114話 嘘まみれ
「白愛。俺からも頼む」
「……五年前のことです。まず私が目を覚ました時は試験管の中でした。それも人一人は簡単に入るくらい大きな物です」
そこから語られるのか。
俺はその時は大体十二歳。
小六か中一だな。
「その時の当たりは騒然としていました。そんな中で白衣の男がいて私に言いました。青髪の青年を殺せと」
青髪の青年。
おそらく夜桜の事だろう。
「しかし私が分かるのは殺すという行為だけ。自我もまだ芽生えてなかった私は目の前にいた白衣の人など全て殺しました」
淡々と語っていくが俺は白愛に一度だけど騙された事がある。
もっと注意深く見ないと……
「結果としてその場は半壊。死者は不明。生きていたのはたった三名」
「……三名?」
「夜桜に真央。それと神崎家の当主です」
真央の父親か。
当主って事は神崎家をまとめあげていたのだろう。
「しかし私が来た時には当主は虫の息でした。夜桜もかなり血だらけ」
夜桜と当主の戦いか。
それはさぞ激しかったのだろうな。
「私に気づいた当主は私に接近してきました。そして胸を抉り何かを入れました。それが何かは今でも分かりません……」
今この場で白愛を解体して見るべきか?
いや、流石にそこまでする必要はないだろう。
「なるほどね。おそらくそれが白愛さんを生かしてるんだと思う」
「私もそう思います。だから迂闊に触れられずにいます」
とりあえず何かあるのは把握した。
おそらくそこにいるクズは知ってるだろうな。
あとで問い詰めよう。
そして白愛が話を戻した。
「虫の息ながらも生きてた当主は私に何かを埋め込むとすぐに死に絶えました。しかし力尽きた感じではありません」
「夜桜か?」
「いいえ。当主の後ろには女性がいました。おそらく真央です」
当主を殺したのはハートキャッチだろうな。
ハートキャッチは一回ではない。
というより最初は違ったと考えるべきか。
まぁ消費しきって残り一回になったと考えるべきだな。
「目の前の物を殺すしか脳がなかった私は真央に飛びかかりました。しかし刃は届かずた私は押し倒されました。幼き空様によって……」
「なるほど」
「そこからの記憶はあやふやです。気づいた時には暗殺姫と呼ばれていて……」
白愛が語り終える、
まだなんとも言えないモヤモヤ感が残る。
二周目で親父は白愛の記憶を消したと言った。
おそらくそれが白愛のあやふやな部分だ。
しかしこうなるとどこまでが本当なのか。
二周目の話と今回の話。
なんか上手くピースが合わない気がしてならない。
おそらくどちらも真実と嘘が入り交じってるんだろうな。
あのクズがどこまで本当の事を言ったのか微妙だ。
「……神崎家って嘘つく人多いよね」
「そうか?」
「私知ってるよ。空君が私にループした時の話に少しだけ誤魔化してるよ」
「……悪い」
まさかバレてたのか。
そしてそれを知った上で俺に付き添ってくれる桃花は付いてきてくれるのか。
考えてみたら神崎家の人は嘘が多い。
海は桃花以外の誰にも告げずスパイ行為。
それに自分の感情にすら嘘をつく。
親父は説明不要。
真央は二周目の時に海を拉致したという嘘を吐いて俺達を嵌めた。
おそらく神崎家に嘘は付き物なのだろう。
「……僕は口を割らないよ」
親父が突然そんなことを言った。
そもそもお前には期待してない。
それに本当の事をいう保証がない。
「空君。提案があるんだけど」
「なんだ?」
「正直ルークも信用出来ない。彼が来る前に真央のところに攻めない?」
それは俺も考えていたところだ。
たしかに戦力として心強いがこの話を聞いたあとだと……
「私も賛成……というより一回真央や夜桜と話したい」
アリスがぽつりと言葉を漏らす。
このタイミングで喋ったのは今まで話すタイミングが見当たらなかったからだろう。
「ごめんね。私もう何が正しいかわかんなくなっちゃった。ただ目の前の人を助けるのが正しいと思ってた。でもエニグマがこんなだったなんて……」
アリスは良い人すぎた。
だからこそダメージが……
「お父さんはどうするの?」
「大体予想通りだ。そして黒い所もあるがエニグマが世界のために役立ってるのも事実。俺はこのままエニグマの人として生涯を終えるよ」
「そういうと思ってた」
さて、問題は夜桜がどこにいるか。
話を聞くにしろ場所が分からないと……
「それじゃあ空君。行くよ」
「行くってどこにだよ」
「夜桜の所に決まってるでしょ」
「場所は?」
「大体予想ついてるから大丈夫」
予想ついてるって凄いな。
それなら桃花に従っていけばよいか。
「白愛さんはここに残ってね」
「どうしてですか?」
「流石に主力がいると喧嘩しに来たって思われるからね。あとアリスさんも自衛出来ないだろうから残って」
アリスがこくりと頷いた。
白愛の件に関しては桃花の言う通りだ。
たしかに白愛はいない方が良い。
「それじゃあ行ってきます」
そして俺達は桃花宅を後にした。
それにしても夜桜がいる場所とは何処だろうか。
「空君」
「なんだよ!?」
外に出ると同時に桃花が俺に抱きついてきた。
少しばかり予想外……
「私もお姫様抱っこして。海ちゃんにしたみたいに」
上目遣いでそう頼む桃花。
たしかに海にしたなら桃花にもしないと不公平である。
「分かった」
「わーい」
俺はそのまま桃花を持ち上げた。
さて、ナビは彼女に任せるとしよう。
「そこを右に行ったあとに二つ目の交差点を左。そしたら壁に当たるまで進んで左に曲がる」
「そこって……」
「鈴木拓也の家。空君も知ってるでしょ?」
まさかそこにいるのかよ……
たしかにいてもおかしくないが……
「そういうば空君。BBQの時に私が注文した物がほとんどなかったんだけど」
「お店に置いてなかったんだよ……」
「あぁそうだった! 普通のスーパーって品揃えすっごく悪いんじゃん!」
いや、悪くはない。
桃花か求める物がおかしいだけだ。
「……お前どこで買い物をしてるんだよ?」
「密林」
「お、おう」
まさか毎回狩りに行くとは。
なんとなく桃花の強さも……
「勘違いしないでね! たしかに森で狩る時もあるけど密林ってネット通販サイトの隠語で実際は違うからね!」
「……森で狩る時もあるのかよ」
「たまにね。ちょっと虎とか獅子とかを……」
「それなら俺も大狼を素手で倒した事があるぞ」
もしもフェンリルがリアルだったら肉も喰らえただろうな。
少しばかし残念だ。
まぁまた戦いたいとは思わないが……
「なにそれ凄い! どのくらいの大きさだったの?」
「大体5mだな」
「いやいや、大きすぎでしょ! 今度私も探してみよ。こんな大狼がまだこの世界にいるなんて驚きだよ」
いたら俺の方が驚きだ。
まぁ本当の事は言わない方が面白そうなので敢えて言わないでおこう。
「どこにいたの? やっぱり南極?」
「どうして南極が出てきた……」
「空君知らないの? 南極は未開の地で今も新種の魔物が頻繁に見つかったりするんだよ」
「そうなのか……」
南極がまさかこんなところだったとは。
間違いなくネットで調べて出てくる情報は捏造されたやつだな。
「ほれ、着いたぞ」
「それじゃあ呼び鈴押すね」
桃花が呼び鈴を鳴らした。
ピンポーンと音が鳴る。
それと共に赤く細い線が俺の頬を掠った。
おそらく夜桜の能力の一種。
血の固体化ってやつだろう。
「空君!?」
「大丈夫。擦り傷だ」
あぁ交渉決裂か。
トントンと誰かが来る音がする。
おそらく夜桜だろう。
「ここにリア充を呼んだ覚えはないんだがな」
「……夜桜」




