表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
106/305

106話 凡人

「セイっ!」


 鞭のようにグレイプニルで岩を叩き粉砕する。

 そして前宙してから背後にある岩をグレイプニルを突き出して砕く。

 それこそ矛のように……

 突き出すのには苦労した。

 最初は当たらなかったり威力が足りなかったりと色々と苦戦したが今では十分使えこなせる。

 時間はあれから五時間くらい経過した。

 なんとか実践で使えるレベルでまだ練習不足。

 突き出すにしても遅い。

 こんなんじゃ簡単に避けられる。

 もっと早く鋭くだ!


「……ハァ……ハァ……」


 服は汗でビショビショ。

 それでも俺は練習をやめない。

 出来る限り実戦で使える動きを反復練習。

 今の動きは集団戦になった時を想定したもの。

 前の敵を貫いたあとに背後の敵が攻撃。

 それを前宙で回避してカウンターを食らわせるもの。

 前宙すれば相手を一瞬だけ視認出来て狙いを定められるからな。

 まぁバク転でも良いがそれは好みだ。


「そろそろ海が来る時間だな」


 地面に着地して一息。

 流石にこんな汗ダラダラで女性に会うのはマナー違反。

 それが妹であろうともだ。

 軽く風呂に入らないとな。


「白愛。一段落ついたから出してくれ」

「分かりました」


 景色はいつも通りの部屋に戻った。

 目の前には食事が並べれている。


「空様。朝食が出来てますが……」

「風呂に入ってからな。流石に汗をかきすぎた」

「そうですか」


 あの時についでに強化(ブースト)の練習もしていた。

 海は夜桜と戦う時に常にかけていた。

 つまりかなり長い時間使っていたのだ。

 それに対して俺は短時間。

 それじゃあダメだ。

 俺ももっと長時間使えるようにならねば……

 そうしないと邪魔者になる。

 桃花みたいに才もなく海みたいに戦うためだけに育てられたわけでもない。

 俺はただの凡人だ。

 だったら俺は周りに置いてかれないように必死に踠き続けなければならない。

 努力を怠るな。

 その瞬間、俺は雑魚(ゴミ)へと成り下がる。

 海や桃花は神器による差をものともしない。

 そういう人達だ。

 俺はそういう人達と肩を並べようとしてるのだ。


「タオルはお風呂に入ってる間に置いときますね」

「助かる」


 そのまま浴室に行きシャワーを出す。

 冷たい水が体に突き刺すように染みるが丁度良い。

 鏡には相変わらず俺が映っている。

 見た目の変化は昨日見た時から一切ないはずなのに違って見える。


「……経験は人を変えるか」


 昔どこかで聞いた言葉。

 それが本当なのかどうかは知らない。

 でも俺はそれを信じられる。

 そして桃花の母親が俺にした質問。

 “あなたの好きな言葉はなに?”

 たしかにあの答えはつまらないと言われるな。

 経験無き言葉に価値はない。

 言葉はそれに見合う経験をして初めて価値が生じる。

 彼女はそれを聞きたかったのだ。

 頭の中が一段落した時にタイミング良く水がお湯へと変わった。

 俺は石鹸を泡立てそれで体を洗い、そのあとに流す。

 一連の動作を終えたら髪を洗う。

 そして髪を洗え終え風呂に浸かる。

 桃花家の風呂に入った後だととても小さく感じる。

 そもそも家の風呂に入る行為そのものが久しぶりな気がしてならない。


「……無理もないか。実際に時は経っていなくても体感では時はそこそこ経っている」


 あの日。

 海が俺の元に来てから何日経っただろうか。

 かなり経った。

 それと共に俺も変わった。

 自分でもそう思える程に。

 どうでもいいことを考えながら風呂に十分程浸かり俺は出る。

 体も温まったし汗も流せた。

 まぁ運動したから既に温まってただろって言われたらそれまでだが……

 風呂から出て魔法というより能力で体の水分を一気に蒸発させる。

 あ、タオル……

 まぁ使わなかったものは仕方ない。

 それからすぐに下着を着て、赤のシャツに黒い羽織もの。

 それにジーパンを着て遅めの朝食を済ませた。


「白愛。あと何分だ?」

「二十四分ですね」

「分かった。俺は海達を迎えにいくからここで待ってろ」

「もしも夜桜が……」


 警戒しないわけないだろ。

 もちろん策はある。

 そういう意図を込めた笑を白愛に向けて俺は外に出た。

 少し肌寒い昼だ。

 そのまま真っ直ぐ駅に行こうとした時だった。


「お、空じゃん!」

「……拓也か」


 拓也。

 いや、正しくは夜桜。

 今ここで夜桜を倒すことは正直言えば簡単だ。

 グレイプニルは相手の能力を使えなくする。

 無能力になった夜桜なんて敵ではない。

 ただの雑魚だ。

 それこそ魔法とか知らなかった時の俺でも勝てるほどにはな。


「どこ行くんだ?」

「ちょっとした散歩だ」

「そっか。俺も付き合うよ」


 うるせぇ。早く行け。

 俺がここで殺さないのは真央を警戒しての事だ。

 真央がどんな手を打つか分からない以上とか言う訳では無い。

 殺すなら真央も同時。

 真央を逃すのは不安しかない。

 彼女が何を考えてるのか分からない。

 夜桜すら捨て駒の気がしてならない。

 だから迂闊に殺せない。

 夜桜を殺したら二度と真央と会う機会がなくなる。


「……期末テストもうそろそろだろ。勉強しろ」

「いや、まだ二週間も……」

「たった二週間だ。その甘さが悪い点に繋がるんだよ」


 ギリギリで話題の変え方を思い出して良かった。

 さて、そろそろ誤魔化しも無理になってきそうだ。

 でも良い案は思い浮かんだ。


「……そういうお前は散歩なんてしてる余裕あるのかよ」

「当たり前だ。それに散歩って言ったのは面倒だから誤魔化そうとしただけで実際はネット上で知り合った彼女とのデートだ」


 少し無理があるだろうか……

 まぁそうでも言えばどうにかなるような気がしなくもない。


「お前、そんなのやってるのかよ……」

「結構簡単に食えるぞ。ちょっと紙貸せ」


 夜桜がたまたま持ってた紙をひったくり俺はそこに出会い系サイトのURLを書いていく。

 それにしても前に調べ物をしてた時に間違って踏んだサイトのURLをチラッとだけ見ておいて良かった。


「なんでお前そんなの知ってるんだよ」

「愛用のサイトだから覚えるに決まってるだろ。お前もやってみろ。簡単に童貞捨てられるぞ」

「でも……」

「なに。僕だってリアルで会うのは初めてだ。今まではあと一歩のところで白愛に止められたからな」


 あとは適当に言い訳を重ねる。

 もう一言。

 それさえあれば夜桜を退け……

 いや、良いのがある。


「例えばこんな感じに……」

「未読メール二千超えとかどんだけ手を出してんだよ!」

「このくらい余裕だ。それに人によってはこんなプレイまで出来るぞ」


 俺は朝に海が送った黒歴史を見せる。

 内容は“お兄ちゃん。まだ起きないの。起きないならキスしちゃうね”だったはず。


「なんだよそれ!」

「悪いことは言わねぇからさっさと登録してこい。それと登録する時は携帯よりパソコンでやるのを勧める。理由は……」

「細かい事はいい! 俺は帰ってやるぞーー!」


 そして夜桜は走って帰っていった。

 本心から出会い系をしたいのかは知らない。

 でもオタクを演じてるのはたしか。

 もし俺に疑われないようにするためには馬鹿な事をするしかないはずだ。


「検討祈ってるぞ」


 おそらく聞こえてないだろうが一応言っておく。

 さて、気を取り直して海の元へと行こう。

 俺は夜桜が見えなくなったのを確認したあとに軽く風を周囲に舞わせる。

 人を斬るような風ではなく頬を撫でるような風。

 少しでも風に触れたらぶつかった事により音が微妙に変わる。

 それにより誰かまでは分からないが近くに人がいるかくらいは判別出来る。


「……近くにはいない」


 尾行されるってことはなさそうだな。

 夜桜の場合は透明化出来るから厄介極まりない。

 一定の周期で風を舞わせてサーチしていこう。

 ただサーチする時は表情は変えるな。

 変にポーズは取るな。

 バレるからな……

 俺はそう自分に言い聞かせながら駅に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ