかんねぇよ!」


 海がそんな事を口走る。

 少しだけ口調が汚くなったのは気のせいだろう。

 それから海が突進突きをしてきたので横にステップをして回避。

 カウンター出来たら理想なのだが間に合わない。

 

「……お前焦ってるだろ?」

「いいえ、別に」


 でも、今の攻撃でなんとなく勝ち筋が見えてきた。

 間違いなく海はかなり体力を消費している。

 体力面ではやはり男性である俺の方が有利。

 このまま続ければ動きも鈍るだろう。

 つまり回避を続けて長期戦を狙う。

 これが唯一の勝ち筋だ。


「防具邪魔ですね。一旦脱がしてくれ……」


 俺は海が喋り終わる前に左上段から切り裂く。

 そして休む暇を与えないのも重要だ。

 海はそれをしゃがんで回避。


「脱ぐ暇があるならな」

「……なるほど。お兄様は脱がなくても?」

「出来れば脱ぎたいけどそんな暇はなさそうだ」


 防具を取った海など速くて勝負にならない。

 こちらが防具を取れれば話は別だが……

 やはり海にも防具は邪魔でしかないようだ。


「では一旦休憩して脱いでから……」

「お前に休憩の時間なんか与えるわけないだろ!」


 もっと言うと海に防具を取らせればその分だけ体力の減りが遅くなって俺が不利だ。

 そして俺は不本意だが海に突進突きを行うが回避されてしまう。


 ……不味いな。


「大人しく提案を受け入れておけば良かったものを……」


 海の防具がガチャりと音を立てて地に落ちた。

 避けながら結び目を解いたのだ。

 しかしそれは俺も同じだ。

 

「お兄様は攻撃しながら脱いだのですね」

「重くてやってられねぇからな」

「良い判断です」


 そして一段と素早くなった海の剣が俺を襲う。

 しかし俺も防具に縛られない以上速さは一段と上がる、

  時には体を逸らして回避して時にはたたき落とす。

 バチんバチんと竹刀のぶつかり合う音が響く。

 それを互いに何度も繰り返す。

 しかし俺は押されている。

 対応は出来るもののこちらがやられる方が早いだろう。


「……キリがありませんね」

「そうだな!」


 そろそろ動きを変えねば。

 俺は賭けに出てこの乱舞の雨の中で急に動き変えて突きをした

  しかし海はそれをバク転して回避。


「容赦ないですね」

「手加減なんてしたら殺されるからな」

「その通りです」


 実力的には微妙に海の方が上くらいだ。

 だからこそ長引いてしまう。

 さて、俺の得意技で攻めるとするか。

 俺はしゃがんで海の視界から一瞬外れる。

 そして気配を殺して急接近して胴を狙い斬る。


「……小癪な」


 しかし海には見切られ竹刀叩き落とされ面を狙われる。

 俺はバックステップを取りギリギリで避ける。


「さて、終わりです」


 そう言うと海は指を噛み血を少し流してその指で自分の胸元に触れる。

 一体なんのつもりだ?


強化(ブースト)


 海がそう言った瞬間、俺の肉体に衝撃が走った。

 圧倒的な速さ。

 一体何をした……


「……勝負ありです」


 間違いなく急に動きが加速した。

 おそらくあの動作に何かあるのだろう。

 でも、あの動作をする時間を与えた俺のミスだった。

 しかし何もしなかったわけではない。


「……クッ」


 海が右膝を地面についてる。


「……すれ違いざまに……右太ももを思いっきり……叩いた」

「なる……ほど」


  右太ももを竹刀で俺は打ったのだ。

 辛うじて出来た一手。

 でも致命傷にはならない。


 ――この勝負は俺の負けだ。


「……空が負けるのかよ」

「海パネェな」

「ていうか意外と兄妹仲良くない?」

「それより神崎家はバケモノしかいねぇのかよ」


 そんな声が聞こえる。

 あの試合をやったらそう思われて無理はないだろう。


「……先生。判定を」

「そうだったな。勝者は神崎海!そして次の組はそこだ!持ち場につけ!」


 それにしてもかなり疲れた。

 次の試合は拓也か。

 海に竹刀で叩かれた所は少し赤く腫れてる。

 放っておけば治るし問題ないだろう。


「神崎君! 大丈夫!」


 そう声をかけてくれるのは桃花だ。

 試合が終わってすぐに心配してくれるとは優しいな。


「……まぁな」

「妹さんも剣道強いんだね」


 白愛に教えてもらってるんだしあの位はないとな。

 それにしても最後のはなんだったのだろうか?


「あれを剣道と言っていいのか微妙だけどな」

「そうだね」

「……お兄様」


 海が話しかけてくる。

 かなり息切れをしてる。

 今にも倒れそうだ。


「なんだ?」

「何故吐血してないんですか?」

「いきなりそれは酷いな」

「私は肋骨が折れてその破片が肺に刺さるように叩いたはずです」


 やる事がエゲツねぇな。

 ていうか実際アレなら余裕で骨が折れるしな。

 さて、何故折れなかったか説明してやるか。


「体を少し曲げて衝撃を逃がした。衝撃の逃がし方は白愛に教わっただろ」

「……なるほど」

「残念だったな」


 もし少しでも反応が遅れたら海の言う通りになっていたのだから中々に笑えない。


「まだ期間はたっぷりありますからお兄様の命はのんびり取りますよ」

「そうか」


 海が不気味にそう笑った。

 そして先生の声が響き渡る。


「勝負あり! 勝者小林! 次はそこのペア!」


 どうやら拓也は負けたらしい。

 情けないな。


「じゃあ次は私だから行ってくるね」


 桃花が立ち上がり勝負に行く。

 さて、彼女はどこまで戦いが出来るのだろうか?

 そんな事を考えてると拓也が話しかけてきた


「俺の試合どうだった?」

「すまん。見てなかった」

「……そりゃないぜ」


 実際疲れ果ててそれどころではなかったのだから仕方ない。


「私はそこのお兄様と違いちゃんと見てましたよ」


 どうやら海は見ていたらしい。

 あんなにヘトヘトなのにしっかり試合を見るとは凄いな。


「海ちゃんマジ天使!それでカッコよかった?」

「なんですかアレは?最初の面の時なんて私だったらあの間に四本は取れてます。しかも最後に取られた胴。どうやったらあんな遅い剣に当たるかこっちが聞きたいです」

「手厳しいなぁー! チクショー!」


 それにしても海は遠慮なく物を言うな。


「では私はこれで」


 そして海は尻餅を着き壁に寄りかかった。

 よっぽど疲れたのだろう。


「……海ちゃん毒舌なんだな」

「気にするな」


 もう海はそういうものだと割り切るしかない。

 それに海の言ってる事はどれも真実だしな。


「そうだな。ていうかお前ら兄妹がおかしい」

「それはない」

「ていうか動きが全然目で追えなかったんですが?」

「そうか」


 まぁ無理もないだろう。

 でもそれでおかしいって言うのもないだろう。


「そもそもあんな咄嗟にバク転とか無理ですから!」

「いや、余裕だろ」


 あのくらいの事が出来ないと白愛に秒殺される。

 いや、出来ても秒殺されるな。


「ダメだ。こいつの感覚おかしい」

「そんなことは無い」


 周りは凄いだの強いだの言いますがいまだに白愛の前に一秒として持たないからな

 そして桃花の試合が終わった。

 中々の接戦だった。

 しかし俺には彼女が手を抜いてるようにしか見えなかった。


「勝負あり!勝負佐倉!次はあそこのペア」


 彼女の剣は凄く綺麗だった。

 まるでお手本のような感じだ。

 しかし工夫が一切見られない。

 完全な作業だ。

 対戦相手は彼女の眼中にすら入れなかったのだ。


「神崎君! 勝ったよ!」

「おめでとう」

「お兄ちゃんに教えてもらったかいがあったよ〜」


 どこか怪しい。

 本当に教えてもらったのだろうか。

 でもそれを指摘しても仕方ない。


「たしかに桃花の剣は雨霧さんのに似てたもんな」

「えへへ〜」


 そんなやり取りをしてると横槍が飛んできた。


「……リア充爆発しろ」

「はいはい」


 まぁ流すが……


「神崎君って鈴木君の扱い雑だよね」

「アイツはいいんだもあれで」


 拓也は真面目に扱ったら後悔する人種だ。

 少なくとも俺はそう認識してる。


「そう言えば佐倉さんのお兄さんと空だったらどっちが強いんだろ?」


 そう拓也が問いかける。

 ていうかそれ昨日やった。


「それは神崎君だよ」


 桃花が迷わず答える。

 実際に結果を見てるしな。


「でも君のお兄さんは剣道有段者なんだよね?」

「鈴木君は人間が神崎君というか神崎家という人外に勝てると思うの?」

「……思いません」


 少し扱いが酷すぎる気がする。

 一応俺や海だって白愛には負けるんだぞ。


「ていうか昨日試合したら神崎君の圧勝だったし」

「おい空! それ聞いてないぞ!」

「言ってなかったか?」

「言ってねぇよ!」


 そして昨日僕が佐倉さんの家に行った事は授業が終わるまで問い詰められた。


「さて、これで授業を終了する。でも神崎家の2人は残るように」


  終わりのチャイムがなり皆が教室に戻っていく。


「さて、何故お前らが残されたか分かるか?」

「いいえ」

「お前らやりすぎだ。あんなのただの殺し合いじゃないか」


 たしかにあれはまずかったかもしれない。

 少し熱が出すぎた。

 そして海が口を開く。


「先生。お一つよろしいですか?」

「なんだ?」


 謝罪でもするのだろうか?

 でも海がそんな事をするとは思えない。


「先生は人に竹刀を向けた時に何を思いますか?」

「そうだな。たしかに勝ちたいとは……」


 先生が諭そうと喋り始める。

 悪いがそれでは海には無意味だ。


「そうですか。でも私は違います」

「というと?」

「私が剣を向ける時は殺す時だけです。たとえそれが遊びであっても」


 その考えは彼女の育ちが影響してるのかもな。

 そして俺もあそこまで僅差だと手加減は出来ない。

 したら間違いなく殺される。


「いや、だからと言って……」

「殺すのに手段を選んではいけません。こちらが殺そうとする以上相手もこちらを殺しにくる。そんな命のやり取りで手加減が出来ますか?」

「でも、今回のは……」


 先生が必死に反論しようとするがもう無意味だ。


「出来ますか?」


 海が強く言った。

 先生はそれにより押し黙る。


「……そう……だな」

「もう行ってよろしいですか?」

「……待ってくれ」


 海が去ろうとした瞬間、先生は呼び止めた。

 一体何を話すのだろう。


「まだ何か?」

「何がそこまでお前達を追い込んでいる?」

「別に追い込まれてなんかませんよ」


 海はそう言い残して体育館を後にした。

 海は追い込まれているわけじゃない。

 過去を聞いた今なら分かる。

 海はそれしか知らないのだ。


「……空。海が道を間違えないようにしてやれよ。それが出来るのは兄であるお前だけだ」

「……そうですね」


 そして俺も体育館を後にした。

 これで今日の授業は終わりで帰宅するだけだ。

 俺は体操着を脱ぎ制服に着替えて教室に向かう。

 そしてHRを行いすぐに下校した。

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